なぜ若手はこの会社で辞めないのか?3年連続1位の裏にある、リアルな実践策を独自取材

更新日 2025.07.292025.07.29レポート

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Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、2025年7月29日に2025年版「働きがいのある会社」若手ランキングを発表しました。これは、「働きがいのある会社」認定企業(2023年7月~2024年9月調査実施)の中から、特に若手の働きがいに優れた企業を規模別に上位5社を選出したものです。
今回、3年連続で中規模部門1位を獲得した株式会社フロンティアホールディングスに、若手がイキイキと働きがいを持って働くことができている背景には何があるのか、GPTW Japanコンサルタントの岡部が、人財事業部長の片山様(以下、敬称略)にお話を伺いました。

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まずは経営理念に共感する人を採用する

report_250729_01.JPG岡部 若手が働きがいを持って働けるために、会社として何を重視しているのでしょうか。

片山 まず、我々は会社の経営理念である「縁ある人への価値ある貢献と全従業員の物心両面の幸福の追求」を非常に大切にしています。会社としてすべての活動はこの理念の実現のためにあるということです。

経営理念の中に、「全従業員の物心両面の幸福の追求」とあるように、目指しているのは従業員の幸福です。これは従業員満足度ではありません。従業員満足度であれば、給料を上げて休暇を増やせば簡単に上げることができるでしょう。しかし、それは幸福とは言えません。幸福であるためには、その人がやりがいを持って仕事に向き合い、業務を通じて成長し、自分で成果を出す力を身に着けていくことが重要であると考えています。

そのうえで、どんな人がこの会社で成長し成果を出していけるか。それは、この理念に共感できる人、「全従業員の物心両面の幸福」を自分も追求したいという想いを持っている人です。そういう人に入社してもらうためには、選考というのが非常に重要となります。

岡部 具体的には、どのような選考プロセスなのでしょうか。

片山 たとえばうちの新卒採用におけるインターンシップや選考会では、まずはじめに社長が登壇して、経営理念について1時間近く話をします。そこで理念に共感できるかが前提としてあります。

続いて、私からは幸福とは何か、という話をしていきます。ポジティブ心理学においてPERMA理論というものがあります。5つの要素(PPositive EmotionEEngagementRRelationshipMMeaningAAccomplishment)を満たすことで人間は幸せを感じることができます。フロンティアホールディングスは、仕事を通してこの5つの要素を満たしていこうという会社であること、そしてこの5つの要素を満たすために会社としてどういう施策をしているかを説明します。働くことを通じて幸せになりたいという想いのある人が次の選考へ進んでいきます。

次の段階では、職場体験をしてもらいます。実際に13ある拠点に行って、(お客様の許可を得たうえで)営業同行をします。この仕事を自分がやりたいと思うか、一緒にいるこの人たちと働きたいと思うかを、確かめてもらったうえでさらに先の選考へ進んでいきます。年によっては、12日の合宿を行うこともあります。

こうしたプロセスで、フロンティアホールディングスで幸せに働けているイメージができるかどうか、候補者・会社双方で確信を持つことができれば内定となります。

岡部 採用に対して、会社として相当なリソースをかけていますね。

片山 それだけ大変ではありますが、ここに時間と労力をかけた方が後々の苦労は減ると考えています。

コンサルタント岡部のポイント解説
同社の成功の核心は「価値観採用」の徹底にあります。社長自らが1次選考で経営理念を1時間語り、人財事業部長がPERMA理論で幸福観を説明し、全拠点での職場体験まで実施する。これほど価値観の適合度確認に時間をかける企業は稀です。その結果、同社は、今年度は約60名と多くの人数を新卒採用していますが、一方で入社後の3年以内離職率は世の中平均の3分の1以下と低く、採用数の拡大と低離職率を両立することに成功しています。 価値観が合わない人材を採用してしまうと、どれだけ優れた働きがい向上施策を実施しても効果は限定的です。同社は採用段階で価値観のミスマッチを防ぐことで、その後の様々な施策の投資対効果を最大化しています。

内定後も接点を作り続け会社に対するエンゲージメントを高める

岡部 内定者育成については、どのようにアプローチしていますか。

片山 内定者の中で可能な人はアルバイトとしての受け入れをしています。内定者期間から会社で実務経験を積むことが出来ます。年によって担う業務は異なりますが、たとえば電話営業や、お客様との契約手続きのサポート業務などをしてもらいます。内定者期間でしっかりと助走をできることが、入社後の活躍につながると考えています。

また、社長が選考中から候補者と積極的に関わっていき、内定者とも食事をすることが多々あります。また、1年目の従業員がいいスタートを切れているのか、リーダーミーティングで一人一人の名前を挙げながら様子を聞くなどして気にかけています。

