データが明かすシニア活躍企業の3つの共通点|シニアランキング1位DHL事例とともに解説
更新日 2025.09.252025.09.25レポート

少子高齢化による人手不足などを背景に、定年延長や再雇用制度など、シニア従業員の活躍を後押しする環境整備は進みつつあります。健康であれば働き続けたいと思うシニア従業員にとってはキャリアが延長され、長年のうちに培われた経験やスキルで引き続き企業や社会に貢献できることは素晴らしいことです。
一方で、役職定年制度等、年齢を理由に一律に適用される制度は一部の企業で存在しており、本人の健康や家族の問題など年齢特有の事情を懸念する企業も少なくありません。こうした課題に対する対応は企業ごとにまだ差がある状況であり、シニア従業員の働きがいは、職場によってばらつきが見られています。
この度、Great Place To Work® Institute Japan(以下、GPTW Japan)では、働く従業員にアンケート調査を実施し一定水準を満たした「働きがい認定企業」の中から、特にシニア従業員(55歳以上の一般従業員)の働きがいが高い企業をシニアランキングとして発表しました。
本レポートでは、シニア従業員のアンケート結果を分析し、シニアの働きがいの高い企業の共通点を掘り下げています。さらに大企業部門で第1位に選ばれたDHL Express(DHLジャパン)の取り組みも紹介していきます。
シニア従業員の働きがいが高い職場の共通点とは
2025年版「働きがいのある会社」ランキングに選出された企業を、シニア従業員(55歳以上の一般従業員)の働きがいが高い群(シニア上位群)と低い群(シニア下位群)に分類し、従業員アンケート結果の分析を行いました。
特徴1)人事処遇が公正である
シニア上位群とシニア下位群の比較をしたところ、働きがいを測る設問の肯定回答率において、両群のギャップの大きい設問は以下の5つとなりました。
“適切な人材配置”、“昇進”や“報酬”に対する納得感等、人事処遇の公平性にギャップがみられました。シニア従業員に対して役職定年制度や再雇用制度等、一律の制度により役職や処遇が下がる企業では不満を抱きやすい状況が考えられます。またベテランであるが故に部署や職種に長年変化のないキャリアが続く場合、モチベーション維持が難しくなっている可能性も考えられるでしょう。
シニア上位群では、こうした人事処遇面において公平感のある制度、運用がされていることが考えられます。
特徴2)安心して働ける環境がある
続いて、“経営・管理者層の言行一致”や“安心して働ける環境”の肯定回答率についても差がみられました。シニア従業員ともなれば一般的には会社のカルチャーや仕事には十分馴染むことができており、心理的安全性は他の年齢層よりも高いイメージがありますが、一方で社内の変化への対応や新しい技術の取得については、不安を感じやすいことがあるかもしれません。
シニア上位群では、マネジメントの普段の言行が一致していることで組織への信頼感があり、精神的にも安心感を持って働ける環境があることが強みになっています。
特徴3)シニアだけでなく、誰もが働きがいが高い
シニア従業員の働きがいが高い職場では、もしかすると人事制度やカルチャーとしてシニア従業員が優遇されており、若手従業員の活躍の場が限定的であるという見方があるかもしれません。
そこで、シニア上位群におけるシニア従業員と若手従業員の働きがいを示す“全設問平均”についても確認をしたところ、両者とも80%を超える高い状態であることが分かりました。年齢などの属性によって働きがいの差が小さく、組織の誰もが働きがいが高いことが示唆されているといえるでしょう。
一方で、シニア下位群では、少なくともシニアと若手従業員に11pt差(有意差あり)と大きな乖離が見られました。
シニアランキング第1位 DHLジャパンの取り組み ~データ分析で見えた3つの共通点を体現する実践事例~
ランキング上位企業の取り組みに目を向けると、こうした共通点が生み出される背景がうかがえます。具体的にどのような仕組みや工夫があるのでしょうか。実際に、2025年版シニアランキング大規模部門で1位を獲得したDHL Expressの日本法人であるDHLジャパン株式会社の代表取締役社長 トニー カーン様にお話を伺いました。
取材で伺ったところ、DHLジャパンは「人への投資こそが最大の成果を生む」という信念のもと、年齢に関わらず誰もが安心してキャリアを築ける環境を整えてこられたそうです。リーマンショック後の苦境に立たされていた時期もその信念は揺らぐことなく積極的な人材への投資を行い、その結果、2010年からわずか2年で、多額の赤字を抱える状況から黒字へとV字回復。大きなM&Aやリストラを行ったわけではなく、人材に焦点を当てた「“People First” strategy(ピープルファーストストラテジー)」が成功の原動力となりました。
DHLジャパンがシニア従業員を大切にする理由
