研究レポート・オピニオン

学生にとっての「働きがい」とは?大学の就職支援の最前線

2018.3.9

~学生にとっての「働きがい」とは? 大学の就活支援の最前線~ 大学4年間を通したキャリア教育で社会に役立つ「自走型人間」を輩出 学習院大学 キャリアセンター担当事務長 淡野建氏

「働きがい」「やりがい」を実感できるような会社を見極める、あるいは仕事に就くためには、就活における会社選び・仕事選びはもちろん、大学4年間をどのような意識を持って過ごすのかが重要になってくる。今回訪ねた学習院大学 キャリアセンターでは、入学から卒業まで一貫したキャリア教育を行っている。学習院オリジナルの様々な参加型講座によってプレゼン能力を高め、自走型人間を育てるのが狙いだ。その成果は、98.4%という高い就職内定率(今年4月時点)にも表れている。学習院伝統の「面接対策セミナー(略してメンタイ)」に代表される、他大学と一線を画す特異なキャリア教育に迫った。

「成熟社会」だからこそ、自分で生き抜くチカラが不可欠

――学習院大学キャリアセンターの考え方や役割などを教えてください。

2009年、就職部からキャリアセンターに組織を改編しました。2010年から、キャリア教育を「入学の初年度から卒業まで一貫して必要なもの」と位置づけ、様々な就職支援プログラムを提供しています。

私どもはキャリア教育を「点ではなく線」で考えています。そのため、一つの講座を単発で実施する、あるいは3年生や4年生だけを対象とするのではなく、大学4年間を通して行います。就職先を探すことだけが目的ではなく、卒業してから人生を全うするまでキャリア教育は続きます。社会が変化している現代において、各年代で輝いている人が何か新しいことを学ぼうとするのは、常に前を向いている証拠です。まさにそれがキャリア教育だという考え方です。

――どういった人材の輩出を目指しているのでしょうか。

2000年に入ると、日本社会は「成長社会」から「成熟社会」になりました。 右肩上がりで前例主義・事なかれ主義でも成長していた「成長社会」と異なり、「成熟社会」は不透明であり、競争時代です。「脱・前例主義」「脱・事なかれ主義」でなければいけないと考えます。

就活も同じで、正解は一つではありません。知名度のある大手企業に入ればいいのかというと、そうとも言い切れません。かつての大手銀行は何度も合併を繰り返し、ある大手証券会社は倒産しました。プロ野球12球団を見ても、いくつも球団名が変わっています。つまり、現在隆盛を誇っている企業が、10年先や20年先も存続している保証はありません。だからこそ、学生には「自分で生き抜くチカラが必要だ」とずっと言い続けています。

私たちが目指すのは、「社会に役立つ学生を輩出したい」ということです。もちろん、就職内定率は高い方がいいでしょう。しかし、キャリアセンターの根幹にあるもの、そしてキャリア教育の要は、「社会ニーズにマッチした人材」を育てることです。社会ニーズとは、環境に適応できるチカラやグローバル化に対応できるチカラです。グローバル化は単に語学ができるということではなく、どこの世界でも通用する、たとえ無人島に一人取り残されても何としてでも生き抜くチカラのことです。それを養うために、双方向かつ実践的な参加型講座、通称アクティブラーニングを通して学生たちのプレゼン力を向上させています。

「向こう1週間は財布を持ってこなくてもいい」

――入学当初から講座が用意されているのですね。

入学したばかりの4月には、1年生全員を対象とした「新入生ガイダンス」を開催するのですが、このプログラムも一方的な講義型方式ではなく、参加型方式をとっています。ガイダンスではまず、「この4年間をどうやって過ごすのか」を問いかけます。各自ペアになって、お互いに「何のためにこの大学に入ったのか」「これからどんなことをしたいのか」を伝え合います。中には不本意ながら学習院に入った学生もいるでしょう。「まだよく分からない」でもいいんです。とにかく自分の意見を伝える“自分プレゼン”の場です。私たちはこれを“公開合コン”と呼んでいます(笑)。

さらに「向こう1週間は財布を持ってこなくていい」と言います。みんな驚くのですが、この時期のキャンパスは、部活やサークルなどの勧誘が盛んです。だから、新歓行事に参加すれば、昼食も夕食も先輩がすべてご馳走してくれます。「勧誘されてきなさい」「遠慮なくご馳走になりなさい」と伝えています。そこで先輩たちの話を聞き自分の大学生活を思い描く、これもキャリア教育の一つです。

大学というのは、いい企業に就職するために入るわけではありません。4年間をダラダラと過ごすのではなく、「これだ!」という自分に自信になるものを体験し、身に付けてほしい。部活やサークル、何かの組織・グループでもいい。学業や留学、ボランティアでもいいので、何かに打ち込んだエピソードを作ってほしい。新歓はそうしたものと出合う入り口です。そうした経験が、「社会で役立つ人材」の礎になるはずです。

