3年連続「働きがい認定企業」日置電機株式会社の人的資本開示

更新日 2024.10.022024.09.27

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3年連続「働きがい認定企業」日置電機株式会社の人的資本開示
働きがいの高さを示す外部評価は、発信しなければ存在しないも同然

日置電機株式会社
執行役員総務本部グローバル人事部長 DE&I推進担当 小林亜希子様

3年連続で「働きがい認定企業」として評価され、人的資本の開示を積極的におこなう日置電機株式会社。人事部長でDE&I推進担当の小林亜希子氏によると、エンゲージメント指標の開示は単なる情報発信にとどまらず、企業理念である「人間性の尊重」と「社会への貢献」を具現化する重要な手段であり、社員やステークホルダーとの共感を深める鍵であるといいます。同社が採用する「働きがいのある会社調査」などの外部評価を通じて、どのように組織の可視化を図り、エンゲージメントの向上を実現しているのか。その背景や狙いについてお話いただきました。

<記事のポイント>
✓企業理念を具現化するために、社員エンゲージメント指標の開示を実施
✓GPTWによる外部評価を通じて組織の可視化を図り、エンゲージメントの向上を実現
✓人的資本の開示は、ステークホルダーに、自社の取り組みを理解してもらうために重要

人的資本開示にも活用できる「働きがいのある会社」調査

働きがいのある会社群をベンチマークとして、市場で優位になるための貴社の強み・課題を可視化します。

「働きがいのある会社」調査画面

「人間性の尊重」と「社会への貢献」を具現化する組織をつくる

GPTW 早速ですが、御社が社員のエンゲージメントを開示した背景についてお教えください。

小林様 昨今、人的資本に関する内容を含む非財務情報が、ステークホルダーへのアピールポイントとして取り上げられています。しかしながら、そもそも当社は「人間性の尊重」と「社会への貢献」という理念を掲げて、ステークホルダーに広く発信してきました。その一環で、GPTWの「働きがいのある会社調査」に関しても、非財務情報が重要視される前から取り組み、社外に開示していたのが実際のところです。

当社は、日本の社員だけではなく、海外の販売会社やグループ会社の社員、そのほかのステークホルダーに対して企業理念を浸透させています。海外の採用活動では一般的に、ポジションと報酬でマッチングをはかることが多いと思いますが、当社は理念共感を最重視し、共感してくれる人にのみ入社してもらっています。 そうした背景があり、理念を実現する組織を目指して、社内で「志向調査」というアンケートを実施し、組織改善に役立ててきました。組織の状態を可視化し、改善に役立てることが目的です。

GPTW 人的資本の開示をするにあたり、「働きがいのある会社調査」を活用している理由を教えてください。

小林様 先ほどお話したように、当社は企業理念に基づいて、社内で「志向調査」を実施していました。特に重要視していたのは、経営への提言ともいえる自由意見です。匿名で書かれたものを社長をはじめ経営メンバーが読み、必要であれば経営の改善にも役立てています。回答は社内公開していました。

一方で、「志向調査」の集計の面で、課題を感じていました。日本人の特性として、アンケートの回答を1から5までの数字から選ぶときは真ん中の3、もしくは「どちらとも言えない」という項目を選びがちです。調査結果がどうしても平均によってしまい、組織の問題が見えづらいと感じていました。

それに対し、GPTWのアンケートは「ポジティブな回答の割合」を出すことができるので、結果が平均に収束することはありません。部門ごとの状態の違いなども見てとれます。さらに、私たちが大切に考えている自由記述もありますし、他社との比較ができる点でも優れていると思います。加えて、同じ基準で毎年アンケートを実施することで、経年で組織の変化を見える化できます。GPTWのベストカンパニー(調査スコア上位の企業)を目指すというモチベーションを持って取り組めることもよいですね。

