「静かな退職」の予防策となり得る 株式会社ディスコの「個人Will制度」とは

更新日 2025.03.172025.03.17

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2025年版「働きがいのある会社」ランキング ベスト100記者発表会
株式会社ディスコ×GPTW Japanトークセッションレポート

株式会社ディスコ 経営支援室長
赤瀬 勝彦様

Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、2025年2月12日に2025年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100の記者発表会を行いました。同イベントで、17年連続でのランキング選出であり、2025年のランキング入り企業の中で最多となる株式会社ディスコの経営支援室長、赤瀬勝彦氏と、GPTW Japan代表の荒川陽子とのトークセッションを実施しましたので、ダイジェストでお届けします。

※本記事は2025年版日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100記者発表会のレポート第2弾です。
※記者発表会のレポート第1弾はこちら:GPTW Japan代表 荒川による 2025年版「働きがいのある会社」ランキングの傾向解説/アンケート調査から見えてきた「静かな退職」の職場への影響とは?

静かな退職とは、仕事に全力投球するのを止め、必要最低限の業務をこなす働き方のことで、退職・転職するつもりはないが、積極的に仕事に意義を見出さない状態を指します。アメリカからこの言葉が広まり、現在では若手中心の働き方トレンドとして日本でも認知されつつあります。

GPTW Japanによる静かな退職に関する調査結果から、「静かな退職」が職場の「働きがい」に影響を及ぼす可能性が示唆されました。

では、長年にわたり高い働きがいを維持し続けていて、94%の従業員が「仕事を達成するための努力を惜しまない」と答えている株式会社ディスコでは、どのような企業文化や仕組みがあるのでしょうか。本イベントでは、GPTW Japanによる静かな退職に関する最新調査結果を基に「静かな退職」の予防策となり得る株式会社ディスコの取り組みについてお話を伺いました。

<記事のポイント>
✓個人Will制度により従業員は仕事内容や職場を自ら選択できるため、「静かな退職」が生まれにくい
✓個人Willが賞与の一部に反映される仕組みが、従業員のモチベーションに繋がっている
✓お互いに納得し合い、合意のもとで成り立つ関係性を築くことが「静かな退職」を予防するポイント

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ディスコの組織経営の3本柱「DISCO VALUES」「PIM」「Will」

司会:トークセッションに先立ち、ディスコの事業概要を簡単にご紹介いただけますか?

赤瀬様:弊社は1937年に、広島県呉市阿賀町で、創業者の関家三男が立ち上げた会社です。もともとは、造船に使われる鉄鋼を切断・研削するための加工用砥石を製造する会社(当時は第一製砥所)でした。その後、計測機器の部品を加工する案件がきっかけとなり精密加工分野に参入。加工ツールであるブレードの性能には十分な自信があったものの、それを活かせる加工装置が存在しなかったため、さらに加工装置の開発に着手しました。そこから事業領域を広げながらも「切る・削る・磨く」という分野に特化し、現在に至っています。

弊社の組織経営は、『DISCO VALUES』『PIM』『個人Will』という三本柱を軸に展開されています。DISCO VALUES(バリューズ)は、300近い項目で構成された、ディスコの企業としての価値観です。PIMはいわゆる改善活動で、各部署が行った改善内容を対戦形式で発表します。対戦形式には、聴講している従業員が優れていると思う方の改善内容に投票し、部署同士の競争を促すことで、組織全体の改善活動を活性化させる狙いがあります。個人Willは管理会計の概念を個人レベルにまで落とし込んだ制度です。Willという単位の社内通貨で仕事や社内サービスに値づけがされ、仕事をすればWillがもらえ、誰かに仕事を依頼すればWillを支払うかたちで運営しています。

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ディスコはある意味で「居心地の悪い会社」

荒川:昨年「静かな退職」をテーマにプレスリリースを発表した後、多くの問い合わせをいただきました。「静かな退職」が増えていくことは、日本企業の「働きがい」にあまり良い影響を与えないのではないかと考えています。

赤瀬様:働き方が多様化するなかで、「静かな退職」が選ばれてしまうのは、企業としては寂しいなと感じます。しかしながら、弊社では「静かな退職」を選択する人はかなり少ないのではないかと思います。「静かな退職」を選ぶような人にとって、弊社の環境があまり「居心地の良い」ものではないからです。

弊社は「自由」と「信頼」という二つの要素を非常に大事にしており、特に、「自由」を確保するために、個人Will制度が大きな役割を果たしています。従業員一人ひとりに「どんな仕事をしたいか」「どの部署に所属したいか」という希望があると思います。しかし、外的な要因によってそれが制限されると、従業員は「自分では変えられない」と諦めて、それが「静かな退職」につながる可能性がある。しかし、個人Will制度を活用することで、自分がやりたい仕事を自ら決めることができます。

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ディスコの94%の従業員が「仕事を達成するための努力を惜しまない」

interview_20250317_02.png荒川:それは具体的にどのような仕組みになっているのでしょうか?

