働き方改革は新フェーズへ "働きがい"こそが企業成長の核心

2019.01.30

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2019年1月16日、「働きがいの高い組織こそ、これからの企業成長の核心」と題した特別セミナーを開催。組織論、リーダーシップ論に関する書籍も多く、人材マネジメント分野の開拓者である明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授の野田稔氏を招き、日本の「働き方改革」の変遷と、これから企業が取り組むべきことを語っていただいた。

働き方改革は新たなフェーズに突入

日本の働き方改革は、フェーズ・チェンジをすべきときがやってきました。先進的な企業は、かなり前から働き方改革の新しいフェーズに足を踏み入れています。働きやすさだけではなく、「働きがい」を高める工夫をしているのです。

これまでの働き方改革は、一言で言えば、脱・恒常的長時間労働です。多くの日本企業は「プレゼンティーズム(presenteeism)」と呼ばれる問題を抱えています。大雪だろうが、台風だろうが、とにかく這ってでも会社に出てくることは出てくる。しかしながら、恒常的長時間労働の影響で体も心も疲弊し、生産性があがらない。この問題を解決するために働き方改革に取り組み、現在、日本企業の月平均残業時間は約20時間まで減少しました。それでも社員たちは意外と冷めています。「やるべき仕事は減らないのだから、どこかで帳尻合わせしないといけない」などと考えているからです。

ある会社は水曜日を定時退社と決めています。ところが、水曜日になると近場のスターバックスが夕方から混雑するそうです。社員がそこで仕事をしているわけですね。つまり仕事の中身が変わらないのに、時間だけ削ろうとするからこういうことになる。そこで、私が提案したいのは、働き方をレボリューションしましょう、ということです。

これまでの働き方改革では、アウトプットを変えずにインプットを減らすことばかりに力が注がれていました。しかしながら、インプットを減らすのには限界があります。AIやRPAなどの技術を導入して効率化はできますが、それでもゼロにはなりません。ではどうするか。いかにインプットを減らして劇的にアウトプットを増やすか考えていくことが求められます。それを実現させるには、イノベーションが必要です。

opinion_190130_01.jpgイノベーションは科学技術の進歩を伴ったものである、という固定概念を持った人もいると思います。オーストリアの経済学者であるシュンペーターは、イノベーションを「新結合」であると定義しました。古いものも新しいものも関係なく、結合することで新しい社会的価値を生み出したら、それはイノベーションなのです。

具体例を挙げましょう。国連機関のユニセフは伝染病撲滅運動を展開しています。オフロードビークルで荒野を走り、村々をめぐるというやり方です。ワクチンは熱で変質するため、車には冷蔵庫も積んでいます。アフリカの過酷な環境では、車の燃料費や修理代がかさむため、あるとき予算不足で活動の継続が難しくなりました。伝染病は撲滅するまで続けないとあっという間に元に戻るので、やめるわけにはいきません。担当者は頭を悩ませた末、ラクダにソーラーパネルと冷蔵庫を積みました。結果としてコストが大幅に下がり、伝染病撲滅活動はむしろ以前より拡充できたそうです。担当者の何とかしたいという思いが、科学技術に依存したものではなくイノベーションを起こしたわけですね。

新しい価値を生み出す組織に必要なもの

opinion_190130_02.jpgこれから新しい価値を生み出し、企業間競争に打ち勝つのは、社員が「人にしかできないこと」に集中して取り組んでいる企業だと思います。では、人にしかできないこととは何か。例えば「遊ぶこと」ですね。私が野村総合研究所で働いていたころ、お茶の時間がありました。出張から帰ってきた人のお土産を食べながら、その報告を聞いていました。これが非常におもしろいし、国際情勢を知るきっかけにもなっていたのです。要するにお茶の時間は遊びのようなもので、知的好奇心を刺激し、頭を活性化させてくれました。ところが一時期、お茶の時間が廃止されたことがあります。このように、表面的な生産性向上にとらわれて、遊びを切り取ってしまった企業は少なくありません。

「対話」も非常に重要です。私たちコンサルタントが教わることの一つに、「お客さまは本当にほしいものを言語化できていない」というものがあります。お客さまの表面的な言葉を真に受けて、その通りにすると失敗するのです。真のニーズを引き出すには深い対話が必要。対話のレベルを上げないと競争に勝てません。ほかにも、仲間を慈しむとか育てるとか、人間本来のアクティビティに目を向けるべきだと考えています。

新しい価値を生み出す、働きがいのある企業を経営学的な定義にあてはめると、「組織の目的や目標を組織構成員全員が共有して、主体的・自発的に協働しながらこれを達成しようとしている」ということになります。また、「目標に向かって一丸となっている」「情報共有を重んじている」など内側がまとまっている傾向にあり、「社会貢献を重んじる」「社内より顧客を重んじる」という具合に目が外に向いている特徴があります。

また、組織市民行動論という経営学の一分野では、社員が”市民“であることが重要である、と説きます。ここでいう市民とは政治学的な市民です。市民は、第一に自立しています。全体を配慮した意思決定ができ、目先のことだけではなく中長期のことも考え、社会に対する責任も果たします。市民の反対は奴隷です。大衆とも言い換えられるかもしれませんが、彼らは利己的であり、目先のことしか考えられません。大人と子供の違いにも似ています。

