テレワーク下で働きがいを高める取り組みとアフターコロナの働き方

更新日 2022.01.132022.01.13対談

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慶應義塾大学の教授であり、「幸福経営学研究者」として知られる前野隆司様と、GPTWジャパン代表の荒川が「テレワーク下で働きがいを高める取り組みとアフターコロナの働き方」と題して、テレワークなどの新しい働き方が浸透した現在と、これからの働き方について語りました。従業員の幸福度を高めながら、より良い組織をつくるためのヒントを得られる対談です。

テレワーク下で浮き彫りになった「雑談」の重要性

GPTW荒川 前野先生に2つのテーマでお話を聞いていきたいと思います。まずは「テレワーク下で連帯感(チームワーク)を高めるためのポイント、取り組み」です。テレワークをすることにより、疎外感や孤独感を感じさせないために、どのような取り組みをしたらいいのかをお話ししていきたいと思います。

GPTWのベストカンパニーは「双方向」「全員参加」を意識して取り組んでおりまして、例えば、「若手のためにテレビ会議を繋ぎっぱなしにして、いつでも話しかけられるようにしている」ですとか、「斜めの関係をつくって相談できる人を増やすこと」などに取り組んでいます。先生が着目されている「テレワークの中での連帯感を高めるポイントや取り組み」がありましたら伺いたいです。

前野氏(以下、前野) テクノロジーの活用や制度をつくることに加えて、マインドの部分で意識すべきことがあるように感じています。私は研究室のゼミを1年半オンラインでやっていました。先日、1年半ぶりオフラインでやったんです。そうするとですね、雑談が多いですね。発表の合間や休憩中に話すわけです。

「最近どうしているの」という何気ない話の中に、実は仕事のノウハウがある私は考えています。オンラインではオフラインのとき以上に上司が若手を気にかけてコミュニケーション機会を増やすであるとか、そういう取り組みが必要ではないかと思いますね。

GPTW荒川 多くの会社がやっている1on1のような場で雑談を意識してみるとか、定例の場以外でも会議の最初とか、終わりに意識的な雑談をしたり、コンディションを確認したり、ということが大事かもしれませんね。

若手を孤独化させないために、深く関わる仕掛けが必要

前野 幸せな職場では、例えばオンラインミーティングの後に、「あと10分間残って話そうよ」という具合に雑談につながることもあるようです。一方で不幸せな職場は、会議が終わるとすぐにスイッチをオフにして「嫌な上司の顔を見なくて済む」という感じになる。こうしたことがコミュニケーション不足につながっているのかもしれません。

GPTW荒川 オンライン会議でビデオをオンにするかどうかも会社さんによって分かれているようです。私は音声だけでは味気ないので顔を見ながら話したいと思っています。

前野 そう感じている人も多いと思います。顔を付き合わせて暮らす村社会が実は幸せだったという考え方もあります。村社会はお節介な人がいたりして面倒くさいイメージがあるかもしれません。人間というのは、ついつい過干渉になりがちですから。だからビデオもオフにしたいと考えるし、都会に出て核家族化しているのですが、そうすると孤独化してしまうんですよ。そうならないためにも、深く知り合う、深く関わる仕掛けが必要だと思いますね。

「スタンダードな働き方」がないのが当たり前の社会になる

GPTW荒川 では次のテーマに移ります。「これからの働き方のスタンダードはどうなっていく?Well-beingを最大化させるためのポイントは?」というテーマでお話ししたいと思います。緊急事態宣言も終わり、毎日出社させている会社さんがあれば、週2日、3日にしている会社さんもあります。働き方が混在しているわけですが、これからのスタンダードはどうなっていくのか。何かヒントになることを伺えればと思います。

前野 スタンダードがどうなるかはまだ分からないです。しかしながら基本は「スタンダードがない社会」「多様な働き方が認められる社会」であると思います。Well-beingの高い職場は生産性も高いです。しかしながら、働き方の答えは会社や個人によって異なります。その会社にとって最も効率的で、しかも幸せなところにソフトランディングさせることが大事だと思います。

すでに、イノベーティブにさまざまな取り組みをしている会社がありますよね。本社を縮小させてサテライトオフィスを設けたところもあれば、地方に移住した従業員も働けるようにしたりなど、どんどん進化しています。一方で、コロナが終わったら元に戻ろうと考えている会社もあります。それが従業員にとって幸せなのならいいですが、社長がそうしたいだけだったら幸福度と生産性に差が出るでしょう。せっかくテレワークで生産性が上がったのに、それをやめたのだとしたら、少なくとも生産性に差が出ます。私はこの先、幸せな会社、不幸せな会社の二極化が進み、それこそ倒産する会社、繁栄する会社が出てくると考えています。

アフターコロナでは、「働きがい」「幸せ」が企業にとってより重要な指標になる

GPTW荒川 Well-beingを最大化させるためのポイントも会社ごとに異なるわけですね。

前野 その通りです。ポイントがないことがポイントと言えるかもしれないですね。従来型に戻そうというカタい会社は、これから大変だと思います。そのほうが、みんなにとって幸せだからという本質を考えてやっているのならいいのですが。

GPTW荒川 理想とする「働き方」を開示して、従業員に丁寧に説明していくことも、これからは大事になりそうですね。

前野 まさにそうです。「働きがい」や「幸せ」は、売上などと同じかそれ以上に重要な指標になる時代がきていると思います。

GPTW荒川 私事ですが、先日小田原に引っ越しました。通勤には1時間20分かかるのですが、自然に囲まれた良い環境です。テレワークだからこそできる働き方であり、私にとっては幸せなのですが、これが従業員にとっても幸せかどうかも考えなくてはならないと思っています。

前野 会社から5分の場所に住む人と自然の中で暮らしたい人では、ライフスタイル違いますからね。

GPTW荒川 前野先生の研究でも、20代はテレワークが不幸せ因子に繋がることもあるという結果を出されていたので、ケアしなくてはならないですね。

前野 ひとりぼっちになりますからね。20代が都会に住みたがるのには意味があると思います。人や文化に揉まれて成長したいわけです。そして、少しすると自然が好きになる。基本的に人間はそういう風にできているのだと思います。

GPTW荒川 お時間が来てしまったので、まとめに移ります。まず1つめのテーマでは、「雑談のようなコミュニケーションの機会を仕掛けることが重要」ということでした。2つめのテーマでは「その会社の従業員が最も幸せに働けるあり方を各社模索すべきである」ということですね。その際、「なぜその働き方なのか」という理由を明示することが大事であると。先生、今日は貴重なお話いただきまして大変嬉しかったです。ありがとうございました。

前野 こちらこそありがとうございました。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野隆司様

1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。著書に、『幸せな職場の経営学』(2019年)、『幸福学×経営学』(2018年)、『幸せのメカニズム』(2014年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。

Great Place to Work(R) Institute Japan 代表 荒川 陽子

2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。

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