赤瀬様:一般的には、上司がメンバーをアサインし、仕事の担当を決めることが多いですよね。しかし、弊社では「この仕事をやりたい」と思えば、希望者がその仕事に手を挙げることができます。そして、依頼者との間で合意が得られれば、希望者がその仕事を担うことができます。さらに、協業したい相手を自由に選ぶことができる点も大きな特徴です。従業員同士が合意のもとにチームを形成していきます。なお、スキルや業務量によって、提示されるWillの金額は変動します。

上司が仕事を「アサイン」するわけではなく、基本的には従業員同士の合意のもとで業務が進められるので、上司が個別に割り振る機会は少なくなります。そのため、従来の業務管理的な役割はあまり持たないんです。では、上司は何をするのかというと、部下が「やりたい仕事」をスムーズに進められるよう、アドバイスをしたり、業務の進行において何か困難があれば相談に乗ったりするといったサポート役に徹します。従業員に寄り添うかたちでサポートするのが、上司の役割です。

荒川:御社の「働く人のアンケート」結果を拝見すると、「この会社の人たちは仕事を達成するための努力を惜しまない」というスコアが94%と非常に高いですね。これは、94%の人が「この会社の人たちは仕事を達成するための努力を惜しまない」と感じていることを意味します。

赤瀬様稼いだWillが賞与の一部に反映されるため、従業員は自然とモチベーション高く業務に取り組むことができます。その結果、仕事に対して妥協しない文化が根付き、より良い成果を生み出していくサイクルが生まれています。

Willを多く稼ぐことが賞与に結びつく仕組みがあるため、報酬を不相応な金額まで釣り上げようとする人が現れる可能性もあります。しかしそれは短期的な利益を得るために信頼を犠牲にする行為であり、そのような人には、いずれ他の人からのオファーが来なくなります。そのため、健全な競争が生まれ、従業員同士が信頼関係を築きながら仕事を進めることができるようになっています。

荒川:ちなみに、なぜWillという名前になったのですか?

赤瀬様:弊社では「従業員一人ひとりの意思を尊重することが重要」と考えており、これがWill(意思)という名称の由来です。

大切なのは「期待をかけ合い、コミットする関係性」

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荒川:Willの仕組みを活用して、お互いに納得し合い、合意のもとで成り立つ関係性がポイントなのですね。私たちはこの関係性を「ディール(Deal)」と呼んでみました。つまり、お互いに期待をかけ合い、それに対してコミットしていく関係性です。御社ではまさに「社員間のディール」が実現しているのではないでしょうか?

赤瀬様:そうかもしれません。弊社では、経営者もWillを使う個人アカウントを持っており、従業員同士だけでなく、経営者と従業員の間でも、自然と期待をかけ合う関係が成り立っています。また、会社としての大きな命令や指示は、ほとんどありません。基本的には仕事を他者に依頼したい人と、その仕事を担いたい人との合意を起点に仕事が進み、その仕事で残した成果が「次もあなたと仕事がしたい」という信頼感や期待感につながります。つまり、全員が「期待をかけ合い、コミットする関係性」を築いているのです。

いかにして「静かな退職」を事前に防ぐか

interview_20250317_04.png司会:赤瀬様、ありがとうございました。荒川さん、最後にディスコ様の取り組みも踏まえた上で、人や組織に課題を感じている企業や管理職の方々へ向けてメッセージをお願いします。

荒川:「静かな退職」を選択する人が増えることは、企業にとって決して良いことではありません。「静かな退職」は、働きがいを損なう要因になり得るため、いかに事前に防ぐかが重要です。企業側としては、従業員を巻き込みながら、「1人1人が職場の連帯感を築く一員である」というメッセージを伝えることが求められます。今日のディスコ様の話にもあったように、Willのような管理会計システムを導入するのは、いきなりは難しいかもしれません。しかし、それでも学べることは多くあります。例えば、お互いに「期待をかけ合う」という考え方です。依頼する側は「なぜこの仕事をあなたに依頼するのか?」をきちんと言語化して伝え、 依頼を受けた側は、「受けます、やります」というコミットメントを明確にすることが重要です。

また、仕事の進行中や完了後には、成果を振り返り、お互いに認め合うことが大切です。これを行うことで、「自分はやっているつもりでも、相手に評価されていない」というギャップを最小限に抑えることができます。こうした取り組みは、「静かな退職」の予防策にもなると考えています。

これはディスコ様に限らず、「働きがいのある会社ランキング」に入る企業の多くが、独自の仕組みや施策を通じて実現しようとしていることです。各社の取り組みに光を当て、より多くの企業が「静かな退職」を防ぎ、働きがいのある職場を作れるようになればと思います。

株式会社ディスコ 経営支援室長 赤瀬 勝彦様

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高専卒業後、株式会社ディスコに入社。エレキエンジニアとしてダイシングソーの開発に従事した後、2017年に経営支援室へ異動。国内外の全拠点に向けた改善活動や目標管理制度の推進を担当し、2023年には30代半ばで経営支援室長に就任。

Great Place To Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子

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2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020 年より現職。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を一社でも増やすための活動をしている。著書に「働きたくなる職場のつくり方」(かんき出版)。

本内容は2025年2月時点の情報です。

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