「働きがい改革」のムーブメントを起こす!

更新日 2018.10.042017.03.20対談

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政府が懸命に取り組む「働き方改革」。しかし、「働き方」以上に核となるのは「働きがい」である。労働力マーケット、働く人の意識が変わった今、戦後、日本がとってきた人材採用・育成・活用に対する考え方、そしてマネジメントスタイルの転換は焦眉の急といえる。「働きがい改革」をテーマに、3つの知見がぶつかり合った。

「働き方改革」ありきでは「信用」「連帯感」を下げるだけ

岡元 利奈子 現在の「働き方改革」は、従業員が長く働き続けるための環境整備が主眼です。これに対して、社員がモチベーションを持って仕事に取り組めるような「働きがい」があってこそ生産性が向上し、企業は成長することができます。つまり、「働きがい」を高める要素の一つとして「働き方」を整えることが大事だと考えています。

麓 幸子 働きがいを生む「働き方改革」でなければいけませんね。これまで日本企業は、昇進・昇格・安定雇用を保証するのと引き換えに、従業員に頑張りを強いてきました。しかし、そうしたガンバリズムでは40歳以下の若年層のマネジメントはできません。働きがいを生み、長く働いてもらえるようなリテンション・マネジメントをしなければ優秀な人材の確保・定着はできないという現実を、今こそ経営者は理解すべきだと思います。

徳永 太郎 「働き方改革」というのは手段であって、目的ではありません。本来の目的は従業員の自己実現であり、まさに「働きがい」に近いものです。一方、企業にとっても個人の働きがいを高めないと競争力は高まりません。ここがなおざりになったまま「働き方改革」が進んでいる企業もあるように見えます。もっと社会的議論を進めるべきだと思います。

岡元 最終的なゴールを忘れ、「働き方」という取り組みやすいところのみ着手するのでは本末転倒です。ある企業では仕事の内容を見ずに「とにかく早く帰れ、休め」と指示した結果、会社への「信用」や社員の「連帯感」が低下しました。また、テレワークや在宅勤務を進める企業も増えており、マネジメントの複雑性は増しています。

麓 それは象徴的な事例ですね。働く時間と場所が変わっていく中で、どう連帯感を保っていくのかが問われます。そのために重要なのは、やはりコミュニケーションでしょうね。上司が部下にミッションを与え、期待を伝える。こうした非常にきめ細かい人間的な行動が寄与するのかもしれません。

徳永 あるアンケート調査では、「管理職と気軽に話せることで『働きがい』を強く感じる」という結果も出ています。それはまさしくコミュニケーションであり、「信用」にもつながります。慶應義塾大学大学院 特任教授の小杉俊哉氏も指摘しておられますが、最近はリーダーシップのあり方として、強いトップダウン型ではなく、社員に寄り添うような丁寧な働きかけが求められる傾向もあります。

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明日からでも取り組める“やりがい”を生む施策

岡元 弊社では毎年「働きがいのある会社」ランキングを発表していますが、上位企業は従業員一人ひとりを人として尊重する働きかけが目立ちます。例えば、毎月のお誕生日会がそうです。従業員を単なる労働力としてではなく一人の人間として捉え、お祝いや「ここにいてくれてありがとう」という感謝の気持ちを伝える場にしています。こうした施策は、どんな会社・職場であってもアイデア次第でいくらでも取り組むことができます。また、特に無形財を扱う産業では人そのものが高い付加価値を生むので、その人たちのやる気を引き出すことが企業業績に直結します。

徳永 最近はコミュニケーションを高める、あるいは人と人との出会いの場を増やすように工夫・計算されたオフィスのあり方も注目されています。「マグネット効果」という、異なる立場や部署の人をカフェテリアのような空間で出会わせる手法がその一つです。出会いと対話によって新しいアイデアや発想、ひらめきが誘発されます。ある製造業の事業所では、一般オフィスと研究所のフロアを1階ずつ交互にし、研究者が一般オフィスを必ず通るような動線にしています。

岡元 偶然に生まれる会話を意図的につくっていく仕掛けは有効ですね。

ダイバーシティに応じて働きかけを変える

岡元 最近は女性、シニア、外国人など、ダイバーシティの議論が進んでいます。こうした人たちの働きがいを高めるためには何が必要だと思われますか。

麓 私が「日経ウーマン」編集長をしていた時のある調査では、仕事満足度の高い女性の原動力は、高い給料や休日の多さではなく、成長実感ややりがいでした。こうした実態を企業はもっと認識すべきです。“やらされ仕事”ではなく、自走して意欲的に仕事に取り組む社員を増やすためには、成長実感を得られるような仕組みづくりが重要です。

