採用ブランディングとは? 目的、実施の方法・ポイント、事例を解説
更新日 2024.11.262024.05.09コラム
今、日本の採用市場は基本的には「売り手市場」、つまり企業にとっては人手不足の時代が続いています。どうすれば優秀な人材に応募してもらえるのか、そして最終的に自社を選び入社してもらえるのかについて苦心している経営者や人事、採用担当者が多いのではないでしょうか。
「採用ブランディング」は、そのような悩みを解決するためには欠かせない採用戦略になっています。ブランディングと言われると難しそうなイメージを持つかもしれませんが、この記事を読めば取り組みのハードルはそこまで高くないことがお分かりいただけるでしょう。
本記事では採用ブランディングの定義や目的、メリット・デメリット、具体的な実施の方法やポイント、そして事例に至るまで解説をしていきます。
採用ブランディングとは
まずは企業が行う採用ブランディングとは何か、その定義について解説します。
採用ブランディングの大元の概念である「ブランディング」や、採用ブランディングと合わせて語られることの多い「採用広報」「採用マーケティング」の定義も合わせて確認をしていきましょう。
昨今、企業の認知度や求職意識を高めるために、採用ブランディングをする企業が増えています。この資料では、採用ブランディングの概要、メリット・デメリットに加え、具体的な実施手順や成功のポイントを解説します。
ブランディングとは
ブランディングとは企業が行うマーケティングプロセスの一つであり、その企業や製品・サービスに関するイメージや認知を形成し、強化するための戦略的な取り組みを指します。
ブランディングと言うと、企業や製品のロゴや名前・ブランドスローガンなど視覚的・聴覚的要素を形成することが想起されがちですが、それらはブランディングの手法のひとつに過ぎません。消費者が自社に対して共通した感情や価値観、信頼感を持つようにする取り組み全般のことだと理解いただくと良いでしょう。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは企業が求職者に向けて、自社が魅力的な雇用主であることを伝え、その魅力を高めるための活動やコミュニケーションを行うことを指します。企業の採用手法のひとつとも言えます。
通常のブランディングが「消費者」「顧客」を対象としているのに対し、採用ブランディングは「求職者」が対象となるのが大きく異なる点ですが、対象者の感情や価値観、信頼感を醸成するという目的は変わりません。
採用広報・採用マーケティングとの違い
昨今、採用活動に関わる担当者が力を入れている取り組みとしては「採用ブランディング」の他にも「採用広報」や「採用マーケティング」が挙げられます。これらはしばしば混同されがちですが、ここで3者の違いについて整理しておきましょう。
- 採用広報: 企業が求職者に対して自社の魅力や価値を伝えるための活動です。主な目的は、企業のイメージや評判を向上させ、求職者の興味を引き付けることです。採用広報には、メディアリリースやブログの公開、イベントの開催、外部表彰の獲得などが含まれます。これらの活動は、企業の雇用主ブランドを向上させ、求職者の関心を引くのに役立ちます。
- 採用マーケティング: マーケティングの考え方を採用活動に応用し、企業が優れた人材を獲得するための戦略的な取り組みです。採用マーケティングでは、求人広告の作成や配信、ソーシャルメディアの活用、求人メディアの最適化などを通じて、求職者の関心を引き付け、選考プロセスに参加する意欲を高めます。
採用広報と採用マーケティングは、両方とも企業の雇用主ブランドを強化し、求職者の関心を引くことを目的としています。しかし、採用広報は企業の認知度やイメージを向上させることに焦点を当て、マス(大衆)に向けた情報発信を行います。必ずしも応募者の獲得だけを見ているわけではありません。一方、採用マーケティングはターゲット・ペルソナを設定し、適切な情報発信を行うことで明確に応募数を増やしていくことを目的としています。
そして採用ブランディングは、これらの採用広報や採用マーケティングの上位概念です。企業が自社の雇用主ブランドを構築し、強化するための包括的な取り組みを指します。採用広報や採用マーケティングは、その目的を達成するための具体的な手段やアプローチだと言えます。
採用ブランディングが注目されている背景
昨今、企業の採用ブランディングが注目されている背景には以下のような事象が挙げられます。
労働力不足による人材獲得競争の激化
1つ目の背景は、労働力不足による人材獲得競争の激化です。
現代日本はすでに少子高齢化による人口減少社会に突入しています。労働力人口は年間約50万人のペースで減少し、2022年時点の約6900万人から、2035年には約6210万人まで減少すると推定されています。
