組織統合に伴う「新たな組織文化の醸成」という課題
解決の鍵は、職員一人ひとりの「働きがい」にあった
公益財団法人日本財団ボランティアセンター
常務理事 沢渡 一登 様
更新日 2025.01.202025.01.20
組織統合に伴う「新たな組織文化の醸成」という課題
解決の鍵は、職員一人ひとりの「働きがい」にあった
公益財団法人日本財団ボランティアセンター
常務理事 沢渡 一登 様
2024年度における「働きがいのある会社」認定企業に選ばれた日本財団ボランティアセンター。ボランティア支援団体としての使命を果たし続けるために、3団体の組織統合を経て、「働きがい」を追求しています。どうして日本財団ボランティアセンターは「働きがい」を高めようとしているのか。その考えの背景や、課題克服の裏側について、常務理事の沢渡一登様に伺いました。
<記事のポイント>
✓急拡大する組織の一体感を「働きがい」で醸成
✓客観的な評価をもとに納得感のある制度設計を実現
✓環境の変化がある以上、「働きがい」は定点観測すべきもの
GPTW 日本財団ボランティアセンターの成り立ちと、事業概要を教えてください。
沢渡様 私たちの組織は、3つのボランティア団体をルーツに持っています。最初に設立されたのが2011年に誕生したNPO『日本学生ボランティアセンター』。その名の通り、学生ボランティアの育成などを目的とする団体でしたが、設立直後に東日本大震災が発生したため、被災地域への学生ボランティア派遣を中心とする活動をしていました。
2つ目は、2021年に開催された「東京オリンピック・パラリンピック」を支えるボランティアの育成を目的として設立された『日本財団ボランティアサポートセンター』、通称「ボラサポ」。
こちらは大会終了後の2022年に『日本財団学生ボランティアセンター』に事業を統合し、その際に、名称も『日本財団ボランティアセンター』に変更しました。さらに2023年には、スポーツボランティアの研修を行う『日本スポーツボランティアネットワーク』の事業も継承し、現在に至ります。
主な活動は、『ぼ活!』という独自のマッチングプラットフォームによるボランティア活動のマッチングやスキルアップ支援、ボランティアに興味ある方々のためのセミナーや交流会など企画・運営などです。現在、『ぼ活!』の登録は、4万人を突破。たくさんの方々に、ボランティアライフを満喫していただいています。
GPTW 職員の「働きがい」を高めることの必要性を、どのように位置づけていますか。
沢渡様 前提として「非営利の社会貢献活動」である私たちの仕事は、それ自体が高い公益性を有しています。たとえば、災害が発生した時、被災地でお困りの方々に寄り添ってサポートできる仕事内容そのものが、多くの職員にとって最大のやりがいです。
その一方で、以前はそこに甘えすぎていた面がありました。仕事そのもののやりがいだけでなく、「制度」や「評価」、「自己成長」など、さまざまな面に対する満足、つまり「働きがい」の必要性を見落としていたんです。
ボランティアの派遣や育成、支援を通じ、社会課題の解決を担っていくという団体の目的をこの先も果たし続けていくためには、職員一人ひとりが、成長できる喜びや、ここで仕事をする意義を持てる環境を整えていく必要があります。それに気づいたことが、自分たちの組織における「働きがい」について見つめ直すきっかけになりました。
GPTW 「働きがいのある会社」調査に申し込んだ背景を教えて下さい。
沢渡様 きっかけは3つの団体の統合です。それまでは団体ごとの価値観やカルチャーで仕事をしてきたわけですから、まずはそれをひとつにする必要がありました。しかし、どこかひとつの組織のカルチャーやルールを押し付けるかたちで統一しても、歪みが生じるのは明らかです。どう折り合いをつけていけばいいか、当初は見当もつきませんでした。
また、それまでは各団体ともに5名から10名程度の人数で運営していましたが、統合によって20名以上の組織になったことも大きな変化でした。少人数ならひとつの目的のもと横並びで仕事することもできますが、人も役割も増えたことで、部署ごとに行動する組織構造へ変化していかざるを得なくなったんです。
