New Normal時代の若手に選ばれる組織とは?(前編)
若手の「心理的資本」を育むのに効果的な2つのタイミング

2021.09.06

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「採用学」や「スター社員」など、採用や育成を独自の切り口で研究している神戸大学大学院経営学研究科の服部 泰宏准教授にお話を伺いました。若手がイキイキと働く会社は何が違うのか。有望な若手の離職を防ぐには。若手が働きがいを感じる職場づくりや、スター社員育成のヒントなどが詰まったお話を前編・後編の2回に分けてお届けします。

「心理的資本」が伸びる若手の重要なファクター

私は現在、採用学やスター社員という概念について研究しています。スター社員とはいわゆる「突出した社員」のことで、パフォーマンスを上げられるし、人望も厚い人物です。そうしたスター社員がどのようにして今に至るのか、例えば、入社時のSPIのスコアから始まり、1年目にどんな環境でどんな経験をしたのかなどを、入社時の面接から入社後の評価など人事データをトラックしています。まだ研究途中でありますが、いくつか見えてきたことがあります。

そのうちの一つが、知識やスキルなどの仕事にダイレクトに影響するものは、そこまで強い影響がないということ。どちらかというと、彼らが持っている心の資産、最近では「心理的資本」という言葉も出てきましたが、心の部分が関係していることが見えてきました。心の豊かさがファクターになっています。同じ能力の持ち主でも、自分の仕事に誇りを持っているかどうかで違いが出てくるわけです。

心の豊かさは社会人になる前に培われる側面と入社後に育まれる側面があります。心の豊かさは素質でもあるけれど、会社に入ってからでも伸ばせるもの、もしくは蓄積できるものだと思います。だからこそ、会社がその機会を提供することが重要です。

コロナ禍でも冗長性を担保できる会社の若手は定着しやすい

心の豊かさを育てていく上で、このコロナ禍で非常に苦労した職場もあれば、チャンスに変えた職場もありました。この差の理由を考えていくと、やはり心理的資本が関係しているだろうと思います。さらに遡ると、それがどういう職場で育まれたのかという疑問が出てきます。調査の結果、「信頼関係」、今の言葉でいうと「心理的安全性」が関係していたと考えられます。そういう会社では、一見無駄に思えることも含めて情報を共有していたりします。例えば、家族の状況やプライベートの悩みなどです。そういうことがわかると、仕事のアサインの仕方などが見えてきます。

また、対面の時には目の前で困っている顔を見たら異変に気づくことができますが、オンラインではなかなか見えづらくなります。私はこれをあえて「冗長性」という言葉で表現していますが、仕事に直結しない部分にも大事な情報、要素があります。普段はあまり意識しないけれど、何か問題が起こったときに力を発揮するような、職場のエネルギーです。これを担保できる会社は変化に強いと思います。

今はどちらかというと効率を追求している企業が多いですが、そのような中で冗長性は削ぎ落とされてきたと思います。しかしながらそれは無駄なものではなかったと、このコロナ禍で明らかになった部分もあると思います。テレワークで生産性を上げて、いかに無駄を削ぎ落として仕事をしてもらうかに着目する経営者の方も多かったと思いますが、一度、血や肉となるものまで削ってしまっていないか見直すことをおすすめします。

若手への施策を打つべきタイミングの1つ目はまず入社1年から3年

若手がスター社員のように働きがいを感じながらパフォーマンスを発揮できるようになるには、大きく2つのタイミングが重要であると考えています。まずは入社1年から3年くらいの比較的早い段階です。アメリカの各種調査でも出ていますが、入社1年目から3年目くらいの頃に、良い上司やメンバーに出会えるかどうかで、10年以上先のキャリアの満足にも影響し続けるのです。名古屋大学の若林先生が、ある日本企業の社員をトラックする調査をされた時も、入社10年くらいのパフォーマンスやキャリア満足は、最初の上司との関係性が影響していました。

三つ子の魂百までじゃないですが、それだけ影響が大きいわけです。つまり、できるだけ早い段階で、「イケてる大人」と出会うことが大事なのですが、イケてる大人って世の中にそんなに多いわけではないので上司だけでなくてもいいと考えています。「越境」して社内外の様々な人と出会うというやり方も良いでしょう。まずは3年~5年でもいいと思うのですが、早い段階で良い大人、素晴らしい仕事をしている人、尊敬できる人と出会ってもらえるかが大事なポイントです。