そのような中、厚生労働省の雇用動向調査によれば、欠員率(調査時点の雇用者数に対する未充足求人数の比率)はコロナ禍を除いて基本的には上がり続けています。人口減少という自然の流れを踏まえれば、この労働力不足の問題が容易に解決に向かうことはないでしょう。
つまり企業の立場にとってみれば、人材獲得競争は現時点でも熾烈なものであり、これからも激化していくと想定されます。求職者から競合他社ではなく自社を選んでもらうには、自ずと「自社の魅力はどのような点にあるのか」を明確に言語化する必要があり、これが採用ブランディングが注目されている一つの背景と言えるでしょう。
インターネット・SNSの普及
2つ目の背景であるインターネット・SNSの普及には、企業にとって良い側面と悪い側面があります。
良い側面としては、情報発信手段が多様になったことで自社の魅力を発信するための活動を行いやすくなったという点が挙げられます。就職情報誌の限られたスペースで情報を掲載し、就職イベントの限られた時間で候補者にアピールするというのではなく、いつでもどこでも、好きなように多数の求職者に対して情報を発信できるということは、採用ブランディング活動にとっては確実に追い風の環境と言えます。
一方で悪い側面としては、自社のイメージが第三者の手によっても醸成されてしまうという点です。代表的な例として求職者あるいは今その会社で働いている人がクチコミサイトやSNSに自社のことを自由に書けるということがあります。それが自社にとってプラスの発信であれば良いのですが、時にはマイナスの発信もあるでしょう。そのため、企業はこれまで以上に自社が求職者にどのように見られるかというイメージづくりに敏感にならなければいけないと言えます。
Z世代の存在と価値観の多様化
3つ目の背景は、Z世代の存在と価値観の多様化です。
一般的に1990年代後半から2000年代に生まれた世代を指して言う「Z世代」の若者が社会に出て働く時代になりました。
リクルートマネジメントソリューションズがZ世代である新入社員に対して「仕事をするうえで重視すること」を聞いたアンケートの結果によれば、Z世代の人は金銭や競争といったような外発的動機よりも、貢献・成長・やりがいといった内発的動機を重視する傾向が強いことがわかっています。これは、報酬や福利厚生の面だけで自社をアピールしても以前ほど優秀な人材は集まりにくくなっていることを示唆しています。
そして、貢献実感ややりがいといったものを何に感じるかというのは人によって多種多様です。だからこそ企業は自社の何を売りにしていくのかを決め、採用ブランディングによって然るべき人材に応募してもらう状況を作り出していく必要があるということです。
関連記事:Z世代の特徴や性格とは?仕事や働き方に対する価値観やその向き合い方を紹介
採用ブランディングの目的
採用ブランディングとは、企業の特性や価値観、文化を明示し、積極的に発信することで、企業の魅力を際立たせる戦略です。この目的は、単に応募者数を増やすことだけではなく、企業理念に共感し、長期的に自社で活躍できる優秀な人材を引き寄せることにあります。
以下の図はアメリカにおいてブランド・ブランディング研究の先駆者であるケビン・レーン・ケラーが発表したもので、ブランドを構成する要素には4段階あると述べています。
このモデルを「採用ブランド」に当てはめると、以下のような解釈になるでしょう。
ブランド形成の段階 | 説明 | 例 |
---|---|---|
①認知・認識(Sallence) | その企業の存在を認知している状態 | 「A社は米国に本社を置くIT企業だ」 |
②特徴理解(Performance) /印象・イメージ(Imagery) | その企業の特徴を理解していたり、何らかの印象・イメージを持っている状態 | 「A社は利厚生が充実している」「A社はスマートで洗練されているイメージがある」 |
③理性評価(Judgement) /感性評価(Feelings) | その企業に対して理性的あるいは感性的に何らかの評価をくだしている状態 | 「A社はオフィスが綺麗だった」「A社は採用担当者が親切だった」 |
④共感(Resonance) | その企業の理念や価値観に共感している状態 |
「A社の価値観(バリュー)に共感できる」 |
採用ブランディングにおける成功とは、採用候補者を④の「自社の理念や価値観に共感している状態」まで持っていくことです。この状態に到達すると、その人にとって自社は「〇〇業といえばA社」のように第一に想起される存在になっている、あるいは明らかに他社とは違う好意を寄せられている存在になっていることでしょう。
そして、「ただ単に自社を認知していて特段の思い入れはないが、たまたま入社した人材」と「自社に対して強い共感を寄せて入社した人材」のどちらが長く活躍してくれそうな人材であるかは、明らかです。採用難の時代にあっては、応募が集まらないことと同じくらい、せっかく採用した人材がすぐに離職してしまうことも企業にとっては大きな痛手です。定着率の高い優秀な人材を引き寄せることが採用ブランディングの最大の目的だと言えるでしょう。
