働き方改革の功罪と働きがいのある職場づくり
~2019年働きがいのある会社調査結果分析~

更新日 2020.02.132019.10.31研究レポート

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はじめに

日本の生産年齢人口は、1995年以降減少傾向にあり、少子高齢化による深刻な人手不足が指摘されています。その解消策として期待される働き方改革。4月からは働き方関連法案も施行され、着々と法整備がされる中、企業における改革は働く人にとって、どのように受けとめられているのでしょうか。

GPTWが組織で働く人のアンケートを実施・分析したところ、働き方改革の一定の成果を確認したものの、働きがいの実感値は低下しているという結果が得られました。改革を通じて、労働環境は整備され、色々な人が健康的に働ける状況になりつつある一方で、従業員は会社に対して信頼感や仕事への誇りを持ちづらいという矛盾が生じています。

本レポートでは組織で働く人の調査に基づき、働き方改革の実態を報告します。

調査結果

GPTWの調査は58の設問から構成され、従業員の働きがいを「信用」、「尊敬」、「公正」、「誇り」、「連帯感」の5つの要素で測定しています。(※)

回答者は各設問について5段階(1:ほとんど常に当てはまらない、2:しばしば当てはまない、3:時には当てはまらない/時には当てはまる、4:しばしば当てはまる、5:ほとんど常に当てはまる)で回答を行います。結果は肯定的な回答(4:しばしば当てはまる、5:ほとんど常に当てはまる)を行った人の回答率を集計します。

今回の調査では、働き方改革が組織へどのような影響をもたらしているのかを調べるために、上記58問について因子分析を行い、働きやすさに関する設問(6問)とやりがいに関する設問(48問)に区分しました。(両者に区分しなかった設問も4問あります。)また、各区分の平均点を、それぞれ働きやすさ得点、やりがい得点としました。

それぞれに含まれる主な内容は、以下のとおりです。

働きやすさ得点

「ワークライフバランス」・「労働環境の整備」・「福利厚生」など

やりがい得点

「経営・管理者層への信頼」・「仕事への誇りや意味づけ」・「連帯感や一体感」など

2018年調査と2019年調査の2か年にわたりGPTW調査を行った企業(199社)を対象とし、各企業における働きやすさ得点とやりがい得点の変化を確認したところ、以下の点が明らかになりました。なお、変化が±1ポイント未満の場合には「変化なし」としています。

1.職場における働きやすさは改善している

まず、働きやすさ得点の変化を確認しました。調査対象である199社のうち、働きやすさ得点が改善した企業と低下した企業の割合はそれぞれ52%、37%となり、改善した企業の割合が高くなりました。

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また、58設問のそれぞれの設問スコアの変化を比較したところ、前回の調査から特に大きく改善した設問は以下の通りとなりました。

前回調査と比較して改善した上位5設問

analysis_191031_02.pngその結果、働きやすさ得点に区分された6設問のうち、3設問が上位3位を占めました。仕事と生活のバランスや、必要な時の休暇のとりやすさ、労働環境の改善など、働きやすさに改善が見られ、各企業における働き方改革の取り組み成果が感じられます。

2.一方で、やりがいについては低下した企業が多かった。特に経営・管理者層への信用や仕事への誇りが低下している。

次に、やりがい得点の変化を確認しました。やりがい得点が改善した企業と低下した企業の割合はそれぞれ39%、54%となり、やりがい得点が低下した企業の割合が高くなりました。

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58設問のそれぞれの設問スコアの変化を比較したところ、前回の調査と比較して特に低下した設問は以下の通りです。

前回調査と比較して低下した下位5設問

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働きやすさが改善した一方で、管理者層への信用、会社や仕事への誇りについて低下が見られました。職場における働き方改革が、こうした傾向の引き金となっている可能性もあります。

3.“働きやすさもやりがいも上がった企業”と“働きやすさは上がったが、やりがいは下がった企業”を大きく分けたのは、経営・管理者層に対する信用の高さと職場の一体感。今後の働き方改革を進める上でのポイントとなりうる。

さらに、1で分析した働きやすさ得点を改善させた企業のうち、やりがい得点が改善した企業と、低下した企業の2群に分け(変化がなかった企業は除く)、両者の間にどのような違いがあるかを確認しました。つまり、“働きやすさもやりがいも上がった企業”と“働きやすさは上がったが、やりがいは下がった企業”を分けるポイントは一体何だったのかを明らかにしました。

その結果、特に大きく差が見られた項目は以下の通りです。

やりがいが上がった企業vs下がった企業の違いが大きかった上位5設問

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上記の結果から、働きやすさを改善しながら、やりがいも引き出した企業では、そうでない企業と比べて、経営・管理者層が情報共有を丁寧に行い、会社のビジョンや実現プロセスについて発信を繰り返し、しっかり伝えていることがうかがえます。また、職場の一体感の醸成にも力を入れているようです。

