徹底的なビジョン共有と目標の可視化で人を動かす
組織のボリュームゾーン、6割の心に火をつける組織のつくりかた
バリューマネジメント株式会社
代表取締役 他力野 淳 様
更新日 2024.10.312018.08.22
徹底的なビジョン共有と目標の可視化で人を動かす
組織のボリュームゾーン、6割の心に火をつける組織のつくりかた
バリューマネジメント株式会社
代表取締役 他力野 淳 様
2018年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング(Great Place to Work® Institute Japan、以下GPTW)中規模部門(従業員数100人以上、999人以下)で第2位をおさめたバリューマネジメント株式会社。税金や寄付金、ボランティアなどの力で維持されている歴史的な建物などを利活用し、収益化する事業を、日本国内とインドネシアで展開しています。施設再生のコンサルティングには、当然ながら「人の力」が欠かせません。同社ならではの組織づくりの考え方や「働きがい」を生み出す秘訣について、代表取締役の他力野 淳氏にうかがいました。
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
当社は「日本の文化を紡ぐ」をミッションに掲げ、歴史的な建造物の利活用を推進しています。例えば、大阪城にある西の丸庭園は、これまで年間何百万人という人が訪れていながら、税金を投入して維持管理することが精一杯で、マネタイズされていませんでした。私たちはそこをお借りして、ウェデングパーティーができる「大阪城西の丸庭園 大阪迎賓館」を運営しています。また、千葉県香取市の佐原地域で古民家を再生し、町全体を一つのホテルと見立てた「佐原商家町ホテル NIPPONIA」を立ち上げました。そこでは、地域の新たな魅力を掘り起こし、活性化させる仕組みづくりを支援しています。歴史的な建造物や街並みが、ただそこにあるだけで収益が上がるとしたら、私たちの力は必要とされません。人が介在することで、初めて新しい価値が生まれます。つまり、人が働く「組織」や「環境」へのコミットなしに、当社の事業の成長はありえないのです。
私は起業する前、リクルートと採用系のベンチャー企業で働き、理想の組織とはどのようなものか考えてきました。いつも頭の中にあったのは、2:6:2の法則とどう向き合うのか、ということです。優秀な2割はどんな組織でもコミットできるので、さほど気にかける必要はないと思います。残りの8割ですが、やはり2割くらいはモチベーションをあげることができない人がいるものです。では、一番のボリュームゾーンである6割をどうするか。この人たちは、会社のビジョンに共感し、自分の仕事に価値を感じてくれれば、前向きに頑張ることができると考えています。これが、私たちの組織活性の考え方の原点です。
日本における「働きがいのある会社」ランキング(GPTW)は、組織づくりのベンチマークとして活用しています。客観的な指標をもとに、健全な組織をつくることが狙いです。私たちが世の中に提供する価値は、10年後、あるいは15年後、変わっていくかもしれません。もし、自分たちのビジネスモデルに合わせて組織を作っていたら、ビジネスモデルが変わるたびに組織を壊さなくてはいけなくなります。そうではなく、将来的に会社が提供する価値が変わったとしても、成果を上げ続ける組織をつくりたいので、GPTW調査のような普遍的かつ客観的な指標が必要なのです。
「働きがい」というのは、会社の価値観と個人の価値観が組み合わさって生まれるものだと考えています。しかし、これはなかなか難しい問題で、誰にでもマッチする組織というものは存在しません。したがって、採用活動では、会社の目指す方向性や、価値観への共感を重視しています。
また、私たちのビジネスは、ビジネスパートナーはもちろんのこと、地域に暮らすご年配の方や、歴史に詳しい文化人など、本当にさまざまな人と関わります。多種多様な価値観を持つ人たちと交わりながら、プロジェクトをマネジメントしていける可能性を感じられるかどうかも、採用のポイントです。
そして、最も大切なのはグッドパーソンであることです。知識やスキルは後から身につけることができます。しかし、その人がそれまで育んできた人間性は、簡単には変えられないものです。素直で真面目で一生懸命頑張っている人は、それだけで信頼されるし、仲間として受け入れられやすいと思います。人柄は最高の素質なのです。
採用活動は会社が人を選ぶ場であると同時に、人が会社を選ぶ場であると考えています。採用選考に応募してくださった人たちは、バリューマネジメントに身を投じようとしているわけで、ある意味、顧客よりも自分たちの会社に対するエンゲージメントが高いです。だからこそ当社は、面接や説明会を絶好のプレゼンテーションの機会ととらえ、まだ当社の魅力に気付いていない人を振り返らせるために真剣勝負をしています。このように、採用プロセスから入社に至るまで、当社が何を目指しているのか、どんな魅力があるのかなどのメッセージを伝え続けているため、入社後に理想と現実のギャップを感じて、モチベーションを低下させる社員はほとんどいません。
会社のカルチャーを理解し、最低限のスキルを養ってから配属できるように、導入研修にも力を入れています。接客などの一般的に可視化しにくいスキルに関しても、明確な基準を持っており、テストに合格しなければ電話に出ることすらできません。たとえ経験豊富な中途社員のメンバーであっても、です。現場でデビューしてからも、全ての業務のプロセスを可視化して、一つ一つチェックして点数をつけます。その点数に基づき「次の3か月はここを改善していこう」と振り返るのです。こんなふうに、小さな階段を着実に上ることで、人は成長していくのだと信じています。
教育の対象は自社の社員だけではなくパートナーも含みます。いくら自社のパワーが強くても、パートナーのパフォーマンスが低かったら、価値を提供できません。ときにはパートナーのスタッフの教育を行ったり、働きやすい仕組みをつくったりなど、かなり深く入り込んで、密接な関係を築いています。
日々の仕事では、各自が数値化された目標の達成を目指しています。耳障りのいい言葉が躍っているような目標があったとしても、そこにリアリティが感じられなければ人は動かないものです。だからこそ、KPIを明確にし、そのKPIを設定した意図、達成するためのアクションプランまで、可視化することが重要だと考えています。やるべきことや貢献したことが、目に見えるか見えないか、という問題は働きがいに直結します。そうした前提がある上で、会社の目標とその背景を振り返り、心の火をつけるために、毎月1回、大阪の本社で丸一日かけてキックオフミーティングを開催しています。全国から社員が集まるのはもちろん、3カ月に1回はインドネシア支店の社員も参加しています。現在、会社が抱えている課題を知ってもらい、それを解決するためにどうしていったらいのか、頭を動かしてもらうことが目的です。キックオフミーティングを定期的に行うことによって、社員たちは、自分たちが社会にどのような価値を提供しているのか、これからどのように社会に貢献していきたいのかを常に意識し続けるようになります。
また、私は個人の「働きがい」は自己重要感と密接に関係していると考えています。なぜなら、いくら組織が高尚なことに取り組んでいても、自分がそこで役立っていると思えなければ、モチベーションは上がらないからです。全社会議は年12回あり、1回あたり8時間かけていますから、合計すると100時間ほどかけていることになります。組織全体に隈なくスポットライトを当てて、社員の活躍にもフォーカスできるというわけです。これが、自己重要感の醸成につながっています。
ご紹介してきたように、私たちは理想の組織をつくるためにさまざまな仕掛けをしてきました。しかし、まだまだほかにもできることがあると感じています。これからも、人にしか生み出せない価値をどこまでも信じて、社員一人ひとりが「働きがい」を感じられる組織づくりに取り組んでいきたいと強く思っています。