「働き方改革」で業績は向上するのか? ~"働きやすさ"、"やりがい"と業績の関係~
更新日 2019.10.102018.07.12研究レポート
※本記事は2018年7月に執筆しました。一部、現在の調査モデルや設問と異なる部分がございます。
GPTWが行う「働きがいのある会社」調査に参加した企業における業績を調べたところ、「働きがいのある会社」の方がそうでない会社よりも、業績が向上していることが明らかになりました。加えて、「働きがい」を“働きやすさ”と“やりがい”の観点で分析したところ、ワークライフバランスや労働環境が整備されている“働きやすさ”のある職場よりも、経営・管理者層と信頼関係があり、仕事の誇りや連帯感を感じることができる“やりがい”のある職場の方が、業績が向上していることが明らかになりました。
近年、「働き方改革」の旗印のもと、企業では残業削減や休暇の充実、リモートワークの推進など、主に長時間労働を抑制し、働く場所の自由度を高めるためにさまざまな施策が進められるようになっています。多様な人材の活用や少子化対策といった観点から見ても素晴らしい取り組みではあるのですが、一般的な「働き方改革」の多くの施策は、“働きやすさ”を改善していくことに主眼を置いているようです。GPTWでは、“働きやすさ”は重要なテーマではあるものの、それだけではなく“やりがい”をもたらすことが「働きがい」を高め、業績を向上させていく上で重要だと考えています。
本調査では、「働きがい」と業績との関連性について分析を実施しました。1点目は、GPTWの「働きがいのある会社」ランキングに参加された企業のうち、ランクイン企業(以降、「ベストカンパニー」)とランクインしなかった企業(以降、「ノンベストカンパニー」)における業績の分析です。2点目は、「働きがい」を“働きやすさ”と“やりがい”という2つの軸から、職場を4つのタイプ(参照図①)に分け、業績との関係について分析を行いました。(※調査概要については、文末を参照)今回の調査では、業績を測る指標として、売上の対前年伸び率を使用いたしました。
参照図① “働きやすさ”דやりがい”4つの職場タイプ
結果概要
1. 「ベストカンパニー」と「ノンベストカンパニー」の業績:売上対前年伸び率21.9%の差
分析の結果、「ベストカンパニー」の方が「ノンベストカンパニー」より売上の対前年伸び率が21.9%高い結果となり、かつ、統計的に有意な差があることが確認できました。
参照図② 「ベストカンパニー」と「ノンベストカンパニー」の売上の対前年伸び率
2. “働きやすさ”דやりがい”4つの職場タイプごとの業績:「いきいき職場」の売上対前年伸び率は「しょんぼり職場」や「ぬるま湯職場」より37%以上高い
GPTWでは「働きがい」は“働きやすさ”と“やりがい”で構成されると考えており、それぞれの高低から職場を4つのタイプに分けています。その4つの職場タイプと業績について分析してみました。
分析の結果、売上の対前年伸び率については、A「いきいき職場」(働きやすく、やりがいもある)が最も高い値を示しました。(参照図③)次いで、B「ばりばり職場」(働きやすさはないが、やりがいがある)において高い値を示しました。一方で、最も低くなったのは、D「しょんぼり職場」(働きやすくもなく、やりがいもない)とC「ぬるま湯職場」(働きやすいが、やりがいがない)であり、同水準となりました。小規模部門の企業(従業員25~99人)ほど、この傾向は顕著に見られました(A「いきいき職場」60.8%に対してD「しょんぼり職場」11.5%)。なお、D「しょんぼり職場」とA「いきいき職場」、およびC「ぬるま湯職場」とA「いきいき職場」との間には、統計的に有意な差がありました。
参照図③ 4つの職場タイプごとの売上の対前年伸び率
「働きがい」の状態は業績と関係があり、特に“やりがい”が重要
今回の分析から、「働きがいのある会社」はそうでない会社に比べて売上の対前年伸び率が高い結果となりました。「働きがい」が高いことが業績向上と関係があると言えます。
また、その「働きがい」を“働きやすさ”と“やりがい”に分けて分析した結果、D「しょんぼり職場」やC「ぬるま湯職場」よりもB「ばりばり職場」、更に、B「ばりばり職場」よりもA「いきいき職場」において、売上の対前年伸び率が高くなったことから、業績を向上させていく上で重要なポイントは、“働きやすさ”よりも“やりがい”にあると言えそうです。
興味深い点としては、D「しょんぼり職場」と、“働きやすさ”だけはあるC「ぬるま湯職場」が同水準であったことです。“働きやすさ”だけがあったとしても、それは売上向上につながるとは言えないかもしれません。
そして、統計的に有意な差は見られなかったものの、B「ばりばり職場」よりA「いきいき職場」が高い結果となっていることから、“やりがい”だけがあったとしても両方があるA「いきいき職場」のような効果は得られない可能性が示唆されました。“働きやすさ”が十分でないことは、優秀な人材が定着しないことにもつながりかねないため、継続的な業績向上を目指す上でも、やはりA「いきいき職場」を目指していくことが望ましいでしょう。
業績が良いから「働きがい」が高いのか?
