コンピテンシーとは?評価・育成以外に採用や、働きがい向上への活かし方をご紹介
更新日 2024.07.252024.07.10コラム
人材版伊藤レポートで「人的資本」が扱われて以降、人材を「資本」として捉え、その価値をいかに高めるかに注目が集まっています。人材の価値を最大限に引き出すために、育成や評価の仕組み、組織のありようを見直されている企業も多いのではないでしょうか。本コラムでは、育成・評価の中でも、日本企業で多く取り入れられている「コンピテンシー」について、評価・育成での使い方や、新たな視点として採用や働きがい向上への活用方法について紹介していきます。
目次
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、職務や役割において、組織内のハイパフォーマー(成績優秀者)に、共通してみられる行動の特性を意味します。
その特性を、従業員が身につけることができれば、皆がハイパフォーマーになるという考え方で、特に評価や育成に用いられています。
コンピテンシーの歴史
日本では、1990年代後半以降に導入する企業が増えてきました。
それ以前は職務遂行能力(職能)の評価を基準とした人事制度(職能資格制度)を、多くの会社が導入していました。
職務遂行能力とは、文字通り、仕事を行う上で必要な能力ですが、当時用いられていた人事制度においては、比較的どの部署でも通用する能力を指していたようです。
この制度は、戦後復興とも重なり、景気も、企業の規模・業績も拡大傾向にある時期においては、入社から定年までの長期視点で従業員の成長を考え、新規事業への異動も可能なゼネラリストを育成する、非常にマッチした考え方でした。
しかし、バブルの崩壊、景気の悪化に伴って、職能資格制度が持ついくつかの問題点が浮き彫りになってきました。能力開発には時間が必要と考える年功序列の考え方は、若いハイパフォーマーの抜擢を阻むこととなります。全従業員の成長を企図する抽象的な評価基準は、分業が進む企業において、「私の仕事」における専門性の評価・育成に使いづらいといった事態を招きました。結果、ハイパフォーマーを相応のポジションにつけたい、短期に専門性を育成したい企業は、新たな評価手法を探すこととなりました。
そこで、コンピテンシーによる評価制度(以降、「コンピテンシー評価」)が注目されることとなるのです。
コンピテンシー評価の特徴、能力評価との違い
時代の変遷に伴って注目を集めたコンピテンシーですが、ここで改めてその特徴を確認したいと思います。世の中にあるどの評価方法も、全ての組織にマッチすることはありません。コンピテンシー評価も、特徴を正しく認識し、目的を実現する上で最適なツールか否か判断したうえで導入することが重要です。
特に能力評価との違いが分かりづらい部分かと思いますので、その点を比較しながらコンピテンシー評価の特徴をまとめました。コンピテンシー評価がマッチする組織か否か、ご確認ください。
コンピテンシー評価 | 能力評価 | |
---|---|---|
評価対象 | ・行動特性 | ・能力、スキル、知識 |
目的 | ・職務・職種別の具体的な評価項目 ・限定された特性の習得による、抜擢昇進が可能 ・職務・職種別のハイパフォーマーの育成 |
・職種を問わず全社共通の評価項目 ・幅広い能力の高まりを見据えた、長期の育成が可能 ・ゼネラリストの育成 |
マッチする組織 | ・職務・職種により、異なる特性が求められる組織 ・人材の早期戦力化が必要な組織 ・専門的な育成が行える組織 |
・多くの職種で共通の能力が求められる組織 ・平均勤続年数の長い組織 ・異動や新規部署の創設が多い組織 |
コンピテンシーで行う人事評価の導入
続きまして、コンピテンシーを用いた評価制度の導入方法をご紹介します。
再度「コンピテンシー」の定義を振り返ると、「ハイパフォーマーの行動特性」と表現しておりました。ここから、「コンピテンシー」の導入は、次のようなステップに分かれます。
- ありたい組織像の策定
- 組織に起こしたい変化の特定
- ハイパフォーマーの特定
- ハイパフォーマーへのヒアリング
ありたい組織像の策定
まずは、ありたい組織像の策定が初めのステップになります。
今の組織の状態が理想通りであれば、評価制度を見直そうという機運も起きないはずです。とすると、ここまで読み進めて頂いた方にとって、今の組織の状態は、何かしら理想通りではないはずです。ぜひ組織の理想の状態を描いてみてください。
評価制度の見直しというと、今の制度の問題を解決すればよいと考えてしまいがちです。
しかし、果たしてそれで、ありたい組織は実現するのでしょうか。
私がこのように感じる理由を、私がコンサルタントとして経験し、見聞きした数々の失敗事例をもとに解説したいと思います。「ありたい組織像の策定」を、なぜ初めに行う必要があるかの根拠にもなっております。
「解決すべき問題の取捨選択」の事例をお伝えいたします。
ロジカルシンキングで言われるように、問題とは、「あるべき姿(ありたい姿)と現状のギャップ」から導かれます。しかし、現在生じている不満の中には、それを改善したところであるべき姿には結びつかないものも多数存在しています。
評価制度の不満をヒアリングした際に、以下のコメントが聞かれました。
皆様は、それらを同時に解決できるでしょうか?
