【ピョートル・グジバチ】会社に不満があったほうがいい理由

2020.05.15

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国を挙げて推進されている「働き方改革」の多くは、「働きやすさ」の改善に主眼を置いている。それによって不要な長時間労働が是正され、「働きやすい」労働環境が生み出されつつあるが、難しいのは「働きやすい」だけでは働く人のモチベーションは高められず、業績アップにもつながりにくいということだ。毎年「働きがいのある会社ランキング」を発表しているGreat Place to Work® Institute Japan(以下、GPTWジャパン)は、「やりがい+働きやすさ=働きがい」と定義し、働きやすいだけでなく、やりがいも感じられる組織を評価している。
では、「やりがい」を感じられる組織には、どんな特徴があるのか。従業員が働く喜びを感じられる組織を作るために、経営者は何を考えるべきか。GoogleJapanやモルガン・スタンレーにて、長年人材開発やリーダーシップに携わってきたピョートル・グジバチ氏とGPTWジャパンの岡元利奈子氏が意見を交わす。

※本コンテンツはNewsPicksの記事(https://newspicks.com/news/4696506/、2020年3月11日公開)を許可を得て転載したものです。無断転載を禁じます。

働き方の前に、生き方と経営の改革が必要だ

ピョートル 実は僕、「働き方改革」というキーワードの出現当時から違和感があります。極端なことを言えば、働き方自体はどうでもいいんですよ。

たとえば、働き方改革でリモートワークを推し進めれば、それだけ出社する機会が減る。すると、自分できちんと答えを持っていないと、仕事を通じて何を達成したいのか、何を世界にもたらしたいのか、「何のために働いているのか」がわからなくなりがちです。

だから、働き方の前に、個人的なパーパス、ビジョン、ミッションを整える。つまり「生き方改革」が必要だというのが僕の意見です。

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岡元 たしかに「何のために働くか」という理由を個人個人が明確に持っている会社は、みんな前向きで、いろいろなことに自発的に取り組んでいますね。

ピョートル 「働きがい」って僕の簡単な定義だと、明日もすごく出社したいってことなんです。でも、オフィスで「明日、すごく出社したい方、手を挙げてください」と言っても、日本ではなかなか手が挙がらないでしょう。

岡元 もうひとつ、企業が社会に対してどんな価値を提供するのか、そして、どうやって生き残っていくのかという話も働き方改革からは置き去りにされがちだと感じます。

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ピョートル そう。会社は何らかの社会的な価値を生み出して、その価値が認められ、求められて売上が上がるものです。「そのためにはこういう働き方が必要です」という議論になるならわかるのですが。

岡元 今のところ、働き方改革が「どこで働くか」「何時間働くか」という、時間や場所の議論だけにとどまってしまっているのは、私もすごく違和感があります。

もちろん、働きがいを考える上で、働きやすさも大事な要素です。実際、私たちGPTWジャパンが発表している「働きがいのある会社ランキング」に選出された「ベストカンパニー」と呼ばれる企業は、働き方改革が叫ばれるずっと以前から、働きやすさについて真剣に考えています。

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でもそれは、企業として達成したい目標があって、それに向けて一人ひとりに最大限の力を発揮してもらうために、いろんなニーズに合わせていこうという発想から生まれたものです。最初から画一化された「働きやすさ」を提供しようと思っているわけではないんですよね。

ピョートル 働きやすい環境を整えるのはとてもいいこと。だけどその前に、生き方改革と経営改革がなければ、いったい何のための働き方改革なのかわかりません。

働きがいは上から「与えられるもの」ではない

ピョートル 経営者の仕事を単純に定義すると、自分を含めて最低のコストで最大の価値を生みだす仕組みをつくることだと思うんです。

ただし、「最低のコスト」ばかりに目が行って、賃金を低く抑えるだけではすぐに立ち行かなくなります。コスト削減やリストラが行われている企業では、従業員も最小の努力で最大の報酬を得ようとする。すると、いかに頑張らずに定時を過ごし、だらだら残業するかだけ考えるようになる。

組織として、優秀な人に選ばれる仕組みを作って、意欲高く働いてもらえる環境を整えれば、指数関数的な成長の可能性があるんですけどね。

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上記は、2010年のベストカンパニーのうち上場している10社に、2010年3月末に同金額を投資した場合の2019年3月末時点での株価のリターン率を示す

岡元 これだけ労働力人口が減っているなかで、どうやって労働力を確保するかについては、日本企業よりも外資系企業のほうが危機感が高いんです。外資系企業にとっては「企業が頑張ってリテンションをかけないと、優秀な人ほど辞めてしまう」というのが当たり前。

ところが、日本企業は「なんだかんだ言って、一度入社した会社には多少不満があっても、従業員は働き続けてくれる」というのが大前提だった。

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厚生労働省(2017.2)「2016年賃金構造基本統計調査」
U.S.Department of Labor(2016.9)Employee Tenure in 2016
OECD Database (http://stats.oecd.org/) “Employment by job tenure intervals” 2017年8月

ピョートル 率直に言うと、満足度はどうでもいい。むしろ逆に、満足していない状態のほうがいいとすら思います。

やりがいがあって、エンゲージメントが強くて、会社にロイヤリティを感じている。だけど、満足しているのではなく、改善したい。そんな状況だと、「もっとかっこよくできる。やります」と自分から手を挙げてくれるでしょう。

