人の力で差別化するビジネスでは
「働きがい」こそが競争力の源泉になる
日本ストライカー株式会社
代表取締役社長 水澤 聡 様
更新日 2024.10.152023.09.01
人の力で差別化するビジネスでは
「働きがい」こそが競争力の源泉になる
日本ストライカー株式会社
代表取締役社長 水澤 聡 様
2023年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100の中規模部門(従業員100名〜999名)に選出された日本ストライカー株式会社。2018年から6年連続でランクインし、着実に順位を上げています。同社代表取締役社長を務め、人事領域の経験豊富な水澤様に、「全社一丸の一体感をいかに醸成するか」「働きがいのある会社をつくるトップの心構え」などのテーマでお話を伺いました。
<記事のポイント>
✓3年かけて硬直化した組織を活性化させた
✓組織拡大フェーズでも会社の一体感を高めることができる
✓働きがいのある会社づくりが、ビジネスの勝敗を左右する
>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る
GPTW 水澤様は人事出身とお聞きしました。人事というバックグラウンドは経営や働きがい向上にどう生きていると感じられますか。
水澤様 私は10年前に人事部門のリーダーとして入社し、組織改革に取り組みました。正直に言って、10年前の当社は今ほど誇れる会社ではなかったと思います。社員と経営陣の間で今あるような信頼関係を築けていなかったからです。そのため組織の歯車が回っていませんでした。また、同じ人が10年、15年同じ役職ということも珍しくなく、組織が硬直化していたのです。
入社してから3年間は「世の中は変わっている。我々も変わろう」と半ば無理矢理、人と組織を動かしてきました。変革を推進するリーダーを育てるためにリーダーシッププログラムを複数の階層で走らせて組織を活性化させたのです。今では「ストライカーは、透明性が高く、社員を大切にする会社」だと感じている社員が圧倒的マジョリティになっていると思います。
「人事からビジネス部門のトップに異動するのは珍しいですね」とよく言われます。しかし、部門のビジョンを掲げ、組織をつくり、メンバーをエンゲージしながら人を育て、結果を出すことは、人事部門のリーダーのときも、ビジネス部門のリーダーのときも、社長になってからも同じです。
働きがいのある会社をつくる上で、人事の経験は間違いなく生きていると思います。医療機器の業界は、良い製品があっても医師の先生方をサポートできる営業が育たないとビジネスで勝ちきれません。競争に勝つためには製品力はもちろんのこと、会社や社員が先生方から評価され信頼されることが不可欠です。人事として、人・組織・カルチャーの強化を推進してきた経験があるからこそ、社長となってもなおその重要性を強く実感できていると思います。
GPTW これまで中規模部門のエントリーでしたが、従業員数が1000名を超え、次回から大規模でのエントリーを予定されているとお聞きしました。事業の規模拡大に際して組織カルチャーのゆらぎを感じましたか。
水澤様 組織カルチャーが揺らぐどころか、組織が拡大する中でより一体感を増している様を日々目にしています。私は常々「One Stryker Japan Vision」という全社員が目指すべきビジョンを、さまざまな方法で発信してきました。毎月社員に送るニュースレターでも必ずこのビジョンについて触れています。
ニュースレターには、会社がチャレンジしていること、会社が社員に期待していること、そのほか、良いこと悪いことを可能な限り社員とシェアしています。「One Stryker Japan Vision」はかなり浸透しており、日本全国どこに行っても、事業部を超えたコミュニケーションがあります。全社一丸の組織は、数字を伸ばし、投資も拡大し、さらに組織を大きく飛躍させることができると信じています。
大切にしたいメッセージや社員への期待が組織に浸透するまで徹底的に繰り返しコミュニケーションしています。私が何度も発信することで、私の直属の部下である事業部長たちも同様に組織内に発信するようになります。するとさらにその部下の管理職も同様に高い意識を持つようになり、会社全体に浸透していき、やがて大切にしたいメッセージは会社のカルチャーとなります。この流れがあれば、カルチャーが揺らぐことはないと強く感じていますし、結果的に組織が大きくなった今のほうが「One Stryker」の意識が高まっていると感じます。
