<調査レポート>「静かな退職」の職場への影響、「静かな退職」実践者の4割は自覚せず
更新日 2025.03.052025.03.04レポート

働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place To Work® Institute Japan(本社:東京都港区、代表取締役社長:荒川陽子、以下GPTW Japan)は、 2024年12月、企業に勤める20~59歳の男女13,824名を対象に、静かな退職に関する調査を実施しました。
静かな退職とは、仕事に全力投球するのを止め、必要最低限の業務をこなす働き方のことで、退職・転職するつもりはないが、積極的に仕事に意義を見出さない状態を指します。アメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリーが2022年にこの言葉(英語:Quiet Quitting)を説明する動画(※1)を公開したことをきっかけにこの言葉が広まり、現在では若手中心の働き方トレンドとして日本でも認知されつつあります。
労働人口の減少や働き方改革に伴い、生産性向上への意識が高まっている中、静かな退職という働き方は企業にとって逆風となってしまう可能性があります。そこで、静かな退職の実態を明らかにすべく、GPTW Japanでは約1年前に静かな退職に関する調査を実施しました(※2)。その結果、静かな退職を実施している人のうち、働き始めてから静かな退職を選択するようになった人が71.0%にも上り、静かな退職を選択する多くのきっかけは入社後に発生していることが分かりました。また、静かな退職を実施している人の約4割は、「勤め先の環境で変化があっても働き方は変わらない」と回答しており、静かな退職を選択した後に企業側がその選択を覆そうと働きかけても、効果は小さく手遅れ状態であることが分かりました。
この調査により従業員が静かな退職を選択するきっかけや企業の対策を打つべきタイミングは明らかになった一方で、静かな退職が職場に及ぼす影響については未だ不明な点が多く存在します。そこで、今後静かな退職を実践する人が増えた場合に組織の「働きがい」にはどのような影響を与えるのかについて、インターネット調査を行いましたので、以下にご報告いたします。
「静かな退職に関する調査2025年」データサマリー
・2024年1月から12月にかけて静かな退職は増加している。
・静かな退職の認知度は約3割。静かな退職を知る経営・役員は、一般従業員や管理職に比べて少ない。
・部下を持つ管理職の77.9%は「静かな退職」実践者もそうでない部下も、公平にマネジメントしようと努める。
・「静かな退職」実践者の3割以上は収入やスキル面での不安を抱えているが、職場での孤立は不安としている割合はわずか5.4%。
・「静かな退職」実践者の4割以上が職場への影響はないと思っている。
・「静かな退職」実践者より上司層のほうが、職場への影響があると感じている。「静かな退職」実践者は自身の影響を客観的な視点から把握できていない可能性が示唆される。
・少数の「静かな退職」がきっかけとなり、「現在静かな退職をしていない人」や「今後より活躍を期待する中間管理職」にもさまざまな影響を及ぼす可能性がある。
調査結果
1.静かな退職を実践する人は増えている
回答者の年齢構成比を昨年調査と揃えて集計したところ、「静かな退職」実践者は微増していたことが分かった(2.4%→2.8%)。年齢別に見ると、「静かな退職」実践者の割合は25歳~29歳、35歳以上の年代で増えており、ほぼすべての年代で増えていることが分かった。現時点での実践者の割合は低いが、今後更に実践者が増えていく可能性が示唆される。
2.静かな退職を知る経営・役員は、一般従業員や管理職に比べて少ない
続いて、静かな退職の認知度を調査した。その結果、静かな退職を「見た、聞いたことはある」と答えた人は全体で約3割であった。若手の働き方トレンドとしての報道が多いからか、20代は静かな退職を知っている人が比較的多い。
職位ごとの認知度を見たところ、今回調査の対象となった経営・役員、部下を持つ管理職、一般従業員の3つの職位の中で、経営・役員間の認知度が相対的に低いことが分かった。現場の従業員、管理職まで「静かな退職」の認識が進む中で、経営・役員の認識が追い付いていない様子が伺える。
3.管理職は「静かな退職」実践者もそうでない部下も、公平にマネジメントしようと努める傾向がある
次に、静かな退職を知っており部下がいると答えた管理職に対して、静かな退職を実践している部下と仕事への意欲や熱意を持つ部下がいた場合、上司として対応が変わるかを聞いた。その結果、「静かな退職」実践者のマネジメントに、仕事への意欲や熱意を持つ部下と同等かそれ以上の時間をかけると回答した管理職は77.9%に上った。管理職は「静かな退職」という働き方を知ってなお、公平にマネジメントしようと努める傾向があると言える。
4.「静かな退職」実践者は職場での孤立を厭わない
さらに、「静かな退職」実践者に対して、将来に不安を感じることがあるか聞いたところ、「収入が増えないかもしれない」(41.2%)、「仕事のスキルが上がらないかもしれない」(33.0%)が上位に並んだ。一方で、「職場で孤立してしまうかもしれない」は5.4%に留まり、「静かな退職」実践者は収入やスキル面での不安を抱えているが、職場での孤立は不安としていないことが明らかになった。
また、職場への影響を聞いたところ、4割以上が職場への影響はないと思っている。
5.「静かな退職」実践者が思っている以上に、上司層は職場への影響があると感じている
最後に、上司層(経営・役員、部下あり管理職)に対して静かな退職の職場への影響を聞き、「静かな退職」実践者の回答と比較した。その結果、「静かな退職」実践者の4割以上が職場への影響はないと回答していた一方で、上司層で同じように回答した人は11.9%に留まった。「静かな退職」実践者より上司層のほうが、職場への影響があると感じていることが分かった。
上司層は「周囲から期待されなくなる」「仕事量の方よりによる不満が募る」「連帯感が低下する」等を主な影響として捉えているようだが、「静かな退職」実践者はいずれも影響として見なしている割合が少ない。特に、「職場への不満」「連帯感の低下」は上司層と「静かな退職」実践者とで20pt以上の差がある。「静かな退職」実践者は自身の影響を客観的な視点から把握できていない可能性が示唆される。
