人に投資しV字回復、ベスト100&シニア部門で働きがいNO.1 DHLジャパンの事例

更新日 2025.10.212025.10.21インタビュー

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People Firstが最強のビジネス戦略
シニアも若手も輝く「働きがいNo.1」の職場

DHLジャパン株式会社 代表取締役社長 トニー カーン 様

DHLジャパン株式会社は「Respect & Result」「People First」を理念に掲げ、国際エクスプレスのリーディングカンパニーとして世界220以上の国・地域を結んでいます。2025年には「働きがいのある会社」ランキングベスト100とシニアランキング双方で1位を獲得。その背景にある人材への投資や長期定着を重視する経営姿勢について、代表取締役社長 トニー カーン様に率直に語っていただきました。

<記事のポイント>
✓多額の赤字から、人への投資によりわずか2年で業績回復を実現
✓働きがいのある会社ランキングに選出されたことで「People First Strategy」の成果を証明
✓年齢を問わず働ける環境と実力主義の両立で、全世代が活躍する職場を構築


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DHL創業の原点とカスタマーファースト

GPTW 事業概要と特徴を教えてください。

カーン様 私たちDHLは1969年、アメリカで3人の若者が「どうすれば新鮮な食材を迅速に届けられるか」という思いから始めた会社です。当時は船で時間をかけて運ぶしかなかった時代に、「飛行機で事前に船積み書類を運んでおけば、もっと早く届けられる」というシンプルな発想で事業が立ち上がりました。そこには、最初から「お客様のために」というカスタマーファーストの思想が組み込まれていたのです。

日本には1972年に進出し、以降アジア各地へと拠点を拡大。オンボードクーリエ(配達人)が荷物を抱えて飛行機に乗り、現地で直接配達する仕組みでした。このように人の力が不可欠だったからこそ、「従業員がやる気を持っているか」が最重要であり、働きがいそのものが企業成長の基盤だったのです。

リーマンショック後の苦境から「People First Strategy」でV字回復

GPTW 御社がなぜ「働きがい」を重要視しているのか教えてください。

カーン様 象徴的なエピソードを一つ紹介します。2009年、リーマンショックの際に私たちは大きな赤字を抱えていました。多くの企業がリストラやM&Aで立て直しを図るなか、私たちはまったく違う選択をしました。「人に投資する」ことです。

interview_251014_01.JPGDHLが2010年に掲げた「“People First” Strategy(ピープルファーストストラテジー)」は、「従業員が幸せなら、最高のサービスを提供できる。最高のサービスがあればお客様がリピートし、結果として利益が生まれ、その利益を再び人に投資できる」というシンプルな循環を明確に示しました。

このときからあるDHLの代表的な施策として「CIS(※)パスポート」があります。これは全従業員が携帯するパスポート風の冊子で、CISと呼ばれる一連の社員トレーニングの進捗などを記録しています。このトレーニングを通じ、業務スキルだけでなくリスペクトやカルチャーといったDHLの価値観を学び続けます。業績に関わらず、人への投資を惜しまない――そんなDHLの「“People First” Strategy 」の姿勢が色濃く表れている施策です。

その結果、わずか2年で赤字から黒字にV字回復を果たしたのです。大規模なリストラや合併ではなく、人に焦点を当てた戦略で再生できたことは私たちの誇りであり、「働きがい」を重要視する理由とも言えます。

※CISとはCertified International Specialistの略

Respect & Result──DHLカルチャーとして根付く価値観

GPTW 働きがいのある職場づくりをどのように実現していますか。

カーン様 私たちがグローバルで共有する目標は「Making a Great Company Better」。その実現に欠かせないキーワードが「Respect & Result」です。国やカルチャーが違っても、リスペクトは共通の価値観。リスペクトを与えれば返ってくるし、それが結果につながる。この信念を日本でも徹底しています。

特に日本は少子高齢化が進み、人材確保が課題です。だからこそ、年齢に関わらず働き続けられる仕組みを整えてきました。私自身、「健康で、Positiveなマインドセットがあれば75歳まで働きたい」と明言しています。実際に68歳、69歳でも現役で活躍している従業員がいます。

年齢や肩書きではなく、やる気と実力を尊重する一方で、長年の経験と貢献も適切に評価しています。たとえば、私たちは五年ごとに勤続年数に応じて表彰を行っています。これは単なる年功序列ではなく、継続的な貢献への感謝の表れです。年末や新年の全体集会では、長年貢献した従業員をみんなの前で称える。35年、40年の表彰が重なるたびに、若手従業員も「自分もここでキャリアを重ねたい」と感じるようになります。

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シニアランキングの1位はDHLジャパンの新たな誇り

GPTW 「働きがいのある会社」調査の結果についてはどうお感じですか。

カーン様 働きがいのある会社ランキングベスト100の1位と、シニアランキング1位をいただけたのは大変嬉しいことです。「働きがいのある会社である」とアピールできることは、社内外に大きな影響をもたらします。社内では従業員の誇りとなり、家族から「うちの子は最高の会社で働いている」と手紙をいただくこともあります。社外に対しては、名刺や提案書にロゴを掲げるだけで信頼が高まり、採用活動や営業活動にも効果を発揮します。