- 評価表に書かれている文字数が多くて読む気にならない。もっとシンプルにならないか。
- 目標設定って言っても、毎年去年の5%アップなのに、なんで毎回空欄に記入し直すの?
- 評価結果の承認依頼が山ほど来るんだけど、内容を見ずに承認してるし、あれいらないよ
- 評価表の内容が曖昧過ぎて、評価者の判断の余地が多すぎる。
- 目標設定欄が選択式だけど、そんなんだから社員が自律しないんだ。自由記入にしたら?
- 私の上司は好き嫌いが強すぎて、あの人一人に決められた評価結果は受け入れられません
などなど。
同じ制度を使っていても真逆の不満が聞かれることは枚挙にいとまがなく、本コラムをお読みの皆様も共感いただけるのではないでしょうか。「不満を解消して制度改定」などはとてもできません。
そこで必要になるのが「ありたい姿」の策定です。
制度改定をする際、例えば、「定時で帰宅できる組織」というありたい姿を置いた場合はいかがでしょうか。様々な分野で効率化を進めることになるでしょう。これにより、上から3つの声は改善の素材となり、下の3つの声は、それ以外の不満になると思います。
すべての問題を同時に解決する人事制度がない以上、取り上げられない不満の声も一定数生じることになります。その際、何を基準に取捨選択をするかというと「ありたい姿」が基準になるわけです。
続いて「目的不在の取組」について事例をご紹介いたします。
評価制度の見直しを行う場合、「目的」をご確認ください。
先ほどの事例の中で、ありたい姿を「定時で帰宅できる組織」と置きました。しかし、よくよく考えてみると、従業員が年間で評価に投じる時間はどの程度でしょう。
どれほど長くても、一般従業員で年間5日、管理職層で10日程度ではないでしょうか。さて、年間5日、10日しか従業員が関わらないものに、やっきになって効率化すべきでしょうか。
私が制度改定について、コメントできる立場にあるのなら、「効率化は非常に重要だと感じるけれど、年間10日しか関わらない人事制度ではなく、日常的に関わる制度やシステムの見直しの方が、より大きな効果が出るのでは?」と伝えると思います。
むしろ、年間5日や10日かかっている時間を、反対に年間7日、14日に増やすことで、従業員の働きがいや能力が高まるような制度改革ができるのであれば、日常の効率化で時間を生み出して、評価には、あえて時間を使うような制度改革を依頼するとも思います。
ぜひ制度改定の目的を言語化するため、問題を正しく取捨選択するために、ありたい組織像を描くところから、始めてみてください。
組織に起こしたい変化の特定
上記で、ありたい組織像を描いていただきました。ここで初めて、現状と比較できる対象が固まったため問題(起こしたい変化)を特定するステップに進むことができます。
ここではモデルとして「多くの社員が疲弊し、離職率が高い組織」を現状、「働きがい高く働いている社員が多く集まる組織」をありたい組織像と仮定して、話を進めたいと思います。
このようなモデルの場合、どのような変化を起こせば、ありたい組織像に近づくでしょうか。
現在の組織 | 起こしたい変化 | ありたい組織 |
---|---|---|
多くの社員が疲弊し、離職率が高い組織 | 皆の疲れをとる? 楽しい仕事を増やす? |
多くの社員がやる気を持ち、離職率の低い組織 |
恐らく、現在の定義だけでは、上記のように「起こしたい変化」は定めきれないのではないでしょうか。
これは、ありたい組織も現状も、どちらに対しても情報の解像度が低い(抽象的)であるため、どのような変化を起こせばありたい組織に近づけるかがつかみきれないのです。
とは言え、1のステップでありたい組織像を具体化すればいい!と考えるのは少しお待ちください。
説明にあたり、少し極端な例をご紹介します。
「残業をせずに、定時通りに帰宅する社員が、働きがいが高い」という情報をもとに、「全従業員が定時で帰宅できる組織」をありたい組織像に、「多くの社員が遅くまで残業している組織」を現状と仮定すると何が起きるでしょうか。
現在の組織 | 起こしたい変化 | ありたい組織 |
---|---|---|
多くの社員が遅くまで残業している組織 | 定時でPCを強制シャットダウンする 定時以降、顧客からの連絡を受けられない体制にする |
