地方の製造業でも「働きがい」を育むことができる 厚板プレス工業株式会社の事例

更新日 2026.03.022026.02.24

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従業員の「心の幸せ」を豊かにすれば
この国のものづくりはもっと強くなる

厚板プレス工業株式会社
代表取締役社長 金田 康介 様

金属の特殊曲げ加工の技術集団として、ものづくりの現場を支えてきた厚板プレス工業。1973年の創業以来、独自のプレス技術を磨き続ける一方で、同社が重視してきたのが「心の幸せ=働きがい」を高める組織づくりです。なぜ同社は働きがいに向き合うことを選んだのか。心の幸せを高めることが、どのように会社の強さにつながっているのか。代表取締役社長の金田 康介氏に、その想いの背景と実践について話を聞きました。

<抱えていた課題>
✓「物心両面の幸せ」が、従業員にどこまで実感されているか確認したい
✓客観的な視点から人と組織の強みと課題、成長余地を明確にしたい

<導入の決め手>
✓尊敬する経営者が「働きがいのある会社」認定を取得していた
✓調査で拠点別・項目別に結果を把握し、改善につなげられると考えた

>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る

他社に断られた難しい金属加工にもしっかり応える

GPTW 御社の事業内容をお教えください。

interview_20260225_01.JPG金田様 当社は、チタン、ハステロイ、アルミニウム、銅、鉄、ステンレスなど、さまざまな金属を特殊な形状へと加工する会社です。扱う金属板厚は、薄いもので2ミリ、厚いものでは100ミリを超える材料にまで及びます。プラント設備やタービン、電力関連、ダム水門、高速車両、船舶など、特定の業界に偏ることなく、幅広い分野のものづくりを支えてきました。

私たちのもとには、「他社にすべて断られて、最後に相談に来ました」という案件が寄せられることも少なくありません。加工難易度が高い、形状が極めて複雑、過去に失敗経験がある……そうした条件が重なる仕事です。そうした案件に対して、私たちは図面どおりにつくるだけではなく、「どこで分割するか」「どこに溶接線を持たせるか」といった前工程から踏み込んだ提案を行ってきました。

現在、パートや研修生を含め約80名が、大阪本社、三重県伊賀市、兵庫県淡路市の3拠点で働いています。国籍や学歴、前職は実にさまざまで、金属加工とはまったく関係のない業界から入社した従業員がほとんどです。だからこそ当社では、ゼロから人を育てる会社であることを大切にしています。一人ひとりの背景や成長スピードに向き合いながら、技術だけでなく人としての成長を支えることが、結果として強いものづくりにつながると考えています。

経営理念に掲げる「物心両面の幸せ」を本気で追求

GPTW 御社にとって「働きがい」はどんな位置づけのものですか。

金田様  経営理念に掲げている「従業員およびその家族の物心両面の幸せ」を、本気で実現したいと考えているからです。物の幸せ、つまり給与や待遇については、会社として決めれば整えることができます。

一方で、心の幸せは、誰かに与えられて成立するものではありません。働く本人が、自分の仕事や仲間、会社に対してどう感じているか。その実感があって初めて成り立つものだと思っています。経営者が「幸せになれ」と言っても、それだけで人は幸せにはなりません。だからこそ、心の幸せの一つの指標として「働きがい」に向き合う必要があると感じました。

 心の幸せを大切にすることは、結果として会社の強さにもつながります。お金や物だけでつながる関係では、環境が厳しくなったときに人は離れてしまう。ですが、「この会社で働いてよかった」という実感があれば、困難な状況でも一緒に乗り越えようとする力が生まれます。だから私は「働きがい」に向き合い続けることを決めました。

経営者の感覚だけでは「心の幸せ」は測れない

GPTW 「働きがいのある会社」調査に参画した理由を教えてください。

金田様 従業員一人ひとりが実際にどう感じているのかを、自分の感覚ではなく、客観的な指標で知りたいと考えたのです。 

きっかけは、すでに「働きがいのある会社」調査を活用し、継続的に働きがい向上に取り組んでいる先輩経営者の会社を見学したことです。

認定取得までの背景や、調査結果のフィードバックの仕組みについて話を聞く中で、「外部機関による中立的な調査だからこそ、従業員の本音が見えてくるのではないか」と思いました。経営者の感覚ではなく、客観的なデータとして従業員の声を知ることができる。その点に、大きな価値を感じ、GPTWの調査に参加することを決めました。

 世の中には社内アンケートなど、さまざまな調査手法があります。ただ、社内で集計や評価を行う場合、どうしても「本音を書きづらい」空気が生まれてしまいます。その点で、GPTWの調査は、会社側が評価に関与せず、第三者の立場で実施される点に大きな魅力を感じました。

interview_20260225_02.jpgGPTW 初回となる2023年に実施した調査では、惜しくも認定には届きませんでしたが、翌2024年に実施した調査では「働きがいのある会社」に認定されています。最初の調査結果を目にしたとき、率直にどのように受け止められましたか。

金田様 初めて「働きがいのある会社」調査を受けたときは、正直に言うと「取れるだろう」と思っていました。人を大切にする経営をしてきたつもりでしたし、給与や待遇面でも、業界内で見劣りする水準ではないという自負があったからです。しかし結果は、認定ラインにギリギリ届かないものでした。その結果を見たとき、「まだまだ足りていない部分がある」という現実を突きつけられた気がしました。

