徹底的な「チームビルディング」で一体感を醸成
地方の中小メーカーでも「働きがいのある会社」はつくれる
株式会社ヤッホーブルーイング
代表取締役社長 井手 直行 様
更新日 2024.10.312021.06.07
徹底的な「チームビルディング」で一体感を醸成
地方の中小メーカーでも「働きがいのある会社」はつくれる
株式会社ヤッホーブルーイング
代表取締役社長 井手 直行 様
日本のクラフトビール業界の雄、株式会社ヤッホーブルーイング。Great Place to Work® Institute Japanが実施した2021年版日本における「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門(従業員100-999人)では18位にランクインしています。2017年から5年連続のベストカンパニー選出です。コロナ禍でも働きがいを高め、大幅な増収増益を実現した同社の代表取締役社長 井手 直行様に、働きがいのある会社づくりにつながる「チームビルディング」や「組織文化づくりについてお話しいただきました。
<記事のポイント>
✔好調な業績の前にあった8年間の赤字時代
✔組織づくり成功のカギはミッション・ビジョン・バリューに基づいたチームビルディング
✔職種の垣根を越えて、「働きがい」は仕掛けで作る
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
日本国内には、クラフトビールの醸造所が約500あるとされています。当社の事業規模は、クラフトビールのカテゴリー内でトップです。看板ブランドの「よなよなエール」は、全国のスーパー、コンビニエンスストア、ECサイトなどで販売されています。このほか「インドの青鬼」「水曜日のネコ」といった個性的なテイストとネーミング、パッケージングでファンを増やしてきました。おかげさまで業績は右肩上がりで、2020年まで18年連続増収。2021年の第一四半期も、コロナ禍の巣ごもり需要が、業績を押し上げて売上が前年度比40%増となっています。「ちょっと良いビールを楽しく、気軽に飲みたい」というニーズにマッチしたのだと思います。
右肩上がりで成長している当社ですが、創業当初は8年間連続で赤字でした。地ビールのブームにも乗り、ビールの販売は好調でも利益が出ず、会社を畳もうと思っていた時期もあります。最後に残ったチャネルであるECを立て直したことが転機に。クラフトビールの美味しさ、こだわりを届ける術を持たない私たちを、インターネットが救ってくれました。全国のクラフトビール好きのお客さまに支持され、全国のスーパー、コンビニでも販売されるようになったのです。
しかしながら、業績が伸びて喜んでいるのはEC担当と私だけで、現場は急に忙しくなったことで不満が溜まっていました。製造業では暑さや寒さと戦う重労働もありますから、暖かい部屋で企画を考えたりする私たちの姿が、「遊んでいる」ように見えたのだと思います。当時は従業員20人くらいの会社でしたが、雰囲気はよくありませんでした。チームをよくするために私が動けば動くほど、理解が得られず孤立する状態だったのです。
我流のチームづくりではうまくいかないということで、他社のチームビルディング研修に参加し3カ月間かけて学びました。そこで「良いチームをつくり、力を合わせて仕事をしたときに生まれる成果の大きさ」に人生観が変わるほどの衝撃を受けたのです。その瞬間から今に至るまで私は、チームビルディングに取り組んでいます。
チームビルディングにおいてまず大事なのは、同じゴールを目指すこと。そのためにミッション、ビジョン、バリューを明確に打ち出し、同じ価値観を共有する仲間と働く組織を目指しました。もちろん、全員が同じ方向を向くことは簡単ではありませんし、価値観が合わない従業員は去っていきました。その一方で、私たちの価値観に共感して入社する従業員も増えています。理想のチームは一朝一夕ではできません。ひたすら働きかけることで、価値観、志を共にするチームができるのだと思います。
当社のチームビルディングの取り組みは、新人向けの基礎から上級版まであります。最初は30分間の雑談を通じてお互いを理解する「雑談朝礼」から始まり、「全社員研修」や「ファンイベント」「チーム横断飲み会」などその内容は多岐にわたります。取り組みの甲斐あり、役職関係なく従業員同士が会議の場で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わす場面も見受けられるようになってきました。
もう一つ重要なのは、自分の得意分野で力を発揮して、それが評価されること。例えば、私は「クリフトンストレングス・テスト (資質テスト)」では必ず「戦略性」がトップにあります。会社の成長戦略を考えて、どうやって実現させるかを考えるときにワクワクします。そうしてチームに貢献することが働きがいにつながるわけです。
年々良いチーム、良い会社になってきている実感がありましたが、一般的な尺度でみた場合はどうなのだろうと考え、GPTWの調査に参加しました。その結果、初回からベストカンパニーに選ばれることができて嬉しかったですね。
GPTWの調査において上位を占めるのは東京にあるIT企業など、いわゆるホワイトカラーの企業が多いように思います。私たちのような地方のメーカーがベストカンパニーに選ばれるのは、珍しいことではないのでしょうか。職種に関係なく働きがいが高いのは、働きやすさで劣っても、働きがいを感じられる仕組みがあるからです。
生産の現場では暑さ、寒さに耐えながら肉体労働をしている従業員もいます。繁忙期には長時間労働になることも。営業や事務系の従業員と比較すると、働きやすさの点で差があるのも事実。このような環境下でも、働きがいを高める方法はあります。その一つが、ファンイベントを通じてヤッホーブルーイングのファンと触れ合う機会をつくることです。クラフトビールを美味しそうに飲むファンの方々の笑顔を間近に見て触れ合うことで、改めて仕事の意義を見出すことができます。
.
.
もう一つの取り組みは、仕事に費やす時間の2割をつかって好きな仕事をするプロジェクトです。先ほど紹介したファンイベントの運営やその他の新しい取り組みなどを「やってみたい」と思っている従業員に任せています。知識や経験の有無は全く関係がなく、熱意さえあればチャレンジできます。製造担当や出荷担当が、畑違いのイベントの企画運営をするといったこともザラにあります。本人が本気でやりたいことであれば、途中で紆余曲折があったとしても、最後までやり遂げることができるものです。最後までやり遂げた達成感や、仕事を通じて新しい能力を獲得できた喜びは働きがいに直結すると思います。
働きがいのある会社づくりはこれからも続きます。組織が大きくなればなるほど工夫が必要になるでしょう。ありがたいことに年々、入社希望者が増えて狭き門になっています。会社の成長のためにもっと採用したい気持ちはありますが、カルチャーづくりの肝は採用ですから、妥協することはできません。会社の知名度、業績を伸ばすことによって応募母数を増やし、カルチャーにフィットする選りすぐりの人材を採用することで、さらに組織を進化発展させていきたいと思っています。