全従業員が定時で帰宅できる組織 |
確かに、上記の変化の内容は具体的になりました。その変化を起こせば、全従業員が定時で帰宅できる組織になりそうな気がします。
しかし、そうした場合、顧客との関係性はどうなるでしょう。あるいは、定時以降に仕事をしている、働きがいの高い従業員はどうなるでしょう。
遅くまで働くことの是非は少し横に置いておきますが、このように組織は様々な事情を同時に抱えており、一つの問題点だけに注力すると、他の事情に大きな悪影響を及ぼす可能性をはらんでいます。
このような理由で、ありたい組織像は一定の抽象度で設定いただければと思います。
ではどのように進めるか、となるわけですが、ありたい組織像に関連情報を追加することで具体化いただければと思います。
現在の組織 | 起こしたい変化 | ありたい組織 | |
---|---|---|---|
組織像 | 多くの社員が疲弊し、離職率が高い組織 | 多くの社員がやる気を持ち、離職率の低い組織 | |
関連情報 | 顧客からのクレームが多い | 顧客別の注意点が組織内で共有されている | 顧客に喜んでもらっている |
商品知識が身につかないまま現場に出ている | OJTの体制が整い、商品知識が伝えられている | 商品知識が身についた状態で現場に出ている | |
組織のビジョンがわからない | 組織のビジョンについて全社的なメッセージ発信があり、中間管理職も自部署ならではの解釈を伝えている | 組織のビジョンが皆に伝わり共感されている、疑問点は対話できている |
先の2例のように、起こしたい変化を、ありたい組織像だけで考えた場合や、ありたい組織像をいきなり具体化したうえで考えた場合と比べていかがでしょうか。
起こしたい変化は具体化され、他に重大な悪影響を及ぼしづらい内容になったと思います。
起こしたい変化を考える中では、ありたい組織像をもう一度考え直す場面も出てこようと思われます。1、2のステップ次第で、制度改定の成果に非常に大きな影響を与えることとなりますので、途中であきらめず、丁寧に進めて頂ければと思います。
ハイパフォーマーの特定
ここでは、コンピテンシーを考えるにあたって実在する社員をモデルに進める方法をご紹介いたします。
架空の理想的な人材をモデルとしたり、実在社員のモデルと併用して進める方法もありますが、この事例では「実際に話を聞くことができる」メリットを生かして進めたいため、実在社員をモデルとした方法をご紹介いたします。
この方法が万能ということはなく、理想的な人材をモデルとする方法にもメリット・デメリットはありますので、適宜進め方をご検討いただければと思います。
先の表に基づいて、社内のハイパフォーマーを特定することになります。
起こしたい変化 | 変化に必要なハイパフォーマー |
---|---|
顧客別の注意点が組織内で共有されている | 顧客別の注意点を記録・資料にまとめ、顧客の引継ぎの際、その資料を用いて情報を共有する従業員 |
OJTの体制が整い、商品知識が伝えられている | 配属した後輩従業員が、何人も早期に独り立ちして成果を上げている先輩従業員 |
組織のビジョンについて全社的なメッセージ発信があり、中間管理職も自部署ならではの解釈を伝えている | トップメッセージを、発信されるたび内容を確認し、疑問点を放置せず上司と対話し、自部署ならではの解釈で部下に伝える管理職 |
変化に必要なハイパフォーマーの要件が、起こしたい変化から導かれます。
それぞれに対して、各社員の行動を見た際に、高い成績・成果を残している社員を本人・周囲へのヒアリングから探し出してください。
その方がコンピテンシー抽出にご協力いただくハイパフォーマーとなります。
少しだけ注意点があるのですが、ハイパフォーマーを選定する際は、「すべてのパフォーマンスが高い必要はない」ことをご認識ください。
特にコンピテンシーを抽出する際の「モデル従業員」と考えると、あれもこれもパフォーマンスが高い社員を対象にしたくなるものです。
例えば、顧客の注意点はしっかりまとめて引き継いでいるけれど、OJTはまったく聞かず自己流だし、会社のメッセージなんて見向きもしない従業員を想像してみてください。
皆様はこの方を、顧客情報共有のハイパフォーマーとして選定されるでしょうか。
