上司が「テレワークに戸惑う部下」に対して注意すべきこと - 鍵は支援
更新日 2020.09.242020.09.24メディア掲載
※本コンテンツはマイナビニュースの記事(https://news.mynavi.jp/article/20200824-1239277/、2020年8月24日公開)を許可を得て転載したものです。無断転載を禁じます。
新型コロナウィルスの流行を受け、テレワークを導入する企業が急激に増加しました。通勤の手間や職場での対人関係が解消され、自宅で黙々と仕事できるのは天国のようだと歓迎の声が上がる一方で、テレワークでは思ったように仕事がはかどらないと悩む人も少なくないようです。
テレワークでサボる社員
自宅だからって、単にサボってるだけじゃないの? ――なんて決めつけてしまう偉い人もいるようですが、それではお話になりません。
「そもそも自宅での仕事でサボってしまう人は、職場内でもサボってしまう人。テレワークによる環境の変化で悩んでしまって、生産性が落ち込んでいるとの声が当社には数多く届いています」と警鐘を鳴らすのは、Great Place to WorkInstitute Japan(以下、GPTWジャパン) 代表 荒川陽子さんです。
テレワークで生産性の低下を実感する層も多い
荒川さんたちの調査によると、テレワークを経験した20~50代の会社員から興味深いデータが浮き彫りになったのです。
※調査期間:6月10~11日
※調査対象: 人生で初めて2週間以上のテレワークを経験し、従業員数25名以上の企業で正社員として働く、全国の20~59歳の男女624名(経営者・役員を除く)
テレワークによる生産性の変化について尋ねると、チームとしての生産性が「向上した/どちらかといえば向上した」と回答した人が15.2%に対し、「低下した/どちらかといえば低下した」が33.5%となりました。
さらに、自分自身の生産性でいえば、「向上した/どちらかといえば向上した」が23.7%で、「低下した/どちらかといえば低下した」が32.8%。テレワークをポジティブに捉える人もいるものの、生産性が落ちたと感じる人の方が10数%ほど多数派ということが判明したのです。
在宅勤務でも"やりがい"を感じられるように
荒川さんによれば、テレワークで生産性が落ちる要因は、一つはハードウェア面にあるといいます。通信環境やPC画面の大きさ、デスクの効率性などが、オフィスに比べてどうしても劣ってしまうため、思ったように力を発揮できないケースがあるようです。これは会社で金銭的な補助を出すしか解決策はありません。
荒川「環境面を整えても変わらないというのであれば、個人の自立性やモチベーションの問題です。そのためには仕事で感じる"やりがい"を、テレワーク環境でどうやって高めていくのか、上司がしっかりと考えなくてはなりません」。
実はテレワークでモチベーション・やりがいが「高くなった」と答えた人限定でいえば、生産性が「高くなった」人が51.4%となっています。
テレワークという形態そのものに問題があるというよりは、本人のやりがいやモチベーションによって、テレワークの効果がガラリと変わるということでしょう。ならば、どうやってネガティブに捉えている人のやりがいを高め、自宅での仕事を前向きに捉えてもらうようにすればいいのでしょうか?
新人教育のような密な対話が、改善の鍵を握る
荒川 「ポイントとしては、自立して仕事ができるように支えていくこと。1ケ月、1週間、1日ごとに目標を定めて、そこに向かって計画を立てて仕事を進めていくとともに、1日の終わりに今日の成果を振り返り、明日からは何をするべきかを整理していきます。
自分の中でPDCAサイクルを回しながら、少しずつ達成感を積み重ねていくことがやりがいにつながっていくのです」。
特に重要なのは、上司や先輩社員と相談しやすい環境を作ることにほかなりません。テレワークであっても、いつでもアドバイスを受けられる安心感が本人のつまずきを解消していく大きなカギとなるはずと話します。
ん? どこかで経験したような、見たような話だな……と思う人もいるでしょう。そう、新入社員に対するOJTと共通しているのです。誰かに悩みを聞いてもらえるというのは、年次を経た社員にとっても心強いものなのです。
荒川 「プロフェッショナリティが高い人材であっても、テレワークだと自立的に仕事できていないケースが見受けられます。だからこそ、キャリアある人にも定期的に1on1ミーティングでコミュニケーションするチャンスを作るべきです。その際、注意したいのは、管理し過ぎないこと。何気ない会話の中で本人のメンタルを確認しつつ、寄り添うように支援していくのが大切です」。
ツールが限られてしまうだけに、リモートで支援をするのは難しい面もあるでしょうが、できる限り一人ひとりと雑談のように対話を交わすことが、テレワークを前向きに捉える人を増やすことにつながるのです。
テレワークだからこそ、上司は今まで以上に部下の変化で敏感であるべき――そう荒川さんは強く指摘します。
テレワークを辞めてしまう企業も
さて、先の調査では、テレワーク環境に満足し、モチベーション・やりがいが高くなった人は全体の約4分の1いることが分かっています。そんなタイプはテレワークで悩める人がいると聞いても、他人事のように感じてしまうかもしれません。
しかしながら、この課題にノータッチでいると、思わぬしっぺ返しを食らうかもしれません。実はテレワーク環境をやめようとする経営陣も少なくないようなんです。
荒川 「コロナ禍でやむなくテレワークをしたものの、社員同士のコミュニケーションが図れないからと、緊急事態宣言解除後、経営者判断でテレワークをやめてしまった企業も存在します。今回は急な導入で課題が悪目立ちしましたが、多くの企業にとってテレワークはプラスの効果をもたらします。利点や課題などを洗い出して経営者と共有しつつ、会社を挙げて少しずつ改善策を講じていくべきだと思います」。
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テレワークにメリットを感じている人こそが、定着への旗振り役となるとともに、悩める人を率先して支えてみてはいかがでしょうか。
取材協力:荒川陽子(あらかわ・ようこ)
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。