イノベーション人材が集まる「世界一働きたい会社」をつくりたい
株式会社ワークスアプリケーションズ
代表取締役最高経営責任者 牧野 正幸 様
更新日 2022.04.262017.07.01
イノベーション人材が集まる「世界一働きたい会社」をつくりたい
株式会社ワークスアプリケーションズ
代表取締役最高経営責任者 牧野 正幸 様
2017年版の「働きがいのある会社」ランキング(Great Place to Work® Institute Japan)において、従業員数1000名以上部門1位に輝いた株式会社ワークスアプリケーションズ。世界中から優秀な人材を集めて、イノベーターを育てている同社CEOの牧野正幸氏に、その秘訣を伺いました。イノベーション人材が育たない、もしくは定着しないことに危機感を抱いている経営者、人事担当者必見のインタビューです。
「働きがいのある会社」ランキングのベストカンパニーに選ばれるのは今年で10年連続になります。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、私は「働きがいのある会社をつくろう」と考えたことはありません。そもそも「働きがい」というのは自らつくるもので、会社に与えられるべきではないからです。
「国があなたのために何をしてくれるのかではなく、あなたが国のために何ができるのかを問うてほしい」というのはジョン・F・ケネディの言葉ですが、まさにその通りだと思います。会社ができることは、個人が能力を開花させ、パフォーマンスを発揮できる環境を整えること。個人が自ら働きがいをつくり出せるように、火をつけることだと考えています。
だから、私は創業以来、「ワークスアプリケーションズは優秀な人材が成長できる会社」であるために、さまざまな策を講じて、文化の維持・定着を図ってきました。そのために、経営陣へのクレームも受け入れる業務報告書や、社内のコミュニケーション情報をレポーティングする経営陣直轄の「アドミンスタッフ」などを通じて収集する、現場のリアルな声を羅針盤として活用してきました。「働きがいのある会社」調査は、そこに第3者による客観的な指標を加えることで施策の効果を高めていきたいと考えて始めました。「働きがいのある会社」調査は、当社の経営戦略の方向性や効果を測るひとつの参考指標でもあります。
当社はさまざまな業界の大手企業とお付き合いがあります。代表の方に話を聞くと、ほとんどの企業が「イノベーション人材が育たない」という課題を抱えています。これまで日本はチームプレーを重視してきましたから、これは当然の結果と言えるかもしれません。
極端に言ってしまえば、イノベーションを起こすような人材は、チームプレーができないことが多い。日本はこれまでモノづくりをはじめとしたさまざまな産業で、地道な改善を重ねることで発展してきました。しかし、今の時代、改善をいくら重ねたとしても、それだけでは革新的な成長は見込めないでしょう。
改善はチームで取り組むものですが、イノベーションは優秀な個人が起こすものです。ところが、日本は小さい頃からチームプレーを重要視して育てるので、個人を引き上げる環境が少なく、突出した人材が育ちにくい傾向があります。私はここに危機感を抱いています。そのため、当社ではチームではなく個人の成長にコミットすることを公言しています。どんなに優秀な人材でも、チームプレーを強いられると「自分だけが突出してはいけない」という思考が生じます。その瞬間から、その人はノベーションを起こせなくなるのです。
「働きがいのある会社」の調査の評点が高い理由には、イノベーション人材が力を発揮する土壌だけでなく、採用のマッチング精度の高さも影響しています。頭の回転が速く、柔軟性を備えた優秀な人材の採用に設立当初から注力してきました。採用活動では、イノベーションを起こす優秀な人材を求めていると明確に打ち出しており、一切妥協しません。
たとえば、毎年1000人以上の学生を受け入れるインターンシップは、2002年から始めました。学生は「クリエイティブな仕事をしたい」「イノベーションを起こしたい」と口々に言いますが、毎日のようにイノベーションを求められることは、とても苦痛です。そのような苦痛の中でも、クリエイティビティを発揮し続けなければならないという環境を経験してもらい、働くということ、そしてイノベーションを起こす仕事というものがどんなものなのかを理解してもらう目的で実施しています。そのため、あえてかなり難しい課題を与え、約1カ月間かけて取り組ませます。また、選考過程では、当社がコミットするのは優秀な人材の成長である、ということを明確に示しています。その結果、自己成長したいと考える人が入社してくるからこそ、入社前後のギャップが少なく満足している社員が多いのです。