どうしても、他のパフォーマンスの低さが気になって、選びにくいのかなと感じます。
しかし、一人の従業員が全てのパフォーマンスが高いということは少ないですし、求めるパフォーマンスが一つ高ければ、その人は十分ヒアリング対象となり得ます。
その従業員が他のコンピテンシーが十分でない場合、それは追って育成いただければ結構ですが、コンピテンシー抽出の場面では、すべてのパフォーマンスが高くない方もヒアリング対象から除外することなく進めて頂ければと思います。
このようなステップで進めて頂ければ、ありたい組織像の実現に向けた変化を起こすために必要なハイパフォーマーを特定しやすくなると思います。
ハイパフォーマーへのヒアリング
いよいよ、最後のステップをご紹介いたします。ここまでくればもう一息です。もう少しだけお付き合いください。
ハイパフォーマー本人や、それにかかわる周囲へのヒアリングを通じて行動特性を抽出いただきます。
ヒアリングにあたっては、以下の質問例を参考に聞いてみてください。
-質問例-
- 〇〇なハイパフォーマンスを発揮したときは、どういった意図・背景があって、その行動をとったのですか?
- 似たような〇〇といった事例があった場合、あなたは何を考え、どんな行動をとると思いますか?
何度か述べておりますが、コンピテンシーとは、「ハイパフォーマーの行動特性」を意味します。
たまに勘違いを招いてしまう場合があるのですが、「ハイパフォーマーのとった行動」ではない点に注意が必要です。
どんな行動をとったかを基準に評価制度を見直すとすると、バリエーションは無限に広がり、一つの望ましい行動が、再現される機会は非常に限られた状況でしか現れないことになります。なんとも作りづらく使いづらいものになりますよね。
そこで、「行動特性」を抽出することになります。
どのような意図・背景があって、その行動につながったのか、似たような事例が生じた場合、同じように考え行動するのか。こうして抽出した特性を他の従業員にも展開することができれば、場面や行動が異なっていても、ハイパフォーマンスを発揮してくれる確率が高まります。
インターネットを検索すれば、コンピテンシー評価表のサンプルがあふれています。
それらを参考にしていただくのは効率化の一助になると思われます。しかし、評価に使うことを考えると、細かい表現の違いで、従業員への伝わり方が大きく変わる、期待した効果につながらないことも起きてしまいます。
外部情報も参考にしていただきつつ、ぜひ社内のハイパフォーマーの特定と、その方へのヒアリングを通じた行動特性の抽出にお取組み頂ければと思います。
コンピテンシーで行う人事評価のポイント
評価の際は、先に抽出したコンピテンシーを評価表に落とし込んだうえで、評価を行うこととなります。
その際も、コンピテンシーの抽出のときと同じく、行動を評価するのではなく、行動特性(行動に至った意図・背景・考え方)を評価するようにしてください。
もちろん、従業員の意図・背景・考え方を直接評価することはできません。
ではどのように評価するかというと「行動を通して意図・背景・考え方を推測する」ことや、「行動の振り返りで、意図・背景・考え方を確認する」ことで情報をつかみ、評価することが可能になります。
組織にハイパフォーマーを増やそう、という考え方だけを見ると、ハイパフォーマーと同じ行動をとったか、という観点で評価してしまいがちですが、状況が異なれば同じ行動が最適でない場合も考えられます。
その意味で、同じ意図・背景・考え方で行動を導いていたか、という観点で評価をすることで、組織内にハイパフォーマーを増やしていただければと思います。
コンピテンシー評価で陥りやすい3つの落とし穴
ここまではコンピテンシー評価の導入方法や評価での使い方をご紹介してまいりました。
しかし、先に述べた通り、コンピテンシー評価も万能ではありません。
コンピテンシー評価を使う中で、陥りやすい落とし穴を3つご紹介いたします。
もちろん、回避方法と合わせてご紹介しますので、既に導入済みの組織においては、見直しにもお役立ていただければと思います。
1.評価者が、正しく評価方法を理解できていない
2.コンピテンシーの見直しが間に合わず、組織の置かれた状況にマッチしない