組織市民としての大人的な行動とは、どのようなものか。仕事の意義を感じながら真摯に働き、困っている人がいれば手を差し伸べます。規則の意味を理解した上で順守し、自社の未来に貢献したいと願っています。このような組織市民的な行動が業績に寄与することは、経営学の研究結果でも明らかになっています。

イノベーティブな企業が取り組んでいること

opinion_190130_03.jpg社員が自ら価値を創造する環境をつくるためには、心理的安全性の確保が欠かせません。Googleが4年間、組織開発の研究をした結果わかったこと。それは、成果をあげているチームには、心理的に安全な環境があるということでした。そのチームの中では誰もが素のままの自分でいられて、それをみんなが受け入れてくれます。だから失敗を恐れずに挑戦できるわけです。

心理的安全性を重視するリーダーシップ論もあります。セキュアベース・リーダーシップといって、リーダーはチームの安全基地、セキュアベースのような存在になることでメンバーの創造力を解き放つことができるという考え方です。ただし、これはメンバーを甘やかすのとは違います。最大限高い目標を与えたうえで、「失敗しても大丈夫、俺が面倒見るから。だから目標から逃げるなよ」というスタンスで、メンバーをサポートしているのです。

社員が自らチャレンジし、新しい価値を生み出すイノベーティブな企業には、コミュニケーションにも特徴があります。例えば、トヨタ自動車の「『なぜ?』を5回繰り返す」というのは有名ですよね。部下が問題を抱えてきたときに、答えを与える上司は2流です。優れた上司は「何が原因だと思う?」と部下に問いかけます。ただし、最初に出てくる答えは浅いです。生煮えの答えに対して「なぜ?」をかぶせていくことによって、答えを深めていきます。本当の原因に、部下に自分でたどり着かせるというわけなんです。

リクルートの日常的な口癖にも、特徴的なものがあります。毎日のように「で、お前はどうしたいわけ?」と聞かれるのです。そこで自分が何をやろうとしているのか言えないとダメなんですね。これは部下が上司に対しても言います。私はリクルートに執行役員待遇で在籍していたことがありますが、2年目くらいの社員も「で、野田さんは何をやりたいんですか?」と言ってくるわけです。「失礼なヤツだなぁ」なんて思いつつも、ルールだから自分が考えていることを話しますよね。もし、その話がつまらなそうだと、「ふーん」と聞くだけで帰ってしまうんです。おもしろそうなら「自分にもやらせてください」となることもあります。リクルートには、社員全員が新しいことに挑戦することを良しとする文化があるのです。

最後に、カリフォルニア大学デービス校のエモンズ教授の言葉を紹介させてください。エモンズ教授は、幸福な人生には、4つの要素が必要だと言いました。まずやりがいのある「仕事」。続いて目先の利益を超えた「理想」、そこに向かう「高い目的意識」と「社会とつながっている実感」です。会社はこの4つ全てを提供できる存在だと思います。幸福な人生を送る社員は間違いなく会社の業績に貢献します。私たちはただ単に利益のためだけに会社を経営しているわけではありませんよね。働きがいのある会社は、社会に貢献し、社員の幸せを実現するために、志高く経営をしています。それが巡り巡って業績に跳ね返ってくる。この循環をつくり出していくことが、今我々に求められていることなのです。

■質疑応答

Q.トップダウン型の組織で成功してきたこともあり、現場で一人ひとりが価値を創造することが重要であることがわかっていても、なかなか実践できそうにありません。なかにはトップダウンを企業文化だと思い込んでいる社員も。組織を変えるために何から始めたらいいのでしょうか。

A.『サピエンス全史』という非常に面白い本がありまして、そこには人も猿も150個体を超えると一体感がなくなると書かれています。防水繊維で有名なゴアテックスをつくるゴア・アソシエイツという会社は、150人に到達したら組織を分割するそうです。質問者さんの会社の文化にもグラデーションがあると思うので、まずは150人以下の事業部をつくって先行事例をつくることをお勧めします。全体を一気に変えるのは難しいですから。きっと御社にも、家族主義的にやりたい、自ら価値を生み出すような働き方をしたいという人はいますから、まずはその人たちを集めるところから手掛けてみてください。

野田 稔氏

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明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 
株式会社リクルート リクルートワークス研究所 特任研究顧問

(株)野村総合研究所、(株)リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て2008年より現職。
大学院で学生の指導にあたる一方、大手企業の経営コンサルティング実務にも注力。
これまでのテレビ出演は、TBS系列『ブロードキャスター』コメンテーター、日本テレビ系列『ズームインスーパー』ニュース解説担当、NHK総合『経済ワイド ビジョンe』メインキャスター、同『Bizスポワイド』メインキャスター、NHKEテレ『仕事学のすすめ』トランスレーター、BSジャパン『7PM』メインキャスターなど。
現在は、TOKYO MX『モーニングCROSS』(毎週月~金曜・7時~8時30分)にレギュラーコメンテーターとして出演。

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