エントリーマネジメントの徹底と、
ファクトに基づく透明度の高い経営が働きがいの礎
ナイル株式会社
代表取締役社長 高橋 飛翔 様
更新日 2023.04.242023.04.21
エントリーマネジメントの徹底と、
ファクトに基づく透明度の高い経営が働きがいの礎
ナイル株式会社
代表取締役社長 高橋 飛翔 様
2023年版「働きがいのある会社」ランキング中規模部門(従業員101名〜999名)でベストカンパニーに選出されたナイル株式会社。Great Place To Work®のランキングには、2015年版調査(2014年実施)から参画し、初年度からランクインしており、ここ数年は23位、10位、8位と着実に順位を上げています。代表の高橋様に「組織成長に伴うカルチャーの変動の捉え方」や「より良い組織を作るための採用戦略」などのテーマでお話を伺いました。
<記事のポイント>
✔マネジャーの要件は「戦略・戦術を言語化できること」
✔組織カルチャーは守るものではなく、変化させるもの
✔「組織コンセプト」なしに働きがいのある会社は作れない
GPTW 高橋様のご経歴と、ナイルの成り立ちを教えてください。
高橋様 東大の起業サークルの代表をしており、学生時代に起業して作ったのがナイル株式会社(旧ヴォラーレ株式会社)です。当時はDXという言葉が一般に認知される前でしたが、教育の領域でインターネットを使ったサービスを作り、日本全国の人たちに学習機会を提供していきたいと思って起業しました。
その後、多くの企業にマーケティング面での支援をしていく方向に切り替えて事業を成長させ、さまざまな企業のDXを推進支援しています。2018年からは自動車産業DX事業として車のサブスク「おトクにマイカー 定額カルモくん」を立ち上げました。事業の位置付けを「日本の巨大産業のDX」とし、まさに今、挑戦を重ねているところです。
GPTW 学生時代に少人数でスタートした組織が、今は250名を超えるまで成長したと聞いています。どのように拡大し、その中でどのような課題と向き合ってきたのか教えてください。
高橋様 最初はただ、がむしゃらに組織と向き合っているだけでしたね。それでも組織が10人、20人と拡大し、2019年頃から大規模な資金調達を行ったこともあり、それまで150人程度だった組織が250人以上に増加しました。組織が10人未満のときは、仲間やチームという感覚で毎日顔を合わせていましたが、人数が増えると顔が見えにくくなります。また、同世代が多かった組織に30代中盤くらいのビジネス経験者をマネージャーとして採用した際には苦い失敗も経験しました。
彼らは前職の経験則からなる方法を適用しようとしましたが、上手くいきませんでした。前職でうまくいったことが、当社でも上手くいくというロジックがないままに、なんとなく前職の法則を適用してしまったのです。そうした経験を経て「戦略や戦術を言語化できない人にマネージャーはできない」という確信を持ちました。以降、プレイヤーとして実績を出しているからという理由で抜擢したことはありません。事業責任者の候補が何人かいる場合、言語化能力の高い人を選びます。言語化できればチームに説明できるし、「説明できる」ということは「再現性がある」ということだからです。その人だけの感覚や実績には再現性がありませんから。
GPTW 事業の規模拡大に際して組織カルチャーのゆらぎを感じたことはありますか?