3.組織の多様性が失われてしまう
1.評価者が、正しく評価方法を理解できていない
最もよく聞かれる落とし穴は、評価者の理解です。
ここまで相当の紙幅を費やして紹介してまいりましたが、それでもコンピテンシーというものを正しく、組織に使えるレベルでお伝えするのは非常に難しいと感じています。
何より、このコラムを記載している私自身も、相当の情報収集をしたうえで記載しておりますが、難しいなと感じる部分が多々あります。
それを、日常業務でも相当に忙しい管理職に、1時間ほどの説明会や評価者研修で伝えて、正しく評価方法を理解してくれ、という方が無理でしょう。
特に導入当初においては、人事部の皆さんが、評価者に寄り添い、具体例を示しながら伴走することで、評価者の理解を高めつつ進めて頂ければと思います。
2.コンピテンシーの見直しが間に合わず、組織の置かれた状況にマッチしない
続いての落とし穴は、環境とのずれです。
上記説明でも薄々お感じかと思いますが、コンピテンシー評価の導入や見直しは非常に複雑で、時間もかかる取り組みです。一度導入してしまえば、その後見直すのはいつ頃になるでしょうか。
しかし、事業環境の変化は、こちらを待ってはくれません。
業界の規制、競合の取組、顧客との関係性、労働関連の法整備など、日々刻々と変化しています。
それに合わせて、コンピテンシーも変化させていかなければ、ありたい組織像には近づけないまま、懸命に評価制度を使い続けることになります。
全てを見直すのは難しく、時間もかかるため、なかなか踏み出せないと思います。
そこで部分的な取り組みとして、導入した際の「ありたい組織像」「起こしたい変化」「必要なハイパフォーマー」に変化は無いか、「ハイパフォーマーの行動特性」に変化は無いかを、年1回、事業計画を策定する時期の前後で確認してみてはいかがでしょうか。
3.組織の多様性が失われてしまう
これは、望ましい結果でもあるのですが、コンピテンシー評価を導入し、その観点で育成を続けると、「ハイパフォーマーと同じ行動特性」を持った従業員が増えることとなります。
きちんと評価、育成の運用を進めて頂いた結果ではあるのですが、一方で組織の中の多様性が損なわれてしまう可能性があります。
不確実な未来に向き合うために、多様な考え方を尊重し、適所適材に活躍してもらう必要性も色々な場面で聞かれますが、コンピテンシー評価が適切に機能しすぎると、その逆の結果を招きかねません。
組織全体の多様性が損なわれていないか、コンピテンシー評価の項目数が多すぎないか、事業環境とのずれはないか、こちらも定期的な確認をお勧めいたします。
人事評価にとどまらないコンピテンシーの展開方法
いよいよ最後の項目となります。
ここまではコンピテンシーを用いた評価や育成を中心にお伝えしてまいりました。しかしコンピテンシーは、色々な使い方が可能です。
こちらでは、採用活動での使い方、組織の働きがいを向上するための使い方をご紹介して、当コラムをまとめたいと思います。
採用活動
ハイパフォーマーと同じ行動特性を持った従業員を採用できれば、当社での活躍も見込みやすいと思われます。
全社で共通のものや、階層別、職務・職種別のコンピテンシー評価項目を参考に、求職者が、当社のハイパフォーマーの行動特性をどの程度持ち合わせているか、判断の素材にご活用ください。
その際には、コンピテンシー抽出でお伝えした、「〇〇といった行動はどのような意図・背景があって取ったのか」「似たような事例があった場合は何を考え、どのような行動をとると思うか」の質問も効果的ですのでご参考にして下さい。
採用活動に取り組んでいる方には慣れ親しんだ観点かもしれませんが、コンピテンシーを用いた採用では、求職者の行動特性について「一貫性」と「具体性」の確認が重要です。
学生時代や前職での活動を通じて、望ましい行動特性を持ち合わせているか、それに基づいた行動はリアリティを持って本人ならではの言葉で語られるか。そのようなヒアリングを通じて、将来、自社に入社後も、同様の行動特性を発揮してくれるかを見定めることになるわけです。
是非、採用活動にもコンピテンシーをお役立てください。
組織の働きがい向上
また、コンピテンシー評価は、組織の働きがい向上にも展開が可能です。