グローバルな指標を通じた共通認識の確立

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小林様 GPTWの調査をすることで、社内で「働きやすさ」と「やりがい」という共通の言語ができたこともプラスでした。それまで漠然としていたものが言語化され、目指すべき方向性が明確になったのです。調査を通じて共通言語ができ、部門間で組織づくりのディスカッションが繰り広げられています。当社にとっては、グローバルにおいて調査をしている点も非常に大きいです。海外のパートナーと一緒に「この指標を重視して進めていこう」と共通認識を持つことができます。

ちなみに、GPTWの調査で高評価を得ていることに対して「意識が高いですね」と言ってくださる製造業の方もいます。なぜかというと、製造業の働きがい認定企業は、今のところ多くはないからです。そういう意味で、製造業の参画企業が増えることで「製造業全体ではこういう傾向があります」といったことがわかれば、何に取り組むべきかの解像度がより高くなります。そこはぜひGPTWさんに要望したいところですね。

GPTW 現在はどのように人的資本の開示をしていますか。

小林様 統合報告書の中で、GPTWの評価だけではなく、他のさまざまな情報を合わせて掲載しています。直近の報告書では、年間の取り組みとして、「くるみん」や「健康経営優良法人」など、第三者機関からの評価も組み合わせて開示しました。

当社の働きがいの概況について、具体的な数字をもとにして示すために、GPTWの設問別のスコアも活用しています。現在は、人を大切にしていること、社会への貢献に対する意識、そして働きやすさに関する設問をピックアップしていますが、来期は「チャレンジ」に関する数字なども示していきたいです。

NHKの技術開発エンタメ番組出演の裏側にあった狙い

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小林様 エンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競うNHKの技術開発エンタメ番組『魔改造の夜』に若手のエンジニアが出演しましたが、実はこちらも人事部が主導して進めた人材育成プロジェクトであり、人的資本の開示にもつながる取り組みでした。『魔改造の夜』は、チームの連帯感やリーダーが成長する過程を描いている番組です。チームで一つのものをつくる過程で、メンバー同士の意見のぶつかり合いもあり、人間関係やチーム形成の面で成長する機会になりました。

放映の影響なのか、個人の株主様が増えたように思います。株主総会の最初の質問が「魔改造の夜に出たメンバーはその後活躍していますか?」というものだったことも印象的でした。魅力的な人材の存在や、企業風土に関心を寄せる投資家が増えています。特に長期的な投資をしたい投資家は、そうした点もを重視しているようです。我々としても、株式を長期間保有していただくことが理想なので、さまざまな角度から人的資本を開示し、組織のポテンシャルを見せていきたいと思います。

2025年より挑戦と尊重を両立させる人事制度改革を導入

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GPTW 御社の理念「人間性の尊重」に基づく取り組みにはどのようなものがありますか。

小林様 「人間性尊重経営」という考えのもと、人事制度改革を進めてきました。近年は「HIチャレンジ制度」をスタートしています。これにより、社内での挑戦する雰囲気や、キャリア自律といったエッセンスを取り入れ、風土を少しずつ変えてきました。

「HIチャレンジ制度」は、社内で「こういうポジションがありますよ」「こういうプロジェクトがありますよ」といったことを公募し、やりたい人を手上げ式で募るものです。プロジェクトのアサインや研修などは、今まで指名制でしたが、やりたい人が積極的にチャレンジできるように変更しました。

2025年からは「HIキャリア制度」という人事制度を導入します。「HIキャリア制度」は、挑戦を優遇するだけでなく、例えば、出産や育児、介護などのライフステージの変化によって、今は挑戦しにくい社員の選択も尊重します。みんなで同じ方向を向きつつ、それぞれのペースで取り組んでいこうという考えがこの制度に反映されています。

あらためて振り返ると、GPTWでアンケートを取った初年度、「働きやすさ」が全体的に高い結果は予想していましたが、「ぬるま湯職場」に足を踏み入れている懸念もありました。ハーズバーグの2要因理論のように、衛生要因としての「働きやすさ」はないと不満につながるけれど、それだけを高めても「やりがい」にはつながらない。だからこそ、「チャレンジ」などを通じて「働きがい」を強めていくことが大事なのです。当社の創業者は、「働きやすい職場、また自己実現ができる職場でありたい」と強く願ってきました。働きやすさはもちろん一定の水準を保ちつつ、社員一人ひとりのやりがいを高めることで社会に貢献していくのが当社の方向性です。

