「働きがい」を実装する経営のリアル 小規模・中規模・大規模、それぞれの最適解
更新日 2026.03.182026.03.18レポート
「働きがいのある会社」として評価される企業は、何が違うのか――。
Great Place To Work® Institute Japanは毎年、従業員への匿名アンケートと企業文化の詳細分析を通じて、「働きがい」の構成要素である「働きやすさ」と「やりがい」の両面から会社を評価しています。毎年600社以上がエントリーする中、ベスト100に選ばれた企業は、離職率の低さ、生産性の高さ、採用力の高さなど、数値面でも明確な成果を上げています。その積み重ねが、冒頭の問いへのヒントを与えてくれます。
2026年版「働きがいのある会社」ランキング発表に際して開催された記者発表会では、各部門で第1位に輝いた3社の経営者が登壇しました。小規模部門のイベント21、中規模部門のナハト、大規模部門のディスコが、それぞれの働きがいに対する考え方と具体的な取り組みを語った講演内容を、本記事では網羅的にお届けします。人手不足時代に求められる組織づくりのヒントが、ここにあります。
●2026年版「働きがいのある会社」ランキング選出企業一覧はこちら
https://hatarakigai.info/ranking/japan/2026.html
※本記事は2026年版「働きがいのある会社」ランキング記者発表会の抄録です。
>>>「働きがいのある会社ランキング」について詳しい情報を見る
目次
【小規模部門1位】株式会社イベント21 中野愛一郎 様
働きがいは「仲間・社会・未来」へと広がっていく
中野様:イベント21は、グループ5社で約205名、平均年齢は26.2歳という若い会社です。イベント業界というと体力勝負で男性中心のイメージを持たれがちですが、うちは女性役職者比率が62.5%、障害者雇用率も7.9%と、多様な個性が前提として活躍しています。私たちは自分たちを「カルチャーカンパニー」だと自負していて、オリジナルの個性を大切にしながら事業を進めてきました。
私たちが社内で共有しているのが、「働きがい4.5フェーズ」という考え方です。自分のため、お客様のために働くのはもちろん大事。でも、それだけでは高い次元の働きがいには届かないと思っています。仲間のために後輩の成長を喜ぶこと、先輩の期待に応えたいと思うこと。さらに地域社会のため、自分が感じている社会課題を解決するために会社をもっと影響力のある存在にしていく。そして最終的には、自分がいなくなったあと、100年後の未来の子どもたちのために何を残すのか。そこまで考えて働ける人は、本当に深い働きがいを感じられると感じています。
だからイベント21における人財育成の目的は、「理念実現の主体者を増やすこと」です。分かりやすく言えば、世の中をより良くする人を育てること。そのためには、会社の中だけで完結してはいけないと思っています。
本質的なコミュニケーションが、成果につながる
中野様:人としての視座を高めるために、私たちは地域貢献を人財育成と強く結びつけています。社員が毎月支援先を選ぶyou happy, we happy!支援制度では、これまで160団体以上と関わってきました。ただ寄付をするのではなく、実際に社員が現地に行き、代表の思いを聞き、イベントに招待して活動を広める。そうした体験を通じて、「この社会を本気で良くしたい」という感情が育っていきます。児童養護施設への定期訪問も同じです。実際に子どもたちと話すことで、「幸せになってほしい」という思いが、行動に変わっていく。その積み重ねが人を育てると感じています。
もう一つ大切にしているのが、コミュニケーションです。当社は年間26回の合宿を行っています。これは親睦目的ではありません。ビジョンと、社会や会社から求められるミッションを重ね合わせるための、本質的なコミュニケーションの場です。こうした取り組みの結果、売上は21億円から25.2億円へ成長し、離職率は過去最小の5.3%、人時生産性も過去最高を記録しました。人間が本来持っている「誰かに貢献したい」「ありがとうと言われたい」「成長したい」という力を引き出し、それをみんなで良い未来へと向かって使っていく。それがイベント21という会社です。

【中規模部門1位】株式会社ナハト 安達友基 様
ミッションは「日本のマーケティング力を底上げする」
安達様:当社はSNSマーケティングとインフルエンサーマーケティングを主軸に事業を展開しています。最近ではD2C事業や新規事業にも取り組み、マーケティングという力を使って事業領域を広げてきました。
ミッションは「日本のマーケティング力を底上げする」ことです。私が子どもの頃、日本製の掃除機は品質が高いことが周知の事実でした。でも気づいたら、家にあるのはダイソン。製品の質だけでなく、マーケティングの力も影響して市場が塗り替えられていく現実を目の当たりにしました。質の高い日本の製品やサービスが、マーケティングの差で選ばれなくなることに危機感を抱き、その状況を変えたいという思いが、このミッションの原点です。
主体性と裁量を守るための組織設計
安達様:2022年から2024年にかけて、人員や新規事業にかなり分厚く投資してきました。短期的に見ればコストは増えますが、将来の成長に必要な投資だと考えていました。その結果が、2025年度の売上前年比200%超え(2025年2月時点の予測)という数字に表れていると思っています。
現場の仕事としても、クライアントへのマーケティング支援だけでなく、自社事業にも関われる環境をつくっています。外注として関わるだけではなく、当事者として事業を育てる経験ができる。だからキャリア的にも飽きることがなく、自分の実力を最大限に使える会社になっていると思います。
組織設計で特に意識しているのが、主体性と裁量です。30名以上の部署はつくらないというユニット制を導入しているのも、そのため。人数が増えすぎると、どうしても意思決定が遅くなり、「自分が動かなくても誰かがやる」という空気が生まれてしまう。それを防ぎたいと思っています。
