働きがいから考える働き方 ― 組織文化と成果を両立する意思決定とはVol.1 働き方の"いま"を読む ― テレワークで何が変わったのか
更新日 2026.03.192026.03.19コラム
2020年の感染症拡大から、日本企業にも急速にテレワークという働き方が広がり数年が経ちました。働く人からは、「もうテレワーク無しの生活には戻れない」という意見もよく聞かれます。
一方、企業経営という視点では、テレワークによるメリットと同時に課題も徐々に浮き彫りになり、2025年の現在は「出社回帰」がトレンドになりつつあるのも事実です。
一律に出社へ戻せば反発が起きる。
かといって、このままテレワークを続けていいのかも分からない。
「最適な出社頻度は?」「この運用は成果や働きがいにつながっているのか?」
このシリーズコラムでは、こうした迷いの背景にある働く人の意識変化と、企業が拠り所にすべき判断軸を読み解いていきます。GPTW Japanで組織コンサルタントとして様々な企業を見てきた岩佐 真裕子さんに聞きました。
テレワークは「定着」ではなく「再編成」をもたらした
Q.日本企業の働き方はいま、どのような状態にあると見ていますか。
今の日本企業の働き方は、「コロナ前に戻った」とも「完全に変わった」とも言えず、揺れ動きながら再編成されている過渡期にあると捉えています。
コロナ禍では非常対応としてテレワークが一気に広がりましたが、その後すべての企業・職種に定着したわけではありません。一方で、「テレワークを導入するか・しないか」という二択の議論から、「働く場所や時間の選択肢を与える」という発想そのものが広がったことは大きな変化でした。
そんな中で現在は、テレワークを積極的に活用する企業、出社を前提に一部リモートを組み合わせる企業、従業員の裁量に委ねる企業、出社回帰を進める企業など、さまざまな形が混在しています。正解が定まっていないからこそ、多くの企業が「自社にとっての最適解」を探している段階 だと言えるでしょう。
Q.働く“個人”の意識については、どのような変化が見られたと考えますか。
個人の意識では、大きく3つの変化が見られます。
1つ目は、自律的に働けるかどうかの二極化です。業務を自分で設計し、優先順位をつけ、成果を発信できる人は、テレワークによってパフォーマンスを高めたことでしょう。一方で、経験が浅い人や、指示を仰いで動くような働き方に慣れていた人は、不安や動きづらさを感じやすくなっています。
2つ目は、評価への感度の高まりです。働くプロセスが見えにくくなったことで、「何をもって評価されるのか」「自分の貢献は伝わっているのか」を以前より強く意識するようになりました。評価基準や期待役割が曖昧な組織ほど、不信感が高まりやすい傾向があります。
3つ目は、会社との関係性を捉え直す動きです。常時出社が当たり前だった頃には考えなかった、「この会社で働く意味」「仕事を人生の中でどう位置づけるか」を、キャリアや生活全体の視点から考える人が増えています。
このように働く個人の意識が大きく変化した今、企業側のマネジメントや組織運営のあり方も、同じ前提のままでは成り立たなくなっています。
テレワークが企業にもたらした前進と、見過ごせない課題
Q.組織運営・マネジメントの観点で、テレワークが企業にもたらした「良い変化」は何でしょうか。
テレワークの良い点は個人視点で語られることが多いですが、企業・組織運営においても前向きな変化がありました。大きく三つあります。
1つ目は、従業員一人ひとりの役割や成果の言語化が進んだことです。
対面中心の日本型マネジメントでは、属人的な仕事や暗黙知に頼る場面も少なくありませんでしたが、テレワークではそれが通用しません。目標や役割、進捗を言葉で明確にし、仕組みとして運用することが当たり前になりました。これにより、業務の属人化が抑えられ、評価やマネジメントの前提を組織としてそろえやすくなったと言えます。
2つ目は、マネジャーの役割意識の変化です。
対面では「管理する」ことで機能していた場面も、テレワークでは部下の自律を支える関わりが求められます。方向性を示し、障害を取り除くといった行動の重要性が高まり、マネジャーが本質的なマネジメント力を高めるきっかけになったと感じています。
3つ目は、人材活用の幅が広がったことです。
場所にとらわれず働けることで、育児や介護などの制約を抱える人も働き続けやすくなりました。特に人手不足に悩む企業や地方企業にとって、地理的制約を超えて人材を活用できるようになった点は、大きな前進だったと思います。
Q.逆にテレワークがもたらした「課題」は何かありますか。