弊社は数々の組織の働きがいを調査しておりますが、その中で、「総合的にみて、『働きがいのある会社』だと言える」という設問と相関が高い設問を分析すると、全60問の中から、「楽しく働ける会社である」や「私は、この会社で働いていることを、胸を張って人に言える」「私は、この会社で長く働きたいと思う」といった設問が上がりました。
総合的にみて、「働きがいのある会社」だと言える | ||
楽しく働ける会社である | ||
私は、この会社で働いていることを、胸を張って人に言える | ||
私は、この会社で長く働きたいと思う |
この観点で考えると、
- 仕事を楽しめる従業員
- 自社での勤務を誇らしく他者に言える従業員
- 長期勤続を希望している従業員
をハイパフォーマーとして設定すれば、働きがいの高い組織を作る上で必要なコンピテンシーが抽出でき、結果、組織の働きがいも高まることにつながります。
この情報を用いて、簡単にではありますが、働きがいのある組織づくりに向けた「ありたい組織像→起こしたい変化→ハイパフォーマーの特定」をまとめてみたいと思います。
皆様の組織に、すべてがあてはまらないにしても、考え方はご参考に頂けると思いますので、貴社の組織づくりにお役立てください。
現在の組織 | 起こしたい変化 | ありたい組織 | |
---|---|---|---|
組織像 | 多くの社員が疲弊し、離職率が高い組織 | 働きがい高く働いている社員が多く集まる組織 | |
関連情報 | 仕事を楽しめていない | 各人の仕事の面白さや、やりがいが会話されている | 仕事を楽しめている |
自社での勤務を、自信をもって他者に言えない | 自社の社会的意義や魅力が社内で発信されている | 自社での勤務を誇らしく他者に言える | |
将来展望がなく、いつ辞めてもいい | 個人のライフプランと、当社に勤め続けるキャリアプランをつなげて会話されている | 自社での長期勤続を希望している |
起こしたい変化 | 変化に必要なハイパフォーマー |
---|---|
各人の仕事の面白さや、やりがいが会話されている | 自分の仕事の面白さを、新入社員に魅力的に語る先輩社員 |
自社の社会的意義や魅力が社内で発信されている | 目の前の目標だけでなく、理念やビジョン、地域・社会の発展と当社・自部署の役割をつなげて語っている部長職 |
個人のライフプランと、当社に勤め続けるキャリアプランをつなげて会話されている | 1on1や評価フィードバックで、本人の人生にとって望ましい道を、様々な情報をもとに会話している課長職 |
いかがでしょうか。
このようなハイパフォーマーの行動特性が、自社内に広がれば、組織の働きがい向上にもつながることと思われます。
さらに、働きがいの高い会社は業績が高い、離職率が低いといった分析も弊社で確認しておりますので、ぜひこのような展開方法もお考えいただければと思います。
まとめ
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
コンピテンシー評価は少し捉えづらく、導入も難しいものですが、うまく使うことができれば非常に大きな効果を期待できます。また展開方法でもご紹介した通り、採用強化や、組織の働きがい向上にも使えるものです。ぜひ貴社で有効活用いただけるのを期待しております。
また、コンピテンシー評価の導入の前提となる、ありたい組織像を見出すための現状把握にあたっては、弊社の「働きがい調査」が大変有効です。自社の働きがいと、働きがいが一定水準以上のベンチマーク企業と比較した強みや成長の機会などの情報は、これからの方向性を検討する素材として非常に多くの示唆をもたらしてくれます。
さらに一定のスコアで受けられる働きがい認定は、企業ブランディングにも大変有効です。
Great Place To Work®の「働きがい調査」は最短2か月で実施可能で、すぐに「コンピテンシー導入」の取り組みにも活用いただけます。ご関心のある方は是非、以下より詳細をご確認ください。
Great Place To Work® Institute Japan コンサルタント 落合 健太
2023年10月、GPTW Japanに参画。働きがいのある会社調査を通じて、組織変革の支援を行う。