イノベーションとは?ビジネスにおける定義や課題を解説
更新日 2024.10.112022.08.22コラム
近年、労働人口の減少や労働環境の変化など、ビジネスの世界は急速に変化しています。そうした中イノベーションの必要性が叫ばれていますが、そもそもイノベーションとは何か、漠然としか分かっていないという人も多いのでないでしょうか。イノベーションの意味を正しく理解すれば、本来の使い方は技術の分野だけで収まるものではないことがわかります。
そこで本記事では、イノベーションの概要やビジネスにおける定義を理解したうえで、シュンペーターのイノベーション理論など、4つのイノベーションについて詳細に解説します。また、今なぜイノベーションが注目されているのかについて、成功事例を紹介するとともに検討していきます。
目次
イノベーションとは
イノベーションとはなにか、その定義を確認し、企業におけるイノベーションについて見ていきましょう。
イノベーションの定義
イノベーションとは、「技術革新」という意味だけではなく、「異質なものを結合する」という意味での革新的なものすべてを指します。そのため、イノベーションには、技術の変化以外にも新しい市場や新しい資源の開発、新製品・新技術の開発、組織の改革や新制度の導入なども含まれます。
20世紀前半の経済学者のシュンペーターは、ラテン語の「新しくする」という意味を持つ「innovare」から「innovation」を「新たなものを導入する」という意味で造語したといわれています。上述した通り、イノベーションは、あらゆる革新的なものすべてを指し、技術革新よりも広い意味を持っています。そこには、既存の産業構造を想像的に破壊することも含まれます。
企業のイノベーション
近年は、日本でも技術や産業構造が大きく変化していることがわかります。パソコンの普及をはじめ、古くは固定電話から携帯電話、そしてスマートフォンへ変わり、SNSやメールなど、コミュニケーションの手段も大きく変化しました。
一方で、企業のあり方も急速に変化しています。2022年時点で、エネルギー問題や工場の生産体制、AI技術、組織のあり方などさまざまな分野が大きく刷新されました。具体的には、以下のような場面で大きな変化が見られます。
・新しい技術による新製品開発
・生産技術開発
・マーケティングにおける新市場の開拓
・資材調達や生産部門におけるグローバルなサプライチェーンの構築
・経営戦略や人事部門における企業構造の組織改革 など
企業にとってのイノベーションは、企業が生産拡大のために、生産方法や組織を組み替えることや新たな生産要素を導入する行為のことです。例えば、既存の技術に新しい考え方が導入されたり、既存の産業構造が破壊して新たな産業構造に刷新したりすることも、すべてイノベーションといえるでしょう。
4人のイノベーション理論
ビジネスでイノベーションが注目されるようになった背景には、「シュンペーター」「ドラッカー」「クリステンセン」「チェスブロウ」といった4人のイノベーション理論があります。ここでは、それぞれのイノベーション理論について見ていきましょう。
シュンペーターのイノベーション理論
「イノベーションにより、投資需要や消費需要が刺激されることで、経済の新たな局面が創出される」というのが、シュンペーターの提唱するイノベーションの定義です。また、「新結合」が起きるには、イノベーション・企画者・銀行の3つが経済発展の重大な要素となり、イノベーションを以下の5つに分類して定義しています。
1.プロダクトイノベーション(新しい製品・サービスを開発する)
2.プロセスイノベーション(新しい生産方式を導入する)
3.マーケットイノベーション(新しい市場や消費者を開拓する)
4.サプライチェーンイノベーション(新しい資源や供給ルートを獲得する)
5.オーガニゼーションイノベーション(新しい組織を改革・実現する)
シュンペーターのイノベーション理論は、現代のマーケティング理論に大きな影響を与えています。この5つの分類を見ても、イノベーションが「新しいものよってこれまでにない新たな価値を創造・変革する」という広い概念であることがわかるでしょう。
ドラッカーのイノベーション
近年、日本で注目を集めているドラッカーのマネジメント理論は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。日本でもなじみのあるドラッカーは、イノベーションを創出する手がかりとなる方法について、以下の7つの種(機会)から解説しています。
1.予期せぬもの (成功や失敗を分析し、新しい変化を読み取る)
2.ギャップ(現実との不一致・乖離を探し、分析する)
3.ニーズ(求められているもの、欠けているものを探す)
4.産業構造の変化(産業構造が壊れることも急速に成長することも変化であり、その変化を知る)
5.人口構造の変化(年齢構成など人口構造の変化により社会も変化する)
