スタートアップ企業で働くなら押さえておきたい、「働きがい」のある職場の特徴とは?

更新日 2023.08.242023.08.24メディア掲載

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スタートアップの成長の要は、どこまでいっても「人」だ。
少ない人数で成果を出し続けなければならない組織において、そこで働く人がいかに「働きがい」を持てるかが、成否の分かれ道となる。
昨今、大企業からスタートアップへの転職者が増える一方、激しい事業環境の変化に耐えきれず、入社当時に思い描いていた理想とのギャップに悩み、働きがいを見出せず離職してしまうケースも多い。
スタートアップにおける働きがいとは何か。そして、それを持続させられる組織をつくるには、どうしたらいいのか。
Great Place to Work® Institute Japan 代表の荒川陽子氏と、株式会社LayerX執行役員の石黒卓弥氏との対談を通し、スタートアップで働く意義を考える。

※本コンテンツはNewsPicksの記事(https://newspicks.com/news/8083186/、2023年2月15日公開)を許可を得て転載したものです。無断転載を禁じます。

働く場として、スタートアップの選択肢が増えた

──近年、働く場としてスタートアップを選択する人が増えています。なぜでしょうか。

石黒 魅力的な仕事の選択肢の1つとして、認知されるようになったからだと思います。

「スタートアップは激務でつらい」という以前のイメージから、最近では国の成長戦略の柱として注目されたり、未来や社会をより良くしていこう、という文脈で語られたりすることも増えました。

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投資家からの調達総額も年々増えてきており、スタートアップ界隈にお金がしっかり集まるようになったことで、給与面や福利厚生面での不安も減りました。

また、透明性が高まり、周囲の人から応援されることも増えたのではないでしょうか。各スタートアップが、SNSで自社のリアルな様子や言葉を伝えられるようになったことで、ここなら大丈夫そうだ、と周りの家族や友人にも伝えやすくなり、働く姿がより想像しやすくなりましたよね。

働く場としてスタートアップという選択肢が増えたことで、本当に自分が仕事で達成するべきミッションに改めて向き合えた、という人もいると思うんです。

荒川 自分の人生において大切にしたいと思える方向性や選択肢を、主体的に選び取れる時代になってきているのは、素晴らしいことですよね。

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日本はまだ、雇用の流動性が低いです。会社の大きさや条件面だけでなく、ミッションやビジョンへの共感など、多様な理由で働く場を主体的に選べるキャリアパスが、今後も生まれるといいなと思います。

石黒さんは過去に、NTTドコモからメルカリへ転職されましたが、当時はどのような思いで新しい環境に飛び込んだのでしょうか。

石黒 NTTドコモには、2003年の新卒で入社しました。当時は、FOMAやiモードが全盛期の時代で、素晴らしい会社に入ったなと思ったのを覚えています。ただ、働き始めてしばらくすると、自社に限らず日本の伝統的な企業は、うまくいった時のやり方をずっと続けていることに気づいたんです。このままではいずれ通用しなくなる時が来る、そう思って、新しい価値観や技術を持つスタートアップのコミュニティの方々と接点を持つようになりました。

でも、彼らと関わり始めた当初は、良くも悪くも会社の看板が強すぎて、なかなか一人の人間としてフラットに見てもらえませんでした。

スタートアップコミュニティの内輪に入るためには、組織を1度出る必要がある。そう思ったことが、きっかけでしたね。

荒川 なるほど。環境面は大きく変わったと思いますが、働きがいの面での変化はありましたか?

石黒 働きがいはありましたが、その種類が違う感覚ですね。加えて、正直なところ、転職したばかりの頃は目の前の結果を出すことに一生懸命だったので、働きがいを語れるようになるまで、半年くらいはかかりました。

事業が急成長していくに伴って、めちゃくちゃ生きてる感じというか、ここにいる自分が社会の何かを変えている感覚、まさに「働きがい」を持つことが出来るようになったと思います。

働きがいには、「楽しい」も必要

──「働きがい」という抽象的な概念を、荒川さんはどのように定義していますか。

荒川 私たちは「働きがい」を、「働きやすさ」と「やりがい」の両方を兼ね備えた状態であると考えています。

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まず「働きやすさ」とは、快適に働き続けるための就労条件や報酬条件など、目に見えやすいものです。一方「やりがい」とは、仕事に対するやる気やモチベーションなど、目に見えにくいものを指しています。

やりがいを構成する特に重要な3つの要素があります。それは、「信用」「連帯感」「誇り」です。自分の上司を信用できるか、働く仲間と一体感を持って仕事に取り組めているか、自分の会社や仕事に誇りを持っているか、などです。

全ての要素を完璧に満たすことは理想ですが、現実的ではありません。その人らしい、やりがいのバランスや、満足するポイントを本人が探し出すことが大切だと考えていますね。