また、近年では、上海、シンガポールなど世界中から優秀な人材が集まるエリアに研究開発拠点をつくり、北京大学、清華大学、インド工科大学といった世界トップクラスの大学でコンピューターサイエンスを学び、優秀な成績を修めた学生を採用することに成功しています。「この会社に行けば面白い仕事ができる」という現地の評判も手伝い、Google、Facebook、アリババといった強力な採用競合があるなかでも、優位に採用活動を展開できています。来年度は、日本人よりもさらに外国人の採用数が2倍にも上回る見込みです。
新人研修の一環として、入社後の最初の数ヶ月、工場見学をさせたりするのは日本では一般的なことですが、海外の優秀な人材はこれに失望します。「俺はこんなことをしにきたんじゃない。早く先端研究につかせてくれ!」と。これは外国人採用における「あるある話」で、日本のキャリアの時間軸に彼らを合わせようとすると辞めてしまうことが多いのです。
当社がさまざまな取り組みの中でも重要視しているのは、「若手に最高難度の仕事を任せる文化」の醸成です。
入社後、社員はスターターミッションと呼ばれる突破型の研修で、答えのない課題と必死で向き合います。相談は禁止。メンターに質問しても何も教えてもらえません。短い人だと約3ヶ月、長い人だと6ヶ月ほどかけて卒業します。
実務に入ってからも、あえて「最高難度の課題」を新人に任せます。そこで飛び抜けた成果を出す新人もいますし、そうでない場合も様子を見ながら少しずつ難度を下げて成功体験を積ませます。新人に難しい課題を与えることで、当然、失敗もありますが、当社はそのような失敗を許容することが重要だと考えています。何も考えずに成功した人より、失敗してもそこに至るまでに深く考え抜いた人を評価します。
世界屈指の大学を上位の成績で卒業するような優秀な人材は、キャリアを通していかに自分の能力を高めるかという思考を明確に持っています。だから、彼らのスピード感に合わせて成長ステージを用意し、しっかりと評価することが重要なのです。たとえば、当社には中国の大学院を出て、入社後3年半で一般的な部長職と同等のポジションに昇進した社員がいます。これは、成長スピードの早い優秀な若手の能力を認め、適切なタイミングで評価できるように仕組みを整えた結果です。当社の評価では、半年に1度、能力が高ければ飛び級で昇進することができます。しかも評価は上司だけではなく、共に働く同僚からの評価が大きなウエイトを占め、この結果がほぼダイレクトに報酬や昇進に反映されます。そのため納得感が非常に高く、上司の評価を恐れて縮こまることもない点も重要です。
優秀な人材は、グローバルでの取り合いになるので、報酬もグローバルな基準で考える必要があります。私は日本から急成長するメガベンチャーがなかなか出てこない理由のひとつは、報酬の低さにあると思います。ベンチャーとして規模が小さいうちは、裁量が大きく働きがいがあるため優秀な人材が集まりますが、多くの企業はあるタイミングで成長が止まります。働きがいがなくなり、さらに報酬も低いとなると彼らは辞めてしまうでしょう。日本は40代くらいになると世界屈指の報酬をもらうようになりますが、20代ではまだまだそこに達していません。だから、当社ではここ3年間で平均報酬を約30%引き上げ、たとえば部長職では1,000万円台の年俸レンジになっています。
ここまでお話してきたように、当社は採用、評価、報酬などを改革し、個人の成長機会の最大化に取り組んできました。次のステージとして取り組むべきは、イノベーション人材をマネジメントできる人材を増やしていくことだと考えています。グローバル展開を加速し、従業員の国籍や働く場所など組織が多様化する中、リーダーシップを発揮しながら、イノベーション人材が成長できる環境を提供し続けられる能力を持った人材です。
そして、私はこうしたさまざまな取り組みを通じてワークスアプリケーションズを世界で最も「働きたい」と言われる会社にしたいと思っています。現在、当社のこれまでの主なマーケットは日本ですが、研究開発はすでにボーダレスにおこなっており、海外マーケットの開拓も加速しています。今後のさらなる事業成長を支えるため、より一層ダイバーシティを推進し、世界の優秀な人材が最大限に能力を発揮する、「世界一働きたい会社」をつくるつもりです。
※ 本内容は2017年7月時点の情報です。