6.認識の変化(世の中の認識の変化を捉える)
7.発明・発見(新しい技術や知識を発見して活用する)
例えば、「1.予期せぬもの」というのは、最も身近にあり最も成功しやすい視点です。この7つの種は成功しやすい順に並んでおり、現在のイノベーションに近いイメージの「発明・発見」が最後に来るのも特徴といえます。
1~4までは、産業の内部要因、5~7までは外部要因となり、順を追うごとにリスクが高くなりますが、共通していえるのは「変化に気づく」ことです。変化の中からイノベーションの機会を見つけ出す方法を持つことが大切となります。
クリステンセンのイノベーションのジレンマ
イノベーション研究の第一人者ともいわれるハーバード・ビジネス・スクール教授クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』に、以下の2つのイノベーションタイプについての解説があります。
1.存続的イノベーション
製品やサービスの改善を積み重ねて存続させることで、その性能を向上させる方法があります。存続的イノベーションとは、企業の存続性を基準に考えたもの。つまり、既存有力企業がイノベーションの対応に成功することで、市場における支配力を維持し続け、企業の存続に成功するのが存続的イノベーションです。
2.破滅的イノベーション
新しい製品やサービスを創出することは、ときには既存の製品やサービスを破滅させることにもつながります。しかしこれは、既存事業を大胆に変革していくことで新しい付加価値の付いた商品の開発や事業向上の変化を導くことを意味します。
かつてソニーが販売したウォークマンは技術的にはこれまでの延長上のものでしたが、持ち歩くことができるコンパクトなサイズと外出時に手軽に音楽を聴くことに特化した利便性で新しい価値基準を生み、大きなヒット商品となりました。
存続的イノベーションが「価値をさらに高めること」を意味するのに対し、破滅的イノベーションは古い考えを破壊し「新たな価値を創出すること」と考えればいいでしょう。
イノベーションのジレンマとは、存続的イノベーションと破滅的イノベーションとの間で起こる企業の悩みといえるでしょう。多くの場合、顧客のニーズに耳を傾けることで既存の製品やサービスの改善や発展をもたらすことが可能です。
しかし、既存の価値基準にこだわりすぎてイノベーションへの対応に遅れれば、企業は市場で生き残ることができず、競争力を失い、破滅的なイノベーションによってシェアを一気に奪われることになります。これは、優秀な企業が抱えるイノベーションのジレンマといえるでしょう。
自社の優良商品の改良を進めてより性能を高めることにより、新しい技術や新しい市場のニーズへの対応が遅れ、新興企業にシェアを奪われることになるのです。イノベーションのジレンマには、技術革新だけではなく市場のニーズも大きく関係します。
チェスブロウのオープン・イノベーション
アメリカの経営学者チェスブロウの著書『オープン・イノベーション』によって提唱された2つのイノベーションの概念があります。
1.オープン・イノベーション
オープン・イノベーションとは、組織改革促進のために外部の技術、アイデア、資源を取り入れ、新たな価値を創造する手法や考え方です。社内だけではなく、他社や大学、国、地方公共団体が持つ技術・情報・資金・人脈といった資源を活用したイノベーションを創出して、新しい市場機会を増やすことに目的があります。
2.クローズド・イノベーション
クローズド・イノベーションとは、組織や製品開発を自社内部の資源で内省化してイノベーションを起こす手法や考え方です。自社と外部を分離して、情報の流出防止や技術の独占などを目的に自社で完結させるところに特徴があります。
しかし、技術の進歩が速く市場や環境への対応を必要とする現代では限界があるといわれます。
現代では、多くの企業がオープン・イノベーションの取り組みの必要性を感じ、大学や企業との産学連携の取り組みが増え、日本でも政府が環境整備を進めています。
イノベーションが注目されている3つの理由
今、ビジネスでイノベーションが注目されているのには理由があります。ここでは、イノベーションが注目される3つの理由を解説します。
急速な技術革新
IoTやAIなど、急速に技術革新が進んでいます。技術の進化のスピードは早く、既存の技術はすぐに古いものになってしまいます。これまでのやり方はすぐに通用しなくなる現代において、新しいアイデアにより商品やサービスに付加価値をつけることは、企業の競争力を向上させるうえで非常に重要といえます。イノベーションの成功は、企業の抱える課題解決につながり、新たな市場開拓のチャンスとなるでしょう。
労働人口の減少
少子高齢化が進むにつれて人口も減少しています。これは同時に労働人口の減少ということになります。課題を解決するには、イノベーションによる生産性の向上が不可欠です。
