製造業特有の生産性至上主義を再考
調査と研修を駆使して働きがいを高める
株式会社タチエス
代表取締役社長 山本雄一郎様
更新日 2024.10.252022.09.30
製造業特有の生産性至上主義を再考
調査と研修を駆使して働きがいを高める
株式会社タチエス
代表取締役社長 山本雄一郎様
自動車メーカーに属さない独立系シートメーカーとして、独自の生産体制、独自の技術を発展させている株式会社タチエス。近年は、働きがいのある会社づくりにも注力し、GPTWの研修も活用しながら職場改革を進めています。同社代表の山本 雄一郎様に、製造業を営む企業ならではの「働きがいのある会社づくり」や、「GPTWの研修を導入した理由とその成果」についてお話いただきました。
<記事のポイント>
✓製造業ならではの「働きがい」を高める難しさ
✓調査結果を真摯に受け止め、役員からアクションを起こす
✓社員を巻き込む中で見えてきた変化の兆し
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
当社は自動車シートの開発から生産までおこなう独立系メーカーです。国内の自動車メーカーの要望に応えながらノウハウを蓄積し、開発から生産までの一貫体制の強みを活かしたシートの提案をしてきました。1980年代後半からグローバル展開を進め、現在は13カ国に70拠点を有しています。
製造業は、重労働や標準化された単純作業などもあり、働きがいを高めることが難しい業界とされています。もちろんそれは、当社にも当てはまることです。製造業の働き方改革は、品質向上や納期短縮などの目的に照らした方向性で発展してきたように思います。例えば、タイムカードを押して現場に行き、朝礼をして、作業開始後は決められた手順通りに、無駄のない標準作業をおこないます。これが生産性向上につながっているものの、そこには社員が自ら考えることや、社員の裁量でできることはそれほど含まれていません。もちろん、現場から改善をすることはありますが、それはあくまでも、良いものを安く早くつくるためのものであり、「働きがいを高めること」とはまた少し異なるのです。
自動車のシートを作ることは重労働ですし、いわゆる3Kの部分もあります。そこで、生産性ばかりを求められたら、働きがいは高まらないでしょう。もちろん、当社では作業の効率化や自動化も進めていますが、それだけでは不十分だと感じます。年々外国人の社員も増えていますから、多様性も受け入れる必要があります。働きがいを高めて、主体性を育んでいくためには、継続的な変革をしなくてはなりません。当社は、お客様である自動車メーカーからのオーダーなしに事業は成立しませんが、お客様の要求にただ応えているだけでは、企業価値を高める上で欠かせない主体性や創造性が育まれることはないのです。
2018年に「女性活躍推進CFT」というプロジェクトチームをスタートさせ、社員が主役の働き方改革を進めてきました。日本の製造業は、典型的な男性社会だったと思います。女性の力が活かしきれていないままでは将来の成長が見込めないという危機感がありました。のちに、「女性活躍推進CFT」は「働き方改革推進室」に進化し、多様性のある組織を成長させるためのプロジェクトとなりました。
当社はコロナ禍で経営的にもダメージを受け、2020年9月末に特別退職優遇制度を実施し、人員整理をしました。私自身がお世話になった先輩方の肩を叩かなくてはならないこともあり、心身ともにとても苦しい経験でした。会社の雰囲気も今ひとつ前向きではなく、心から「働きがいのある会社づくり」が必要だと痛感。GPTWの調査を活用し始めたのはちょうどそのようなタイミングだったのです。
数あるサーベイの中で、GPTWの調査を選んだのは、ベストカンパニーであるコンカー様の講演を見たことがきっかけでした。働きがいを高めることこそが経営戦略であると明言し、それが成果に結びついていることがわかったからです。ところが、当社の初回の調査結果は惨憺たるものでした。一方で、「これ以上下がることはないだろう」と感じたため、悔しさをモチベーションに変えたのです。それ以降、役員全員が毎週集い「どうしたら働きがいを高められるか」というテーマで話し合いをするようになりました。
「働きがいを高める」という方針は決まりましたが、実現に向けてのアプローチは具体的に見えていませんでした。そのため、調査結果に基づいて当社の強みを伸ばし、弱みを補完する目的で、GPTWが提供している研修を活用することに。まずは、改革を進める上での考え方を理解するために、役員を対象として「働きがいワークショップ」を開催。そこでの学びを、日々の仕事の中で実践していくことで、タチエスの働きがいを高める上での「型」をかためていったのです。役員からは「新しい働き方についてディスカッションする機会がこれまでなかったから、こうして考えを共有することは大事だね」という声がありました。その後、管理職もワークショップを実施したことで、役員と管理職の意識が変わり、アクションが変わり、それが少しずつ会社全体に波及していったように思います。
働きがいのある会社づくりにおいて重要になるのが、主任などの中間管理職の力。現場と経営をつなぐ立場であり、ゆくゆくは管理職として会社を引っ張る立場だからです。そのため、主任クラスを対象として、「働きがいのある組織」をつくるための管理者研修「JOURNEY!」を実施しました。製造の現場では、短い時間でアウトプットを最大化することが管理職の仕事です。しかしながら、今の時代はそれだけでは不十分だと思います。一人ひとりの働きがいを高めながら、チームマネジメントをする意識を持ってもらうきっかけにしました。受講者からは「リーダーとしてのスタンスを振り返るきっかけになった」「研修での学びを武器と捉え、チームをよくしていきたい」などの声も。何より研修中の楽しそうな姿が印象的でした。
現場でも変化の兆しが見えてきています。先日も当社の工場をまわったのですが、そこではお客様の声を漏らさず聞いて、期待を超えるものを作ることを目指し、やりがいをより高めていることが伺えました。主体的に考え、行動することが働きがいを生み、さらに製品の品質を高め、報酬にも反映されるという意識が芽生えているように感じます。
「働きがいのある会社づくり」はこれからも続きます。これはシンプルに「お客様から選ばれる企業であり続けるため」です。そのためには、社員一人ひとりが主体的に行動し、100%以上の力を出し切れることが絶対条件になります。どんなに性能の高い機械を導入しても、それを動かすのは社員です。組織の価値は、社員の力の総和です。特に女性や外国人はさまざまな制限があり、100%以上の力を出し切れていないように感じます。社員の力を引き出し、企業価値を高めるためにも、私たちは取り組みを継続します。「働き方改革」や「働きがいのある会社づくり」に終わりはないのです。