昨今、企業の認知度や求職意識を高めるために、採用ブランディングをする企業が増えています。この資料では、採用ブランディングの概要、メリット・デメリットに加え、具体的な実施手順や成功のポイントを解説します。
採用ブランディングがもたらすメリット
採用ブランディングが企業に与えるメリットには以下のようなものが挙げられます。
認知度の向上
1つ目のメリットは、認知度の向上です。
特に中小企業では「そもそも認知されていないから求人を出しても応募が来ない」という課題を感じているという企業も多くいるのではないでしょうか。
やるべきことは全てやっているのに認知されない、というケースもあるかもしれませんが、やりきれている自信が無いという企業こそ、採用ブランディングに取り組むだけでも認知度は今より上がっていくことでしょう。例えばWebサイトの採用ページに応募要件や報酬・福利厚生などの情報を載せ、求人メディアに広告を出稿するという方法は、採用活動をする殆どの企業がやっていることであり採用ブランディングとは言えません。自社の魅力を言語化し、SNSやブログといった多様なメディアを駆使して頻繁に発信するといったプロセスを経て初めて、認知度の向上に繋がっていきます。
採用の母集団形成・応募者増加
2つ目のメリットは、採用の母集団形成・応募者増加です。
自社を知ってもらってから、実際に応募してもらうまでにはまた1つハードルがあります。しかし採用ブランディングは求職者の応募意欲を上げるという点にも貢献します。なぜなら採用ブランディングを行うにあたっては、競合と比べたときの自社の立ち位置を明確にし、採用ターゲットやペルソナをきちんと定義し、どのようなメッセージであれば彼らを惹きつけられるのかを吟味するというプロセスを経るためです。
「ターゲットを定めて適切なメッセージを届ける」というのは、マーケティングの基本中の基本の考え方であり、シンプルなことのようでその工夫が結果にもたらす影響は計り知れません。
採用ミスマッチの減少と定着率の向上
3つ目のメリットは、採用ミスマッチの減少と定着率の向上です。
採用のミスマッチとは、採用し入社に至った人材が、企業に対して何らかの点で自分の価値観や期待する働き方とのギャップを感じ、早期離職に繋がってしまう問題です。もちろん、全てのミスマッチを防ぐことはとても難しいことですが、早期離職が続出している場合には自社の理念・価値観やカルチャー、働く環境、キャリアの描き方などに関する情報が候補者に伝わり切っていない可能性が考えられます。
採用ブランディングによって求職者に伝える情報を精査していくことは、情報の透明性を高めることにも繋がります。結果として入社後に感じるギャップを減らし、定着率の向上に繋がると考えられます。
採用コストの削減
4つ目のメリットは、採用コストの削減です。
企業が採用ブランディングを推進することにより、自社にとって優秀な人材が自然と集まる環境を創出できることをこれまでも説明してきました。その結果、従来かかった広告投資や人材紹介会社への費用負担を軽減することができます。
また、自社の理念や価値観に共感する人材が集まりやすくなるため、面接に費やす時間が短縮されます。比較的早くに募集の定員枠が埋まることが期待でき、時間的コストの節約にもなります。
人事担当者や経営層は、採用ブランディングに取り組むことが人材の採用・定着というだけではなく、コスト削減という重要な経営メリットを生み出すことを認識しておく必要があります。
インナーブランディング・従業員エンゲージメントの向上
5つ目のメリットは、インナーブランディング・従業員エンゲージメントの向上です。
インナーブランディングとは、まさに今自社で働いている従業員が自社に対してより深く理解し、共感することを指します。採用ブランディングに取り組んでいない企業では、自社の価値観や魅力を日頃から言語化できていないために、従業員自身も価値観・魅力をよく分かっていないということが往々にしてあります。採用ブランディングを成功させるには従業員の巻き込みが必須ですので、メインの対象は求職者であっても、自ずと従業員に対する活動にもなってくるのです。
その結果、従業員は自社の良い点を再認識します。また、外部への発信を増やして従業員もそれを目にすることで、自社や仕事に対する誇りが高まり、エンゲージメント向上に繋がっていきます。GPTWの調査では、「誇り」が働きがい(エンゲージメント)との相関が特に強い要素であることも分かっています。
採用活動の安定性が高まる
6つ目のメリットは、採用活動の安定性が高まることです。
採用活動が安定しているとは、以下のような状態を指します。
- 毎年四苦八苦しながら候補者をかき集めている状況ではなく、ある程度決まった戦略で採用活動を推進し結果が出ている
- リーマンショックやコロナのような大きな環境変化や、競合他社の影響を比較的受けにくい