岡元 女性に気を使っているつもりで、女性には責任の重い仕事、大変な仕事は任せないという上司の方がいらっしゃいますが、それは間違いです。「上司から男女の違いなく仕事における期待を伝えられているか、フェアに扱われているか、そして一緒に気持ちよく働ける仕事仲間がいるかどうか」という点を女性は重視していることが、調査で分かっています。

麓 女性活躍と自社の持続的成長を結び付けている企業は、中間管理職が自分の言葉に落とし込んで女性に期待を語りかけています。でも、実際に多くの企業で女性に語りかけられているのは、「これ、何日までにやっといてね」くらいです(笑)。一方、シニア層の働きがい向上も重要なテーマです。「もうこれ以上は昇格・昇進しない」と感じてやる気を喪失している人が多いのも現実です。その人たちのモチベーションや働きがいをどう高めるか。もしかすると女性よりパイが大きいかもしれません。ここでも重要なのはコミュニケーションと期待です。上司が個人をしっかり見て、アウトカムだけではなく、「あなたはこうしたからこの成果が出たんですね」というプロセスを評価して声掛けをし、期待を伝えることでモチベーションが高まるといわれています。

「わが社の働きがいとは何か」常に自問することで会社は変わる

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徳永 若年層への発信も不可欠ですね。彼らが現場でどれだけ裁量を持って自立しているかは、働きがいやモチベーションに大きく影響します。

 働きがいのある職場やイノベーションを生む組織には、失敗を尊重する・許す風土があります。リスクテイクすること、失敗してもそこからしっかり学ぶことに寛大で、前向きな評価をするというスタンスの会社が増えてほしいです。

徳永 さらに遡って、就活前の学生にも働きがいについて考える機会がもっとあってしかるべきだと思います。

 就活女子は産休・育休制度、社内保育所の有無など、会社からのケアのことばかり気にします。そうではなく、「やりがいと達成感を持って頑張っている先輩の姿を見てほしい」と、講演やセミナーではいつも伝えています。企業側も「フェアであり、働きがいのある会社」ということをしっかり伝えないと、入社後にミスマッチが起きると思いますね。

岡元 「自分がその会社で何をしたいか」「どういう価値を創出したいのか」は何よりも大切ですからね。ケアはベースとしては必要ですが、それだけでは働きがいは高まりません。その上に承認欲求や自己実現欲求が満たされることが必要で、そこが働きがいにつながるところです。就活生は「働き方」だけではなく、自分にとっての「働きがい」が得られるかという観点からも、ぜひ企業を見てほしいと思います。

 日本人は自分のキャリアに対して、オーナーシップを発揮できていないといわれています。つまり、自分のキャリアをどう切り開いていくのかというキャリア自律の意識が弱い。こうした状況を変えるためにも、「働きがい改革」のムーブメントをもっと広げていきたいですね。

岡元 自分のキャリアは自分で選ばないと、会社は守ってくれません。若手や学生にはもっと早い段階でキャリア意識を植え付ける教育が、ますます必要になってくると思います。「働きがいのある会社」ランキングの上位は外資系が目立ちますが、もちろん日本の伝統的企業でも働きがいは向上できます。重要なのは経営トップが危機感を持ち、早い段階でマネジメントを変えていく決断をするかどうかです。

 「働き方改革」の次のフェーズとして、日本のすべての企業が「わが社にとって働きがいとは一体何なのか」をしっかり考えて「働きがい改革」に取り組むべきでしょう。個人においても、「なぜ自分は働くのだろう」という根源的な質問を自ら投げかけ続けることが重要だと思います。

徳永 今日のような話を日本企業の多くの経営者が共有するだけでも、世の中が変わっていくかもしれませんね。

岡元 企業規模やネームバリューではなく、一人ひとりが成長できる働きがいのある企業に、これからも光を当てていきたいと思っています。

麓 幸子氏

日経BP社 執行役員/日経BP総研マーケティング戦略研究所長

「日経ウーマン」編集長、「日経ウーマン」「日経ヘルス」などの発行人を経て現職。内閣府委員、林野庁委員、 経団連・21世紀政策研究所 研究委員などを歴任。日本キャリアデザイン学会などに所属。最新の理論にも精通。『女性活躍の教科書』など著書多数。

徳永 太郎氏

日経BP社 日経BP総研 ビジョナリー経営研究所長

日経ビジネス」副編集長、日経BP総研 社会インフラ研究所副所長などを経て現職。ワークスタイル変革などの分野に関する調査・分析、講演活動の実績多数。ワークプレイスの生産性向上に関する研究会などにも参加。

岡元 利奈子

Great Place to Work® Institute Japan 代表取締役社長

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。人事コンサルタントとして、人事制度設計や従業員意識調査などを行う。その後、海外現地法人のコンサルティングビジネスの立ち上げ支援などを経験し、2014年より現職。

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2017年2月~5月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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