勤務条件だけではミレニアル世代の心は動かない 未曾有の売り手市場で求職者にアピールすべきこと
更新日 2024.04.192024.04.18対談
若年層の価値観の変化や、労働人口の減少などにより、採用市場では優秀な人材の確保が年々難しくなっています。採用の売り手市場の中で、自社にマッチする人材を採用し、定着させるためには、求職者にどのような情報を発信するべきなのでしょうか。「共感採用」を促進するビジネスSNSを提供しているウォンテッドリー の橋屋 優理氏とGreat Place To Work® Institute Japan(以下、GPTW)の植田 若葉が、その答えを求めて語り合いました。
労働条件を打ち出すだけの採用活動では苦戦する
植田 若葉(以下、植田) 日本の人口動態が変化し、労働人口が減少するなかで、人材市場が活況を呈しています。かなりの売り手市場となり、人材採用に課題感を抱いている人事担当者も少なくありません。そのような中、採用のプロであるウォンテッドリーでは求職者の動向をどのように分析し、打ち手を考えているのかお話を伺いたいと思います。
橋屋 優理氏(以下、橋屋) ウォンテッドリーには、Wantedly Visitという人材採用向けのプロダクトと、Engagement Suiteという人材定着や活躍を支援するプロダクトがあります。私は後者のエンゲージメント事業の統括をしています。人材採用と定着、活躍は切っても切れない関係です。採用の課題とどう向き合うかに加えて、入社後の定着や活躍につなげていくためにはどうしたらいいのか紹介できればと思っています。
植田 早速ですが、この売り手市場の状況下で、企業が採用活動を行なうためには、どんなことを意識してアピールしていけばいいのでしょうか。
橋屋 いわゆるミレニアル世代 と呼ばれる方々の価値観が、従来の日本人の価値観と比べて変わってきています。アンケート調査や、各企業の人事へのヒアリングを通じて、「働きがい」や「働く意義」などの意味・価値を大切にしていることがわかりました。「その会社で働く意味が腹落ちするかどうか」が、最終的な意思決定に大きく関わっているようです。
一方で、給料が高いなどの労働条件面を打ち出すだけの採用活動は苦しい状況だと感じています。そうした背景もあり、Wantedlyでは条件面のマッチングから価値観のマッチングへと企業の採用方針をシフトさせてきました。
知りたいのは「どんな人がどんな想いで仕事をしているのか」
植田 具体的には、求職者にどんな情報を伝えるのがよいのでしょうか。
橋屋 その会社を動かしている人たちが何を考えて、どう事業を進めているのか、その会社に共通する「価値観」を求職者に伝えることが大事だと考えています。
世の中的にはカジュアル面談が大事だと言われています。ただ単純に親睦を深めるという観点ではなく、どういう人が働いているのか、そこでどんな体験ができるのかなど、書面からは伝わらない情報をいかに伝えるのかを意識していただきたいですね。
植田 「価値観」を伝えることは、そんなに簡単ではない気もします。
橋屋 そうですね。「働きがい」や「価値観」は、勤務条件のような定型的な情報ではないので、社内で品質をそろえることが難しいと思います。どうしても、個々人のスキルや想いに依存してしまうものですし。
植田 採用は一人がやるものではなく、会社全体でやるものだと思うので基準をそろえていく必要があるということですね。
GPTWでやっていることが、まさにそういうことかもしれません。価値観は言語化しないと見えにくいものですし、「働きがい認定企業」には、ミッション・ビジョン・バリューを浸透させるなかで価値観をそろえながら「働きがい」を高めていく企業が多いことを実感しています。
橋屋 私も「エンゲージメント施策」というのは、矢印をそろえることだと思っています。同じ目標を持ってみんなが頑張っていくというシンプルな話です。各社が目指す「働きがい」をしっかりと高めてもらうことが、インナーブランディングにつながって、さらにそれが採用活動の足腰になるのだと思います。
「汎用スキル」と「社内スキル」の両方が大事
植田 中途採用の場合はスキルや経験も評価されるのかなと思うのですが、スキルや経験があるのに入社後になかなか力を発揮できないケースがあると思います。活躍できるケースとできないケースの違いも教えていただきたいです。
橋屋 入社後に活躍するためには、 2種類のスキルを持ち合わせていることが大事だと思っています。一つは、業務スキルです。いわゆる特定の分野の専門性、マーケターであればマーケティングのスキルであり、セールスであれば法人営業をやったことがあるとかMicrosoftのWordやExcelが使えるとかですね。もう1種類が抽象的な表現になりますが「社内スキル」が大事になると思います。この両輪が満たされて初めて活躍できると考えています。
植田 「社内スキル」とはどのようなものでしょうか。
橋屋 事業内容のキャッチアップもそうですし、経営ミッションをくみ取ることもそうですし、会社のカルチャーを体現することなどが、社内スキルにあげられます。「社内スキル」がない場合、専門性が高くても、その会社のカルチャーや仕組みのなかで最適化された人たちとの協働がうまくいかず、ギャップが生まれがちになります 。