石黒 特にスタートアップのような少ない人数の組織では、いかにやりがいを持って働けているか、はとても重要ですね。

僕は働きがいに、「楽しい」の要素も必要だと思っているんです。週に8時間×5日間という、人生のリソースの大部分を、私たちは働く時間に投資します。絶対に楽しいほうが長く続きますよね。それに、そう思える時は仕事の成果も上がりやすいような気がします。

荒川 そうですね。私たちが企業の働きがいを調べる際にも、「楽しく働けるか」を確認しています。「自分自身が楽しいかどうか」だけでなく、「一緒に働く仲間が楽しそうに見えるか」といった質問も設けており、働きがいを語る上では、大事なキーワードだと考えています。

ただ日本の企業で「周りの人が楽しく働いていると思うか」と質問すると、「自分の仕事はある程度楽しいと思っているが、職場の人が楽しいと思っているかは分からない……」といった回答が並ぶんです。

これは周囲の仲間に対する関心度合いの低さを表しているとも言えるため、根深い問題なのかなと思います。

石黒 なるほど。成長フェーズのスタートアップでは、なかなか周囲に気を配る余裕が無くなってしまうこともありますよね。いきなり同僚に関心を持て、と言うのも無理があるので、まずは簡単なところからお互いの距離感を縮めてみるのはどうでしょう。名前の呼び方ひとつでも雰囲気は変わるものです。

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例えば、当社の共同代表のひとりは「福島」という苗字なのですが、みんなから「fukkyy(フッキー)」と呼ばれています。「福島社長」と呼ぶ人が出ると「やめよ、それ」といったやりとりがはじまりますね(笑)

一般的には、社長や上司、知らない同僚って気軽に自分から話しかけづらいですよね。でも職場全体が明るくなるような雰囲気やコミュニケーションの仕組みを意識して作ることで、他人に関心を持つ機会も増えてくるのではないでしょうか。それが、仕事やチームの連携にまで繋がったら、よりハッピーですよね。

働きがいの可視化が、信頼をつくる

──毎年メディアで話題になる「働きがいのある会社」ランキングですが、どのような取り組みなのでしょうか。

荒川 私たちは、世界約100ヶ国で、働きがいに関する調査の結果が一定水準を超えた企業を「働きがい認定企業」、さらにその上位企業を「働きがいのある会社」ランキングとして発表しています。

この取り組みは、グローバルではすでに30年以上続いており、日本でも15年ほどの歴史があります。

ランキングは年に1度の発表ですが、認定のほうは毎月発表しています。そして対象企業の方には、ぜひこの認定を使って社内外に、自社の働き方の良さをアピールしてください、とお伝えしています。実際、スタートアップ企業も多く認定やランキングに名を連ねています。

最近では、人的資本がトレンドということもあり、統合報告書やIR資料の中で「働きがい認定企業・ランキングに選ばれた」というPRや、「現在の働きがいのスコアが●ptで、3年後に●ptまで上げたい」といった改善の指標として、ご活用いただける企業さんが増えてきているんです。

石黒 自社の働きがいに関する状態を客観的に可視化して公開できるのは、スタートアップの採用やPRに役立ちそうですね。

先ほどSNSでスタートアップは自社の様子を伝えられるようになったと言いましたが、実際のところどうなの?といった部分をさらけ出せる企業は限られています。

media_230824_05.jpeg近年、リファラル採用がスタートアップコミュニティでトレンドになっているのは、信頼する方の目線で会社の中のリアルな情報を紹介してもらえるからです。ただ、そうしたツテが無ければ公開されている情報から判断するしかないわけですよね。

そうした時に、客観的な指標である働きがい認定やランキングは、これから働こうと思っている人にとって、第三者目線での会社の良さを知れる非常にありがたいものなのではないでしょうか。

また、社員としても、自社が「働きがいのある会社」ランキングに入っていたら、自己肯定感というか、誇りを持てる1つの理由にもなりますよね。

荒川 そうですね。ランキングを通じて上位にいる他社との比較が出来る点も面白いところです。経営者の方にはぜひ、組織マネジメントや経営戦略の方針としてもご活用いただきたいですね。

色々なメリットは並べつつも、実際にランキングを見て就職を決めました、という声をいただくのが個人的には1番嬉しい瞬間なんです(笑)

──企業規模によって、働きがいの傾向は異なるのでしょうか。

荒川 はい、違います。まず大企業かスタートアップかを問わず、普遍的に最も大切な要素は、先ほども出た「信用」なんです。加えて、規模を拡大し続けている成長企業の働きがいを分析したところ、従業員規模300名未満の企業において、働きがいの高低を分ける特徴的な結果が表れたんです。

