最優秀層人材がスタートアップに集う時代働きがいの6つの要素が組織成長の礎になる
更新日 2020.10.282020.10.28対談
日本のスタートアップ政策の企画実行を担う古谷元氏とGPTWジャパン代表荒川が、「成長するスタートアップ企業の組織づくり」と題して、日本や世界のスタートアップの現状や課題、スタートアップステージの組織における働きがいについて語りました。働きがいを維持しながら組織を拡大するためのヒントを得られる対談です。
目次
第4次ベンチャーブーム(スタートアップ4.0)が到来し、投資額も右肩上がり
組織が拡大するにつれ、スタートアップの働きがいが低下する理由
第4次ベンチャーブーム(スタートアップ4.0)が到来し、投資額も右肩上がり
荒川 経済産業省新規事業創造推進室でスタートアップ政策の企画立案及び実行を担当している同推進室室長の古谷さんと、スタートアップの働きがいをテーマにお話をしたいと思います。古谷さんどうぞよろしくお願いいたします。
古谷 よろしくお願いいたします。まず簡単に自己紹介をさせてください。私は1993年に通商産業省(現経済産業省)に入省しまして、7年半ほど電子業界の産業政策やエネルギー政策に携わっていました。2000年に退官し、コンサルティング会社、証券会社、投資ファンドなど、資本主義の尖兵的な仕事に従事。そして昨年、新規事業を創出するための知識やアイディアを持つ人を求めているということで誘われて経済産業省の管理職応募制度に応募し、再び入省しました。現在は、日本から世界へ羽ばたくスタートアップをつくる後押しをしています。この1年、数々のスタートアップと一緒に仕事をする中で、スタートアップの課題やポテンシャルを目の当たりにしてきました。
荒川 古谷さんの実感値を含めてお話を伺いたいのですが、日本では1万社を超えるスタートアップが日々事業拡大の挑戦をしていると聞いています。データによるとその資金調達額は右肩上がりですが、世界と比較すると少ないという論調もありますよね。ご自身では、日本のスタートアップの現状をどうご覧になっていますか。
古谷 2013年から日本は第4次ベンチャーブームと言われています。実際に、2013年以降はスタートアップへの投資額も順調に伸びてきました。今年に関しては新型コロナウィルスの影響で投資が抑えめではありますが、政府としても引き続きスタートアップの下支えをしたいと考えているところです。しかしながら、スタートアップへの投資額をGDP対比でみてみると、十分とは言えないのが実際のところですね。アメリカの8分1、中国の数分の1という具合にまだ道半ばです。
引き続きスタートアップは増加傾向、集まる人材の質も高い
荒川 イノベーティブな事業を展開するスタートアップ企業が2013年以降、非常に増えてきているということですね。具体的にどのくらい増えているのでしょうか。
古谷 現在は1万4880社まで増えています。2013年は約9700社ですから7年間で1.5倍になりますね。集まる人材の質も高くなっています。例えば、ゴールドマンサックスの投資銀行部門の人が退職してスタートアップに参画するなど、かなりの数の人間が流れているようです。また、大学で高度な知識を学んだ人が卒業後にスタートアップを志望したり、もしくは起業したりというパターンも非常に増えてきました。現在も、新型コロナウィルスの影響はあるものの、スタートアップへの流入は増加傾向にあります。
荒川 ここでいうスタートアップとはどれほどの大きさの組織をイメージしたらいいのでしょうか。
古谷 数十名規模、100名に満たないところが多いですね。これから大きな資金調達をして、一気に成長していこうというところがほとんどです。
荒川 そこに優秀な人材が成長の可能性を感じて入っている、そういうムーブメントが起きているということですね。
古谷 これは日本に限らずですが、ミレニアル世代からその傾向が顕著になっています。アメリカの場合は、スタートアップはレピュテーション(評判)もあるし、報酬も高い。ですから、ゴールドマンサックスやKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)も、応募を集める狙いで学生やMBAの受講生に対して、イノベーション投資ができることをアピールしているのです。
荒川 ファンドでもスタートアップに投資したり、事業に参加したりできます、と。
古谷 最優秀層の人たちは、イノベーションであるとか、社会課題の解決に対する関心が高いです。そういう人たちを惹きつけるために、投資会社でも同じことができるとアピールしているんですよ。日本だけではなく世界的に、サスティナブルな経済成長に貢献することに魅力を感じている人たちが増えているのです。
