理念浸透と全員参加型経営を徹底し、
ファミリービジネスの強みを活かした「働きがいのある職場」をつくる
株式会社バーテック
代表取締役社長 末松 仁彦 様
更新日 2024.10.312018.08.29
理念浸透と全員参加型経営を徹底し、
ファミリービジネスの強みを活かした「働きがいのある職場」をつくる
株式会社バーテック
代表取締役社長 末松 仁彦 様
2018年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング(Great Place to Work® Institute Japan)小規模部門(従業員数25人以上、99人以下)において、初参加でベストカンパニー入りを果たした株式会社バーテック。工業用ブラシメーカーとして50年以上の歴史を持ち、衛生管理用の商品の提案だけでなく、防虫対策や異物除去など、ブラシを使ってできるさまざまなソリューションを提供しています。代表取締役社長の末松 仁彦氏に、従業員数約30名というコンパクトな組織でファミリービジネスを展開する同社ならではの「働きがいのある会社」のつくり方とはどのようなものなのか伺いました。
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
バーテックは私が3代目を務めるオーナー企業です。1962年に私の祖父が設立しました。父が18歳のとき、祖父が病気で他界。それから40年間父が経営したあと、私にバトンタッチしました。
創業者の急死で父が事業を継いだ時、当社は工業用ブラシの差別化ができず、価格競争に巻き込まれて、経営に苦労した経験があります。父は自ら前線で旗を振るトップダウン経営で危機を切り抜けました。しかしながら、その際、信頼していた従業員が退職してしまうという苦い経験をしています。当社が従業員の働きがいについて考えるようになったのはそのころからです。コーチングの考え方を導入して、トップダウン経営からボトムアップ経営にシフトし、現在目指している「全員参加型経営」の礎をつくりました。
そんな当社が「働き方改革」に取り組み始めたのは、2014年頃からです。それ以前の職場環境では、出産・育児と仕事の両立が難しく、やむなく退職する女性従業員が少なくありませんでした。これは会社にとって辛いことであり、「さらなる会社の成長のためには、働く環境を見直さなくてはならない」と痛感しました。
まさに今も働き方改革に取り組んでいる最中で、私自身も従業員の協力を得ながら、新しい働き方に挑戦しています。私には2歳半の子どもがいますが、もうひとり子どもをもうけたいと考え、妻と不妊治療を受けています。在宅勤務をうまく組み合わせながら、病院にいく時間や、子どもの面倒を見るための時間をやりくりしているところです。
「働きがいのある会社」の調査に参加したのは、これまでの取り組みの成果とこれからの課題を客観視するためです。当社はこれまで少しずつ成長していますが、いずれ会社の規模や時代に応じたマネジメントが求められると思います。だからこそ、客観的な指標をもとに会社を改善していきたいと考えました。
今回、調査に初参加し、小規模部門でベストカンパニーに選ばれたことを、とても嬉しく感じています。まだまだ満足できる結果ではありませんが、ファミリービジネスの強みを意識した「働きがいのある職場づくり」の取り組みを行ってきた結果だと考えています。
ファミリービジネスの強みは、「創業の精神を持ち続けられること」「長期的視点で経営できること」「過度な成長を追わず、安定経営に注力できること」などがあげられます。一方で、「会社の私物化」「ガバナンスの欠如」など、規律を乱しやすい点がリスク要因です。そのため、当社は従業員の「理念への共感」と「会社への信頼」をいかに高めていくかを念頭におき、「働きがい」を高めるための取り組みを展開しています。
当社の理念は、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に人類・社会の、心と技術における進化発展に貢献する」です。理念経営を実現させていくため、日々の仕事の中でどのように理念を具現化していくのかをバーテックフィロソフィという冊子にまとめています。共有と実践の手段として、朝礼の時間をフィロソフィ浸透に役立てています。具体的には、ひとりの従業員が代表して、フィロソフィをどのように実践しているのか発表し、それに対して周囲が前向きなフィードバックをする、というものです。