市場の縮小
人口が減少するということは、国内市場の縮小とも無縁ではありません。現在、GDPも低い水準となっています。こうした中、グローバルな市場を視野に成長を続けていくためにはイノベーションは欠かせません。
イノベーションを起こすには企業はどうあるべきか
イノベーションを起こすためには、企業がどうあるべきかを考えなければなりません。それには、まず企業の課題を洗い出し、企業が抱える課題を解決することが必要です。イノベーションを起こすことができる企業は、どのような企業でしょうか。
企業の課題
イノベーションを起こすにあたって、まずは阻害要因となる企業の課題を洗い出し、企業が抱える課題を解決することが先決です。イノベーション実現への取り組みに向けた活動と、それを実現する段階において、企業の課題としては、次のようなことが考えられます。
1.明確な方針が示されていない
企業の文化、新しいことへ挑戦する意識を明確にするために、上層部の方針を明確化して社内に周知する必要があります。企業としての目標や方針が不明瞭で資源投入の意思決定ができていないと、計画立案段階で頓挫する可能性があります。
2.既存の事業に執着している
既存の製品やサービスの市場ニーズや技術力を分析し、新しい技術開発へ取り組むことが必要です。既存のビジネスモデルに固執していると、これまでとは異なる価値観で動くことはできず、新しいアイデアは生まれません。
3.リーダーの意識改革ができていない
従業員の危機意識の醸成には、リーダーの意識改革への取り組みが必要になります。イノベーションを起こすには自由な発想や失敗を恐れない職場風土が大切です。リーダー自らの意識改革ができなければ、現場のアイデアを阻むことになりかねません。
4.イノベーションを継続して行うための情報が不足している
他社の動向、技術に関する情報、マーケティングに関する情報を収集・分析するとともに、自社の強みや弱みを分析し、自社に合った方法を検討する必要があります。特に技術開発の分野では、社外の知見を取り入れ、協働して取り組むことも検討する必要があるでしょう。
5.イノベーション・マネージメントに必要な人材の採用や教育ができていない
必要となる人材の確保と選定、能力がある人材の不足を補うための施策が必要になります。自社で必要な人材を教育できない場合には、外部から必要な人材を採用することも検討しなければなりません。
6.社内の事情
イノベーションにかかるコストを見積り、企業の資金繰りや財源の確保、資金調達の方法を検討する必要があります。ときには業務提携や出資など、外部の協力相手を探すことも検討しなければなりません。
イノベーションを起こせる企業とは
イノベーションを起こすことができる企業は、内部要因、外部要因の変化を見逃さず、柔軟な対応ができる企業といえるでしょう。イノベーションを成功させる企業には、以下の特徴があります。
・時代の流れや市場の流れに柔軟に対応できる(経営陣から従業員全体の挑戦する企業としての姿勢)
・リスクを把握し、適切な対応ができる(リスクマネジメントに対する意識)
・社内外の文化の醸成(自由に発言できる社内風土や企業の雰囲気、働きがいなど)
・社内外のコミュニケーションが盛ん(グループ会社や他社、業界団体との協業体制を含む)
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働きがいを重視した経営はイノベーションと深い関連性がある
イノベーションとは、「異質なものを結合する」という意味での革新的なものすべてを指し、技術革新よりも広い意味を持っています。企業としてのイノベーションは、生産拡大、生産方法や組織の組み替えなど新たな生産要素を導入する行為です。既存の技術に新しい考え方が導入されることも、既存の産業構造が破壊して新たな産業構造に刷新することも、すべてがイノベーションといえます。
新商品の開発や新しいサービスによる市場の開拓もさることながら、生産性の向上に向けた新しい組織への改革を実現することもイノベーションといえるでしょう。なぜなら、企業の成長には、よい人材が集まり、人材を育成し、協力して事業を行うことが必要不可欠だからです。人材育成、企業文化の醸成、組織改革も企業の生産性向上に結び付く要素となるため、従業員の意識改革や社内風土や働きがいのある職場環境の創出もイノベーションとなり得るのです。働き方改革が叫ばれる昨今、新しい技術や新しい市場のニーズへの対応ばかりに目が行き、自社の組織改革や従業員のエンゲージメントの向上への対応に遅れるようなことがあると、企業の存続が危ぶまれることにもなりかねません。
イノベーションを成功させる企業は、内部要因、外部要因の変化を見逃さず、その変化の中からイノベーションの機会を見つけ出し、柔軟な対応を行っています。また、先入観を持たず、社外にも人材交流を持ち、失敗を恐れず自由に発言できる社内風土や働きがいのある職場環境、社外との協働体制も必要となるでしょう。そして、そこには従業員の成長が不可欠です。