このような継続性の高いメリットを受けられる要因は、「ブランド」というものの性質に起因します。ブランドはその場限りの消費物ではなく、次世代に渡って継承される「資産」です。強いブランドを作るには相応の時間がかかりますが、それだけに簡単には崩れません。
Great Place To Work®の「働きがいのある会社」認定や「働きがいのある会社」ランキングに選出されている企業は、コンセプトの一貫した採用活動を継続することで採用ブランドが確立しており、安定した求人倍率を保っています。採用率はわずか1%という企業もいるほどです。
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採用ブランディングに取り組む際のポイント
次に、採用ブランディングに取り組む際に注意して頂きたいポイントを3つ紹介します。
全社的な取り組みとして行う
1つ目は、採用ブランディングの取り組みは全社的に行うということです。
なぜ全社的な取り組みが重要かというと、採用ブランディングにおいては自社のミッション、ビジョン、バリューといったアイデンティティに関わる部分を明確にする必要があり、それは決して採用担当者や人事担当者だけで完結できる作業ではないからです。自社の魅力としてそれを外部に打ち出していく以上、絶対に嘘や机上の空論であってはならず、経営層だけでなく従業員までもがその内容に納得し、共感している必要があります。
Great Place To Work®の働きがい認定企業では、1泊2日の全社合宿形式でミッション・ビジョン・バリューを新たに作ったりブラッシュアップする活動をしている企業も多くあります。
関連記事:ミッション、ビジョン、バリューとは?違いや組織浸透について解説
成果が出るまでに手間と時間がかかることを認識する
2つ目に、採用ブランディングの取り組みは成果が出るまでに手間と時間がかかることを認識する必要があります。
具体的に何年で思ったような成果が出るかは企業によって異なるところですが、少なくともたった1年で素晴らしい成果を出せるとは期待しないことです。常に同じコンセプトのもとメッセージを発信し続けることで、ブランドが「育って」いきます。もちろん、そのためには相応の手間をかける必要があるため、人事業務の片手間でやるというよりは、カルチャー推進や採用ブランディングの専任担当者を置くのが最も理想的な体制です。
迅速な結果を求めるあまりに不透明で短絡的なメッセージを打ち出し、場当たり的な戦略を展開すると、それが逆効果になり、企業イメージを損なう原因になることがあります。採用ブランディングの担当者は、効果を分析するための定量データと、そこから得られた結果に基づく改善策を地道に続ける姿勢を持つことが大切です。計測可能な指標を設定し、その動向を注意深く観察することで、長期的な成功への道筋が明確になります。
継続的な情報発信を行う
3つ目に、採用ブランディングは継続的な情報発信を行うことが何より大切ということです。
企業目線では特定の採用強化時期があるかもしれませんが、採用のターゲットである就活生や求職者は常にどこかで情報収集をしています。会社のWebサイトやブログ、各種SNSを活用し、経営者の想いや働く人の姿をリアルタイムに更新することで、機会損失なく彼らにアプローチしていくことができます。
また、「ザイオンス効果」という言葉をご存じでしょうか?ザイオンス効果とは、特定の人物や物事に何度も繰り返し接触することで、好感度や評価が高まっていくという心理的傾向のことを指します。1回だけ情報に接触した企業よりは、3回、4回と接触した企業の方が単純に記憶にも残りやすく、気になる存在になっていくということです。そういった点でも、是非情報は継続的に発信しましょう。
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採用ブランディングの実施手順
それでは、採用ブランディングは具体的にどのような手順で実施していけばよいのでしょうか。7つのステップに分けて解説します。
STEP1: 自社および競合他社の分析
採用ブランディング成功の第一歩は、自社の特色を理解し、競合と差別化することです。そのためにまずは現状を俯瞰して分析しましょう。
この自社・競合分析にあたっては、マーケティングフレームワークの1つである「3C分析」を活用するのもひとつの手です。
「自社(Company)」・「採用における競合(Competitor)」・「求職者(Customer)」それぞれの枠組みにおいて、以下のような内容を整理してみましょう。
項目 | 整理する内容 |
---|---|
自社 | ● 自社の仕事内容、働き方、福利厚生、報酬、職場風土は? ● 自社の「強み」「課題」は? ● 自社の採用状況は?どのような採用活動をしている? |
採用競合 | ● 採用において特に注視したい競合はどこか? ● 競合の仕事内容、働き方、福利厚生、報酬、職場風土は? ● 競合の「強み」「課題」は? ● 競合の採用状況は?どのような採用活動をしている? |