いわゆるアーリーステージで尊敬できる大人と出会うことで、自分の中の仕事のクオリティが決まってくると思います。「どのくらい仕事を頑張ればいいのか」という基準は、あるようでないものです。目の前で素晴らしい仕事をしている人たちがいると、自分の基準も高くなります。「一流と言われる人たちはこのクオリティを目指しているんだ」とかわかるからです。この基準を早い段階で設定してくことが大事なのだと思います。

例えば私の教え子が会社の愚痴を言うこともあるわけですが、良く話を聞いてみると、それは会社の愚痴というよりは、上司や営業所の話だったりすることも少なくない。つまり若手からすると、自分のいる世界が全てなのです。社内外の色々な人と出会うことで、もっと目線を高くしたり、俯瞰したりすることがヒントになると思います。

また入社1年から3年くらいで大事なもう一つは、会社に対する想いを形成することが大事だと思っています。過去、あるものづくりの会社さんで調査したことがあります。定着するまでいわゆるリアリティショックや、配属先でギャップを感じるなど、色々な危機があるものです。そこをどうサバイブして活躍するかのカギは、「会社に期待できるものがあるかどうか」だと思います。例えば、会社のミッションやバリューが共感できることはもちろん、あるいは会社がものすごく手厚く教育してくれたとか、経営者の人格に惹かれるものがあるとか、心のつながりを形成することも大事です。

2つ目のタイミングは落とし穴になる入社5年目、6年目

会社に対するコミットや愛着について調査した研究者がアメリカにいます。これは日本企業にも通じると思いますが、入社5年目、6年目くらいになると停滞する社員も出てきます。営業職なら営業のことはなんとなくわかってきたし、本人は「そこそこ自分は仕事ができる」と思っています。とはいえマネージャーにアサインされるほどでもないし、異動の予定もない。そんな状態で営業が続くとなるとモチベーションが下がるわけです。そして、仕事はある程度できるから会社の外に機会を求めたりする。これはよくある話です。仕事に慣れて、成果を上げられるようになった5年目、6年目に落とし穴があり、それを乗り越えたら比較的大丈夫ということになります。

神戸大学のMBAの修論でとても興味深いテーマがあります。その修論は、「労働組合に行くとイキイキとして帰ってくる」という内容です。その修論の結論としては、労働組合に行くと、視座が上がるから、イキイキ働けるようになるというものです。つまり、交渉相手がマネジャークラス、人事部長クラスになるので、担当者レベルで見ていた世界と異なるわけです。新しい視点を手に入れたことで、仕事の質が上がって昇進することもあるかもしれないし、そうでなくても新しい角度から仕事を見つめ直すことでやりがいを感じられるかもしれない。

新卒採用業務を任せる会社もあるようですが、ただ面接官をやってもらうというだけでなく、「この会社にとって優秀な人はどんな人か」から考えるなど、根本的な部分からガッツリと取り組む必要があると思います。こうしたことが目線を高くする打ち手になるのではないでしょうか。

またこれと関連するところでとても面白かったのが、5年目、6年目の社員を全く異なる会社と一緒に研修してもらうという取り組みです。一社は硬派なものづくりをしている会社で、もう一社は良い意味でゆるゆるのIT企業でした。そうするとお互いに自分の会社の良いところが見えてくるのですね。例えば、硬派なものづくり会社は自分の会社の福利厚生の良さに気づき、一方で、IT企業は私服で仕事ができる喜びに気づくなどの相互影響が生まれました。つまり、自分の会社をいつもと違う角度から捉え直すきっかけになっているわけです。

こうした取り組みを私は勝手に「人事機能のシェアリング」と呼んでいるのですが、人事機能を外部の企業に一部任せるのも良いですし、同業種と人事機能を見直しながら採用や研修を合同でやってみるのも良いかなと思います。アメリカの優れた会社などに取材にいくと、インフォーマルに人事機能のシェアリングをやっている企業も多くあります。


⇒後編に続きます。

服部 泰宏氏

国立大学法人神戸大学 大学院経営学研究科 准教授

1980年、神奈川県生まれ。関西学院大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。滋賀大学経済学部情報管理学科准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学府・研究院准教授を経て2018年より現職。著書に『採用学』(新潮選書)、『日本企業の採用革新』(共著、中央経済社)、『組織行動―組織の中の人間行動を探る』(共著、有斐閣)などがある。

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