人手不足時代、「働きがい」のある会社に人材が集まってくる

更新日 2018.10.042018.04.08オピニオン

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市場調査

「働きがい」に関する経営層と若手の意識調査

今年1月の全国の有効求人倍率は1.59倍と前月に引き続いて高い水準となった。外食産業などではスタッフが確保できず、休業に追い込まれるケースも出始めている。では、今、どんな会社に人材が集まるのか。日経BP総研の調査によれば、若手従業員の間で「働きがい」を重視する傾向が見えてきた。働きがい向上が経営にどのような影響を及ぼすのかを考えていく。

人手不足が深刻化している。2018年新卒採用市場においても、従業員規模にかかわらず採用数を増加させるとしている企業が多く、人材の獲得競争は激化する一方だ。

2018年1月の全国の有効求人倍率は1.59倍(季節調整値)で、前月に引き続いて高い水準。バブル期の1.46倍(1990年7月)を超えるレベルが、2017年4月以降10カ月も続いている。

そこで日経BP総研が今年3月に、企業経営者200人への緊急アンケート(注)を実施したところ人手不足が「深刻な状況(11.0%)」「深刻な状況になりつつある(39.5%)」と約半数が危機感を募らせていることが分かった(図1)。

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そして、その影響は「人件費の高騰(42.0%)」「業務の自動化、機械化の検討や導入(31.0%)」などを中心として広範囲に及んでいる(図2)。

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では、この人手不足はいつまで続くのか。東京オリンピックが開催される「2020年頃まで(34.7%)」「2025年頃まで(25.7%)」という声が多かったが、注目すべきは「以後ずっと」との回答が31.7%に及んだことだ(図3)。

少子高齢化が進む中で、ピーク時の1995年には生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が8700万人を超えていたものが、2015年には7592万人に減っている。さらに、その先の2060年には、4418万人とピーク時の約半分の水準に落ち込むと予測されている(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。

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若手社員が職場を選ぶ基準に 「働きがい」が浮上

一方で、若手従業員の方はどう感じているか。
同じ時期に、やはり企業で働く20代の若手ビジネスパーソン200人に対して緊急アンケート(注)を実施したところ、「条件が合えば別の職場で働いてもよい」という回答が41.0%に上った。「なるべく早く他の職場に移りたい(9.0%)」「すぐにでも退職したい(8.5%)」を合わせれば、58.5%が転職に前向きとみられる。売り手市場の中で、チャンスがあればもっと自分に合った職場に移りたいという意識が強まっている(図4)。

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では、若手社員が職場を選ぶうえで重視することは何か。
「給与待遇が良いこと(33.5%)」「福利厚生が充実していること(27.0%)」に次いで、「女性が働きやすい環境であること(17.5%)」「働きがいを感じられること(17.0%)」「公正な会社であること(14.5%)」「尊敬できる上司、先輩がいること(12.5%)」「仕事内容に誇りが持てること(11.0%)」などが挙げられている(図5)。

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給与や待遇ばかりを重視する風潮から、働きがいや会社や仕事に対する公平性などを多面的に見る動きが広まっていることが浮かび上がる。

若手が重視するこうした要素を改めて分析していくと、マネジメントに対しては「信用」「公正さ」などを求め、仕事の中身に対しては「達成感」「誇り」、同僚に対しては「連帯感」を求めていることが浮上した。こうした要素は、最終的には「働きがい」につながっていくことになる。

また、働きがい向上は採用面だけでなく、離職率の引き下げにも効果が期待できる。

1960年代に、米臨床心理学者のフレデリック・ハーズバーグは、職場と従業員のモチベーションとの関係についてまとめた「動機づけ・衛生理論」において、「不満要素をいくら減らしても満足感の向上にはつながらず、仕事の満足感を引き上げるにはその動機づけを変えていくしかない」と分析している。満足度が離職に影響しているとすれば、離職率の低下においても、働きがいの向上が有効であるわけだ。

新卒1人当たりの採用コストは平均40万~50万円といわれている。しかし、研修や給料、受け入れなどにかかる経費などを考えれば、退社に至った場合の損失は入社して1年目でも200万円以上とされる。入社して3年となれば、ノウハウや人脈も培われており、会社側とすれば本来貢献を期待したいところである。加えて、こうした人材の退社が続くことが、残った社員に与える心理的ダメージはことのほか大きい。新規採用が難しくなり、人材の定着を図ることがますます重要になる中で、従業員の「働きがい」を引き上げていくことは経営者にとって不可欠となりつつある。

さらに、社員のモチベーションが高まることで、新規事業開発や顧客サービスの向上などにもつながってくる。従業員満足度(ES)の高い会社は、顧客満足度(CS)が高いといわれているが、このESは働く環境、そして働きがいに大きく左右される。また、CSが高い企業は一般的に業績が高位安定する傾向が強いことから考えても、従業員の働きがいが業績に与える影響は大きい。

SNSが普及し、従業員が感じた社内での不満が簡単に外部に伝わるリスクも高まっている。そうした「レピュテーションリスク」を抑えるうえでも、日本企業にとって働きがい向上は待ったなしである。

伊藤 暢人(いとう ながと)

日経BP総研 マネジメントソリューション局長補佐、中堅・中小企業ラボ長

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中小企業経営研究所(現 中堅・中小企業ラボ)の設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の企業経営に詳しく、経済産業省や東京都などが主催する賞の審査員を歴任。

注: 調査概要

「働きがい」に関する経営層と若手の意識調査 日経BP総研調べ、調査協力: (株)ネオマーケティング(インターネット調査)

調査実施時期
 2018年3月12日〜15日

調査方法
 インターネットによるアンケート調査(設問数: 経営層9問、若手10問)

調査対象者
 (1)経営層(会社経営者、役員、団体役員、): n=200
 ・回答者平均年齢 57.01歳
 ・経営する企業の従業員数 1000名以上: 100名
 ・経営する企業の従業員数 100名以上1000名未満: 100名

 (2)若手層(20代従業員): n=200(正社員: n=181、派遣・契約社員: n=19)
 ・回答者平均年齢 26.89歳
 ・勤務先の従業員数 1000名以上: 100名
 ・勤務先の従業員数 100名以上1000名未満: 100名

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2018年3月~5月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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