マミートラックを回避したい!仕事と育児が両立できる企業とは?

更新日 2024.11.262024.04.05コラム

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最新の調査によれば女性の育児休業取得者は80.2%(*1)、復職率は93.1%(*2)となり、仕事と生活の両立支援が拡充したことで出産後も多くの女性社員が働き続けています。一方で、時短勤務などの制度利用によって、仕事のやりがいや将来的な成長が阻害されるという“マミートラック”の問題が指摘されています。
今後、シニア・外国人・障がい者など多様な働く人の活躍が必要となる中で、働きやすさとやりがいの両方を実現するにはどうしたらよいのでしょうか。働きがい認定企業の取り組みからヒントを探りたいと思います。
*1:令和4年度雇用均等基本調査より
*2:令和3年度雇用均等基本調査より

マミートラックとは?

マミートラックとは、出産後に復職した女性社員が育児のための時短勤務制度を利用したり、あるいは部署異動や仕事が変わったり等の配置転換によって、将来的には本人のキャリアが限定されたものになってしまう状態のことをいいます。育児のしやすさを優先させることが責任のない仕事や代替しやすい簡単な業務のアサインとセットである場合が多く、本人も意識することなくその状態が続いてしまうことが問題視されています。

マミートラックはワーキングマザーだけでの問題ではない

マミートラックは本人の不利益が強調されがちですが、会社にとっての損失ともいえます。日本は少子高齢化社会といわれ、女性、シニア、外国人などあらゆる人が活躍することが益々重要になってきます。経営者向けに、Great Place To Work®(以下、GPTW)が独自に行った調査においてもこうした意識は高く、例えば多様な人材活躍推進にむけての取り組み意向を聞いたところ、「すでに取り組んでいる・あるいは意向がある」との回答が「対外国人」を除いては80%を超えました。

D&Iテーマ別取り組み意向と成果

質問:多様な人材の活躍推進に関する以下のテーマについて、貴社の現在の取り組み意向と、成果をお答えください。<単一回答/n=400/%>

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出典:女性活躍推進のための全員活躍職場(For All職場)とは

マミートラックから次のステージへ向かう女性活躍推進

また、同調査において女性活躍についての課題を聞いたところ、「本人の能力や希望を活かした公正な配属・異動」がトップとなり、次いで「女性の管理職登用・評価」、「女性に対する育児と就労の両立支援」と続きました。女性活躍といえば両立支援をどう整えるかといった働きやすさに目が向きがちですが、この調査結果からはそれよりも一歩進んだ女性活躍、つまり適切なポジションを与え責任のある仕事を任ってもらうにはどうしたらよいかという経営者の悩みが反映されているとも理解できます。

女性活躍推進における優先度の高い取り組み課題

質問:「女性の雇用、活躍推進」について「取り組む意向がある」と答えた方にお聞きします。優先度の高い取り組み課題は何ですか。当てはまるものを1つ~最大3つまでお選びください。<複数回答/n=375/%>

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出典:女性活躍推進のための全員活躍職場(For All職場)とは

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マミートラックの原因

そもそもマミートラックは、アメリカから始まった働く母親向けのプログラムで、出産後にキャリアと家庭との両立を実現させたい人への一時的な対応として考えられたものでした。日本では、本人の希望しない配置転換を伴ったり、長期化してしまう場合にモチベーションが低下したりとややネガティブな印象がありますが、なぜマミートラックの問題は起きるのでしょうか。様々な背景が考えられますが、ここでは3つの要因について取り上げたいと思います。

  • 長時間労働を前提とした労働慣行
  • 女性に偏る家事負担
  • 日本ならではの母親としての役割認識

長時間労働を前提とした労働慣行

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると日本の年間総実労働時間は、1994年には1910時間であったものの2021年には1,633時間と減少傾向にあります。しかしこれはパートタイムの人口が増えたためであり、就業形態別でみると一般労働者(パートタイムを除く)は、19942,036時間であるのに対し、2021年は1,945時間と、ほぼ横ばいでありました。働き方改革は進みつつあるとはいえ、労働時間が長い問題は引き続きの課題といえそうです。また日本では長く働くことは、「会社へのロイヤリティが高い」、「仕事に熱心である」という評価に繋がりやすいとも言われています。

女性に偏る家事負担

加えて、日本の家庭においては女性の方が男性よりも家事負担が重いという現状があります。総務省統計局の調べによると、日本では、家事関連時間全体のうち80%は妻が担っており、夫は20%と低い割合になりました。アメリカと比較してみると、夫は37%となっており日本の1.85倍の家事を引き受けていることが分かりました。