岡元 何に対して満足していないのかということが問題なのでしょうね。現状の事業のやり方や製品・サービスに満足していては何も生まれません。もちろん、単に不満を漏らしてもいるだけでも変わらない。

私たちは「働きがい」を「働きやすさ」と「やりがい」を兼ね備えた状態と定義していますが、現状を建設的に、仲間と一緒に変えることができる環境かどうかというのも、働きがいの重要なポイントの一つですね。

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ピョートル たとえば居酒屋や電車で「うちの会社駄目ですよ」とか「うちの上司はばかですよ」という愚痴を延々言っているのを見ると、すっごく腹が立ちます(苦笑)。

愚痴って、要は「気に食わないことがあるから、何とかしてほしい」という依頼ですよね。だったら「正しい相手」に言うべきですよ。

岡元 「ここは悪いから、明日から変えていきましょう」と改善点をまとめて、アクションにつなげるならともかく、単なる愚痴は時間の無駄ですね。

ピョートル つい最近、誰かに「あんまり怒らないですよね」と言われたのですが、怒りをぶつけるのも時間の無駄。人間関係が崩れてしまえば、リカバリーには時間がかかります。

職場のなかで、自分が周りの人たちに影響を与えていることを認識していないから、無駄に愚痴ったり、怒ったりしてしまうんです。自分自身が職場の働きがいを高めているか、駄目にしているか、考えてから行動すべきですね。

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岡元 「働きがいは会社が与えてくれるものだ」と思っている人もいますが、自分の働き方も人の働きがいに影響を与えるので、実際には相互作用なんですよね。

もちろん企業も努力すべきだとは思います。従業員にとって働きやすい環境を整えたり、仕事に誇りが持てるように、企業としての存在意義・価値を語るべきです。

ただ、同様に、働きがいというのは組織で働く一人ひとりが考えなければいけないことでもあります。明日突然、働きがいが空から降ってくるわけではありません。自分でも仕事の意味や価値を考える必要がある。だから、働きがいを作るのは自身の責任でもあるんですよね。

人事はトライエンドエラーを恐れるな

ピョートル 女性か男性か、日本人か外国人という遺伝子のダイバーシティー以上に、企業が価値を生み出すために欠かせないのは「思考のダイバーシティー」。それを担保するには、公平な仕組みを作って、誰が結果を生み出せるのかを見るべき。

たとえば、妊婦さんに対して「満員電車に乗って、朝9時に出社してください」って、これはとてもじゃないけど公平ではありません。どういうニーズがあって、どう調整すれば公平な環境ができるか、人事は心を砕いてほしいし、企業のトップこそその必要性を認識してほしいですね。

岡元 時折、経営者の方から「どうすれば働きがいのある会社になりますか」と聞かれることがありますが、「それを考えるのが経営者の仕事です」としか返しようがないんですよ。

本気で働きがいを高めることの意味を考えれば、自然と「そもそもうちの会社って何を目指してるんだっけ」「自分はいったい何を実現させたくて、経営者をやってるんだっけ」という問いにつながるはず。

そこを考え尽くしたうえで、企業のミッションやビジョンに合わせて、新しい仕組みを取り入れたり、既存のものを自分たちに合うように修正・調整していく、という順序になるはずです。

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ピョートル 僕は広報から人事に入った人間です。その観点から言うと、やっぱり企業の内部をまず整えておかないといいものは育たないし、どれだけ外にいいアピールをしてもしょうがない。

外観がぼろぼろでも、部屋のなかがきれいで快適だったら、「住んでもいいかな」と思えるじゃないですか。その逆で、外観だけきれいに塗り直してあって、中に入ったらボロボロだとがっかりしますよね。会社も同じだと思うんです。

岡元 「うちの会社はこういうカルチャー、ビジョン、ミッションです」と人事や広報がアピールしても、従業員がそれについて語れないのであれば絵に描いた餅です。企業が掲げているものが個人の仕事に落とし込まれ、職場のなかで皆が意味を考えて、初めて意味があります。

外側だけを「お化粧」してもすぐにばれるので、中身であるカルチャーを育てることが非常に重要ですし、いい会社はちゃんとそれができています。カルチャーって強いんですよ。築き上げるまでは大変ですが、一度定着すれば、ちょっとやそっとでは崩れません。

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ピョートル 正直に言いますが、長く人事の仕事をしてきて、日本企業の人事はかなりレベルが低いと感じています。「人事=採用=労務関係」という固定概念があまりに強固で、人事制度を社員の立場に立って作るという発想がない。人事は、当然守るべき法律もあるけど、最高の実験室、遊び場だと捉えるべきです。

岡元 私はよく「高速でPDCAを回せ」と話します。人事は結局マーケティングなので、「メンバーの一人ひとりが何をやったら動いてくれるんだろう、より力を高められるんだろう」というのは、トライアンドエラーでしか見えてこない。よその会社がやってるからといって、同じようにやっても、決していい結果は得られない。

その企業がどんな価値を提供するかは、トップにしか決められません。それに共感した人たちを集めて、いろいろな意見を出し合いながら、素敵な会社にするために知恵を絞り合い、事業を拡大させ、カルチャーを作っていく。今後生き残るのはそういう企業でしょうね。

(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:木村雅章 デザイン:國弘朋佳)

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