求職者 | ● 採用市場全体としてどのような傾向がある? (〇〇業界が人気、テレワークのニーズが強まっているなど) ● 採用候補者は、どんなニーズ・関心事を持ったどんな属性の人? ● 何を決め手に職場を選んでいる? |
これは現状分析ですので、自社の分析をする上では背伸びをせずにあくまで“客観的に”事実を述べることが大切です。もし、競合他社と比べて強みと言えるようなところがないと思ってしまっても、それを認識すること自体が次の手を打つ上で大事な一歩になります。 競合の分析や求職者の分析は、それぞれ視野を広げるという点で非常に重要なプロセスです。既に知っている情報だけで分析を進めようとするのではなく、Web上などで公開している情報を頼りに徹底的に「調べ上げる」ことを大切にしましょう。ここでどれほど実態に即した分析ができるかによって、成果の出せる差別化戦略を描けるかどうかが変わってきます。
STEP2: 採用ターゲット・ペルソナの決定
次に、採用ターゲット・ペルソナを設定していきます。
ターゲットというと「技術職志望 25~35歳 首都圏在住」などざっくりとした属性レベルのものをイメージしがちですが、それだけではなく、趣味や性格、スキルセット、仕事に求めるものなど細かい人物像までをイメージして作ります。この人物像を「ペルソナ」と言います。
ペルソナは具体的すぎて「本当にこの通りの人物を見つけるのは不可能だ」と思うかもしれませんが、もちろんこの通りの人物でなければいけないというわけではなく、これはあくまで社内のイメージ共有のために作成するものです。ペルソナを設定することで、現場の部長職などが関与する採用面接においても認識のズレを減らすことに役立ちます。
また、ターゲットやペルソナを設定する上ではいくつかのアプローチがあります。どれかひとつに絞るわけではなく、それぞれのアプローチから複合的に考えてみましょう。
- 経営戦略・人事戦略から逆算して必要な人物像を定める
- 社内で優秀な成績をあげている人材を参考にする
- 競合他社と比較したうえで自社の強みがメッセージとして響きそうな人物像を定める
- 人材に求める要件を「MUST(必須)」「WANT(望ましい)」「NEGATIVE(望ましくない)」に分けて洗い出す
設定されたペルソナは、採用戦略の指針となり、ターゲットに合った説得力のあるメッセージ作りに繋がります。具体的なペルソナの情報を整理し、それを活用した求人広告の作成や、候補者とのコミュニケーションに具体的なアプローチ方法を策定することで、効果的な採用活動を実現します。
STEP3: 採用コンセプトの立案
採用コンセプトの立案にあたっては、自社の採用活動の方針を、スローガンやキャッチコピーといった目に見える形で表現することがゴールになります。自社・競合分析およびターゲット・ペルソナ分析に基づき、人事担当者や経営陣は自社の独自性と魅力をターゲットに明確に伝えられるコンセプトを策定する必要があります。
採用コンセプトを立案するうえでは、まず自社の企業理念やミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に立ち返る必要があります。それこそが自社の「ここで働くことの意義」を表現しているからです。もし、MVVが明確に言語化されていなかったり、されてはいるものの形骸化してしまっていたりする場合は、まずそこから構築していく必要があります。
採用コンセプトは採用活動における中心的な要素です。ここで設定したコンセプトを元に、色やフォントやグラフィックといったビジュアルアイデンティティを構築したり、様々な媒体での発信内容を作ったりしていくことになります。
「理念やMVVをそのまま採用コンセプトにしてはいけないのか?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。
答えは、それが既に「誰かに向けたメッセージ」の体裁になっており、欲しい人物像を惹きつける言葉になっているのであればそれでも構いません。例えばサントリーホールディングスのバリューの一つに「やってみなはれ」がありますが、同社はそれをそのまま採用コンセプトにしています。(出典:サントリーホールディングス 採用サイト)
ただし、理念やMVVの表現を崩さないことよりも、「自社の強みや独自性が表せているか」「ターゲットにとって魅力的な言葉になっているか」「分かりやすくシンプルか(説明的でない、複雑でない)」といった観点を優先し、フラットに考えるようにしましょう。
STEP4: 情報発信手段の決定
現代では求人情報の発信方法が多様化しており、それぞれの特徴を理解して上手く使い分けていくことが求められています。特に、ターゲットとする求職者がよく利用するプラットフォームに注目することは必須です。
期待できる効果性に加えて、コストや運用リソースの面も踏まえながら注力していくプラットフォームを決めましょう。1つではなく、最低でも2~3つを活用できるのが採用ブランディングを推進するためには望ましいと言えます。
