なぜ、働くのか? 多様化する「働き方」と「働きがい」

更新日 2018.10.042017.02.20対談

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昨今、官民挙げての一大テーマとなっている「働き方改革」。その改革と共に進めなくてはならないのが、従業員に「働きがい」を感じてもらえる仕組み作りだ。これからの経営者やマネジャーはどうすればいいのか。日本大学総合科学研究所の安藤至大准教授とGreat Place to Work®(以下GPTW)ジャパンの岡元利奈子代表が、新しい時代の「働きがい」について語り合った。

進む「働き方」と「働きがい」の多様化

多様な価値観の労働力をどう活用するか

求められるマネジメント層の意識変革

ここがポイント!

進む「働き方」と「働きがい」の多様化

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岡元 利奈子(以下、岡元) 今、政府の掲げる「働き方改革」が、企業にとっても大きな課題となり、官民挙げての大改革が進められています。長時間労働問題や、女性や高齢者の雇用拡大、ワークライフバランスなど、その内容は多岐にわたっていますが、そもそもなぜ「働き方改革」が必要なのでしょうか。

安藤 至大(以下、安藤)一言でいえば、従来の画一的な働き方が時代に合わなくなってきたからです。最も大きな要因は労働力の減少。将来的に日本の人口が減少していくことは、もはや避けられない事実です。少ない労働力で、いかに生産性を高めていくか、そこに真剣に取り組まなくては立ち行かなくなっています。そのためには、例えば女性や高齢者にもっと働ける機会や環境を与えるべきだし、外国人労働者を受け入れる必要も出てくるかもしれません。育児や介護を続けながら働きたい人もいれば、仕事以外の生きがいを重視する人もいるなど、価値観の多様化も広がっています。その人たちに働き続けてもらうための新たな施策が必要なのです。つまり、これまでのような「何でもやります」「何時まででも働きます」「どこへでも行きます(転勤の容認)」といった無制限で、ある種“滅私奉公”的な働き方を労働者に期待していては、成り立たない時代に変わってきたわけです。

岡元 そうした大きな変革の中、多様化した従業員の皆さんが感じる「働きがい」の在り方も、同様に多様化しています。
 
安藤 その通りです。これまでの日本では、入社した日から昇進競争が始まり、同期より少しでも早く、少しでもいいポジションに就くことが「働きがい」であり、またそれが「生きがい」にもなっていました。ある意味、みんなに“昇進”というエサを与えて、長期にわたって辞めずに頑張ってもらっていたわけです。しかし、女性や高齢者も労働力として活躍してもらうとなると、価値観の異なる人たちにどう「働きがい」を感じてもらい、能力を発揮してもらうかが重要になってきます。何をすればこれからの人手不足の時代において社員を引き止められ、優秀な若者が入社してくれるのか。これらを考えることが大きな経営戦略になると思います。

多様な価値観の労働力をどう活用するか

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岡元 実は近年、私どもGPTWが提唱する「働きがい」の向上にご関心を寄せていただく企業が増えているのですが、一番のトリガーとなっているのが「労働力人口の減少」です。自社に優秀な人材を採用するために、様々なバックグラウンドを持った人たちをいかに惹きつけるか、また、そうした多様な労働力をどう使っていくか、そして優秀な人材の離職をどう防止するかが課題となっています。GPTWは1991年に米国で始まったのですが、当時からグローバル企業は多様で優秀な人材の採用や離職防止の観点から、「働きがい」について企業が意識的にマネジメントすることを重要視していたのです。

安藤 欧米では、この仕事を担当する人の報酬はいくらという「職務給型」と呼ばれる雇用形態が主流で、日本のような長期雇用を前提とした契約とは大きく異なっていました。しかし、日本も非正規雇用の比率が4割を超え、いよいよ本腰を入れて新しい「働きがい」を意識しなくてはならない時代になったということでしょう。従来の日本企業のトップは、社内の昇進競争を勝ち抜いてきた人が就くケースがほとんどでした。彼らは運もありますが、能力やバイタリティが人並み外れて高い人たち。そして“滅私奉公”的にバリバリ働いてきた彼らは、普通の社員が抱える会社への不満が理解できない。さらに、これからの時代は女性や再雇用の高齢者、外国人社員なども増えてきて、どうすればその人たちにやる気を持って働いてもらえるのか、全く分からないと思います。

