テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査 ~ニューノーマル時代の働き方における働きがい向上~
更新日 2021.11.042021.11.01研究レポート
ニューノーマル時代において、テレワークは多様な働き方の一つの選択肢として有力視されている。一方、コロナ禍で一時的に導入した企業からは社内コミュニケーションの減少の懸念から本格導入にためらう企業も少なくない。本研究では、コロナ禍前後で実施されたGPTW調査からテレワークを実際導入している企業を対象に、特に縦(経営・管理者層と従業員間)・横(職場全体)のコミュニケーションの実態に着目し、テレワークの成果実感について考察した。テレワーク環境下でも働きがいの高い組織であるための条件を探る。
調査・分析概要
新型コロナウイルス感染症の流行前との変化を確認するため、流行前の2020年版調査(実施期間:2018年10月~2019年9月)と流行後の2021年版調査(実施期間:2019年10月~2020年10月)の2年度連続で調査を実施した企業のデータを用いた。そのうち、2021年版調査でテレワークを導入していると回答のあった164社を分析対象とした。「会社へのアンケート」において聴取した「テレワークに対する成果実感」別に、「働く人へのアンケート」結果を分析し従業員の働きがいの実態を確認した。テレワーク成功のポイントはコミュニケーションにあると考え、職場のコミュニケーションを縦(経営・管理者層と従業員間)のコミュニケーション、横(職場全体)のコミュニケーションに分けてテレワークの成果実感にどのような関連性が見られるのかを考察した(図表1)。
テレワークのポジティブな成果実感には縦・横両方のコミュニケーションの良さが関係
テレワーク導入企業に成果実感について質問したところ、「期待通りの成果が出ている」が37.2%、「ほぼ期待通りの成果が出ている」49.4%、「あまり期待通りの成果が出ていない」が5.5%、「期待通りの成果は出ていない」0%となり、多くの企業で前向きな回答が得られたものの、一部の企業では期待通りにとはいっていない状況も明らかになった(図表2)。
図表2 2021年版調査「会社へのアンケート」 テレワークの成果実感
テレワーク導入の成果についてどのように感じていますか。<単一回答/n=164/%>
次に、テレワーク導入成果実感は職場のどのような変化からもたらされるのか探ったものが図3である。「ワークライフバランス」については、成果実感別にゆるやかな得点差はあるものの、統計的に有意な差は確認されなかった。一方、「生産性」については統計的な有意差が確認され、「期待通りの成果が出ている」群ほど、生産性が高いという結果であった。何をテレワーク導入の成果と捉えているかは各社各様であるが、生産性が一つの判断材料となっている可能性が示唆された。
図表3 2021年版調査「会社へのアンケート」 テレワークによる変化
テレワーク導入について、具体的にどのような変化を感じていますか。<複数回答/n=151/%>
※テレワーク成果実感別に統計的有意差のある項目に印(** p < 0.01)
では、テレワークの成果実感によって従業員のコミュニケーションの実態は異なっているのだろうか。2021年版調査「働く人へのアンケート」において従業員が回答した「縦のコミュニケーション」(経営・管理者層と従業員間でのコミュニケーションに関する4項目の平均値)と「横のコミュニケーション」(職場全体でのコミュニケーションに関する7項目の平均値)の得点をテレワーク成果実感別に集計したところ、成果実感が高いほど得点が高く、群間で統計的な有意差が確認された(図表4)。縦・横のいずれのコミュニケーションも良好であることは、テレワークの成否と関係していることが示唆される。
加えて、総合設問(「総合的にみて、働きがいを感じる」)について確認を行ったところ、同じく成果実感が高いほど総合設問の得点が高く、群間で有意差が見られた。このことから、テレワークがうまくいっている企業では、日頃から経営・管理者層と従業員(縦)、職場全体(横)のコミュニケーションが良く、また従業員の働きがいも高いレベルにあるといえそうだ。
