働き方改革は、働きがいを高めてこそ意味がある

更新日 2018.10.242018.06.01対談

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特別対談 青山学院大学経営学部教授 山本 寛氏 × Great Place to Work® Institute Japan 代表 岡元 利奈子

喫緊の課題として進められている「働き方改革」。長時間労働是正など仕事の外形的なことだけが進みがちだが、企業力を高め、業績を向上させるための「働き方改革」にしていかなければならない。我が国のリテンションマネジメント研究の第一人者である青山学院大学経営学部教授の山本寛氏と、「働きがいのある会社」ランキングを毎年発表し、企業の「働きがい」向上を支援するGPTWジャパンの岡元利奈子代表が対談をした。

「働きやすさ」と「やりがい」 両輪がそろい「働きがいのある会社」へと成長する

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岡元 利奈子 昨今進められている働き方改革では、長時間労働の是正にスポットが当たりがちです。ゴールを忘れ、働く時間や場所の自由化という、取り組みやすい外形的なところだけ着手するのでは本末転倒だと思います。「働き方」や「働きがい」の内実を改めなければ、真の働き方改革になりません。山本先生はどうお考えですか?

山本 寛 障がいのある人や外国人など、どのような人にとっても働きやすいということを考えると、労働時間の削減は一つの正解だとは思うのですが、それだけでは不十分です。働く時間が短くなったから労働生産性が上がるというものではありません。仕事の内容的側面としての働きがいを高めないと、働きやすさだけでは企業の活性化につながらないのです。企業力を高める要素として、ヒト、モノ、カネ、情報の4つを考えることが大事ですが、その中でも特に人的資源に注目する必要があるでしょう。

岡元 人的資源ということでは、かつて日本はみんなが仕事人間で一生懸命に働くというイメージでした。しかしながら、“仕事に夢中になる”、“面白がって熱中して仕事に取り組む”という人が減っていると言われています。どうしてこんなことになったのでしょうか?

山本 かつては年功序列が支配的で、一つの会社で長く働く人が昇進していきました。男性は家事をすべて妻に任せるという前提で、上司や先輩の背中を追いかけてがんばることができました。しかし、バブル崩壊後のリストラにより、会社に対する信頼は損なわれました。失われた10年が20年になり、GDPの順位も下がり、経済も先細りするなかで働いています。自社の経営者や上司を見ても、欧米のように強いリーダー像は見つけられません。なかにはハイパフォーマーはいますが、安定は求めるが、積極的に自分で仕事を開発したり、リーダーシップを発揮したりする人は少なく、エンゲージメントを国際比較すると日本は低くなってしまうのです。

岡元 私たちは、「働きがいがある会社」は、「従業員が会社や経営者・管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる会社」だと謳っています。世界58カ国で従業員意識調査をしているのですが、日本では、「仕事に行くことを楽しみにしている」という設問に対する回答がいつも最下位クラスです。仕事は苦しいもので、黙ってがんばることが当然であるという意識がまだまだあります。ところが、2018年「働きがいのある会社」ランキング大規模部門で第1位になられたシスコシステムズはそこが非常に高く、「仕事に毎日来るのが楽しい」という回答が多いことに驚きました。先日、鈴木みゆき社長にお話しをおうかがいしたところ、失敗を許容するなど、創造的な発想ができるような風土づくりに非常に腐心されていることがわかりました。

山本 最近あまり検討されない概念ですが、働きがいの向上にはジョブ・エンジョイメントが大切だという考え方があります。本来仕事はやりがいのある楽しいものなのに、評価だけが気になり、一緒に働く人とも連帯感を持てないために楽しくないのです。人が仕事で楽しさを感じるためには、安定性と新しい刺激の両方が必要です。しかし、安定性も一部の会社を除くと得られていないし、従業員が自信を持てずに新しい仕事に積極的に挑戦しない傾向があります。

岡元 私たちは、働きがいの調査結果について、「働きやすさ」と「やりがい」の2軸で見ています。昨年度の売上成長率が最も高い企業は、「働きやすさ」と「やりがい」の両方が揃っていました。一方、成長率の悪い企業は、「働きやすい」が、「やりがいがない」という衝撃的な結果が見えてきました。働き方改革で働きやすいだけの会社を作っても、やりがいを得られなければ企業力は下がってしまうということです。「ぶら下がり社員」「中だるみ社員」も発生しやすくなります。改善するにはどうしたらよいでしょうか。