また週に1回、横断的なグループで勉強会を開催し、フィロソフィをどのように実践しているのか、どんなことが実践を妨げているのかなどを話し合っています。仕事の中でいかに自分たちのフィロソフィを実践するのか話し合うことで、一体感が育まれています。
年1回行っているビジョン合宿も、会社と従業員が同じ目線で進んでいくために欠かせないイベントです。ビジョン合宿の初日は、会社のビジョンを「自分事」として考えることと、そのビジョンを実現していくためにどういう組織を作るのかを考える時間です。2日目は、従業員一人ひとりが自分のキャリアビジョンを考えるための時間。ひとりで考え込むといきづまってしまうため、3人がグループになり、お互いにコーチングをするようなかたちで進めています。そして、合宿の最後には、各自のキャリアビジョンを発表。「会社への想い」や「目指したい将来像」がわかり、何とも言えない連帯感が醸成されます。
また、毎年期首に事業発展計画発表会を開催しています。合宿で掲げた会社と従業員のビジョンを実現させるため、全員のコミットメントを高めるのが目的で、従業員だけではなく、社外の方にも参加していただいています。会社の理念やビジョン、経営戦略について多くの関係者に知ってもらうことで、社内のモチベーションを高め、また社外からの応援をいただくことにつながっています。
このほか、会社と従業員の関係を深める取り組みとしては、「バーテックコンパ」と「家族感謝祭」もあります。「バーテックコンパ」は、従業員の幸せを追求することを目的として生まれた会で、クリスマス会やランチ会などのイベントと絡めて実施されます。基本的には、ひとりの従業員へのインタビュー形式で、会社に入った経緯や、どんな将来ビジョンを持っているのかなどを発表してもらいます。質疑応答の時間もあり、質問と回答を重ねながら、従業員同士の理解を深めることが狙いです。
「家族感謝祭」は文字通り、家族への感謝を表すための機会です。従業員の幸せを追求するからには、その家族の幸せの実現が欠かせないと私は考えています。なぜなら、家族のサポートなしに従業員は安心して働くことはできませんし、バーテックも成り立たないからです。「家族感謝祭」の中身は毎年変わりますが、前回は午前中に従業員と家族皆で吉本新喜劇を観劇し、午後は本社に移動し会社紹介をしました。「家族感謝祭」は、父の代から続く伝統のイベントです。
従業員が自分の仕事に誇りを持てることも、「働きがい」を生み出すために重要なことです。しかしながら、バックオフィスで働く従業員は、どこで、どのように自分たちの会社の商品が貢献しているのかを知る機会が多くありません。そのため、お客様がバーテックの商品の導入した経緯と、その後の成果についてまとめた「導入事例集」を制作しています。導入事例集を通じてバーテックの商品がどんな風に役立っているのかを知ることで、仕事に対する誇りを感じてもらえると考えています。直接的ではありませんがバックオフィスで働く従業員の仕事が、まわりまわってお客様や社会にどのような影響を与えているのかを知ることが働きがい向上につながっていると確信しています。
ここまでお伝えしてきたように、バーテックは理念の浸透や、従業員の「働きがい」の向上に取り組み、一定の成果を感じられるようになってきました。しかしながら、まだまだ課題もあります。「働きがいのある会社」の調査の結果、理念共感などのスコアが高いものの、理念の実践の度合いや、仕事に対する誇りがやや低い従業員もいることがわかりました。今回の「働きがいのある会社」の調査を通じて、自分たちの強みと弱みを客観的に捉えることができたことは、想像以上に価値がありました。強みについては勇気を頂き、弱みについては会社の取り組みに対する社員の受け止め方を知ることができ、理念実現に向け具体的な改善をしていくことができました。
これは当社に限った話ではありませんが、ファミリービジネスには必ず「事業継承」という大きな問題が訪れます。事業を発展させていくためには次の世代に向けて、経営者と従業員が共通の目標を持つことが不可欠です。そのためにも、「働きがい」を生み出す「全員参加型経営」を追求し、事業を通じて世の中に貢献する会社を目指し続けたいと思います。