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日本ならではの母親としての役割認識

伝統的な役割認識も影響しています。育児は母親が担うものといった認識が根強く、職場においては上司のみならず、女性社員本人も多かれ少なかれ感じている場合があります。上司は育休明けの女性部下は育児が大変なので負担を減らしてあげたいと思いがちで、それが本人のあまり望まない、代替のきく責任のない仕事のアサインに繋がっているという指摘もあります。一方で、当事者の女性の中にも育児中は子どもを中心としたいので仕事上の重い責任を持つことは周囲に迷惑をかけないためにも避けておきたいという思いを持つ人もいます。

こうしてみると、マミートラックの原因は社会の構造や日本の伝統的な習慣や考え方によるものが大きいともいえます。ただ、企業にも本人にもできることはあります。マミートラックの良い点(メリット)と問題点(デメリット)を整理しながら、前向きな変化を起こすにはどうしたらよいかについて考えてみたいと思います。

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「働きがい」は漠然とした言葉であるため、その実態はよく分からないという方も多いのではないでしょうか。 本資料では、働きがいを構成する要素や、その中でも特に働きがいに影響の強い要素、また企業が働きがいを高めることのメリットなどについて、データとともに紹介します。

マミートラックのメリット

マイナス面ばかりが印象強いマミートラックですが、時短勤務や看護休暇が利用できることはワーキングマザーにとっては育児の時間をきちんと確保できる安心感につながっています。子どもの世話は、対応すべき適切な時間が決まっており、幼少期には思わぬ病気やケガなど緊急時の対応も発生します。柔軟な働き方や休暇のとりやすさは両立支援として大切な側面でしょう。慣れない育児期間中には、復職前とはあえて異なる労働条件や期待値で働きたいという要望もあるでしょう。育児の大変さは予測困難であることがあるので、職場に迷惑をかけないようにできる範囲でセーブしておきたいという気持ちが女性社員には働くと思います。あるいは自分にしかできない子育てに集中したいという気持ちもあるでしょう。時短勤務や配置転換は女性側の希望であることもあります。その意味ではマミートラックは一定の役割を果たしているともいえます。

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マミートラックのデメリット

一方で、マミートラックのデメリットは、責任のある仕事が任されない、簡易な事務作業が長期化すると個人の成長に悪影響が出て、結果として将来的に望むキャリアが選択できないというリスクが高まることでしょう。働き続けることはできていても、手ごたえを感じられない仕事からは面白みやワクワク感もないので業務効率も落ち、モチベーションの低下も懸念されます。前向きに働いていれば創意工夫やアイデアの創出も期待できるのに、そうした可能性が小さくなるのは企業にとっても損失といえるでしょう。

マミートラック回避に向けて

では企業にとっても望ましくないマミートラックを回避していくにはどうしたらよいのでしょうか。以下の2つのアプローチを提示したいと思います。

  • 女性だけではなく、全員が活躍できる職場へのトランジション
  • 働きやすさだけではなく、やりがいも得られる職場づくり

女性だけではなく、全員が活躍できる職場へのトランジション

マミートラックのデメリットを振り返ると、女性にフォーカスしすぎるあまり、本人の望まない状況を引き起こしているとも考えられます。つまり、今後あらゆる属性の人が活躍しなければならない社会情勢を鑑みると、女性だけではなく多様な働く人全員にとって活躍できる職場を目指すことが、結果として女性に対しても活躍できる職場づくりにつながる可能性があります。あらゆる人を対象とすると個別事情も多様化するので、マネジメントも複雑で手間のかかるものと想定されますが、そうした変化に組織として対応していくことも今後の少子化対策としては求められるでしょう。

働きやすさだけではなく、やりがいも得られる職場づくり

GPTWでは、社員が働きがいを感じられるには、「働きやすさ」と「やりがい」の両面において満たされることが大事であると考えています。マミートラックの問題は、働きやすさは満たされているものの、やりがいが足りていない状態ともいえます。やりがいとは目にみえにくく捉えようのないもののように感じますが、職場の上司との信頼関係や、同僚・仲間とのチームワーク、あるいは与えられた仕事に対する誇りを高めることによって確実に得ることができます。

参考:働きがいとは?