300人超のOB・OGが就活生と向き合うメンタイは、学習院の財産


メンタイでは模擬面接も行われる

――就職支援プログラムの取り組みの一つであり、キャリアセンターの大きな特長となっているのが「面接対策セミナー」(メンタイ)ですね。

メンタイは、全国のOB・OGが休日返上で駆けつけ、2日間にわたって面接の基本から面接を勝ち抜く心構えまで伝える、学習院大学の伝統行事です。

昨年度のメンタイは、講師319人、サポーター196人、そして学生を合わせると1700人以上が参加する規模のセミナーになりました。幅広い年齢層の卒業生が講師になってくれるわけですが、学生にとって先輩の生の声が一番腹落ちします。履歴書添削や面接指導も重要ですが、OB・OGとのコミュニケーションを通して、彼らの働き様や働くことの意義、働きがいややりがいを持って奮闘している姿を直に感じ取ってほしいと思っています。


2日間にわたって実施するメンタイは、
学生が先輩と接する貴重な場

OB・OGも、今の仕事に満足していなければボランティアとして参加してくれません。あるOBは「メンタイは自分のモノサシになる」と表現していました。「この1年ちゃんと仕事をして、胸を張って後輩に話せるか」「今の自分に満足感や納得感、働きがいがなければ、後輩と向き合うのは失礼だ」と感じているようです。会社としてではなく“個人”として1年に一度母校に堂々と帰ってきて、そして学生と向き合ってくれています。

こうした取り組みが伝承され、27年も続いているわけです。他大学では絶対に真似のできない大きな財産になっています。学習院では毎年就職するのは1500人強です。その95%以上もの学生が、こうしたガイダンスやメンタイなど何らかのキャリアセンター講座に参加した経験があります。支援プログラムはすべて学習院オリジナルであることも特長です。

一人ひとりの光るものを引き出すのがキャリア教育

――会社選びに対する学生の意識は変わってきていますか。

知名度の高い大手企業を志望する傾向は相変わらず強いですね。保護者がそう望む影響もあるのでしょう。今年4月の内定率は98.4%と、前年より0.1ポイント上がりました。また、就職企業数(内定社一覧)は毎年数百社ありますが、それも少しずつ拡大しています。「久しぶりに学習院卒を採用できた」という企業もあれば、初めて採用していただいた企業もあります。就職先のバリエーションが広がっているのは、望ましい傾向だと考えます。知名度だけではなく、学生が自分で考えて就職活動をしている証拠ともいえるからです。

これからの社会人は、「自分で考える・まとめる・相手に伝える・相手の話を聞く」というステップが、つまり情報過多の時代だからこそ情報を選択・編集し、自分のものにするチカラが必要となります。社会が望む人材というのは、指示待ちではなく、「私はこうします」と自分の意思で伝えて提案できるような「自走型人間」です。

今日の企業ではダイバーシティが進み、働き方も多様化しています。そうなると、これからは個のチカラが重要になります。しかも、日本の人口が減少していけば、若い世代の一人ひとりの比重は高くなります。「どんな時代でも常に自分の意見を持ち、自走するという軸はブレてはいけない」。こう学生には話しています。


ガイダンスに基づいた自己分析が、
学生の自信につながっていく

毎年作成している「就職ガイドブック」は、学生たちのバイブルであり、就活の“共通言語”になっています。困ったことや悩みごとがあれば、このガイドブックを読み返します。アクティブラーニングを通じて自己分析し、プレゼンもするわけです。自分史を書くページもあります。だから、自分という商品に自信を持ち、最後まで諦めるなというメッセージも込められています。

――今後はどのような施策を考えていますか?

昨年初めて取り組んだ「社会現象に関する講座」は、今年以降も継続していきたいと思っています。AIやIoT(Internet of Things、=モノのインターネット)、ロボティクス、6次産業化などが台頭・普及し、10年後にはなくなる職業も出てくるといわれています。しかし、そうしたネガティブ思考ではなく、逆に生まれる仕事もあるはずです。このグループセッションには企業の人事担当者も参加してもらいましたが、「学生は私たちにはない発想を持っている」と感動されていました。また、「業界・企業の価値=存在意義=何のために商いをしているのか」というテーマでもあるので、学生にとって仕事の「やりがい」を考えることにつながるかもしれません。

「働きがい」「やりがい」は個々人によって異なります。「働きがい」「やりがい」が感じられるようになりたい学生には、OB・OGに「先輩の働きがい、やりがいは何ですか」と尋ねるように指導しています。

先ほどもお話ししましたが、正解のないテーマと対峙し、情報を編集するチカラを養うような新たな講座も増やしていくつもりです。採用面接で自己アピールするものがなければ、企業は採用してくれません。しかし、誰でも何か光るものを持っています。それを一緒にひも解き、引き出すような施策を継続し、さらに充実できればと考えています。

淡野 健 だんの・たけし

1985年、学習院大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。新規事業・総務人事採用、営業事業部門長を歴任。その間、モチベーションマネージメントや就活テーマで企業講演・OB講演を経験。入社3年目より新卒採用経験を活かし、母校の『面接対策セミナー』を創設。以来、卒業生と大学との協働のセミナー運営に携わる。2009年、スポーツ選手のセカンドビジネス企業を起業。2010年4月より 母校の就職支援部署に戻り、学生の就職相談・講座ファシリテーター・セミナー運営・キャリア教育講座・企業関係構築を図る。米国CCE,Inc認定 GCDF-キャリアカウンセラー資格、文部科学省NPO法人『人財創造フォーラム』第2期社会人ゼミメンバー。

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2017年2月~5月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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