業績が良いことによって「働きがい」が高いのではないか、そのような疑問も生じるかと思います。確かに、そのように影響するケースもあるでしょう。今回の分析結果は、あくまで業績と「働きがい」に“関係がある”と言えるところまでを示すものではありますが、ある時期に「ベストカンパニー」に投資した場合に、7年後にどうなったかを分析したデータ(参照図④)があります。業績がそのまま株価に反映されるわけではありませんが、1つのご参考として紹介いたします。
参照図④ 日本の「ベストカンパニー」 と TOPIX・日経平均との比較
※ リクルートマネジメントソリューションズ調べ
※ 上記は2017年3月末時点のデータ。最新版データはこちら
2010年の「ベストカンパニー」のうち、上場している10社に、ランキング発表後の2010年3月末に等金額を投資した場合、2017年3月末時点でリターンは172.6%(年率換算前)。同時期の日経平均とTOPIXのリターンはそれぞれ70.5%と54.5%であった。
上記の調査結果から、「働きがい」と業績の相関だけではなく、「働きがい」が好業績をもたらしているという因果関係の存在を示唆していると言えます。お互いに影響しあうものではありますが、「働きがい」が業績向上に結びつく部分はあるのではないでしょうか。
まとめ 業績向上には、“働きやすさ”も“やりがい”も高めていくことが重要
A「いきいき職場」では、経営・管理者層を信頼することができており、仕事への誇りや意義も実感できています。加えて、仲間との連帯感や一体感もあるようです。そのような“やりがい”に満ちた環境があるだけでなく、ワークライフバランスも奨励され、労働環境にも満足できる“働きやすさ”もあります。“働きやすさ”があることによって、多様な人材が活躍できる環境があり、“やりがい”があることによって様々なチャレンジが促され、良いアイディアの実現や、仲間と一体になって目標達成への意欲がもたらされる、そのような環境が、売上向上につながっているのではないでしょうか。“働きやすさ”と“やりがい”を兼ね備えた「いきいき職場」をつくっていくことが、業績を向上させていく上で重要な鍵となるのです。
調査概要
- 1. 「働きがいのある会社」調査項目と回答方法
GPTWの調査は58の設問から構成され、従業員の働きがいを「信用」、「尊敬」、「公正」、「誇り」、「連帯感」の5つの要素で測定しています。
https://hatarakigai.info/gptw_model/five_dimensions.html回答の選択肢は5段階(1=「ほとんど常に当てはまらない」、2=「しばしば当てはまらない」、3=「時には当てはまらない/時には当てはまる」、4=「しばしば当てはまる」、5=「ほとんど常に当てはまる」)あり、スコアは「4」または「5」を回答した人の割合(肯定回答率)を示しています。
- 2. 手続き
- (1) 使用データ
2018年版日本における「働きがいのある会社」ランキングへの参加企業の調査への回答結果
- (2) 「ベストカンパニー」と「ノンベストカンパニー」の業績比較
調査時に回答された「会社へのアンケート」における「2016年度売上高」と「2017年度売上高」の数値を用いて、「売上の対前年伸び率」を算出しました(売上数値の提出があり比較が可能な企業のみ対象)。ランキングにランクインした企業(「ベストカンパニー」)92社と、その他のランクインしなかった企業(「ノンベストカンパニー」)106社に分け、売上の対前年伸び率の平均値を比較しました。
- (3) “働きやすさ”דやりがい”4つの職場タイプごとの業績比較
上記1.の58問について因子分析を行い、“働きやすさ”の因子として抽出された設問の平均値を用いて“働きやすさ”得点とし、それ以外の設問の平均値を“やりがい”得点としました。それぞれに含まれる主な内容は、以下のとおりです。
- “働きやすさ”
- 「ワークライフバランス」・「労働環境の整備」・「福利厚生」など
- “やりがい”
- 「経営・管理者層への信頼」・「仕事への誇りや意味づけ」・「連帯感や一体感」など
各企業の58問の調査結果について、上記“働きやすさ”得点と“やりがい”得点を算出し、それぞれの得点 の高低により、各企業を4つのエリア(参考図①)にプロットしました
(売上数値の提出があり比較が可能な企業のみ対象)。各エリアの出現率は、以下のとおりです。その上で、それぞれのエリア内の企業群について、(2)同様に売上の対前年伸び率の平均値を算出し、比較しました。
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