ある日、私が通っているジムで「Have a great day(素晴らしい一日をお過ごしください。)」と声をかけられたとき、思わず「I really have a great day because I work for the number one Great Place To Work company(私は本当に素晴らしい一日を過ごしています。なぜなら、私は「Great Place To Work」第1位の会社で働いているからです。)」と返しました。心からそう言えることが、私自身の誇りでもあります。

DHL for ALL──誰にでも開かれたチャンス

interview_251014_02.jpgGPTW 2つのランキング1位を獲得した最も大きな理由は何ですか。

カーン様 DHLには年齢に基づく制限がなく、社内公募システムを使って別ポジションに応募する際も年齢を記入する必要はありません。20代でも60代でも、やる気と実力があればチャンスは平等に与えられます

長年の経験は一朝一夕に得られるものではありません。だからこそシニア従業員の知見を次世代に還元してもらうことは大きな価値ですし、若手にとっても「将来の自分の姿」が見える安心感になります。実際に若手従業員からも「シニアが元気に働いている姿を見ると、自分も長くキャリアを築けると感じる」という声が上がっています。

DHLには「DHL for Women」「DHL for Young」といった特定層を対象にした枠組みは存在しません。あるのは「DHL for ALL」。すべての人に機会があるという考え方です。

たとえば、入社3年目でマネージャーに昇格する従業員や、海外のポジションに抜擢された従業員もいれば、40年勤続し今も現場で尊敬を集めるシニア従業員もいます。どちらも等しく称賛され、リスペクトされる。だからこそ、ベスト100でもシニアランキングでも、同時に高いスコアを示すのだと思います。

内部昇格と公平性、ワークライフバランスの挑戦

GPTW ほかにも働きがいを高めるために重要な取り組みがあれば教えてください。

カーン様 私たちはマネージャー職をほぼ100%内部昇格でまかなっています。外部から上司が突然やってくるのではなく、自分たちの仲間が努力して昇進する。だからこそ「自分もやれば上に行ける」という納得感とモチベーションが生まれるのです。

また、公平性の象徴として、全世界の従業員に同額の特別ボーナスを支給しています。国や物価水準に関係なく同じ額を手渡しする。これは単なるお金以上に「会社は公平だ」という強いメッセージになります。

interview_251014_03.JPGGPTW 運送業界のワークライフバランスの課題にはどのように向き合っていますか。

カーン様 日本のドライバー業界は2024年問題(※)などで残業削減が課題となっていますが、DHLは大きくは困っていません。DHLでは以前から平均残業時間を30時間以内に抑えてきました。有給休暇の取得も役員から率先して行い、「上が帰らないと下が帰れない」という日本的な慣習を捨てています。フレックス勤務や時短勤務も導入し、マネージャーでも利用可能。「責任ある立場になったら柔軟な働き方はできない」という固定観念を壊し、誰もがキャリアと生活を両立できるようにしています。

※2024年問題とは、ドライバーの労働時間が制限されることにより、物流の遅れやコストの増加などが懸念されている問題のこと

働きがいはリスペクトを土台としたカルチャーの上に成り立つ

GPTW 最後に、これから「働きがいのある会社」を目指す企業にメッセージをお願いします。

カーン様 繰り返しになりますが、働きがいは一朝一夕に作れるものではありません。人に投資し、リスペクトを土台にしたカルチャーを積み重ねていくことが不可欠です。「Respect & Result」この両輪が揃って初めて持続可能な成長につながります。

リーダー自身が現場を経験し、従業員と同じ目線で語れることも大切です。私も現場からキャリアを積み、55歳で社長になりました。だからこそ「年齢や肩書きではなく、健康とPositiveなマインドセットがあれば誰でも活躍できる」と心から言えるのです。

DHLは「for ALL」の会社です。若手もシニアも女性も男性も、全員に平等にチャンスがある。そのカルチャーこそが、長期定着と成長を同時に実現する道だと確信しています。

DHLジャパン株式会社 代表取締役社長 トニー カーン 様

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1965年パキスタン生まれ。カラチ大学で経済学を専攻し、英語・日本語・中国語を操る国際派リーダーである。35年におよぶ業界経験をもつ。DHLでのキャリアは、グローバルハブの一つである香港セントラルアジアハブ拡張計画の主導、日本でも10年以上にわたり成田・関西に加え中部国際空港ゲートウェイを開設し、3ゲートウェイ体制を確立した。2011年の東日本大震災では従業員の安全確保とサービス継続を指揮し、高い評価を得ている。

DHLジャパン株式会社

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国際エクスプレス事業を担うグローバル物流企業として1972年に日本でサービスを開始。世界220以上の国・地域に広がるネットワークを活用し、日本から世界へ、そして世界から日本へ安心、確実で迅速な輸送サービスを提供。本社を東京都品川区に構え、全国にサービスセンターやゲートウェイを展開。約1,700名の従業員が一丸となり、日夜オペレーションを支えている。国際輸送に加え、医療・ライフサイエンス分野やハイテク製品など、専門性の高い貨物に対応するソリューションも提供し、日本企業のグローバル展開や日常生活を幅広く支援している。

本内容は2025年9月時点の情報です。

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