地方企業の働きがいの鍵は地域・社会貢献のPRと多様な人材の活躍機会の強化 /2025年版地域別ランキングで見えてきたこと

更新日 2025.05.292025.05.29レポート

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日本の地方企業では、人材確保の難しさや、IT化・デジタル化など、イノベーションが起きやすい環境整備が遅れている点などが共通の課題として挙げられることが多くあります。一方で、東京の企業では人も集まりやすく、イノベーションに関しては常に新しい波に乗り遅れないよう、先進的な取り組みを続けている印象があります。では、実際に東京に本社を持つ企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのでしょうか。GPTW Japanが2025年5月に発表した各地域における「働きがいのある会社」ランキング(以下、地域別ランキング)を分析し、地方において働きがいを高めるヒントについて解説いたします。

地域別ランキング企業の働きがいは東京の働きがいトップ企業と同水準

一般的には地方は東京と比べると人材確保やIT化・デジタル化などの面に課題が多いと言われることが多くあります。そのような意味では、従業員の働きがいについても同様に、東京の企業の方が高いイメージを持っている方も多いかもしれません。

そこで、ランキング評価に使用している従業員アンケートの結果を基に、東京の働きがいトップ企業と、東京以外に本社を置く地域別ランキング企業の比較を行いました。GPTWの30年以上の研究に裏打ちされた、企業の働きがいを評価する60の設問を基に各社の「働きがいスコア(※1)」を算出したところ、地域別ランキング企業の働きがいスコアは東京の働きがいトップ企業より2.6pt高い87.0%となりました。働きがいの意識が高い企業においては、本社が東京か地方かということに関係なく、働きがいを高められていると言えます。

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1 GPTWの従業員向けアンケートでは、選択式設問60問に対し15段階で評価する形式となっており、その中で4または5の肯定回答率を集計し、スコア化しています。

地方企業は地域社会への貢献が強み、一方で多様な人材の活躍に課題あり

働きがいと言っても様々な要素があり、企業によって組織の強みや課題は異なります。今回の地域別ランキングの調査結果から、東京以外にある企業ではどのような点が強みと言えそうか、また、さらに伸ばしていく必要のあるものは何か、分析しました。

働きがいを評価する60の設問のうち、東京の働きがいトップ企業の従業員と比べ、地域別ランキング企業の方が高く評価された設問の上位5つは以下のとおりでした。地域別ランキングに選ばれた企業で働く従業員は、“この会社は、地域や社会に貢献していると思う”という設問に対して東京の働きがいトップ企業より7.6pt高く回答しており、貢献実感が強いことがうかがえます。また、能力開発機会への満足度も同様に東京の働きがいトップ企業より7.6pt高いです。

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なお、この傾向は働きがいトップ企業だけの傾向ではありません。評価対象となった働きがいが低い企業を含むすべての地方企業と東京企業を比較しても、東京企業より地方企業の方が特に高かったのが“この会社は、地域や社会に貢献していると思う”(+4.8pt)でした。地方企業は、地域や社会への貢献実感が高いことが強みと言えます。

逆に、地方企業が東京企業より特に低い設問を確認すると以下の通りとなりました。性別や年齢、性的指向などに関係なく正当に扱われるか、働きに見合った報酬が支払われるかなど、公正に扱われているかを問う設問が多く、多様な人材が活躍できる環境づくりは、東京と比べまだ伸び余地があると言えます。

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イノベーションにつながる企業風土づくりのため、地方企業は特に“従業員の声を聴く”、“新しいことへの挑戦を称賛する”ことへの注力が重要

地方企業では、人材確保の課題に影響してかIT化やデジタル化の遅れについても課題と言われています。例えば昨今AI活用が進んでいますが、労働者が新しいAI技術を使いこなすスキルを持っていない場合、競争上の不利な状況に陥る可能性があります。後れを取ることを避けるためには、経営者はデジタルインフラと人的資本の両方に投資する必要があります。そのためには、従業員が新しい技術を積極的に導入し、組織内でイノベーションを推進するような文化を醸成していかなくてはなりません。