1on1についても同じ考え方です。上下関係の中で評価や指導をする場ではなく、「仲間として話す場」にしたかった。だから名称も「We Talk」にしました。対話を通じて、お互いの考えや違和感を早い段階で共有することを大切にしています。
人事は管理ではなく、経営機能
安達様:日々PLやBSはしっかり追っていますが、それだけでは組織はうまく回らないと感じています。チームの仲の良さ、思ったことをすぐ言える関係性、安心して挑戦できる空気。こうした数値に表れにくい要素を、当社は「見えないBS」と呼んでいます。その見えないBSを積み上げるために、イベントや食事の場にあえて投資してきました。効率だけを考えれば削れる部分かもしれませんが、ここを削ると組織は確実に弱くなると考えています。
人事の位置づけも同じ思想です。約450名に対して人事部門が35名いる会社は多くありませんが、当社は人事を管理部門ではなく、明確に経営機能と位置づけています。特に象徴的なのが、「社員の人生の幸福」をKGIとして置くハピネス部の存在です。エンゲージメントスコアにも直接は紐づかない、会社の雰囲気や空気感を、あえて経営のゴールとして扱う。そこにナハトらしさがあると思っています。
2040年には3000名・2000億円規模を目指していますが、規模が大きくなっても、濃いカルチャーを薄めない。新しい時代のスタンダードになる会社を、本気で目指しています。
【大規模部門1位】株式会社ディスコ 関家一馬 様
頑張る人を、しらけさせない仕組み
関家様:ディスコが働きがいについてたどり着いた結論は、とてもシンプルです。「働きがいは、上げるものではない。壊さないものだ」。もともとモチベーションが高く、仕事に本気で向き合いたい人を採用する。そういう人たちは、入社時点ですでに働きがいを持っています。その働きがいを、組織の制度や運用で壊してしまわないこと。それを20年近く、愚直にやってきました。
頑張っている人がしらける理由は、ある程度決まっています。業績が良いのに報われない、不公平感がある、組織が見て見ぬふりをする。こうしたことが積み重なると、人は一気に冷めてしまいます。だからディスコでは、完全業績連動の賞与体系を採用しています。業績が上がれば賞与も上がるし、下がれば下がる。それは数式で決まっているので、「なぜこうなったのか」が誰にでも分かる。納得感があることが、しらけを防ぐ一番のポイントだと考えています。
働き方についても同じです。工場で働く直接部門の人たちは、出社しなければ仕事ができません。その一方で、間接部門だけがリモートで働いていると「なぜ自分たちだけが」という不公平感が生まれる。そうした状況は、頑張っている人を一気にしらけさせます。だから、間接部門に余裕があるなら、直接部門を支援する。役割の違いはあっても、「同じだけ頑張る」という感覚を大事にしています。
採用では0.02%の人たちに好かれれば十分
関家様:ディスコには、残業命令がありません。異動命令もありません。残業もありますが、それは命令されてやるものではなく、自分で選ぶものです。今日は結婚記念日です、子どもの誕生日です。そういう日は、堂々と定時で帰る。それを見て、周りが「なんで帰るんだ」と言うことはありません。お互い様だという前提があるからです。
異動についても同じです。「この部署で頑張りたい」「次は別の領域に挑戦したい」。本人と受け入れ側が合意すれば、異動は成立します。会社からの一方的な命令はありません。だからこそ、部署の責任者には「人が出ていかないようにする」のではなく、「ここで働き続けたいと思われる魅力を高めてほしい」と伝えています。
採用でも、万人受けは狙いません。残業ゼロ、リモート可といった条件を掲げれば、応募は増えるかもしれません。でも、それではもともと全力で仕事をしたい人たちがしらけてしまう。新卒市場が約100万人ある中で、ディスコが採用するのは200人前後。0.02%に好かれれば十分です。全力で働きたい人にだけ届くメッセージを出し、その人たちの働きがいを壊さない。それが、ディスコの一貫した考え方です。

まとめ:人手不足時代を乗り越える、働きがい経営の本質
ランキング1位を獲得した3社の取り組みには、規模や業態の違いを超えた明確な共通点があります。それは、経営者自身が働きがいを経営の重要項目として認識し、強くコミットしていることです。
イベント21の中野氏は「理念実現の主体者を増やすこと」を人財育成の目的と定義し、年間26回の合宿を通じて本質的なコミュニケーションを実践。ナハトの安達氏は人事部35名を「経営機能」と位置づけ、「見えないBS」に投資し続ける。ディスコの関家氏は「働きがいを壊さない」という明確な方針のもと、20年近く愚直に制度を磨き続けてきました。
いずれも、働きがいを人事部門だけの課題とせず、経営者が自ら旗を振り、組織全体に浸透させている点が特徴的です。その結果として、「リーダーへの信頼」を起点とした強固な組織文化が生まれ、高い定着率と生産性を実現しています。
人手不足への対処として、多くの企業が「新たな人材の獲得」に注力していますが、同時に"今、会社にいる従業員の働きがい"にも目を向けていくことが肝要です。既存の従業員が高い働きがいを感じ、成長し続けられる環境があれば、離職は減り、採用力も自然と高まります。働きがいは、人手不足への根本的な解決策につながるのです。
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<プロフィール>株式会社イベント21 代表取締役 中野愛一郎 様
<プロフィール>株式会社ナハト 代表取締役 安達友基 様
<プロフィール>株式会社ディスコ 代表執行役社長 関家一馬 様
1994年技術開発部長、2009年代表取締役社長、
2022年経営体制移行に伴い代表執行役社長に就任。