GPTWの調査を通じて見える日本と海外のエンゲージメントの違い

GPTW 御社は海外でもGPTWをご活用いただいています。日本と海外でGPTWの調査結果の違いなど感じますか。

小林様 私は海外に出張したときに必ず現地の社員と面談をします。すると「自分が次のポジションに行くためには何が足りないのか」と聞いてくるような、非常に強い上昇志向を持つ社員が多いことに気づかされます。日本の場合は「この研修を受けたい」と相談されることが多いですが、海外ではどんなに高額な研修でも自費で積極的に受ける社員が大半です。すべての社員がそうというわけではありませんが、やはり成長意欲の違いを感じます。

GPTWの結果を見ても、海外の販売会社の方が日本よりも結果を重視して、KPIに組み込むケースが多いようです。職場改善の取り組みも一生懸命に取り組んでいます。ただ、調査に対して率直に回答してくれるのはいいのですが、極端なところがあるので、少しボタンの掛け違いがあると、急に会社への評価が下がるところも特徴と言えそうです。

第三者機関の認定で人的資本の価値を可視化することの意義

interview_20240926_04.pngGPTW 働きがいのある会社調査など、第三者機関の認定を活用して人的資本の開示をするメリットにはどのようなものがありますか。

小林様 「自分たちはこれをやっています」と一方的にアピールするよりも、取り組みの結果としてGPTWによる「働きがい認定」など外部からのお墨付きがあったほうが、説得力があります。加えて、最近では「健康経営優良法人2024」の認定を受けました。「人間性の尊重」の理念に則り、社員の健康を重視する取り組みを進めているので、こういった外部評価を受けることで、自分たちの取り組みを見直す機会にもなります。今後も、新たな認定機関があれば、積極的に認定を取得していきたいと考えています。ただし、極端な言い方をすると、せっかくの取り組みも、認定の取得も、外に発信しなければ、何もやっていないのと同じだと思いますね。

私たちは目に見えない「人の力」が本当に大事だと思っています。一人ひとりの社員が「昨日より1%でも何かをやってみよう」と思って行動すると、それが全社員の力となり、大きな成果につながります。でもそれは、目に見えにくいものです。だからこそ、人的資本や人的資本に関する情報は、ステークホルダー、特に株主や機関投資家の方々に見えるカタチで示すことが大事なのではないでしょうか。

目に見えない力を引き出すには、やはり社員が「働きたい」と思う環境を作ることが大切です。これからも知恵を絞って、日置電機の企業理念を実現するために、どうやって社員の力を引き出し、生かしていくかを考えていきたいと思います。

人的資本開示にも活用できる「働きがいのある会社」調査

働きがいのある会社群をベンチマークとして、市場で優位になるための貴社の強み・課題を可視化します。

「働きがいのある会社」調査画面

日置電機株式会社 執行役員総務本部グローバル人事部長 DE&I推進担当 小林亜希子様 プロフィール

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情報サービス会社にて、営業、メディアプロデュース、編集長、組織長等を経て、2017年7月、日置電機入社。
座右の銘は「自ら機会を創り出し 機会によって自らを変えよ」

日置電機株式会社

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1935年創業の日本の電気測定器メーカー。長野県上田市に本社を構える。主力製品には電圧計、電流計、クランプ、絶縁抵抗計などがあり、電力、通信、自動車、産業機器分野で広く使用されている。「測定技術のリーダー」を目指し、高精度で信頼性の高い製品を提供。技術革新と品質管理を重視し、顧客満足を追求している。近年は環境に配慮した製品開発にも力を入れ、製造過程での環境負荷の低減やリサイクル資材の活用を進めている。アジア、ヨーロッパ、北米を中心にグローバル展開を進めており、各国のニーズに応じた製品とサービスを展開。エネルギーの効率利用や持続可能なインフラ構築に貢献し、社会のニーズに応えるイノベーションを追求する。

本内容は2024年9月時点の情報です。

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