岡元 現場のマネジメントの難易度も、昔と比べると格段に上がっていると思います。年功的な昇進が担保されない中、一人ひとりにとっての仕事の面白みやアサインすることの意味をしっかり動機づけないと、なかなかやる気を起こしてはくれません。また、何をすればメンバーの「働きがい」が高まるのかも、会社の業態・カルチャー・人員構成等によって大きく異なります。例えば20代の多いベンチャー企業と、50〜60代が多くを占める会社では、全く施策が違ってきます。前者の場合、自分の成長や可能性に興味関心が高いのであれば、教育・研修制度などをきちんと整え、早いうちから活躍できる場を用意することなどが有効です。後者の場合は、自分の経験や知識を後進に伝えていくことが「働きがい」につながります。お世話になった会社に恩返しをしたい気持ちがある方なら、それを発露できる場を設けたりすることも効果的でしょう。

求められるマネジメント層の意識変革

安藤 働きがいの価値観が多様化する中で、これまで男性社会で暗黙のルールとして通用してきたことが理解されないシーンも多々出てくるでしょう。「なぜ働くのか」──経済学的には、生活のためという大前提を除けば、それは自己実現や達成感です。誰に、どういう仕事を、なぜアサインしたのか。結果はどうだったのかをきっちり評価する。そういったコミュニケーションが必要になってくるでしょう。

岡元 若者や女性、高齢者、外国人など、これまでの男性中心の暗黙のルールが通じない人が増える中では、常にアカウンタビリティ(説明責任)が必要になってきます。日本ではこれまでそうしたマネジメントが必要とされなかったのが、今、急にそれが求められるようになり、苦労されているケースが多いのかなと感じます。また、若手と一言でいっても、その価値観も多様化していると感じます。先日、ある大学で「働きがいのある会社」をテーマに講演したのですが、学生に会社を選ぶときに何を重視するか聞いてみたんです。すると、皆さん本当にバラバラで、仕事を通じた成長ややりがいを重視する学生もいれば、ワークライフバランスを大切に考えている学生もいる。色々な価値観に合わせた施策は今後ますます必要になると感じました。

安藤 在宅勤務やサテライトオフィスなど、会社の外で働く形態が増えてくると、上司が部下の労働時間や仕事量を管理するのはますます難しくなります。マネジメント層も、どうすれば自分と価値観の違う働き手をモチベートできるのか、きちんと考えなくてはいけません。「会社が自分たちを正当に評価してくれている」と従業員に信じてもらうことは、彼らのパフォーマンスに大きく関わってくる部分です。経営者や管理職の方たちには「従業員のパフォーマンスが悪ければ、それは経営、マネジメントの失敗だ」くらいの気持ちでいてほしいですね。

岡元 経営層やマネジメント層の意識変革は大きな課題ですね。いまだに「働きがい」は従業員の問題であって、自分たちとは関係がないと捉えている経営者も少なくありません。でも、「働きがいのある会社」にランクインした上場企業の株価をみると、不況時でも市場平均より安定しているんです。創造的なアイデアや改善提案が出てくるようになった、目標達成に向けてのチームワークが強くなった、会社と従業員の協働が生まれたなど、現場レベルで出た様々な効果が、業績につながっていると考えています。「働きがい」は会社の業績を上げ、企業価値を上げることができる、会社にとって重要な経営戦略であるということを知っていただきたいですね。

ここがポイント!

人口減少など時代の変化に合わせて働き方が多様化し、「働きがい」の在り方も同様に変わってきた。

多様な人材や優秀な人材を惹きつけ、活躍してもらうために新しい「働きがい」のマネジメントが必要。

「働きがいのある会社」は業績や株価も好調。「働きがい」の向上は会社にとって重要な経営戦略になる。

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安藤至大 氏

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日本大学総合科学研究所准教授

1976年東京生まれ。98年法政大学経済学部卒業、2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授などを経て、現職。著書に『ミクロ経済学の第一歩』(有斐閣)、『これだけは知っておきたい 働き方の教科書』(ちくま新書)など。また、経済学番組「オイコノミア」(NHK)の講師や「日経FTサタデー9」(BSジャパン)のコメンテーターとしても活躍中。

岡元利奈子

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Great Place to Work® Institute Japan 代表取締役社長

大学卒業後、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。人事コンサルタントとして、人事制度設計・多面評価制度・採用選考設計・従業員意識調査等を行う。その後、海外現地法人のコンサルティングビジネスの立ち上げ支援、新サーベイ開発のプロジェクトリーダー等を経験し、2014年より現職。

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2017年2月~5月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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