その他、フロンティアホールディングスでは「サンキューレター」のクラウドサービスを導入しています。従業員同士が感謝のメッセージを送り合っており、従業員数は300名程度でありながら、月間で2万通以上のやりとりがあります。そこに内定者も入ってレターを送り合っているので、入社する前から内定者同士や従業員との結びつきは強いです。

コンサルタント岡部のポイント解説
内定~入社までの期間も手を抜くことなく会社との接点を作り続けることができています。 特に、月間2万通以上も「サンキューレター」が飛び交うほど感謝を伝え合うカルチャー(文化)が社内に浸透し切っている点が素晴らしく、それが内定者及び若手従業員が人的ネットワークを社内で構築・維持することにも奏功しています。 実際に画面を見せていただいたところ、どんなに短い感謝の言葉であっても、社長をはじめとした経営陣が積極的に拍手を送っていることが伺えました。経営陣の積極的な参加が、「サンキューレター」を送り合う文化の定着を支えています。

フィロソフィー研修を通じて、経営理念と日々の行動の紐づけをおこなう

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フィロソフィー研修で使うスライドの一例

岡部 フィロソフィー研修とはどのようなものですか。

片山 社長が尊敬する稲盛和夫氏の考え方として、「仕事の成果=能力×熱意×考え方」というものがあります。考え方がマイナスだと仕事の成果もマイナスになりますし、結果として職場の仲間やお客様に迷惑をかけることになります。一方、考え方がプラスになれば熱意が上がり、熱意が上がれば能力も上がっていくものです。つまり、考え方が成果を上げるためには最も重要であると言えます。会社としての考え方と言える経営理念を日々の行動に落とし込んでいくために、どういう行動をしている人が理念を実現できているのかということを、若手だけではなく幹部含めた全従業員を対象にこのフィロソフィー研修で半期に1度・各2日間かけて学んでいきます

岡部 2日間はどのような流れになっているのでしょうか。

片山 いくつかの項目に分かれているのですが、講師である私から項目について30分ほど話をして、それが実際に職場でどうなっているか・どのような行動が理念に合致するのか、あるいはしないのかなどをケーススタディなども通じてグループで話し合う、といった流れを繰り返していきます。そのケーススタディは、実際に現場で起こっていることをヒアリングして、それをベースに私の方で用意をしています。

2日間もかけて行うこの研修を半期に1度という高頻度で全従業員が受けるようにしているのは、成果につながるよい考え方ができているかどうか自分自身を内省する機会としてほしい意味もあります。

岡部 会社としてかなり重視をしている研修であることがよくわかりました。あえてお伺いさせていただきますが、半期ごとに2日間の業務を止めて行うことで短期的な売上数字にも多少のマイナス影響はあるものと思います。そのことをどのように捉えていますか。

片山 社長が最も大事にしているのは従業員が幸せになれるかどうかということです。売上・利益のことだけを考えれば、フィロソフィー研修はしなくてもよいでしょう。しかしそれでは、経営理念で掲げている目的が達成できません。従業員が成長を感じ、成果を生み出してやりがいを感じ、自分や周囲の人の幸せのために必要なだけの経済的豊かさを得られて初めて、会社の目的が達成されます。そのためにこのフィロソフィー研修は必要なものだと捉えられています

コンサルタント岡部のポイント解説
いかに経営理念を組織に落とし込んでいくかというのは、多くの組織が抱えがちな課題です。同社はこの問いに対する答えとして「抽象(経営理念)と具体(日々の行動)の反復」であるという結論を出しているのだと受け止めました。 よくあるのが、こうした研修を若手だけを集めて実施するケースですが、全従業員が参加することで、グループで先輩やリーダー層の話を聞いて考えや学びを深める機会にもなっており、特に年次の浅い従業員にとって非常に重要な機会になっているのではないでしょうか。

「改革俱楽部」で若手の声を吸い上げる

フロンティアホールディングスでは、毎週月曜日に20~30名くらいが会社に集まって、食事やお酒も飲みながらテーマについて議論し合う「改革倶楽部」という場があります。GPTWコンサルタントの岡部が実際にその会を見学し、企画者の中山様(以下、敬称略)にインタビューさせていただきました。

report_250729_03.JPG岡部 この「改革倶楽部」はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

中山 もともとの発端は、会社の従業員数が増えてくる中で、現場の若手従業員が抱える小さなモヤモヤや業務に対して感じる課題感が、上まで上がって来づらくなったことでした。現場の声を吸い上げる機会として、この「改革倶楽部」はスタートしました。