Wantedlyがあえて給与を記載しないフォーマットを用意している理由
植田 会社を体現する「働きがい」や「価値観」をそろえた上で、どんなことを意識して求職者にメッセージすべきだと思いますか。
橋屋 伝える順番を意識してほしいです。 具体的には、最初に「働きがい」を押し出すことが大事だと思います。たとえば、Wantedlyのサービスですと、あえて給与を記載しないフォーマットを採用しています。これは給与が重要ではないからではなく、伝える順番が重要だと考えているからです。
最初に給与を見てから、「働きがい」を見つけようとすると、その時点で認知が歪んでしまいます。まず、求職者には最初にその会社の掲げる「働きがい」が自分に合うか。会社と同じ方向を向いて働けるかなどを、先入観を持たずに見てもらい、その上で条件面や業務内容が合うかどうか検討することが有効なのかなと思います。
植田 私は就職活動、転職活動において、まず条件面から絞り込むものだと考えていましたが、お話を聞いてパラダイムシフトが起こりました。Wantedlyでは、条件面よりも先に「働きがい」を感じてもらえるようになっているのですね。
「働きがい」のある会社づくりが、採用ブランディングの土台
橋屋 Wantedlyには実際に働いている人の記事があります。代表のメッセージも大事ではあるんですが、メンバーの方がどんな活躍をしているのか、どんな想いをもって働いているのか、もしくはどんなにつらいことを乗り越えたのかなど、そういう内容を積極的に打ち出している企業は、カルチャーにフィットする人が応募しやすい傾向があります。そういう意味で、採用活動に現場のメンバーを巻き込むことはかなり大事ですね。
ただ闇雲にメンバーのストーリー(インタビュー記事)を紹介すればよいのではなく、矢印がそろっているか否かが大きな分岐点になると思っています。組織として、いろんな方向に矢印が向いてしまっていると、会社としてのメッセージは弱くなってしまいます。そういう意味で、まずはインナーブランディングで足並みをそろえることが、採用ブランディングの第一歩なのかなと思いますね。
植田 メンバー一人ひとりが別々のストーリーを持ちながらも、その中に共通した価値観が現れているのが、一貫したブランディングにつながるのですね。
橋屋 その通りです。一貫したブランディングができれば、ミスマッチもかなり少なくなる印象があります。私自身、面接官を務めることがあるのですが、私についての記事を読んでいただいた求職者は、既に面接の時点で私のことをある程度の深さで理解をした上で面接に臨んでいただけます。そういった背景から、より踏み込んだ質問をいただけたりして、濃密な面接にしやすくなりました。最初に知りたい情報は一通り認識できていて、「働きがい」をイメージできているからなのでしょう。入社後に上司とそりが合わなかったというミスマッチ も減らせると思います。
メンバーのストーリーを紹介するのは、インナーブランディングの面でも非常に効果があります。「違う部署の人がこんなに頑張っているんだ」「この会社では頑張っている人がしっかり称賛されている」などと知るきっかけにもなるのです。頑張っているメンバーにフォーカスすることは、とても重要な要素です。
植田さんからいただいた最初の問いに戻りますが、若い世代に見られるように、価値観の変容が起こり、売り手市場となるなかで、何を打ち出していくかという問いに対しては、まず「働きがい」にフォーカスし、それをいかに発信していくのかを考えることがよいと思いますね。
植田 これからの採用活動は価値観のフィットが重要であり、その先にある定着や活躍にもつながっていくのだと思います。そのためには、まず自社らしい組織づくりをすることが第一歩と言えそうですね。橋屋さん、本日はどうもありがとうございました。
>> 働きがいや環境で企業と求職者をマッチングするビジネスSNS「Wantedly」はこちら
>> 自社の働きがいを第三者機関によって証明するGPTW「働きがい認定」はこちら
ウォンテッドリー株式会社 Engagement Tribe 事業責任者 橋屋 優理氏
以降、医療・介護・福祉の領域を中心に複数のHR事業の責任者を担う。
事業推進の過程で「仕事を通じて、組織や人が幸せになること」の難しさに直面し、組織開発や従業員エンゲージメントを自身のキャリアのテーマに据える。
現在はウォンテッドリー社でEngagement事業の推進を通じ企業の組織開発の改善に取り組んでいる。
Great Place To Work® Institute Japan マネジャー 植田 若葉
2016年リクルートマネジメントソリューションズに転籍し、営業職として担当顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。
2022年よりマネジメント職としてGreat Place to Work(R) Institute Japanに参画。事業戦略の策定、組織マネジメントを担う傍ら、自らもコンサルタントとして「働きがいのある会社」調査の分析・報告、顧客の働きがい向上支援を行う。