GPTW Japan代表 荒川陽子によるコメント
昨今、人的資本開示などの影響により、人材を資源ではなく資本として捉え、その価値を最大化する動きが広がっています。一方で「静かな退職」は退職・転職するつもりはないが、積極的に仕事に意義を見出さない状態を指すため、会社がいくらパフォーマンスの最大化を期待しても、それには呼応しない層であると言えます。本調査により「静かな退職」実践者が増えていること、またその認知度も3割程度と高いことが分かり、今後さらにこの働き方が増えていく可能性を感じる結果となりました。私自身、昨年から静かな退職について取材をお受けする機会が大幅に増え、静かな退職に対する注目度の高まりを身をもって体感しています。
前回の調査で、静かな退職に至った人のきっかけの多くが入社後であったことが分かりました。特に、入社時には希望に満ち溢れていた若手が、入社後の会社と個人の関係性の中で静かな退職という働き方を選んでしまっている事実には、危機感を感じています。企業は静かな退職を単なる若手の価値観の多様化と見過ごすのではなく、対策を打つことが求められています。
では静かな退職を放置した場合、職場にどのような影響をもたらすのか。今回の調査から「静かな退職」実践者は職場内での孤立も厭わず、「自分は自分」という姿勢であることが分かりました。GPTWでは長年の研究から「働きがいのある会社」を作るには、従業員とリーダーの信頼を構成する「信用」・「尊重」・「公正」、従業員と仕事の関係性を表す「誇り」、従業員とチームの関係性を表す「連帯感」の5つの要素が重要と提唱してきました。静かな退職はこの中でも特に「連帯感」に悪影響を及ぼすことが見て取れる結果となっています。つまり、「静かな退職」実践者の増加は職場の「働きがい」低下を招くことが示唆されます。
また、「静かな退職」実践者は管理職にとって、マネジメントの負担を高める要因となることが考えられます。今回の調査から「静かな退職」実践者と上司層の間には、仕事をする上で一人ひとりが職場に与える影響について、価値観や考えの違いがあることが見えてきました。静かな退職を実践している人に、働き方を見直して積極的に仕事に意義を見出してもらうためには、中間管理職が一人ひとりに期待をかけ、プライベートとの両立が実現できるキャリアの道筋を共に描いていくなど、きめ細かなマネジメントが求められます。一方、中間管理職の権限では解決できない異動配置や評価基準の見直しが必要な場合もあります。対処を現場任せにすると中間管理職の負荷ばかりが積み上がる危険性があります。
少数の「静かな退職」がきっかけとなり、「現在静かな退職をしていない人」や「今後活躍を期待する中間管理職」にも悪影響を及ぼす……このような負の連鎖を生まないためにも、まずは経営者が「静かな退職」への感度を高めることが重要です。離職率では測れない「静かな退職」の予備軍や実践者を見極める手法を複数持ち、働きやすさとやりがいを両立させた、働きがいのある会社を作るべく、率先して手を打っていただきたいと思います。
調査概要
Great Place To Work® Instituteについて
Great Place To Work® Institute は、約150ヶ国で年間10,000社以上の働きがい(エンゲージメント)を調査し、一定水準に達した企業を「働きがいのある会社」認定・ランキングとして各国の有力メディアで発表している世界的な調査機関です。30年間のデータに裏付けされた方法論を用いて評価を行う認定・ランキング制度は、企業における採用ブランディングやIR・人的資本開示の目的で広く活用されています。日本においては、株式会社働きがいのある会社研究所がGreat Place To Work® Institute よりライセンスを受け、Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)を運営しています。
出典・補足
※1 Bryan Creely. “TikTok”. 2022-3-5. https://www.tiktok.com/@alifeafterlayoff/video/7071415799247949099, (参照2024-2-13)
※2 Great Place To Work® Institute Japan. 静かな退職に関する調査2024年. https://kyodonewsprwire.jp/press/release/202402206803
※3 読みやすさ向上のため調査の選択肢は要約しています。実際の選択肢は以下のとおりです。
「私は、この会社で長く働きたいと思う」に「当てはまる」と回答し、「私は仕事を達成するための努力を惜しまない」に「当てはまらない」と回答した方にお聞きします。このような働き方をすることによって、職場内でどのような影響があると思いますか。(いくつでも)
1 必要最低限のコミュニケーションしかとらないため、職場の連帯感が低下する
2 職場内の仕事量が平等ではなくなり、職場内の不満が募る
3 期待をかけられても必要最低限の仕事しかこなさないため、周囲から期待されなくなる
4 この働き方への共感が生まれ、職場内で同じような働き方をする人が増える
5 その他
6 職場への影響はない
部下に「静かな退職」を実践している人がいると、職場内でどのような影響があると思いますか。(いくつでも)※静かな退職とは、仕事への意欲や熱意を持たず、必要最低限の仕事のみをこなす働き方のことを指します。
1 「静かな退職」をしている人は必要最低限のコミュニケーションしかとらないため、職場の連帯感が低下する
2 職場内の仕事量が平等ではなくなり、職場内の不満が募る
3 「静かな退職」をしている人に期待をかけても必要最低限の仕事しかこなさないため、周囲から期待されなくなる
4 この働き方への共感が生まれ、職場内で同じような働き方をする人が増える
5 その他
6 職場への影響はない
クレジット: Great Place To Work® Institute Japan調べ
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