企業の成長には、対外的な競争力の強化や市場の開拓による収益力の強化と人材育成や有能な人材の確保につながる組織づくりの両輪を回し続けることが大切であり、どちらか一方でも欠ければ、企業は前に進むことはできません。目先の事業利益に目を向けるばかりではなく、働きがいを重視した経営体制の構築も企業のイノベーションを成功させる秘訣となるでしょう。
イノベーションの成功事例
イノベーションに成功した企業の事例を見てみましょう。
KDDI株式会社の事業共創への取り組み
KDDI株式会社は、競争が激化する通信産業において、企業としての持続的な成長を図るために、通信事業の顧客に向けた付加価値を提供する取り組みを行っています。同社の「通信とライフデザインの融合」の実現と事業共創プラットフォームであるKDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)の創設もその取り組みの結果です。
スタートアップ企業への知財活動支援はオールラウンダーな人材でなければできません。「自分たちの知財部門」を使ってもらうという意識改革から「支援先に入り込んだ支援」を実行し、オープン・イノベーションを通じて、新規事業を積極的に創出しているところに特徴があります。したがって、同社では、支援活動の経験豊富な人材を担当として配置し、支援先であるスタートアップ企業を理解した上で、知財活動を通じて信頼関係を築くことを重要視しています。
本来、競合する同業他社への支援は考えられないことですが、外形的には業務受託であったとしても、短期的な支援だけではなく「ファミリーである」というマインドで取り組み、イノベーションに成功しています。結果として、スタートアップ企業のビジネスアイディアやテクノロジーとKDDI ∞ Laboに参画する大企業との連携によって、スタートアップ企業の事業を支援するプログラムを作り、新たな事業の創出に成功しています。
ダイキン工業株式会社の産官学連携への取り組み
ダイキン工業株式会社の空調事業における技術は世界でもトップレベルです。それでもなお、産官学連携による協創イノベーションの実現を目指して、国内外の大学と連携して新たなビジネスの創出をしています。
同社では自前主義から脱却と包括的な取り組みによる新たな価値の創造を「協創」と定義しています。そして、産官学連携による協創を実現することがダイキンの挑戦です。
同社の目指すイノベーションの実現は、人材交流が成功のカギとなります。したがって、同社では、両組織のトップ、幹部自らが深く交流し、メンバーと一緒に考えることを重要視しています。大学や研究所などとの連携のために人材交流を施策として積極的に行うことで、独自の考えに基づく協創イノベーションの実現に成功しています。
同社の競争イノベーションの取り組みは、多岐に及びます2018年には、10年間で100億円規模を投資して東京大学と産学協創協定を締結。2016年度には大阪大学に「ダイキン協働研究所」を設置。2020年度は、大阪大学の全学部対象に空気・空間に関する研究テーマの公募をしました。また、「ダイキン情報科学研究ユニット(Di-CHiLD)」を立ち上げ、空気・空間ソリューション事業の拡大と共同研究テーマから、多くの特許を出願申請し、現在もなお、特許で競争力の強化を図り、販売台数を拡大しています。
ソースネクスト株式会社の全社員一丸で取り組む「MI制度」
AI通訳機ポケトークやWeb会議用カメラMeeting Owl(ミーティングオウル)で有名なソースネクスト株式会社では、同社の社長自ら発案したMI制度により、ヒット商品を生むことに成功しています。
MI制度とは、MarketingとInnovationの頭文字からつけた名前であり、同社社長がマーケティングやイノベーションに関するアイデアを日報に書いてほしいと社員にお願いしたことがきっかけで生まれた制度です。この制度では、強制することなく社員が自由にマーケティングやイノベーションに関するアイデアを書くことができます。また、社長自ら24時間以内に返信することや社員の出したアイデアが翌日の会議で議論され製品化につながることも、社員の企業に対する貢献への実感や満足度の向上につながっているといえるでしょう。
MI制度の成果は、社員の新しい発想から生まれる商品やサービスの創出だけではなく、経営陣と現場とのギャップを埋めるコミュニケーションの手段として、また、異なる部署の業務への理解を深める機会の創出としても有効です。全社一丸となって会社の未来を創るMI制度は、チームワークとエンゲージメントを高める企業文化の醸成にも結びついているのです。
*事例の詳細は導入・取組み事例(ソースネクスト株式会社)をご覧ください。
(ライター:社会保険労務士/1級FP技能士 加治 直樹)