丹念な「ビジョン浸透」と「文化醸成」が成長力の源泉
一人ひとりが主体的に「社会的価値」を生み出す組織をつくる
株式会社リジョブ
代表取締役 鈴木 一平 様
更新日 2024.10.312021.09.28
丹念な「ビジョン浸透」と「文化醸成」が成長力の源泉
一人ひとりが主体的に「社会的価値」を生み出す組織をつくる
株式会社リジョブ
代表取締役 鈴木 一平 様
美容・ヘルスケア・介護といった「おもてなし業界」に特化した求人メディア『リジョブ』などを運営する株式会社リジョブ。Great Place to Work® Institute Japanが実施した2021年版日本における「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門(従業員100-999人)にて、ベストカンパニーに選出されました。2020年度版から2年連続の選出です。2014年から同社の代表取締役社長となり、急成長する組織を率いてきた鈴木一平様に、同社の強みである「ビジョン浸透」や「文化醸成」のためにどのようなことに取り組んできたのかお話しいただきました。
<記事のポイント>
✔M&Aをきっかけに、自社が「社会に与えられる価値=ソーシャルビジョン」を定義
✔従業員が倍増する拡大期にこそ、人と人の結びつきを重視
✔コロナ禍におけるコミュニケーションの重要性と、仕事の根本の意義を見つめ直す必要性
✔GPTW調査は「働きがいを高めるための貴重なインプット」の機会
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
私たちが関わる、美容師、ネイリスト、エステティシャンなどが働く美容ヘルスケア業界は、憧れを抱いて就業する方が多い一方で離職率が高く、人の入れ替わりが激しい業界です。加えて、リジョブ創業期である2009年頃は、多くの事業者が掛け捨てになるリスクが高い「掲載課金型」の求人広告を出しており、サロン経営の大きな負担になっていました。そこで、事業者側の「採用コストが掛け捨てになることを避けたい」というニーズに寄り添うかたちで、当社は「成果報酬ウェイト型」のビジネスモデルを築き上げたのです。事業者の採用コストを従来の約1/3へと大幅に下げたことで業界のみなさまに支持され、『リジョブ』はサービス開始から約5年で、美容業界最大級の求人数と認知度を誇る求人メディアへ成長しました。
2015年には、介護業界特化型求人メディア『リジョブ介護(現在は『リジョブケア』)』を立ち上げ、介護業界の採用の仕組みを整えることにもチャレンジしています。美容業界同様に、介護業界の採用は非常に難しく、一人当たりの採用単価は約60万円から70万円と言われてきました。当社の採用課金型サービスを利用いただくことで、人材不足の課題を解決しつつ、削減できた採用コストを現場に還元していただけたらと願っています。そして、ゆくゆくは介護業界の「働き方の多様化」を支援していきたいです。例えば、「介護職の経験は無いけれど、食事づくりは得意」な主婦の方が、介護施設の食堂でパートタイム的に働くなど、介護の仕事をみんなでシェアして、分担できるような環境をつくりたいのです。
また当社は、NPO法人と協働しながら、CSV活動を通じて社会価値の創造を目指しています。事業で上げた利益を寄付のような社会貢献活動に注ぎ込むだけでは、どうしても貢献が一時的になってしまいます。そこで社会貢献活動を継続するために、あえて収社会貢献と収益を両立する「CSV」にこだわりました。具体的にはフィリピンの貧困問題を抱える地域で、3か月間のセラピスト養成講座を無料開催し、卒業生は500名を超えました。ポストコロナを見据えて、今後は日本での就労も含め、技術を学んだ人たちが就職するタイミングで、Win-Winの関係性を築きながら、収益を上げられる仕組みをつくろうとしているところです。
我々の事業の根幹を支えているのは、メンバー全員で共有しているソーシャルビジョンです。2014年のM&Aにより株式会社じげんのグループ会社になったタイミングで、従来のビジョンをメンバーと一緒に見つめ直しました。そうして当時生まれたのが「日本が誇る技術とサービスを世界の人々に広め、心の豊かさあふれる社会を創る」です。リジョブとして社会にどんな価値を与えられるのか。関わる業界の方々のために何をしていくべきなのか。みんなのベクトルを導くことに力を入れました。
また、代表就任時から意識的に、社員と対話をしています。全社員との面談を行い価値観や想いに対する理解を深めたうえで、メンバー同士の結節点となるコアメンバー約20名を集めて、都度直接コミュニケーションを取ってきました。そのなかで、ともに新しいCIをつくったり、事業の方向性を決めたりしてきたのです。ちなみに私は今も、他社の社長と比較して、社外よりも社内のメンバーと食事をすることが圧倒的に多いと思います。コロナ以前は週3日、4日のペースで各部署のメンバーと食事をしていました。私は社内コミュニケーションの頻度や深さと、社内の熱量は比例するものだと思っています。