そんな状況の中で組織としての一体感を生み出していくには、みんなの思いに沿える新たな組織カルチャーを1から作るしかありません。そこでまず、それぞれがどんな働きがいを求めているかを調べ、これからの組織のあり方についての指針にしようと考えました。そのため、職員たちの思いを知りたいというのが「働きがいのある会社」の調査を依頼した最大の理由です。
GPTW 「働きがい」を高めるためにどんなことに取り組みましたか。
沢渡様 最初に取り組んだのは評価基準の導入です。非営利団体の場合、職員の仕事を評価するというのは大変難しいことですが、それまでのフラットな組織から、部署ごとに上長を置く組織構造へと改編していくためにも、共通の行動指針の導入が不可欠でした。
具体的には、この分野を専門とするコンサルタントの方にも参加していただき、「目標評価」と「行動評価」というふたつの評価指標を取り入れることにしました。「目標評価」については、たとえば、ボランティア向けのセミナーを企画・開催した時に、どのくらいの参加者を集め、どのぐらいの満足度アンケートを取ることができ、そして、その満足度がいかほどだったか、などです。一つひとつのアクションにおける「目標」を最初に設定し、それに照らして評価しています。一方の「行動評価」とは、組織として掲げるバリュー、たとえば「変化を当たり前にする!」などの方向性に即した行動ができたかどうかが判断の基準になります。
これらについては、半年に1回の上長との面談時にそれぞれ目標を設定し、毎月行う1on1で、目標が達成できたかを一緒に振り返りながら評価しています。評価が高ければ、わずかでも賞与が増えたり、組織内での権限が広がる仕組みを設けたりしています。それによって成長意欲やモチベーションを持って仕事に向き合えるようにすることが、評価基準導入の目的でした。
こうした取り組みに関しては、職員からもおおむね好意的に受け止められているのを感じています。これも「働きがいのある会社」の調査の結果をしっかりと反映できた結果といえるでしょう。調査で見えた組織の課題はほかにもありますので、それに基づき、現在も借り上げ社宅など新たな福利厚生の導入やリモートワークの採用など、より働きがいを感じられる職場づくりに取り組んでいます。
GPTW 「働きがいのある会社認定」をどのようなシーン・目的で活用されていますか。
沢渡様 現在までのところは、人材採用の面での活用が主になっています。もともと小さな団体ですし、「非営利団体」というのがどんな組織なのか一般的な会社よりもイメージしにくい面もあるため、とくに近年、採用におけるPR活動や人材の確保に苦戦してきました。
そこでまず、ホームページに働きがいのある会社認証の「認証マーク」を載せ、私たちの取り組みや姿勢を伝えることに。「応募数が増えた」といった劇的な効果は出ていませんが、第三者機関からの評価が、求職者にとって大きな安心材料になっていることを感じています。
また、「働きがいのある会社認定」をいただいたことで、自分たちがどんな働きやすさを望んでいるのか、みんなで考えていく大切さに気がつけたことも大きな成果です。
GPTW これから働きがいを高めたい企業に向けてのメッセージをお願いします。
沢渡様 「働きがいのある会社」の調査を受けて驚いたのは、これまでの組織運営や就労環境について、自分たちが把握できているつもりだったことと、実際に調査で判明した客観的なデータとの間に、予想を上回る乖離があったことです。職員の一人ひとりがどんな部分に働きがいや安心を感じているかについて、組織を運営する側として勝手に思い込んでいた部分がたくさんありました。外部の視点で客観的に評価されたことで、自分たちの組織の現在地をようやく把握できたと感じています。
しかし、一度の調査で十分だとは思ってはいません。組織もそこで働く人の思いもどんどん変わっていくものですので、今回のような調査を定点観測的に続けることが大切と考えています。漠然と結果が怖くて調査を受けるかどうか悩まれている方もいると思いますが、その結果からは必ずさまざまな気づきや発見が得られるはずです。ぜひ自分たちの組織を見直すきっかけにしてください。