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それは、評価や賃金に納得感があるか。300名未満の企業では、人事制度がきちんと整っていなかったり、詳細が社員に開示されておらず、透明性が低かったりします。だから人が増えていくにつれ「あの人を高い給料でスカウトしたらしい」とか、色々なモヤモヤが生まれてしまう。このステージでは、いかに人事制度を整備し、社員に具体的な内容を公開して基準どおりに運用できるかどうかが、働きがいを高めるポイントになります。

特にスタートアップのような従業員300名未満の企業は、働きがいの評価が上下しやすいという特徴もありますね。少しの変化で組織全体の雰囲気がガラッと変わってしまうので、経営層や人事の方は注意して行動する必要があると思います。

石黒 私の肌感覚に近い分析結果ですが、採用の世界では、20名のエースを採用するよりも、1名の異分子を入れるほうが会社に対してインパクトが大きいといわれます。ただ、自社の混乱を望む人はいないですし、異分子はプラスにもマイナスにも働くことがある。そこが組織を運営することの難しさの1つですね。

働きがいは、自ら作るもの

──働きがいが生まれる組織を作る上でのコツはありますか。

石黒 2つあります。1つは、各社員に対して、良いところや伸ばすべきところをしっかりと丁寧に伝えてあげることですね。

働きがいは、私が過去にメルカリで体験した時のように、「自分はこの組織で役に立っているんだ」「社会に対して変化を与えているんだ」といった感情とも言えると思います。

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当社の場合、ちょうど今150名規模の組織で、20名ほどのミドルマネジメント層がいます。小さなことでもメンバー1人1人に対して、ポジティブなフィードバックを伝えるようにマネジメントメンバーは意識するようにしていますね。

また、社員それぞれが、恐れずに自分の得意や好き嫌いをさらけ出すことも、働きがいに繋がると思います。お互いをよく知り合うことで、組織の中で承認されている、という意識を強めることも心理的安全性の面で大切ですね。

荒川 すごく共感します。会社として対外的に働きがいを伝える取り組みに加えて、「自分はどういう働き方だったら1番パフォーマンスが発揮できるのか」「1人でやりたいのか、仲間と一緒にやるほうが向いているのか」など、ストレスの感じ方も人それぞれですよね。

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働きがいを追求するのは社員の権利ですが、会社から自動的に与えられるものではない、ということも考えておくべきではないでしょうか。

自分の特性を理解しながら、会社とのベストなマッチングに向けてすり合わせていく作業でもあるのではないかと思いますね。

石黒 たしかに。例えば「働きがいのある会社」ランキングで1位だからこの企業に入社したい、という方はたくさんいるでしょう。でも、「1位でたぶん安泰だから」という考えの方よりも、「なぜ1位なのかの理由を知りたい」みたいなモチベーションの方のほうが、スタートアップでは活躍すると思うんですよね。

大企業、スタートアップに限らず、働きがいは主体的に自ら作っていくもの、ということですね。

働きがいは、移ろいやすい

──逆に、気をつけるべきことはありますか。

石黒 最初から、私たちの会社の働きがいはこうあるべきだ、と決めつけてしまうのは良くありません。なぜなら、働きがいの中身は、会社のステージや環境でいくらでも変化していくものだからです。私が今回お話しした働きがいは、1つのサンプルにすぎません。

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その時の自然な自分の感情に従ってみて、各人の働き方や仕事の内容を調整していけば良いのではないでしょうか。組織側も、そうした社員の変化に対応できるような柔軟性や、対話の場を積極的に作ることが必要でしょう。

そうした積み重ねが、1人1人の働きがいに繋がり、働きがいのある会社を作っていくのだと思います。

──最後に、スタートアップの方々に「働きがいのある会社」ランキングをどう活用していってもらいたいですか。

荒川 先ほど言ったとおりランキングを採用や広報に活用いただきたいのは勿論ですが、それと同時に、ランキングの元になっている「調査」自体も、スタートアップ企業にこそ必要なものです。組織の健康状態を知るための、1つの指標として活用いただきたいですね。

先ほど石黒さんが言った、働きがいは移ろいやすい、を肝に命じておくことは大事だと思っています。今この瞬間にいい人が採用できたとか、勢いがあったとしても、規模を拡大する中で必ず働きがいのスコアが下がる瞬間が訪れます。

そうした気配に敏感になっていただきたいですし、困難を乗り越えるために、働きがいが可視化されるツールは、必ず役に立つのではないかと思います。

私は働きがいを高めるということを、業績向上や離職率低下だけの手段では終わらせてほしくないと思っています。そうではなくて、それ自体が目的となり、働きがいがある職場が当たり前となる世界を、これからもスタートアップの皆さんをサポートしながら作っていきたいですね。

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