2014年のM&A時点の社員数は70名でしたが、現在は170名まで拡大しました。所帯がふくらむ中で大事にしたのは、やはり心と心の結びつきです。採用は、まさに人と人とが結びつくこと。我々の価値観に共感しともにリジョブを創っていける仲間を、相当の労力を注ぎこれまで採用してきました。採用面接は4回から5回くらい。多いメンバーでは7回という例もあり、さまざまな角度から応募者と向き合っています。そのため、「スキル以上に、人間的な部分や価値観をここまで深くみられるとは思いませんでした」と驚かれることも。採用にエネルギーを注いできた甲斐あって、入社後はみんな存分に力を発揮してくれています。事業づくりと組織づくりは、経営の両輪だと思うのです。
2019年の設立10周年のタイミングでは、コアメンバーを集めて新しいビジョンをつくるためにディスカッションしました。そこで生まれたのが「人と人との結び目を世界中で増やし、心の豊かさあふれる社会を創る」というソーシャルビジョンです。人と人とが簡単につながれる時代だからこそ、ただつながるだけに留まることなく、人と人とを結びつけ、心の豊かさあふれる社会をつくりたいという願いが込められています。
コロナ禍により、2020年にリモートワークがスタートしたころは、部署内のメンバーとの情報交換が中心で、それ以外の部署の動きが見えない状態だったと思います。出社が当たり前だった頃は、たとえば営業部で受注が決まったときに、同フロアの他部署のメンバーから「おめでとう!」と拍手で祝福されることもありましたが、リモートワークではそれができません。雑談のようなコミュニケーションがしにくく、社内の空気や温度感が分かりづらい、という課題も起きていました。そこでSlackを導入し、オープンなコミュニケーションを促進することにしました。オンライン上にこのようなコミュニケーションスペースがあれば、他部署の動きもわかるし、拍手などのリアクションを送ることができます。
また、事業価値と社会的価値をリンクさせ、そこに対するメンバーの想いや取り組み、成果、チーム力などを伝えるインタビュー記事を定期的に作成・発信しています。オフィスにはメンバーがお客様や求職者様との間に咲かせた「人と人との結び目」を掲示するリアルスペースを設けて「リボンド」と呼んでいます。コロナ禍で働き方が変わってきたいまだからこそ、こういった取り組みが、仕事の根本の意義を見直し、モチベーションや連帯感を強めるきっかけになっていると思います。
そのほか、オンラインでの「全社決起会」といった取り組みと並行して「文化づくりプロジェクト」も始めました。月に一度、マネジャーや幹部が全員集まり、文化や価値観を共有し、リジョブの存在意義や業界、社会への貢献実感を持ってもらうための機会です。参加者には毎月課題を挙げてもらい、どう改善していけばいいか部署を横断して議論しています。解決に向けて施策を考え、実行していく中で、よりより文化を醸成していきたいですね。
私たちがGPTWの調査に参加したきっかけは、親会社の株式会社じげんが働きがいを大切にしており、ベストカンパニーに選ばれていたことです。じげんでは、GPTWを「働きがいを高めるための貴重なインプット」として役立てていました。やがて「自分たちの会社の働きがいはどうなんだろう」という疑問が湧き、リジョブも参画したのです。ビジョン浸透、文化醸成に取り組んできた当社ですが、ベストカンパニーの取り組みを見ると、「働きがいを高めるための独自の取り組みも多く、特にランキング上位の企業様は組織づくりに対する強いこだわりをお持ちである」と感じます。一方で、価値観のすり合わせをした上でメンバーを採用することや、従業員が世の中に価値を提供するための環境づくりについては一定の成果は出ており、取り組みを続けてきてよかったと感じています。
より働きがいのある組織を目指しつつ、これからチャレンジしたいのはネットワーク型組織の構築です。これまでは当社の上層部が中心となり「社会に提供する価値」を考えることが多かったのですが、その役目を少しずつ下の階層に落としながら、実行していきたいと考えています。例えば、テーマごとにプロジェクトをつくり、チャレンジしたい人は誰でもそこに参加でき、各自がリーダーシップを持って新しい価値づくりをする。そうした取り組みを通じて、経営者や上層部が思い描くことができない新たな価値づくり、働きがいを創発できればと期待しています。結果的に、こういった取り組みが「心の豊かさあふれる社会づくり」につながるのではないでしょうか。