具体的な情報発信手段については、「採用ブランディングの発信手段」を参考にしてください。
STEP5: 従業員とのブランドイメージの共有
採用ブランディングにおいて従業員は、自社のブランドを外部に発信する「ブランドアンバサダー」だと言えます。採用コンセプトが決まった時点で、ターゲット像と共になぜそのようなコンセプトになったかの理由も含め、丁寧に従業員に共有を行いましょう。
特に昨今は、従業員が外から採用候補者を連れてくる「リファラル採用」を積極的に推進する企業や、従業員がSNSで社名を公開して自社のことを発信する企業も増えてきています。これらは良い候補者に巡り合えるチャンスを増やしますが、一方で、一貫性を担保できないとブランド構築において逆効果になるリスクもあり、徹底したブランドイメージの共有が肝となります。この点については「採用ブランディングと働きがい(エンゲージメント)の関係」の章でもより詳しく説明していますので、ご覧ください。
STEP6: 施策実行(既存施策の見直し含む)
採用ブランディング戦略を設定した後、経営陣や人事担当者に対して具体的で効果的なアクションプランを提示することが重要です。柔軟性と一貫性を両立させ、企業の魅力を引き出す手法を開発・実行します。
まず、社内外ステークホルダーと密接に連携し、社員インタビューや職場環境の撮影などのコンテンツ作成を行います。これにより、企業の現実の働き方や雰囲気をリアルに伝え、候補者に魅力的なイメージを植え付けることが可能です。
次に、既存の施策データを分析し、採用サイトのランディングページ最適化やソーシャルメディアを活用したコミュニケーションを取り入れます。これにより、潜在的な求職者に対して企業の価値を効果的に訴求し、ブランドイメージの向上を図ります。
さらに、現在の施策の成果を定期的に検証し、改善点を明確にします。アンケートやフォーカスグループで得られたフィードバックは、施策の改良と組織の採用プロセスの洗練に不可欠です。
採用ブランディングの施策実行では、目に見える成功を追求するだけでなく、候補者が組織文化や価値に共感し、長期的な関係を築くことが必要です。既存の施策を見直しつつ、新たなアプローチで持続可能な採用ブランディングを構築できるでしょう。
STEP7: 効果検証
採用活動の成果を正確に評価するためには、効果検証が不可欠です。ここでは、企業がSNSを活用した採用ブランディングの成果をどのように測るか、その方法とポイントを解説します。
まず、応募数の増加やWebサイト訪問者数の向上、オファー受諾率の改善など、定量的なデータに基づく効果を測定する基本的な指標を設定します。例えば、SNSを駆使したリクルーティングキャンペーンを展開し、キャンペーン前後の応募数やオファー受諾数がどのように変化するかを比較します。
次に、企業のイメージや評判といった採用ブランディングの間接的な成果も重要です。SNS上での言及やシェア数、フォロワーの増加率などを分析し、企業に対する関心度や好意度を示す指標を検討します。例えば、ハッシュタグキャンペーンによって企業への言及が増えたかなど、SNSの分析ツールを利用して定性的なデータも取り入れます。
また、従業員がSNSで企業の魅力を発信している事例を収集し、それが応募者やステークホルダーに与える影響を分析することも効果検証の有効な方法です。これにより、採用ブランディングの取り組みが社内の雰囲気や社外の認識にどのように貢献しているかを評価できます。
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採用ブランディングの発信手段
企業の採用ブランディングを成功に導くためには、目に見える具体的な効果を生む発信手段を見極め、それを適切に活用することが重要です。ここでは具体的にどのような発信手段が取りえるのか紹介します。
自社採用サイト
自社採用サイトは、自社への応募を検討するほとんどの求職者がチェックする情報源であるため、第一に力を入れるべき採用ブランディングツールだと言えます。会社の魅力を直感的に伝えるために、洗練されたデザインや充実したコンテンツの作成に努めることが肝要です。
採用サイトには求職者が関心を持つあらゆる情報を分かりやすく格納することが大切です。ブランドイメージを伝えるうえで欠かせない自社の理念やミッション・ビジョン・バリューは必ず掲載します。また入社してからの働き方が具体的にイメージできるように、福利厚生、キャリアパス、研修制度などについても詳しく説明します。更に従業員のインタビューコンテンツも掲載すると、情報の説得力が高まります。
特に、自社採用サイトはSEO(検索エンジン最適化)を意識し、検索エンジン経由でのアクセスを増やし、より多くの候補者と接触することが可能です。適切なキーワードの選定と使用は、検索結果での上位表示につながり、効果的な採用結果をもたらします。
採用ブログ
