働きがいを損なう「組織の危機」を乗り越えるための「4つの言葉」
特別講演「組織成長を支える人材管理」学習院大学 守島基博教授 

2020.10.21

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2020年9月、GPTWジャパンは「企業の規模拡大フェーズにおける組織課題」をテーマとした研究レポートを発表。同レポートの発表に伴い、人材マネジメント研究の第一人者である守島基博氏(学習院大学 経営学部経済学科 教授)が成長段階での組織の危機を乗り越えるポイントについて講演した。

企業の成長には「働きがい」を損なうリスクもついてまわる

組織は常に成長することを目指し、規模に比例にしてビジネスをも拡大していくという流れが一般的な企業活動であると思います。企業の成長は良いことであると私も捉えていましたし、経営学でもそうした議論がなされています。

一方で、企業の成長にリスクを伴うものであることも知られています。中小企業から中規模企業への成長には、さまざまな変化を伴うわけです。例えば、300人以下の組織の場合、あまり人事制度は取り入れてないけれども、300人以上になるとしっかりとした仕組みができてくる傾向があるそうです。人事制度はいわばルールですから、組織が大きくなるのに従いルールが強化されることになります。

組織が大きくなると、コミュニケーションも複雑になります。一つのことを伝えるにしても、いろいろな人を経由しなければなりません。経営者との距離感も大きくなりますし、経営者が次第に従業員から「見えない人」になっていくことも。反対に、経営者からは現場の人たちがなかなか「見えない人」になっていきます。成長に伴いルールをつくる必要性が大きくなるわけですが、成長してもルールをつくらない企業があるのも事実です。そうした企業は、人事制度がないことによるさまざまな問題点にぶつかっています。

L.グレイナーの企業成長モデル(1972)

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L.グレイナーの企業成長モデルになぞらえて、中小企業から中規模企業へという流れを考えてみると、規模の小さいベンチャー企業時代には創造性が重視されます。企業規模が大きくなると次第にリーダーシップによるコントロールが効きづらくなるため、きちんとした指示系統や命令系統を整えるようになります。そうなると、働く人たちの自主性がだんだんと薄れていき、働きがいも損なわれやすくなる。企業成長にはこうした段階があります。

テレワークが浸透すればするほど、自立・分散・協働型の組織が増えていく

さらに今はコロナ感染のリスクがあることによって、組織の問題がより複雑化しています。みなさんもご存知の通り、テレワークが非常に速いスピードで浸透し、働き方も変化しました。今まで自分の目の前にいた部下がいなくなり、家やサードプレイスで仕事をしているという状況が増えています。その結果として何が起こるか。私は今回のコロナに始まる働き方改革というものは、組織の変化につながっていくと思っています。組織はさらにバーチャルになりますし、それぞれ別の場所で仕事をするわけですから、権限移譲が進んで組織がフラットになっていくでしょう。物理的な場を共有しない組織ができるだけではなく、一人ひとり分散して働きつつも、組織としてまとまっている状態が理想です。

私はこれから「自立・分散・協働型の組織」が増えてくると考えています。そうなると、マネジメントのあり方が大きく変わることになるでしょう。今までは、指揮や命令、階層的なコントロールによって組織の中の秩序を守っていたわけですが、これからは一人ひとりの自主性であるとか、意思決定を現場に委ねることが重要になります。従業員も自律的に働くことが求められますが、多くの日本企業で働く人たちは、自分のペースを決めて目標設定をして仕事することに慣れていません。これからは自律的に働くことができる人たちが、より価値のある人材になるでしょう。組織も変わりますが、価値ある人材像も変わります。

コロナ禍でマネジメントスタイルが「自律型」と「統制型」に二極化

経営的な視点に立つと、コロナ禍のような変化のタイミングで、2つの選択肢を選ぶことができます。まず1つは、分散して働くことになるため、さらにコントロールを強くして組織の統制をはかるという選択です。これは聞いた話ですが、とあるリモートワーク中の企業は「マウスが5分動かなかった場合はサボっている」と認識をするアプリケーションを導入しているそうです。またある企業は、勤務中はzoomを常時オンにしておくように指示していると言います。これらは、コントロールを強化することによって、組織をまとめようとしている企業です。