現在は全国各地で事業部を超えた協力体制を構築していて、これがビジネス戦略上での大きな強みです。当社の圧倒的な強みは製品ポートフォリオの充実度です。自分の事業部だけでは解決できない課題が、隣の事業部と協力することで解決することがあります。例えば、ロボティックス製品や内視鏡のような高額な製品も、人工関節インプラントや消耗品など他の製品と組み合わせて提案することでお客様にとって購入のハードルが下がり、医療現場のニーズに寄り添うことができます。「充実した製品ポートフォリオ」と「事業部間の連携力」という強みがあるから実現できることです。さらにこの事業部の連携は社員自身が価値を見出して自発的に推進している点が他社には簡単に真似できない当社の強みとなっています。
GPTW 働きがいを高めることにつながっている取り組みには他にどのようなものがありますか。
水澤様 当社ではすべてのコミュニケーションは必ずグローバル共通のミッション(経営理念)から始めます。「顧客と一体となって医療の向上を目指す」というミッションを通じて存在意義を認識することが仕事のやりがいにつながっています。
コロナ禍は本当に医療現場が大変でしたが、当社の営業担当も同じでした。なぜなら、オペに立ち会い医療機器や器械の使い方を説明する仕事は、現場でないとできないからです。病院でクラスターが発生していた時期の心労は計り知れません。妊娠中の奥さんや、高齢の両親と同居している社員は絶対に罹患できない。一方で、命を救うために現場に駆け付けたい。その狭間で葛藤を抱えた社員も少なくありませんでした。一分一秒を争う製品もあり、プレッシャーは相当なものです。
だからこそ、毎年夏になると私は社員とその家族に菓子折りに手紙を添えて送っています。手紙には社員と社員のご家族に対する感謝のメッセージをしたためています。社員が生き生きと働くためには、ご家族のサポートと仕事への理解が不可欠です。コロナ禍で優秀者を称えるアワードセレモニーをオンラインで開催したときも、ご家族に参加していただきました。社員一人ひとりが医療に貢献し、誇らしい仕事をしていることを感じてもらえたらといつも考えています。
グローバル全体の取り組みとしては、強みを見える化する「ストレングスファインダー」というギャラップ社のツールを活用し、強みにフォーカスした人材育成をしています。日本人はどうしてもできないことにフォーカスしがちですが、苦手なことに取り組むのは苦痛です。弱点の克服も重要ですが、まず強いところをより伸ばすことにフォーカスします。ほぼ全社員が受けており、自己紹介のときに「私の強みのトップ5はこれです」と話すことが通例になっているほど浸透しています。
GPTW 働きがいのある会社調査の結果や、「働きがい認定企業」をどのように活用していますか。
水澤様 私のオフィスに「働きがいのある会社」ランキング選出の証であるクリスタルのトロフィーを飾っていてとても誇りに思っています。GPTWは世界にあるので、いろいろな国がベストカンパニーに選ばれています。アメリカ本社に連絡すると「日本が選ばれたぞ!」と大々的にアナウンスしてくれるんですよ。日本国内では私が全社員に共有するのはもちろん、LinkedInなどSNSでも発信しています。
働きがいを高めることは、会社の考え方にも合致します。働きがいのある会社をつくり、社員が医師の先生方から評価され信頼されることが、ビジネスの勝敗を左右するからです。社員を大切に思う気持ちは当然であり、社員が会社に誇りを持っていなければ会社の未来はない、と考えます。ありがたいことに、中途採用の場面でも「日本ストライカーのミッションに共感し、働きがいを持って働きたい」と言って入社してくれる人は増えています。理念に賛同する素晴らしい仲間を増やしていくことが、日本の医療の向上にもつながっていくと信じています。
GPTW 最後に、組織マネジメントに苦労している企業に向けてのメッセージをお願いします。
水澤様 常に会社と社員の信頼関係が大事だと考えています。新しいことをするにしても信頼関係がないと何も前に進みません。会社が「社員を雇ってあげている」のではなく、「この会社で働いてくれている」と考えるべき。経営陣こそ社員のために働かなくてはいけません。我々経営陣が社員のために頑張るというのが基本的な考え方であり、働きがいのある会社をつくるための大前提だと思います。