GPTWでは、イノベーションに繋がる企業文化を作るには、「その結果を問わず、新しい方法や改善に挑戦している人が称賛されていること」「経営・管理者層が、まじめに従業員の提案や意見を求め、それに対応していること」「経営・管理者層が、仕事や職場環境に関する意思決定に従業員を参画させていること」が重要だと考え、アンケートの内容に含めています。なお、新しいことに挑戦する人が称賛されることは、従業員の生産性や組織全体のアジリティ(俊敏性)と相関関係にあることがわかっています。新しいことへの挑戦が称賛されていると回答した従業員は、変化に迅速に適応する可能性が69%、仕事に一層努力する可能性が18%高くなります。(※2)

地域別ランキングに選ばれた企業ではこれら3問に対して従業員の83.4~89.0%とかなり多くの人数が肯定的に回答しており、東京の働きがいトップ企業より3.3~3.9pt高くなっています。東京以外にある企業であってもイノベーションにつながる文化づくりが推進できていると言えます。

一方で、すべての地方企業と東京企業を比較すると、1問を除き東京より低くなっています。多くの地方企業においては、イノベーションにつながる企業風土を作っていくにあたり、従業員の提案や意見を求め対応する機会、新しいことに挑戦する人を称賛する機会をさらに増やしていけると良いでしょう。

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※2 Great Place To Work® Institute. “At Best Workplaces in Asia, Building Trust Prepares Employees for AI ”より

まとめ

昨今、地方の人手不足が大きな問題となっている中で、優秀な人材を惹きつけるためには、「働きがい」を備えた会社を目指していくことこそが重要な鍵となります。

今年の地域別ランキング選出企業は、東京の働きがいトップ企業平均よりも高い働きがいスコアが出ています。働きがい向上に意識の高い企業においては、積極的に取り組みを推進することで、地方企業であっても東京企業に遜色ない、むしろ上回る形で働きがいを高めることができることがわかりました。

一方で、これから働きがいを高めていく地方企業は、どのように働きがいを高めればよいのでしょうか。GPTWでは、自社の強みと課題を把握し、強みを伸ばし、課題を成長の機会と捉えて改善することをおすすめしています。今回の分析から、地方企業の強みは地域・社会への貢献実感が高いことであることが分かりました。一方で、東京に比べ多様な人材の活躍推進が伸び余地となりました。

地域・社会への貢献実感を高めるために、働きがい認定を取得している会社の取り組みをご紹介します。地域・社会への貢献実感は、企業活動そのものから感じられるものもあれば、その他の地域貢献などの取り組みから感じられるものもあります。企業活動そのものについては、お客様からの声を積極的に社内共有したり、全社イベントにお客様をお招きし、感謝のメッセージを従業員に伝えてもらうなどの取り組みで、貢献実感を高めることが可能です。その他の地域貢献などの取り組みとしては、ある企業では地域のごみ拾いのボランティアを実施する、地域住民を招くお祭りなどのイベントを開催する、といったことが行われており、従業員が直接地域への貢献を実感しやすい工夫と言えます。

対して、多様な人材の活躍促進事例としては、誰もが自分らしく力を発揮するために従業員リソースグループを構築し、「性別」、「世代」、「障がい」など取り組むテーマを決め活動が行われている企業があります。メンバーのアイディアをもとに、交流機会やイベントなどが企画されているようです。また、世代を超えて多様な価値観やスキルを共有する目的で、リバースメンタリングを導入している企業も増えてきています。通常のメンタリングとは逆のアプローチで、若手が先輩や上司、時には役員に対して知識やスキルを共有し、お互いに刺激を与えあう取り組みです。

まとめると、地方企業は強みを伸ばすために積極的に顧客からの声を共有するなど、貢献実感が得られる機会を増やすことが重要です。そして、性別や年齢などに関わらずあらゆる人が活躍できるよう、テーマ別の活動やお互いの強みを活かしあうような、双方向のコミュニケーションを強化する施策などを行うことで、さらに働きがいの高い職場づくりにつながるでしょう。

人手不足と同様に地方企業の課題としてよく挙げられるのがIT化やデジタル化の遅れです。イノベーションにつながる企業風土づくりの観点では、地方企業はさらに“従業員の声を聴く”、“新しいことへの挑戦を称賛する”機会を増強していくことで、東京企業との差を埋めて行けることが明らかとなりました。