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2つのことを提案しましたが、これらは“企業”と“女性社員本人”の両方が努力することが大切です。それぞれに求められる変化とはなにか、具体的に考えてみましょう。

【ホワイトペーパー】働きがいを向上させるための施策事例15選

この資料では、働きがいを高めるうえで企業が直面しやすい5つの組織課題について解説します。あわせて、それらの課題に対する具体的な施策事例も紹介します。

仕事と育児を両立させるために企業にできること

すでに多くの両立支援施策の情報はあふれていますので、ここでは主に「やりがい」向上に向けて企業ができることを2つ提唱したいと思います。

  • トップのコミットメントによる多様性への理解
  • 上司と部下、周囲との信頼づくり コミュニケーション支援

トップのコミットメントによる多様性への理解

経営者が組織の多様性を認識し、尊重することが大切です。あらゆる人が活躍する組織づくりの土台は経営者のコミットメントから始まるのです。GPTWの認定企業ではダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)を大事にする企業が多いですが、それらの推進は人事部といった特定部署ではなく、経営層によるトップ主導で進めているケースが多くあります。

関連記事:導入・取組み事例(モルガン・スタンレー様)
経営層が女性だけではなく全員が活躍できることを提唱

上司と部下の信頼づくり コミュニケーション支援

女性社員が復職後にどのような仕事や働き方を望むのかきちんとヒアリングすることが大切です。本人も初めての出産の場合、育児のイメージがつかないばかりに未来を会社に委ねてしまうことがあります。よって出産前に人事部や上司が面談を行い本人の希望についてヒアリングを行うことも大切です。出産後に状況が変わる場合もあるので復職する少し前にも上司との面談の機会があると安心でしょう。働きがい認定企業では、働く母親同士のネットワークを積極的に構築しています。会社が定期的な会議やイベントを開催し両立に必要な情報共有の場を提供しています。

仕事と育児を両立するために女性社員にできること

女性社員の皆さんにもエールを贈りたいと思います。マミートラックの問題を企業に委ねるだけではなく、出産や育児をきっかけに、ぜひ「自分はなぜ働くのか」、「どう働きたいのか」ということについて振り返っていただくことをお勧めします。そしてそれらが明らかになったなら、それを実現できる職場を選択することも大切です。転職という選択だけではなく、今いる職場の上司や職場の仲間に働きかけて自身の状況を理解してもらったり、協力を求めたりすることもあるでしょう。また育児中をしているときに少しは成長がとまっていたとしてもまた進みだすときのために、社内外にアンテナを広げネットワークに関わっていくことも育児に好影響をもたらします。

GPTWでは、働きがいを高めるコミュニケーションの手段として、Giftwork®という考え方(相手に思いをめぐらせ“ひと手間”をかけた対応を行う)を大切にしています。育児と仕事の両立時には時には自分一人で立ち向かえない問題が発生することがあります。その時には周囲を頼ってよいということです。そして自分に余裕があるときには、お礼として同僚に対してなにかできることを行うことで十分なのです。職場のひとり一人が、労働時間の長短は、働きがいを感じることや組織への貢献度にあまり関係がないことを理解することが大切です。

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Giftwork®は職場の上司や仲間だけでなくすべての関係者に応用できます

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全員が活躍できる職場の経営上の効果

最後に全員が活躍する全員型職場を目指すとどのような経営上の効果が期待できるのでしょうか。GPTWが行った研究を紹介します。

全員活躍職場では業績がよい

全員が活躍している職場を「全員活躍職場」として、そうでない「非・全員活躍職場」と業績について比較をしました。過去3年間の売上高の伸び率を業界平均との比較で実感値を確認したところ、全員活躍職場は、「業界平均と比べて高い」と回答した割合が61.1%となり、非・全員活躍職場(27.5%)を大きく引き離しました。女性もそうですが、あらゆる人の活躍に向けて手を打つことは経営的にも好影響であるといえます。

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出典:女性活躍推進のための全員活躍職場(For All職場)とは

全員活躍職場では女性管理職が多い

全員活躍職場になると結果として女性管理職も増える可能性があります。同研究では、全員活躍職場では、非・全員活躍職場に比べて女性管理職が多いという結果になりました。また女性管理職の多い職場では、その職場全体の働きがいが高いことが明らかになっています。

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出典:女性活躍推進のための全員活躍職場(For All職場)とは

まとめ

立場に関わらず全員が活躍する職場にしていくことが働きがいの高い職場の条件といえます。立場の違いとはワーキングマザーも含まれます。そのためには、企業はマミートラックにはめ込ませず、女性本人もマミートラックに長期に甘んじないことが大切でしょう。家事負担が大きいなどの社会問題も現実としてありますが、このコラムが企業と本人の少しずつ前向きな変化につながるとよいと思います。

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Great Place To Work(R) Institute Japan シニアコンサルタント 今野 敦子

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名古屋大学大学院経済学研究科(経営管理学)修了
フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。
外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。
2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。

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