テレワークによって生まれた課題というよりは、これまで対面で何となく回っていた組織の弱点が、はっきり表に出てきたという捉え方のほうが近いと思います。大きく4つ挙げます。
1つ目は、マネジメントの負荷と質のばらつきです。
テレワークでは、マネジャーが意図的に関与しなければ部下の状態が見えにくくなります。その結果、関わり方や力量の差が、チームの体験や成果に以前より明確に表れやすくなりました。
2つ目は、評価の公平感をめぐる問題です。
成果が数値化しにくい業務やプロセス重視の仕事ほど、テレワーク環境では評価が難しくなります。「頑張っているのに伝わらない」「出社している人のほうが評価されている気がする」といった不満は、評価基準や期待役割が曖昧なほど起こりやすくなります。
3つ目は、組織文化や関係性の希薄化です。
偶発的な会話や、周囲を見て学ぶ機会が減り、特に若手や中途入社など組織経験が浅い人ほど、馴染みにくさを感じやすくなっています。文化や価値観は、意識的に設計しなければ伝わらなくなっています。
4つ目は、自律的に働くことへの適応格差です。
テレワークは裁量を広げる一方で、自己管理力や自ら発信する力を強く求めます。十分な支援がない場合、評価されにくさや孤立感から、パフォーマンス低下やメンタル不調につながるリスクもあり、誰にとっても万能な働き方ではないことが見えてきました。
Q.挙げていただいたような課題に危機感を感じてか、最近は日本企業にもかなり「出社回帰」の動きが見えています。岩佐さんは、この現象をどう捉えていますか。
出社回帰は、テレワークが失敗だったから起きているわけではないと思います。むしろ、ハイブリッドワークをより良く機能させるための調整フェーズだと考えています。
テレワークが定着した今、企業は「どの仕事・どの場面では対面が有効なのか」という問いに直面しています。新人育成や関係性構築など、意図的に対面を増やす判断は、その答えを探る動きと言えるでしょう。
一方で、理由や期待を説明しないまま一律に出社を求めることには注意が必要です。「管理しやすいから」「なんとなく不安だから」という理由での出社回帰は、従業員に不信感を与え、エンゲージメントや採用競争力の低下につながるリスクがあります。テレワークが定着したにも関わらずまた出社を求めるのであれば、なぜ対面が必要なのか、何を期待しているのかを丁寧に伝えることが不可欠です。
働き方は手段にすぎない——「働きがい」との関係をどう捉えるか
Q. ここまでのお話から、テレワークには良い点も課題もあり、多くの企業が最適解を模索していることが見えてきました。最適解にたどり着くためのヒントをもらえますか。
テレワークが良いか悪いかというのではなく、ぜひ従業員の「働きがい」という大きな枠の中で、働き方のことも考えてみていただきたいです。
私たちGreat Place To Work(R)では、働きがいは「働きやすさ」と「やりがい」の両立によって成立すると考えています。

テレワーク、ハイブリッドワークといった「働き方」もこの「働きやすさ」に関係する重要な要素であり、ここの問題を放置してしまうと働きがいが下がりやすいのは事実です。
しかし、働きやすさが高まれば、それだけで働きがいが高まるわけではないということもあわせて強調しておきたいところです。いくらテレワークで働きやすさを高めても、評価が曖昧だったり、貢献が正しく認識されなかったりすると、いわゆる「やりがい」の方が感じられず、働きがいにはつながりません。働き方はあくまで手段であり、その先にある「どう価値を発揮し、どんな関係性を築くか」が本質なのです。
そのためこのコラムシリーズを通しては、「出社かテレワークか」という二項対立ではなく、自社の戦略・文化・人材にとって最適な働き方をどう設計していくべきかを、データと現場の視点からお伝えしていきたいと思っています。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回の記事では、「ハイブリッドで成果を出している企業の共通点」を掘り下げます。
同じようにテレワークやハイブリッドを導入していても、成果や働きがいに差が生まれるのはなぜなのか。“うまくいっている企業のパターン”から、そのヒントを探ります。お楽しみに!
Great Place To Work(R) Institute Japan コンサルタント 岩佐 真裕子
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大手企業を中心に各社の調査実施のサポート、分析、経営層への提言や働きがい向上支援を行う。さらに、調査データの分析研究やグローバルでの調査プロジェクト対応などにも幅広く携わっている。

