社員の多様な視点や価値観を尊重し、同質化を防ぐ
グローバル企業「横河電機」のコミュニケーション・スタンス
横河電機株式会社
代表取締役社長 奈良 寿様
更新日 2022.06.062022.06.06
社員の多様な視点や価値観を尊重し、同質化を防ぐ
グローバル企業「横河電機」のコミュニケーション・スタンス
横河電機株式会社
代表取締役社長 奈良 寿様
計測、制御、情報の技術を軸に最先端の製品やソリューションを提供し、産業界はもとより、持続可能な社会の実現に貢献する横河電機株式会社。2021年11月に、世界約60ヶ国における働きがいに関する調査の結果が一定水準を超えた企業を認定する「働きがい認定企業」に選定されています。同社の代表取締役社長 奈良 寿様に「働きがいを高めるコミュニケーション」や、61カ国に拠点を持ち、約1万8000人を擁する同社の「ダイバーシティ&インクルージョン」に取り組むスタンスなどについて伺いました。
<記事のポイント>
✓「働きがい」を高めるには、個人の貢献実感の「見える化」がカギ
✓社員や部門がつながる「ネットワーク型組織」
✓若手・中堅社員の意欲を引き出す仕掛けにより、同質化を打破する
これは当社のみならず、多くの企業に当てはまることだと思いますが、昨今の「先の見えにくい事業環境」においては、人の能力や熱量をいかに引き出すかが重要です。個々の力を合わせて、企業としての力を発揮できるかどうかが、企業競争力の源泉と言えるでしょう。社員一人ひとりが、YOKOGAWAで働くことに対してワクワクし、そして、仕事を通じて成長してほしい。だからこそ、YOKOGAWAは「働きがいのある会社」を目指しています。
私が社長に就任したころ「働きがい」に関連するところで、痛切に感じたことがあります。各部門がそれぞれKPIを設定して、それを達成しているのにも関わらず、会社全体としての経営目標が未達だったことがあったのです。「これはどういうことだろう」と思い、意識的に社員と対話して見えてきたのは、「個人の目標が、部門の目標や会社の目標にどう寄与しているのかわからない」ということでした。そのため、個人の目標と会社の目標をつなげるために、OKR(Objective and Key Result)の透明性を上げて、組織への貢献を実感できるように「見える化」に取り組んでいます。
働きがいを高めるために、画一的になりがちなコミュニケーションのあり方も見直しました。例えば、マネージャーと社員が半期に1回、面談を行っているとします。そこでのコミュニケーションを「目標進捗の確認」などの形式的なものにするのではなく、アドバイスや成長に対する期待を伝える、もしくは悩みに耳を傾けるなど「実効性のあるコミュニケーション」をすることが理想です。その実現のためには、率直な提言や提案を引き出せるマネージャーの存在と、言いたいことを言える組織風土が重要だと考えています。
私が思い描く理想の組織は、階層のないフラットなネットワーク型組織です。縦横無尽にコミュニケーションができ、課題に合わせてさまざまな部署から関係者が集まってコラボレーションできるようにしたいと考えています。これは、YOKOGAWAの組織の中だけの話ではなく、お客様とのビジネスにもつながる話です。YOKOGAWAは、制御や計測、情報の技術を用いて、製造業をはじめとする産業を支えてきました。お客様とともに、さまざまなイノベーションを起こし、新たな価値を生み出してきた自負があります。オープンイノベーションを促進するエコシステムを構築し、お客様に貢献することが、産業界や社会への貢献につながります。お客様の要望にただ応えるのではなく、能動的に新しい価値を生み出せる組織にするためにも、社員間・部門間で化学反応を起こすネットワーク型組織にしたいのです。