これに対して、むしろこれからやるべきは、働く人たちが自律的に働きやすいように権限移譲し、目標設定をできるように導くこと。多くの日本企業は管理を強くするのか、自律的な働き方を推進していくのかという選択肢を選ぶ場面にきていると思います。

従業員側に視点を移すと、これからは自律的な働き方がますます重要になります。権限が与えられない企業で働いている人たちは、次第に働きがいを失っていくことでしょう。働きがいが下がることは企業にとってマイナスでしかありません。業績も悪くなりますし、イノベーションも起こらなくなる。そして、人も辞めてしまう。ここで危機を乗り越えて、自律的な働き方につなげていかないと、企業の競争力が鈍ってしまいます。特にベンチャー企業のように、新しいことを生み出すことで成長する企業はなおさらです。働きがいのある環境をつくりつつ、イノベーティブであり続けなくてはなりません。そうして優秀な人材をつなぎとめておかないと、成長していくことは難しいでしょう。新型コロナウィルスの蔓延のような危機的な状況になるとコントロールを強くしたがる会社が増える傾向がありますが、自律的に動ける環境づくりをする方向に舵を切るほうが賢明です。

働きがいのある組織をつくるための4つのキーワード

コロナ禍における難しい舵取りや、企業成長による危機を迎えている企業に向けて、従業員が自律的に働くことができ、働きがいのある組織をつくるために4つのキーワードを紹介したいと思います。「個の尊重」「パーパス」「コミュニティ」「仕組み」です。

自律的な働き方が広がる中においては「個の尊重」、すなわち従業員のニーズや能力、そういうものを丁寧に見ることによって、その人たちの目標が達成できるように導いていくことが重要です。平たく言えば、従業員をできるだけ大切にするということですね。

二つ目は「パーパス」です。これは、企業がどのような価値を社会に提供しているのか明らかにした言葉と捉えてもらえればいいと思います。従業員が自律的になればなるほど、企業がどんな価値を通じて社会や人類に貢献していくのかを明示し、共有することが重要となります。テレワークでは、目の前にあるのは上司や同僚ではなく、パソコンのモニターだったりするので、組織に属している感覚が薄れてきます。そうしたときに経営者は、どんな目的を持って事業を営んでいることを従業員と共有しないと、働きがいが低下してしまうかもしれません。特にミレニアル世代はパーパスに極めて敏感であるという調査もあるので、経営者はそのことも強く意識したほうがいいでしょう。

三つ目は「コミュニティ」です。単に人が集まる場ではなく、人がつながる場をつくることを意味します。日本企業はそもそも社員旅行や運動会などの催しが好きなところも多いと思いますが、今の若い人たちは古いタイプのコミュニティには参加したがりません。前向きに参加してもらうためにはどうしたらいいのか、リアルとリモートを組み合わせたコミュニティづくりを考えていくことも大切です。

「安心感のある組織」こそが働きがいの基盤的な要素

最後に紹介するのは「仕組み」です。働く人たちにとって上司はあまり頼りになりません。上司はそのときの状況であるとか、企業の方向性であるとか、もしくは、そのときの気分によってかなり揺れ動きます。働く人にとって最後に頼れるのは仕組みなのです。人事制度がどうなっているのか、その制度がきちんと運用されているのかは従業員の関心事ですし、制度が整っていれば安心感につながります。安心感は働きがいの基盤的な要素。不安ばかりの環境で働きがいを見つけることは難しいでしょう。

ベンチャーから中規模、大規模に成長していく中で「個の尊重」「パーパス」「コミュニティ」「仕組み」という4つの要素を強化することは、働きがいを生み出すことにつながります。このコロナ禍のような組織の危機に瀕しているのに何もしないままでは働きがいは高まっていきませんし、企業を成長させることが困難になります。この危機をどう乗り越えていくのかは、企業経営者にとって無視することができないミッションなのです。

守島 基博氏

学習院大学 経営学部経済学科 教授

80年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授。98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職

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