トニー カーン社長によると、同社がシニア従業員を大切にする理由は明快だといいます。「健康で意欲があれば、その長年の経験は次世代にとってかけがえのない財産になる」との考えから、年齢による制限は原則設けていません。これは、データ分析で明らかになった特徴1『人事処遇の公正さ』を体現する取り組みといえるでしょう。むしろ「経験を伝えることが会社と社会への貢献につながる」という価値観が共有されており、65歳を超えても活躍を続ける社員も存在します。こうした姿勢が「この会社でなら安心して年齢を重ねられる」という信頼感につながっています。
同社では、シニア従業員の活躍を後押しする具体策も整備されています。その代表が「CIS(※)パスポート」です。これは全社員が携帯するパスポート風の冊子で、CISと呼ばれる一連の社員トレーニングの進捗などを記録しています。この社員トレーニングを通じ、業務スキルだけでなくリスペクトやカルチャーといったDHLの価値観を学び続けます。業績に関わらず、いつ何時もトレーニングは決して止めない。そんな方針が徹底されており、継続的な学習機会を通じて変化への対応や新しい技術の習得をサポートしています。これはデータ分析で見えた特徴2『安心して働ける環境』を具現化した取り組みといえるでしょう。
また、同社の大きな特徴として、社内のオープンポジションへの社内公募制度(ポスティング制度)があります。応募に年齢の記入は不要で、評価は能力と意欲のみ。55歳を超えて営業から通関部などに転身するケースも珍しくなく、60歳を過ぎてから新たな部署で活躍する社員もいます。「年齢ではなくチャレンジ意欲で道が拓ける」ことを体現する仕組みです。
さらに、マネジャーはほぼ100%が内部昇格。しかも役員の多くが現場出身で、クーリエ(集配を担当するドライバー)から経営層へと上り詰めた社員も少なくありません。外部からの登用がないからこそ「努力すれば自分も必ず上に行ける」という納得感が広がり、シニア従業員にとっても若手にとってもモチベーションにつながっています。
※CISとはCertified International Specialistの略
DHL For ALLというカルチャー
こうした取り組みを支えているのが「DHL for ALL」というカルチャーです。性別や世代を分けるのではなく、「全員にチャンスがある」ことを徹底する文化で、これがデータ分析で明らかになった特徴3『全世代の働きがい向上』を実現しています。実際、同社は2025年版「働きがいのある会社」ランキング(全従業員対象)でも1位を獲得しており、シニアランキング1位という結果も、特定世代への優遇策ではなく全世代が働きがいを感じられる組織づくりの成果といえるでしょう。長年働き続けた社員は永年勤続表彰で称えられ、その姿は若手従業員にとって「自分も将来こうなりたい」という将来像となります。
DHLジャパンのトニー カーン社長は、「Great Place To Work®のシニアランキングで表彰されたことは、シニア従業員にとって誇りであると同時に、若手従業員にとっても大きな喜びです。」と語りました。
ベテランの活躍と充実した姿を目にすることで、若手は「この会社なら年齢に関わらず挑戦できる」と確信し、自らのキャリアにもより意欲的に向き合えるのかもしれません。世代を超えて互いを励まし合う、その好循環こそが、DHLジャパンの強さの源泉なのです。
まとめ:シニア従業員がいきいきと働き続けるために
シニア従業員の働きがいが高い職場では、若手の働きがいも高いことがデータでも確認できました。しかしそのためには、誰にでも公平に学ぶ機会が与えられ、意欲があれば多様なキャリアが歩める環境を経営として整備していく必要があります。また日々の業務の中でお互いが敬意を持って関わり合い、安心して信頼し合えるようなカルチャーの醸成も大切でしょう。本レポートが、シニア活躍のための一助になれば光栄です。
>>>「働きがいのある会社ランキング」について詳しい情報を見る
調査・分析概要
調査概要
- 調査対象:2025年版「働きがいのある会社」調査(2023年7月~2024年9月調査実施)に参加した企業で働く従業員
- 調査方法:無記名アンケート調査(選択式60問、自由記述2問、属性8問)
分析内容
Great Place To Work®では、60の選択式設問に対する従業員の肯定回答率を基に、企業の働きがいを測っています。本レポートでは、2025年版「働きがいのある会社」ランキングベスト100の中からシニア従業員(55歳以上の一般従業員)の働きがい(全60設問平均)が高い上位20社をシニア上位群、低い20社をシニア下位群として比較分析を実施。さらに、2025年版シニアランキング大規模部門1位のDHLジャパンに対する独自取材を通じて、データ分析結果を裏付ける具体的な取り組み事例を調査しました。
Great Place To Work® Institute Japan シニアコンサルタント 今野 敦子
フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。
外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。
2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。