図表4 2021年版調査「働く人へのアンケート」 テレワーク成果実感別 縦・横コミュニケーション、総合設問 平均値 <n=151/%>
ポイントとなるコロナ禍前から縦のコミュニケーション
ここでコロナ流行による縦・横のコミュニケーションへの影響について考えてみたい。図表5を見ると2020年版調査(コロナ禍前)と2021年版調査(コロナ禍後)にかけてそれぞれのコミュニケーションレベルが変化していることが分かる。縦のコミュニケーション(+3.3pt)、横のコミュニケーション(+1.9pt)と両方の得点が上昇しており、得点差には統計的な有意差が確認できた。
図表5 2020年版調査・2021年版調査「働く人へのアンケート」 縦・横コミュニケーション平均値の経年比較 <n=164/%>
加えて成果実感別にも経年変化を見てみると(図表6)、縦のコミュニケーションは「期待通りの成果が出ている」、「ほぼ期待通りの成果が出ている」において統計的に有意に上昇し、「期待通りの成果が出ている」について最も上昇した(+4.7pt)。さらに2020年版調査、2021年版調査の両方において成果実感の群間に統計的な有意差が確認された。つまり、コロナ禍前から縦のコミュニケーションが活発な会社ほど、コロナ禍後でテレワークがうまくいっている可能性が示唆された。経営・管理者層と従業員の間で情報共有が双方向で活発であれば信用のある企業文化が醸成され、テレワーク環境下においても従業員は働きがいをもって生産性高く働けているということだろう。
コロナ禍で高まる横のコミュニケーションの重要性
横のコミュニケーションについては「期待通りの成果が出ている」群のみ統計的に有意に上昇していた(+3.0pt)。成果実感の群間に統計的な有意差については、2021年版調査のみに有意差が見られたが、2020年版調査では確認できなかった(図表6)。この結果から、横のコミュニケーションについては、テレワーク成果実感が高い群ほど、コロナ禍前から横のコミュニケーションができていたというわけではないようだ。しかしながらコロナ禍後に高められた背景として考えられるのは、コロナ禍前はテレワーク未導入だったり、利用対象が特定の職種や働き方の従業員に限定されていたりしたが、2020年4月の緊急事態宣言以降は対象者が広範囲に拡大することとなり、なんとか全員が離れた状況でうまくやっていく方法を模索したことが考えられる。在宅勤務で一人働くことによる孤独感の解消やストレス緩和に起因する部分も大きいかもしれない。職場全体がつながれるような連携強化に意識が高まったのではないか。
図表6 2020年版調査・2021年版調査「働く人へのアンケート」 テレワーク成果実感別 縦・横コミュニケーション 平均値の経年比較 <n=151/%>
コロナ禍後にテレワークの成否に影響に関連が認められた横のコミュニケーションとは、具体的になにを意味しているのか。テレワークの成果実感の群別比較で統計的に有意な差が確認できた設問は、 “この会社で自分らしくいられる”、“特別なことがあれば祝い合っている”、“必要なときに周囲の協力を得られる”であった。組織のオペレーションが従来通りにはいかなくなったからこそ、仲間と連携して対応していかなければならないことが増えてくる。テレワークではチームの連帯感を感じられないと貢献感や自己肯定感が満たされにくいというのもあるかもしれない。職場の同僚と助け合いながら仕事を進めていく(相互支援)、その前提としてお互いを理解し認め合う(相互尊重)といったことが大事になっているといえないだろうか。
テレワークの成功には経営・管理者層に対する信頼・安心、配慮が鍵
図表7では、コミュニケーションの他にテレワークの成否に必要な条件を探った。成果実感の群別比較で統計的に有意な差がある設問のうち、特に差の大きいものとして、“働きに見合った報酬がある”、“経営・管理者層から情報共有があり、言行一致している”、“安心して働ける環境がある”などが挙げられる。コロナ禍の困難な状況下で相互支援、相互尊重を実現していくには、会社が誰に対しても公正な対応をしていることや、物理的には離れている状態でも経営・管理者層とコミュニケーションをとりながら、安心・信頼を感じられていることが鍵となりそうだ。さらに、“ワークライフバランスが奨励されている”、“設備が整っていて働きやすい環境である”も上位にきていることから、テレワークでも残業などがコントロールされていて健康確保が可能であり、自宅で働くうえで必要な設備などにも手当が支給されているなど、会社から配慮されていることもポイントになりそうだ。