岡部 実施をしていて、どのような手ごたえでしょうか。

中山 開始当初はいろいろな改善の声が出ましたが、毎週やっているのである程度改善の声も減ってきて、だんだんと相互交流の場としての色が強くなってきました。ここ1か月くらいはモデルチェンジをしていて、個々人の価値観・願望を明確にする場としてアジェンダを組んでやってみています。なぜこの会社で今の仕事を頑張っているのかということを明確化し共有し合うことを企図しています。

report_250729_04.JPG岡部 運営していて難しさを感じるシーンはありますか。

中山 特にないです。みなさん前向きに参加してくれているので大変ありがたいなと思っています。普通の会社なら、終業時間後の開催でもあるので「これは出勤時間なのか」「参加しなくても問題ないか」といったような声があがってもおかしくないのかなと思うのですが、この会社ではそういった声は一切なく、積極的に参加してくれています。

岡部 今後の方向性をお聞かせください。

中山 「改革倶楽部」の改善案については、現在もフォームを通じて毎週回収しており、必要に応じて担当部署や経営幹部、社長にも共有し、実際に小さな改革を継続しています。今後も従業員の声を継続的に取り入れながら、柔軟に改革を続けていきたいと考えています。

参加者の方にも話を聞いてみました。

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岡部 「改革俱楽部」は何回くらい参加されていますか。

白石 今回はじめて参加しました。

冨田 私も「改革俱楽部」は初めてですが、「改革俱楽部」がスタートする前にあった社長会という機会には何度か参加していました。

岡部 こういった社内交流の機会をどのように捉えていますか。

白石 まだ入社したばかりでわからないことも多い中で、先輩の意見や経験を聞かせてもらえる機会になっています。悩みを相談したり、1年目の時にどういう過ごし方をしていたのか質問したりなども気軽にでき、自分の成長にとってのチャンスを会社に与えてもらっていると感じています。

冨田 自分が所属する部署は不動産部署からトスアップされたお客様に対して保険・投資運用のサポートをしていく部署です。「改革俱楽部」は他の部署の人との交流の機会にもなっているため、他部署連携でもっといい形がないか議論することができます。その他、自分が抱えている課題を解決する場としても、ありがたい機会だと感じています。

コンサルタント岡部のポイント解説
「改革俱楽部」を見学していて印象的だったのは、場の心理的安全性の高さです。若手従業員が、自身の考えが整理されていなくても、まず話してみるということが自然にできる場になっていました。様々な部署・年次の人たちが集まっているので、接点があまりない人もいるはずですが、会社としてのカルチャーを非常に感じることが出来る機会でした。 不動産業界は、店舗ごとの独立性が比較的強く、他店舗の人との接点や交流が薄くなりがちです。そこでこのような交流イベントを実施するケースはよくありますが、交流だけを目的としたイベント企画というのは結局継続できないことが多いです。「改革俱楽部」は交流だけではなく、自身の価値観の再認識という別の主目的もあることがミソだと思います。また、参加者のお二人のように、参加側それぞれが自分にとっての目的意識を持てている点も素晴らしいです。

総括

今回お話を伺って非常に重要だと思ったのは、採用からはじまる一連のプロセスすべてで一貫性持ち、かつ様々な工夫がなされているということです。単発的な施策や取り組みだけでは、一時的に若手の意向が上がることはあるかもしれませんが、中長期的な働きがい向上という意味では不足です。

同社の成功要因は、価値観採用による土台づくり、内定者期間からの継続的な関係構築、経営理念の行動レベルでの浸透、そして若手の声を拾う仕組みという4つの要素が相互に連携していることです。特に、社長をはじめとした経営陣が各施策に直接関与し、トップダウンとボトムアップの両方向からアプローチしている点が印象的でした。

このような一貫したプロセスの構築を支えているのは、経営理念「縁ある人への価値ある貢献と全従業員の物心両面の幸福の追求」の達成を会社の最優先事項として捉える姿勢です。組織における全ての活動はこの経営理念に帰着すること、業績はその後についてくるものだという社長の信念があるからこそ、ここまで手間や工数を惜しまず、取り組みが継続できます。

我々GPTWは、組織の働きがいを規定するのは良いカルチャーであると考えています。大上段にある経営理念から一貫した人事戦略があり、それに基づいた施策や取り組みを継続的に続けていることが、組織の良きカルチャーを醸成し、結果として3年連続の「働きがいのある会社」若手ランキング中規模部門1位に繋がっているのだと思います。

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Great Place To Work® Institute Japan コンサルタント 岡部 宏章

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新卒で人材派遣会社に入社し、買収企業のPMI(Post Merger Integration)を担当する部署で事業の基盤作りや組織開発業務に携わる。
2021年にGreat Place To Work(R) Institute Japanに参画し、営業を担当。「働きがいのある会社」調査の提供や、認定・ランキングの普及に努める。

2025年7月時点の情報です。

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