働きがいの高い企業では、従業員の提案や意見を求め対応する機会として、会社の方針発表の場などで、一方的に伝えるだけでなく必ず従業員からの質問や意見を得るようアンケートや座談会などの場を作り工夫する、といた取り組みを行っています。また、従業員による委員会などを設け、働きがいを高める企画を従業員自ら検討するといった事例もあります。加えて、新しいことや改善に挑戦する人を称賛する機会の事例としては、あえて失敗事例を紹介し合い「新しいことを試みた良い失敗」を称えることで、チャレンジをしやすくするような工夫が行われています。自社の文化に合う形でぜひ取り入れていただきたいと考えます。

上記を参考に、強みを伸ばし、成長の機会に対応をしていくことで、場所にかかわらず働きがいの高い組織を作ることができ、地方企業に多いと言われる人手不足やイノベーションなどの課題へも対応していくことができると考えます。 

働きがいを高め、ブランディングに活用する

今回の分析は、東京都以外に本社を置く地方企業に見られる傾向を捉えたものであり、地方企業と一口に言っても企業によってその特徴は異なります。自社の特徴を把握し、働きがいを高めるために何をすべきかを明らかにするためには、エンゲージメントサーベイと呼ばれる従業員へのアンケート調査が有効です。

世界約170ヶ国、21,000社以上で導入されているGPTWのエンゲージメントサーベイの詳細は以下よりご覧ください。

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また、GPTW Japanでは、エンゲージメントサーベイの結果が一定水準以上の企業を「働きがいのある会社」として認定したり、その中から特に優れた企業を「働きがいのある会社ランキング」として発表したりする取り組みを行っております。第三者機関からの認定は採用やその他ブランディングにおいて高い説得力を持つため、優秀な人材確保などに効果を発揮します。認定によるブランディングに関心がある方はぜひGPTW Japanへご相談ください。

>>>「働きがいのある会社認定」について詳しい情報を見る

「働きがいのある会社」ランキング及び地域別ランキングについて

GPTWでは、ランキング参加企業にアンケート調査を実施し、その結果が一定レベルを超えた会社を「働きがいのある会社」として世界約170ヶ国で発表しています。アンケート項目と評価基準はグローバル共通です。 

各地域における「働きがいのある会社」ランキングは、 「働きがい認定企業」(2023年7月~2024年9月調査実施)の中で「東京都以外に本社所在地がある」企業の中から、主に働く人へのアンケート結果を基に選出しています。

調査内容

「働きがいのある会社」調査は、GPTWが提唱する’’全員型「働きがいのある会社」モデル’’に基づく2種類のアンケートで構成されます。

働く人へのアンケート
選択式設問(60問)・自由記述式設問(2問)・属性・認識を問う設問(8問)に、働く人が無記名で回答

会社へのアンケート
企業文化や会社方針、人事施策(採用、経営層からの意見浸透、従業員からの意見聴取、人材育成、ダイバーシティ、ワークライフバランス、社会・地域貢献活動など)の具体的な取り組み内容を会社として回答

集計方法

  • 働く人へのアンケートの選択式設問の肯定回答率をスコアとして算出し、60設問の平均スコアが一定水準を超えた企業を、「働きがい認定企業」として発表しています。
  • 東京企業または地方企業についての分析対象としては、本社所在地情報が登録されている379社となっています。なお、本記事では、分かりやすさのため東京都以外に本社所在地がある企業を総じて地方企業と呼んでいます。また、2025年2月に発表した、2025年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングに選出された企業を「東京の働きがいトップ企業」と総称しています。2025年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングに関しては2025年版「働きがいのある会社」ランキングページをご確認ください。

Great Place To Work® Institute Japan コンサルタント 岩佐 真裕子(いわさ まゆこ)

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保険会社にて、営業・企画などを経て、Great Place To Work® Institute Japan に参画。
大手企業を中心に各社の調査実施のサポート、分析、経営層への提言や働きがい向上支援を行う。さらに、調査データの分析研究やグローバルでの調査プロジェクト対応などにも幅広く携わっている。

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