採用サイトが求職者が自社を志望する上で必ず知っておいてほしい「静的」な情報を載せる場所であるならば、採用ブログはより「動的」かつ「感情的」な情報を載せる場所という役割分担ができます。
掲載する内容としては例えば経営者の近況報告、社内イベントや社員合宿のレポート、ユニークな制度や福利厚生の紹介など、人間味の感じられる内容であると求職者にとって親近感の持てるものとなります。またブログという形式を活かして、従業員がリレー形式で会社の魅力を発信していくようなコンテンツもおすすめです。
採用ブログは、自社ドメイン内で構築するのも良いですが、近年ではnoteやWantedlyといった外部メディアを活用する企業も増えています。外部メディアを利用することでそのメディアの集客力を借りることができるというのが最大のメリットです。
SNS
X、Facebook、Instagram、LinkedInといったSNSも採用ブランディングに有効です。特にXは20代の約8割、Instagramは20代の約7割が利用しているというデータがあり(*)、新卒採用や若手の採用において活用強化を検討したい手法だと言えます。
(*)出典:2023/6 総務省「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」
SNSの大きなメリットは2点あります。1つ目は「リアルタイム性」です。その日の会社にまつわる出来事をタイムリーに発信したり、就活セミナーをInstagramのライブ機能を使って実施したりといった活用がなされています。
2つ目のメリットは「インタラクティブ性」です。例えば投稿のコメント欄で自社に対する質問を募集し、一つひとつ返信をするといった取り組みで、就職説明会などとは違った雰囲気のカジュアルなコミュニケーションを取ることが出来ます。また、投稿別のエンゲージメント傾向の違いを分析することで求職者の関心をつかみ、今後の投稿を調整する手がかりにもなります。
動画メディア
YouTubeやVimeoなどの動画メディアも、採用ブランディングにおいて注目のツールとなっています。動画は静止画の何倍も記憶に残りやすいと言われており、短時間でも伝えられる情報量が圧倒的に多いことがメリットです。
経営者メッセージ、オフィスツアー、社員インタビューなど、コンテンツの選択肢は多岐に渡ります。ただし、デメリットとして制作費用や手間がほかの手段に比べて多く必要であることが挙げられます。そのため場当たり的に作るのではなく、予め定めた自社の採用戦略の中で、どのようなコンテンツであればブランディングに有効となるかを良く考えましょう。
求人メディア
採用活動において、Indeedやリクナビなどの求人メディアの重要性は引き続き高いままです。求人メディアには今まさに就職・転職を考えているモチベーションの高い層が集まるため、比較的早期に成果を出しやすいと言えます。
しかし求人メディアには数多くの競合企業がひしめき合い、間違いなく他社と比較検討をされるため、採用ブランディングの戦略を企業情報ページに上手くアウトプットできるかどうかが、差別化の鍵になります。
具体的には、計画時に定めた「ペルソナ」や「採用コンセプト」を強く意識して自社紹介文を作成しましょう。少しでもエントリー数を稼ごうと、ペルソナやコンセプトの軸がブレてしまうというのがよくある失敗例です。無料で掲載できるものではないからこそ、「量より質」を意識する必要があります。
イベント・セミナー・ミートアップ
積極的にイベント、セミナー、ミートアップといった機会を活用することも有効な手段です。人事担当者や経営陣が面と向かって候補者と接触できるこれらの場所は、情報交換を超え、企業の文化や価値観を直接体験してもらう絶好の機会を提供します。たとえばオープンハウスやジョブフェアを通じて自社のビジョンやミッションを効果的に伝え、求職者の関心を引きつけることができます。また、業界カンファレンスへの参加により、社外での存在感を高め、企業ブランドを確立させることが可能です。
これらの出会いは、求める人材とつながる絶好のチャンスです。イベントでの活動やセミナーでの知見共有、ミートアップでの非形式的な交流を通じて、候補者に自社の雰囲気を味わってもらい、彼らの記憶に深く刻むことができます。個別の相談会や体験型ワークショップを開催することも、自社の独自性を訴求し、候補者の心をつかむための有効な方法です。
昨今、企業の認知度や求職意識を高めるために、採用ブランディングをする企業が増えています。この資料では、採用ブランディングの概要、メリット・デメリットに加え、具体的な実施手順や成功のポイントを解説します。
採用ブランディングと働きがい(エンゲージメント)の関係
Great Place To Work®(GPTW)は、働きがいのある会社を社会に増やすことをミッションとしている機関です。そこで、採用ブランディングと働きがい(エンゲージメント)の関係性についてもここで少し触れておきたいと思います。