ベストカンパニー事例

では、ベストカンパニーでは、実際どのような取り組みを行っているのでしょうか。以下に具体的な例をいくつか示します。

経営・管理者層が、会社のビジョンやカルチャーを明確にし、必要な情報について従業員にしっかり伝える

ディスコ様(大規模部門)では、社長と社員のコミュニケーションをとても大事にしており、タウンミーティングと呼ばれる交流の場を設定しています。会の終了時には、質問をアンケートで回収し、次の会で回答しています。各拠点での実施を合わせると、年間50回以上開催されているという点で他社よりも圧倒的に頻度が多く、双方向の直接的な交流の場を大事にしていることが伝わります。

交流の場はオフィシャルな場とも限らず、インフォーマルな演出も有効です。東京海上日動システムズ様(大規模部門)では、社長と社員が雑談できる場「That’s談 with P」をつくり、お互いが気軽に対話できる工夫をしています。社長が社員の想いを受け止め、同じ視点に立って自らの想いを伝えることで、社員が仕事の意義を再認識できる機会にもなっています。その場で出された意見が全社施策の改善につながった例もあるようです。

双方のコミュニケーションは直接的なものもあれば、社内システムを利用するなど間接的な方法を利用している会社も多くあります。トークノート様(小規模部門)では、社長が毎日SNSを通じて、理念、目標、自身の考え、想いを発信しています。またそれに対して、従業員は誰でも質問や提案をできるようにしています。

従業員がお互いを理解し合える機会や仕組みが多様であり、連帯感を高める取り組みに手間暇を惜しまない

コンカー様では、たてよこななめの関係性を高めるために2か月に一度、部署や役職をランダムにシャッフルして構成した小グループでの活動を促進しています。費用は会社により負担され、社員はプロレス観戦やサバイバルゲームなど自由に楽しみます。仕事ではなかなか接点が持てない人とも顔見知りになれるよい機会になっているようです。

社員同士の交流を促す方法として、ベテラン社員のスキルや知識を伝えていく勉強会もよく活用されています。レバレジーズグループ様(大規模部門)では、社員が講師となる「社内勉強会」を月1回開催、また「事業部間交換留学」という仕組みを設け、従業員同士の交流やナレッジ共有に活かしています。

結論

今回の調査からワークライフバランスや休暇のとりやすさ、労働環境などについて、従業員の評価は改善が見られたことから、職場における働き方改革の推進には一定の成果が出ていると言えそうです。例えば、時短勤務やテレワークが推進されることによって多様な人材が活躍できる環境が整えば、企業としては労働力の確保が期待できます。また従業員にとっては、健康で長く働き続けられるなどのメリットが挙げられるでしょう。

一方で、経営や管理職に対する信頼や、仕事への誇りなどやりがいについては低下傾向が確認できました。要因はいくつか考えられますが、おそらく多くの企業で優先的に取り組まれている労働時間の削減や休暇取得、テレワークの導入などにより、職場のコミュニケーションが質、量ともに減少していることが影響していると考えられます。時間削減のために業務の効率化は必要なプロセスですが、無駄として職場活動の中から排除されたものの中に、上司との面談、職場で祝い合うイベント、何気ない仲間同士の雑談などが含まれている可能性は否定できません。多様な働き方を選択できることは個人の働く自由度(働く場所、時間)を高めるものですが、上司やチームメンバーとの接点が少なくなることで他者への関心や協力関係が薄れ、同じ方向性へ向かうベクトルがぶれてしまっては、却って業務の効率を落としかねません。

改革を成功に導くヒントは、働きやすさとやりがいを同時実現できているベストカンパニーに見ることができます。それらの企業では、労働環境や制度を整備しながら、同時に会社の理念や方針、重要な情報共有を丁寧に積極的に行っています。加えて、全員が楽しめるようなイベントや勉強会を定期的に企画・実施していることがわかりました。では、なぜ、ベストカンパニーでは長時間労働の是正が謳われる中においても、こうしたテーマに積極的に取り組んでいるのでしょうか。

経営・管理層から会社のビジョンや方針を共有し十分な情報提供がなされれば、現場におけるミスコミュニケーションや無駄がなくなり生産性向上が高まります。また全員が楽しむイベントを通じて、たてよこななめの関係性が良好になっていくと、個人の心理的安全性が確保され、お互いにクリエイティブに思考し、イノベーションや創意工夫につながる可能性が期待されます。さらには、経営トップや上司との密なコミュニケーションや、社員同士の何気ない会話により、自分の仕事が意味付けられ誇りを感じるということもあるでしょう。

せっかく働きやすい環境が整えられても従業員のやりがいが低い状況では、個人の能力が十分発揮されることは難しく、企業成長のための好業績は見込めません。働き方改革をより意味のあるものにしていくためには、企業として従業員のやりがいにも意識を向けていく必要があります。そのために経営者は、効率・時間短縮とは一見矛盾するような取り組みではあるものの、職場のコミュニケーションを増やす時間を確保し、ビジョンをきちんと伝えていくことで組織のベクトル合わせをしていくことが大切です。

本レポートは2018年版・2019年版調査の結果に基づいて執筆しました。2020年版調査より調査モデルをアップデートし、従来の5つの要素に新たな尺度が加わっています。また、設問構成や設問数も一部変更となっています。(全員型「働きがいのある会社」モデル

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