 調査結果を細かく見ていくと、上司との関係性や対話の不足、そして会社の考えや施策が、従業員一人ひとりに十分伝わっていないことが明確な課題として浮かび上がってきました。私たちは以前から、月次決算の公開や利益分配制度など、情報開示や還元に取り組んできました。ただ、調査を通じて痛感したのは「やっているつもり」と「理解されていること」はまったく別だということです。特に中途入社の従業員に対して、制度の背景や考え方を丁寧に説明しきれていなかったと反省しました。

 そこで注力したのが、2カ月に1回の1on1ミーティングです。上司と部下が定期的に向き合い、仕事や成長、人間関係について話す時間を、意図的につくりました。また、月次決算の共有についても、数字を示すだけで終わらせず、「この数字が何を意味しているのか」「会社として何を大切にしているのか」を、噛み砕いて説明するようにしました。経常利益の3分の1を従業員に分配する仕組みについても、特に新しく入ってきた社員には繰り返し背景を伝えることを意識しています。

日々のコミュニケーションで理念を自分ごとにする

金田様 もう一つ力を入れたのが、自分たちの仕事の価値を実感してもらうことです。納めた製品がどこで使われ、どのように社会に役立っているのか。お客様からどんな評価をいただいているのか。こうした情報を、全従業員が参加する月次の決算会議で共有するようにしました。

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さらに、理念手帳を作成し、理念朝礼や勉強会を通じて、経営理念と日々の仕事を結びつけて考える機会を増やしています。それらに加えて、私自身が全従業員と1対1で面談を行っています。事前に書いてもらったシートをもとに、仕事のことや会社への要望、改善案をじっくり聞き、実際に組織変更などにつながった提案もあります。こうした取り組みの積み重ねの結果、2024年に実施した調査では「働きがいのある会社」認定を取得することができました。

 認定取得は大きな一歩ですが、調査結果からは新たな気づきも得られています。例えば拠点ごとにスコアの差です。3つの工場はそれぞれ特性も課題も異なります。だからこそ、一律の施策を当てはめるのではなく、現場ごとの状況を見ながら対話を重ね、改善を積み上げていくことが重要だと考えています。

「働きがいのある会社」認定後、採用と定着の両面で見え始めた変化

GPTW 「働きがいのある会社」に認定されたことで、社内外にどのような変化を感じていますか。

金田様 第三者からの評価という形で認められたことで、従業員の間にも「自分たちの会社は間違っていなかった」という安心感が広がったように感じています。課題であった上司と部下の対話も増え、仕事の進め方や役割分担について、現場から改善提案が上がる場面も多くなりました。

interview_20260225_04.JPGまた、採用面での効果も実感しています。ホームページに認定取得を掲載したことで、応募者から「働きがいのある会社に選ばれているのですね」と言われることが増えました。製造業の現場は厳しいイメージを持たれがちですが、働きがいに向き合っている会社であることが、応募の際の安心材料になっていると感じています。さらに、ご家族向けに配布している社内報を通じても「働きがいのある会社」認定取得を伝えており、家族からの応援や安心に繋がっていると思っています。

人を大切にすることで、日本のものづくりは強くなる

GPTW 「働きがいのある会社」を目指す企業に向けて、メッセージをお願いします。

金田様 製造業は、どうしても設備や技術に目が向きがちですが、最終的に品質を支えているのは人だと考えています。どれだけ立派な設備があっても、それを使いこなし、工夫し、責任を持って仕事に向き合う人がいなければ、ものづくりは成り立ちません。これからの時代、製造業においても、人を大切にしない会社は生き残っていけないと思います。

 「製造業だから働きがいを高めるのは難しい」と感じている経営者の方も多いかもしれません。しかし、私たち自身がそうだったように、時間と労力をかけて丁寧に向き合えば、必ず前に進むことはできます。 

もちろん、認定を取ること自体が目的ではありません。従業員一人ひとりが、「この会社に入ってよかった」「ここで働いた時間は、自分の人生にとって意味があった」と思えること。それこそが、私が目指している会社の姿です。

 製造業には、まだまだ大きな可能性があります。ものづくりの現場が、誇りとやりがいに満ちた場所であり続けるために、これからも従業員と共に、働きがいのある会社づくりに挑戦し続けていきたいと思います。

厚板プレス工業株式会社 代表取締役社長 金田 康介 様

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創業者である父の後を継ぐ二代目として経営を担う。油圧プレス機を核とした特殊曲げ加工技術を強みに、他社では対応が難しい高難度案件を引き受ける技術集団へと会社を発展させてきた。全従業員との対話や理念浸透に継続的に取り組み、2024年に実施した調査では「働きがいのある会社」認定を取得するなど、製造業における働きがい向上の実践を進めている。

厚板プレス工業株式会社

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1973年創業の厚板プレス加工メーカー。鉄・ステンレス・アルミなどの金属を、板厚2ミリから100ミリ超まで三次元形状に加工する高度な特殊曲げ加工を得意とする。単なる図面加工にとどまらず、分割方法や溶接線の設計など前工程から提案できる点が大きな強みであり、他社に断られた高難度案件が集まる技術集団として評価を得ている。

本内容は2026年2月時点の情報です。

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