高橋様 基本的に、組織カルチャーは常に変化するものだと考えています。新しい人が加われば変わるのは当然であり、問題はそれが良い変化なのか、悪い変化なのかということです。
例えば、能力は高いが、愛想も性格も悪く、仕事に対してやる気がないがお金だけは欲しいという人が入れば、悪い方向にしか進まないでしょう。反対に、仕事に一生懸命で、自分の評価をある程度正しくでき、他人に対して賞賛を送ることができる人が加われば、良いカルチャーが形成されます。大切なのは、そういった人たちが毎日楽しみながらパフォーマンスを発揮できる環境をどのように整えるかです。
今後、より良い組織カルチャーになるかどうかは、経営者や役員、そしてメンバー次第だと思います。良い組織ができたと思って安心したら、そこで終わりです。自分の組織はまだまだ成長できるという意識で取り組んでいきたいと思っています。
GPTW カルチャー形成には採用が重要だということですね。250名の組織に対して、年間で1万3000人以上の応募が集まったと聞きました。
高橋様 応募が集まるのは、採用をマーケティングと捉えて、洗練させてきたからだと思います。入社してもらうことは「ナイルに入社する」という商品を売っているようなものです。貴重な人生の時間を使う場所として選んでもらうため、何が「ナイルに入社する」という商品のベネフィットなのか、そしてそれをどのように証明すればいいのかを考え抜いてきました。
当社は「デジタル革命で社会を良くする事業家集団」をビジョンに掲げており、「事業にどこよりも集中できる環境」を目指しています。具体的には、人間関係や労働環境の制約があり、事業に対して徹底的に向き合うことができない、ということがないようにしています。例えば、出産や介護など家庭の事情で制約がある社員がいたら、クイックに既存制度をブラッシュアップしたり、新制度を設けたりと、柔軟な働き方ができるよう迅速に対応してきました。組織コンセプトに沿ったマーケティングと制度設計を行い、さらにそれを採用サイトやコーポレートサイトにも反映させることで一貫性のある発信を行っています。
GPTW 働きがいのある会社調査では、「報酬に対する納得感が高い」というスコアの高さが目立ちました。
高橋様 問題となるのは、組織の中では全然結果を出せていないのに、前職の高い報酬のままというケースです。その反対にパフォーマンスの割に報酬が低いこともあるかもしれません。これがモチベーションを下げる原因になると考えています。そうならないように、期待と報酬の関係がマネジャーの間で共通化されているのです。
具体的には、極力、評価の基準を定量化・言語化しています。もちろん一部職種においては、100%定量化・言語化することが難しい職種もありますが、できる限りそこに近づけていくことが大事だと考えています。
GPTW 調査結果の「仕事に行くことが楽しみである」というスコアも高いようです。
高橋様 本当の意味で「事業に集中できる」からだと思います。「変な人間関係の煩わしさがない会社」ともよく言われていますね。パフォーマンスを発揮できる働き方ができるから、フラストレーションが少ないのかもしれません。事業に向き合って頑張れば報酬も上がる環境を整えてきたことも影響していると思います。
また、採用の段階でかなりフィルタリングを行っています。「採用委員会」という制度を設け、役員と採用関係者にて、採用対象者の面接所感やその他適性検査等の情報をもとに、採用可否の判断・提示条件を協議して、一人でもNOという人がいれば採用しません。
また、オファー面談では、配属部署の直上長より、オファー条件およびミッションの説明、人事より評価制度や通知書の説明を実施します。この時使うオファー資料では、1ヶ月〜24ヶ月先の求める成果を明確に提示することで、相互の期待値を確認しています。
このようにエントリーマネジメントを徹底することで、お互いに良い刺激を与えあうことができる人だけを集めているんですよ。そういう人たちと一緒に夢を追うことが楽しいという感覚もあるのだと思います。
GPTW 最後に、組織マネジメントに苦労しているベンチャーやスタートアップ企業に向けてのメッセージをお願いします。
高橋様 多くの会社が組織に明確なコンセプトを持っていないように思います。自社組織のコンセプトがないのに、世間一般の良い組織を目指すのは違うんじゃないかなと。それよりも、まずはボードメンバーと自分たちの組織をどのようにしていきたいのか、しっかり話し合うことが重要だと考えます。
もう一つ、組織のトップは、次の大きな成長に向けた要素を見つけることも重要な仕事だと考えています。例えば、ChatGPTをはじめとしたGAIの活用です。世界の大きな進化に対して、自社の従業員が取り残されないように旗を振るのも社長の役割だと思っています。当社ではGAI活用支援の仕組みも用意していますが、社長が熱心に取り組めば、組織全体で盛り上がるじゃないですか。私は自分を盛り上げ役だと思っています。完全無欠のリーダーを目指す必要はないです。荒削りな部分があっても、失敗を恐れずグイグイと積極的に進んでいくリーダーのいる組織のほうが、メンバーも自由に働けるのではないでしょうか。
※ 本記事は2023年3月時点の情報です。