組織が拡大するにつれ、スタートアップの働きがいが低下する理由
荒川 最優秀層はそうしたところに魅力を感じて、流動しているということですね。では改めて、スタートアップの特徴はどんなものか、古谷さんとお話ししたいと思います。組織の規模的には数十名から100名前後とのことでしたので、300名以下の組織のデータが当てはまるのかなと思うのですが、組織が大きくなるにつれて働きがいがマイナスに振れやすい傾向があります。優秀な人が入社し、規模が拡大し、資金調達もして、質量ともに充実する時期だと思うのですが、そこでどんな問題が起きているのでしょうか。
古谷 スタートアップは、たくさんの人を惹きつけるような大きなビジョンを掲げています。また、優れたリーダーシップや技術がある。そこに集まった人は、スタートアップ企業が掲げた旗のもとに集うことになります。そこから、収益ができるようになり、組織が成長していく中で、会社と社会に対する貢献を実感しながら働くわけです。当然、そこには働きがいもあると思います。
しかしながら、スタートアップの生存率はそれほど高くはない。アメリカの統計によると10年経つと30%しか残らないとされています。ですから、ビジネスがうまくいかないとスタートアップはピボットをする。転換点を迎えたスタートアップは、これまでと違うビジネスをはじめることもあります。すると、当初のビジョンとの親和性が弱まってしまうこともあるというわけです。
組織が拡大する中で不協和音が生まれることもあります。例えば、中間管理職としてマネジメント機能を提供するために後から入ってきた人たちは、ビジョンに共感して入った最初の人たちとは志が異なっていることも多いわけです。すると、もともといた人たちの働きがいが下がることもある。私の友人もスタートアップを立ち上げて四苦八苦しながら会社を大きくしていますが、話を聞いてみると同じようなことが発生しているようです。
荒川 成長には痛みを伴いますし、そこを乗り越えて規模を拡大していくのは本当に大変だということですね。後から入ってくる人は創業メンバーとは価値観や考えが異なることもありますから、ハレーションが起きることもあると。そこをいかにマネジメントするかが非常に大事になりますね。
働きがいの要素は、目覚ましい成長を遂げるスタートアップにも適用できる
荒川 最後にスタートアップ企業に必要な働きがいをテーマにお話をさせていただきたいと思います。これが我々の考える働きがいのある会社のモデルです。これはスタートアップに限った話ではありませんが、人の潜在能力の最大化を重視しています。スタートアップでは、人数も少ない中で仕事をしていくわけですから、一人ひとりがプロフェッショナルの意識で、力を発揮することが大事だと考えています。
続いて価値観ですね。価値観が共有されていることが大事であり、カルチャーをリードするリーダーシップも不可欠です。創業者は強烈なビジョンとリーダーシップを持っていることが多いですが、途中から入ってきた人たちがそれを体現することはとても難しいのではないかと思っています。
そして、イノベーションですね。スタートアップならではのポイントでもあるとも思うのですが、持続的にイノベーションを起こし続けるカルチャーをどうやって規模拡大の中でつくっていくのか、これはかなり難しいことです。
こうした課題を乗り越えれば、結果として財務的成長も実現できるのではないかと思います。古谷さんはこれをご覧になって、どこが大きなポイントになるとお考えですか。
古谷 まずはイノベーションですね。他社との差別化を図り、新しい市場をつくっていく。もしくは、既存の市場を他社から奪っていくためにはこれが前提条件でしょう。成長や価値観の共有、リーダーシップも重要であり、財務的成長はその結果だと思います。組織を継続的にマネジメントできる人を育て、能力を引き出し、組織のカタチをつくって外に向けて働きかける。その結果、財務的成長が生まれてくるのです。順番としてはこうだと考えています。
荒川 ありがとうございます。これはスタートアップに限らず、我々が掲げている働きがいのある会社モデルの重要な要素です。やはり、イノベーションを筆頭にして、スタートアップ、成長企業にも適用できるということですね。
古谷 そうですね。親和性があると思います。
荒川 ありがとうございます。まだまだお話を聞きたいのですが、本日はここまでということで。スタートアップの組織の特徴や日本と世界の現状、そして、働きがいを生み出すためのヒントが見つかりました。古谷さん、本日はどうもありがとうございました。