図表7 2021年版調査「働く人へのアンケート」 テレワーク成果別各設問の平均値 <n=151/%>
※テレワーク成果実感別に統計的有意差のある項目に印(***p<0.001 ** p < 0.01 * p < 0.05)
テレワークにおけるコミュニケーションの促進事例
ここでテレワーク環境下の縦・横のコミュニケーションの促進に向けて、ベストカンパニー(GPTWが認定している「働きがいのある会社」)における工夫をいくつか紹介したい(図表8)。
縦のコミュニケーションの促進に向けては、“双方向型”がポイントとなる。経営・管理者層と従業員がオンラインでもお互いにやりとりできる工夫が見られる。大人数が集まる会議では事前に質問を収集し、またその場でもチャット欄を通じて意見出しをどんどんしてもらうなど従業員の理解支援、不安解消のために丁寧な気配りをしている。上司との個別の面談においては上司が一方的に業務の進捗を確認したり、話続けたりするのではなく、雑談などを交え和んだ雰囲気をつくりながら部下の話を引き出し、聴くことに徹するなど従来型のやり方にこだわらず一歩距離を縮めるような工夫をしている。
横のコミュニケーションの促進に向けては、“全員参加型”がポイントとなる。社内の人脈を広げてもらえるよう全社に開かれた自由参加型のイベントを提供している。始業前やランチタイムといったちょっとした隙間時間を利用し大小多彩なプログラムを提供することや、特に新人など社内交流の経験が浅い従業員を巻き込んで仕掛けているのが特徴だ。対面の場ではある程度自然に形成されてきたネットワークを意図的につくっている様子もうかがえる。また身近な職場の上司・同僚との関係性を深めるために、業務とは関係がないようなテーマについて全員参加型で数時間じっくりと話し合う機会も有効だ。コロナ禍だからこそ、互いの強みを認め褒め合うような細やかな心遣いが、個人と職場との結びつきを強める。
図表8 縦・横コミュニケーション向上の取り組み例
ニューノーマル時代における働きがい向上
ニューノーマル時代には、従業員に新しい働き方を提供しつつ、働きがいも高めていくというチャレンジが経営に求められる。新しい働き方の代表格であるテレワークは、コロナ前であれば制度があること自体が他社との差別化にもなり得たが、コロナ禍では、業績や生産性における成果実感も問われている。
今回の研究を通じて明らかになったのは、テレワーク環境においても働きがいを高く維持することができるということだ。うまくいっている企業は、経営・管理者層との縦のコミュニケーションを双方向型で一層強化し、また職場全体の横のコミュニケーション、仲間意識については、全員参加型の新しい方法を試行錯誤している。
従業員の働きがいが高いということは業績や生産性においてもポジティブな成果が期待できるであろう。ベストカンパニーの事例に学び、テレワーク下でも働きがいの高い組織をつくる企業が増えてくることを期待したい。
前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授) コメント
調査数を増やす、テレワークを行っていない企業との比較を行うなど、さらに多面的な分析を行うことによって、さらにニューノーマル時代の働き方・コミュニケーションの取り方についての知見を蓄積できると考えられるので、重要な分野における基礎的・基盤的データを得られたと考えられる。
「では我が社はどうすればいいのか」という質問が目に浮かぶが、幸福経営学研究者として日々実感していることは、会社の多様性である。それぞれが、それぞれの会社の良さを生かした工夫を行うことによって、テレワーク環境下におけるコミュニケーション活性化を行うことができる。重要なのは、各社・各人の創造性である。部分的に他社の真似をしても意外とうまくいかない。すべての企業、すべての方に、他社の結果に振り回されるのではなく、自社らしく働きがいのある幸せな風土を作っていただきたいと切に願う。