また当社は、ESG経営を重視し「サステナビリティ目標 Three goals」を掲げています。Three goals の内訳は、Net-zero emissions(気候変動への対応)、Well-being (すべての人の豊かな生活)、Circular economy(資源循環と効率化)です。事業体制も、従来の製品軸から、Three goalsに沿った事業軸に変更しています。YOKOGAWAは、ケミカル、医薬品、食料品、エネルギー、水などの産業にソリューションを提供しているため、全ての事業がThree goalsとつながっているのです。我々が各業界のお客様に貢献することにより、お客様がより発展し、環境や社会に与える影響も大きくなります。コーポレート・ブランド・スローガン「Co-innovating tomorrow」を体現すべく、お客様と未来を共創するために、一緒に成長していきたいと考えています。
このほか働きがいに関する取り組みとして、当社は早くから海外で事業を展開してきましたので、「ダイバーシティ&インクルージョン」が国内外で重要視される前から、これに自然と取り組んできました。例えば、サウジアラビアには、女性だけのエンジニアリング部隊があり、約50人のエンジニアが制御システムのエンジニアリングを行っています。これは現地の女性活躍を推進する先進的な取り組みとして注目を浴びています。彼女たちは報酬よりも、能力を発揮しながら働くことに喜びを感じているようです。海外だけではなく、国内でもキャリア採用の割合が増えて、さまざまなバックグラウンドをもった社員が集まりより一層多様性が広がっています。これらの取り組みと並行して、コーポレートガバナンスの強化も進めており、社外取締役を積極的に起用するとともに、執行役員に女性を加えるなど、より多角的な視点で経営する体制を築いてきました。
2020年4月のコロナ禍で、当社は全社的なテレワーク実施を決めました。それ以降、国境を超えての日常的なコミュニケーションがより活発になっています。以前は何日間もかけて出張していたのが、オンラインで済ませられるようになり、コミュニケーションの頻度は間違いなく上がりました。しかも、各拠点の幹部だけではなく、中堅社員や若手社員との会話もしやすくなっていますから、テレワークによるプラスの影響は大きいです。
当社は新たな中期経営計画の策定に合わせて「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす。」というYokogawa’s Purposeを制定しました。Yokogawa’s Purposeに対する理解や共感を得るために、社員と対話をして浸透度を探っています。その中で気づいたのは、海外の社員の視座の高さです。Yokogawa’s Purposeに共感した上で、「パーパスの実現に向けて自分はこれをやります」とアクションにつなげてくれます。一方で、日本のベテラン社員は「パーパスの実現のために自分は何をしたらいいですか?」と受け身になりがちで、若手の方がパーパスに共感した上で自分たちができることを自ら考えてくれる傾向があります。そうした背景もあり、今後は我々世代が、若手中堅社員にメンターをしてもらう「リバースメンタリング」の仕組みを設けたいと思っています。これに加えて、30歳前後の中堅社員が中心となり、互いに学び、話し合いを重ねて、2035年の未来の姿を描いてそこに向けた事業のシナリオをつくるというバックキャスティングも実施しています。大学や他社と連携し、練り上げたアイディアを経営陣にプレゼンし、提言するというものです。そこで提案された内容は、中期経営計画の中にも盛り込まれています。経営視点で物事を考えることや、提案に至るまでに行う他流試合が、視座を上げることにつながりますし、提案内容が中期経営計画に盛り込まれることも、働きがいにつながることでしょう。
長い時間同じ組織に属していると、知らず知らずのうちに同質化してしまうものです。多様な価値観を持っていたはずなのに、次第に同じような傾向の意見しか出てこなくなる。特にベテランは、過去の成功体験に引っ張られることが多いですが、過去の成功体験は、現在では通用しないことがほとんど。だからこそ、多様な視点、価値観が欠かせないと考えています。そもそも、当社には多様な人財が在籍しています。本来、個性豊かな人たちを同質化させるのではなく、元来持っている個性を引き出していきたい。そのためにも、自分の考えを自由に話せる風土づくりを、より進めていきたいと考えています。
※ 本内容は2022年6月時点の情報です。