エンゲージメントを高める マネジメントが問われる

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山本 人が働きがいを感じ続けるのは難しく、ぶら下がり、中だるみは必ず生じます。企業はいろいろな、マネジメント施策を導入して常に新しい刺激を従業員に与えることが必要です。1つめが、従業員をきちんと承認する「レコグニション・マネジメント」。2つめに、上司と部下が定期的に面談する「1on1ミーティング」。3つめが「キャリア自律」を重視した諸制度です。仕事の自律に加えて、将来のキャリアについても自律的にやっていける制度が必要でしょう。職種別採用、人材公募制度、副業解禁、出戻り採用も検討すべきです。出戻り採用は、行った会社と比較して戻ってきているのでエンゲージメントも高い。4つめが、「能力開発」です。能力開発の方向には、広さ、深さ、可視性の3種類があります。広さでいうと、異業種交流研修、カフェテリア・プラン、マルチタスクが有効です。深さでは、教育訓練休暇、教育訓練短時間制度の導入だと思います。また、AIに自分の仕事を取られないために、メンタリングも使えます。自分のやったことをメンターがどう評価してくれるかが、仕事の能力を深めるのにつながります。最後の可視化は、スキルの見える化です。仕事遂行能力を上げ、さまざまなところで応用できるはずです。

岡元 今、先生から働きがいを作るマネジメントの秘策をお聞きし、私どもの「働きがいのある会社」調査でランキング上位の企業は、それらをかなり実践していると痛感しました。例えば、レコグニション・マネジメントについて、多くの企業では、様々な視点・レベルで褒めたり認めたりする制度を導入しています。また、褒める・認める基準も単に“結果として売上を上げた”というようなことだけではなく、取り組んだプロセスや、チャレンジした上での失敗を褒めるといったように、自発的な行動や挑戦を促すような働きかけが行われています。キャリア自律についても、働きがいのあるベストカンパニーでは、副業や出戻りを制度化されている企業も沢山あります。能力開発についても山本先生がおっしゃる通りで、カフェテリア制度は作っただけでは定着しないので、1on1における日頃の上司とのコミュニケーションと組み合わせ、一人ひとりの実情とすり合わせながらカフェテリア制度を活用するのが効果的だという声が少なくありません。マルチタスクについても、従業員は自分の新たな可能性を発見でき、会社も新たな人材を発掘できるものとして、巧みに取り入れています。ジョブディスクリプションがはっきりしていない日本企業のよさとも言えるかもしれません。その他いろいろな企業の事例が思い起こされました。
 
山本 働きがいは、企業の成長と自分の成長を結びつけ、企業の目標に向かって自らの力を発揮しようという意欲が生じる時に感じるものです。働き方改革は、企業のイノベーションに結びつくべきだという考え方も出てきています。仕事を分業・モジュール化することで従来の仕事自体を減らすことも大切なのですが、その上で創造的要因に割く時間を増やしていくことが問われています。グーグルの20%ルールはその好事例です。そうしなければAIに勝てないし、働きがいも持てないのです。そのためにはストレスチェックをして自分自身のメンタルをきちんと管理することと、上司の教育的指導と励まし、メンタルに関するサポートが大事です。さらに、タイムマネジメント研修と創造性研修も必要になります。
 
岡元 おっしゃる通り、働き方改革をして時間を捻出した先にあるものは、イノベーティブな仕事を作っていくことに尽きます。新しい発見や発明の多くは、既存の知と知の組み合わせだと聞きます。いろいろな業界・職種の人と触れ合い、話を聞くことで考え方が広がり、それを自分のフィールドで活かせるようになれば新しい仕事が生まれるはずです。既にある知の組み合わせを豊かにしていくことが、AIに取って代わられない自分自身のエンプロイアビリティを高め、働きがいを高めるのでしょう。従業員のエンゲージメントを高めるためのマネジメントはとても重要です。自社にとって最適なやり方を模索していくことが大切だと、先生とのお話で痛感いたしました。

山本 寛氏

青山学院大学経営学部教授

早稲田大学政治経済学部卒業後、銀行等に勤務。大学院を経て現職。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員歴任。日本経営協会・経営科学文献賞、日本労務学会賞・学術賞、経営行動科学学会・優秀事例賞など受賞

岡元 利奈子

Great Place to Work® Institute Japan 代表取締役社長

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。人事コンサルタントとして、人事制度設計や従業員意識調査などを行う。その後、海外現地法人のコンサルティングビジネスの立ち上げ支援などを経験し、2014年より現職。

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2018年3月~5月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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