一見関係が無さそうに見える両者ですが、実は本質的に採用ブランディングを成功させるためには、従業員の働きがい(エンゲージメント)を向上させるという視点も持つことが欠かせません。
ここで、むすび株式会社の深澤了氏が提唱している「ブランド構築の理論」の図式を確認しましょう。
(出典)深澤了「採用ブランディング」(幻冬舎、2018年)
この式が示すところは、ブランディングの成果は「言語化された理念・価値観」に「従業員の行動・態度」と「プロモーション」という2つの要素が掛け合わさって創出される、ということです。逆に言うと、どれか1つの要素でも失敗していれば、全体の成果が失敗に終わるということも示しています。
「理念・価値観」を「プロモーション」する、というのは採用ブランディングの実行内容として容易に想像されるところです。つまり先に紹介したブログやSNSなどのツールを使って理念・価値観を発信していくことを指します。プロモーションの成功事例は豊富に共有されており、失敗しにくい部分です。
重要なのは「従業員の行動・態度」の部分です。自社の理念・価値観は従業員に浸透しており、従業員は行動や態度によってそれを体現できているかということです。これが出来ていないと、求職者が説明会や面接、インターンシップなどで実際にその企業で働く人と接した際に、外部に発信されている理念や価値観とのギャップを感じ、逆に不信感に繋がってしまいます。昨今は口コミサイトやSNSで気軽に企業の評判を投稿できるため、悪い評価がインターネット上で蔓延するということにも繋がりかねません。
ではどうすれば自社の理念・価値観は従業員に浸透するのか?ということですが、明文化した理念や価値観をただトップダウンで伝えるだけでは、浸透効果は望めません。従業員に理念が浸透するには「①認識する」「②納得・共感する」「③行動に反映する」の3つのフェーズがあり、理念の内容に従業員が納得・共感できているということがとても大切なのです。
従業員が心の拠り所に出来る理念を作るということは、従業員一人ひとりの働きがいを考えるということに他なりません。ですから、決して外側だけ良いように「見せかける」採用ブランディングに陥らないよう、従業員と足並みを揃えて推進していくようにしてください。
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GPTW「働きがい認定」を活用した採用ブランディングの企業事例
Great Place To Work®の「働きがいのある会社認定」に選出されている企業は、採用ブランディングにも多くの力を注いでいます。ここでは働きがい認定を活用しながら効果的に採用活動を行っている成功事例をいくつか紹介します。
事例①株式会社ミクセル
会社のトップページ、採用ページなどに認定やランキングロゴを掲載し、「お知らせ」の欄には認定選出のニュースを掲載するなど、多方面から目に留まる工夫をしています。
「働きがいを感じられる職場」という採用コンセプトが全面に伝わり、社会貢献意欲の高い求職者に刺さる内容となっています。
事例②ユナイトアンドグロウ株式会社
認定の事実のみではなく、GPTWの「働く人へのアンケート」の結果から検出した企業の強みと、なぜそれが強みなのかの理由をブログ形式で紹介しています。
著名な第三者機関からの評価実積を自社のストーリーとして語れることで、信頼性が増しています。
事例③株式会社あつまる
「いつまでも夢を語り、いつまでも青春を。」というスローガンを掲げ、一貫した採用コンセプトをもちながら採用を行っています。同社はランキング選出を記念して制作したオリジナルバナーをSNSで発信しています。
自社の魅力を発信者の視点から伝え、第三者機関からの評価実績も合わせることで、情報の信用度も向上しています。
採用ブランディングには「働きがい認定」
企業が競争の激しい市場で優秀な人材を獲得・維持するための鍵は採用ブランディングにあります。この記事を通じて企業が魅力的な採用ブランドを確立し、求職者の心を捉えるために必要な策略をご紹介しました。企業としての個性を前面に押し出しながら最適な候補者に自社の価値を伝えるには、綿密なマーケティング戦略が不可欠です。
また、もしあなたの企業が明確な理念や価値観を持ち、従業員と共に良いカルチャーを築けていると感じているならば、それを客観的に証明することが、採用ブランディングの成果を底上げします。Great Place To Work®の「働きがい認定」は最短2か月で取得可能で、すぐにブランディングに活かすことができます。ご関心のある方は是非こちらから詳細をご確認ください。
Great Place To Work(R) Institute Japan 明石 美瑛
2018年にGreat Place to Work(R) Institute Japanに参画し、マーケティング・広報を主に担当。「働きがいのある会社」に関する調査・研究や、認定・ランキングの普及に努める。