New Normal時代の若手に選ばれる組織とは?(後編)
周囲を納得させる公明正大な「特別扱い」がスター社員を育てる

2021.09.13

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「採用学」や「スター社員」など、採用や育成を独自の切り口で研究している神戸大学大学院経営学研究科の服部 泰宏准教授にお話を伺いました。若手がイキイキと働く会社は何が違うのか。有望な若手の離職を防ぐには。若手が働きがいを感じる職場づくりや、スター社員育成のヒントなどが詰まった対談を前編・後編の2回に分けてお届けします。ぜひ前編とあわせてご覧ください。

⇒前編はこちら

平均的な人と優秀な人とでは、不満を感じるポイントが異なる

会社にとって、スター社員といった優秀な人材を自社にとどまっていただくかは非常に大きな課題だと思います。優秀な人たちは、普通の人と違うところで不満を感じるものです。離職の理由について様々な調査があります。一般的には、働く環境や人と人との関係性への不満が離職に結びつくケースが多いです。一方で、優秀な人、活躍する人は、不満の種類が若干異なります。例えば、自分の能力と仕事が合っていない、すなわち自分の能力が十分に生かしきれていない、「仕事とのミスマッチ」のようなものがあるのです。

もう一つが「自由度」です。パフォーマンスを出せていない人は「もっと指導してほしい」とか、「もっと技術を身につけたい」とか、そちらに向かうのですけれど、活躍する人は「もっと自由に仕事を進めたい」と考える傾向にあるようです。仕事のスケールや、自由度、自立性など、本人の希望に合わせていくことが大事だと思います。

今、GPTWランキングに代表されるように優秀な人材をつなぎとめる狙いで「働きがい」を高める取り組みをされている企業が多くいると思います。しかし、一言で「やりがい」と言っても、多様なものがあります。仕事が少しハードくらいのほうがやりがいを感じる人がいれば、「褒められる」、「認められる」などの外部からの評価にやりがいを感じる人もいる。モチベーションの多様性への理解があることが重要です。人事や上司がその辺りを把握するのは簡単ではないかもしれませんが、活躍する人材を育てていく上では大事なポイントです。

スター社員の「特別扱い」を周囲に納得させることがポイント

「特別扱い」というと語弊があるかもしれませんが、「もっと大きな仕事ができる」とか、「同期に比べて相対的にいろんなものをやれるはずだ」と感じている人に、少し大きなチャンスを与えてみるなど、いわゆる「抜擢」をドラスティックにやっていく方法もあります。3-4年様子見をするのではなく、能力がある人に対しては、他の人と違うサイズの仕事を提供するなどの取り組みをやらざるを得ない時代だとも思います。

しかし、特別扱いをする対象者のモチベーションを上げることと、それ以外の人のモチベーションが下がることのバランスをどう取っていくのか、というのは同時に非常に難しい問題だと思います。まさに今私が調査している内容なのですが、スター社員の特別扱いをしていくと、他の人は面白くない。一部のスポーツであれば、スターだけ引き上げればいいかもしれません。でもチームスポーツの場合はそれだとバランスを崩してしまいます。ある人の年俸は1億円で自分は800万円だとしたら不満が出ます。しかしながら、1億円だけれど大きなリスクを負って戦っているとか、結果を出さないと解雇されるとか、理由があれば納得するのではないでしょうか。

ある会社は、スター社員を部署として分けているそうです。その職種はすごくリスクがあることを周囲に理解してもらったり、そもそも部署が全然違う場所にあるという具合にあえて距離を置いています。こうして社内のハレーションを最小化する動きもあるのです。「それなら仕方がないかな」と納得してもらう理由をどう見せていくか、またはスター社員とそれ以外の人たちを心理的、もしくは物理的に距離をとることを挑戦し始めている企業もあります。

周囲の評判と釣り合わない人事評価は会社不信へとつながる

自分が特別扱いされていない場合でも、自分らしさを発揮して満足できるような世界観をいかに作るか、ここも肝になると思います。芸能の世界やスポーツの世界は、昔から「特別扱い」をやらざるをえなかったのです。優秀な人を引き止めるためには格差がなくてはいけない。でも、他の人が不満を持つのも良くないということで、納得性を持たせたのだと思います。なぜあの人にあれだけ払っているのかをわかってもらうために、リスクや責任を説明しているのです。会社の場合は難しいかもしれませんが、どういうベネフィットがあるのか説明していくことが大事です。

先ほど優秀な社員をトラックしているという話をしましたが、その人の評判も追い続ける研究もしています。上司や人事評価もさることながら、周囲の評判はどうか調べてみると、上司の評価と周囲の評価が全く異なるパターンもあるのですね。貢献している社員を上司が見抜けないとか、反対に「あいつじゃないのな」と思われている人が評価されたり。となると、優秀な人が出世しない可能性も出てくる。周囲が認めていない人が昇格することも、会社の信用・信頼の問題になってくる。そういう意味で、日本企業は評価の部分を根本的に考えていかないと、それ自体が不信につながるリスクがあると思います。

仕事のエネルギー投入量を選べる「ギアチェンジ制度」が映し出す新しい働き方

実際に自社にとどまってもらうために行っている施策や取り組みで、私が面白いと感じたのは、スーツのAOKIさんの「ギアチェンジ」という人事施策。これは社員のワークライフバランス、特にライフステージにあわせて働き方のギアをチェンジできる仕組みです。

例えば、出産や育児、もしくはMBAをとりたいだとか、さまざまな理由で一時的にギアを落としたいこともあると思います。25歳から30歳までトップギアで走ってきたけれど、他のやりたいことのためにスピードを落として、またトップにギアを入れ直す。つまり、自分がどこまで仕事にエネルギーを投入するか主体的に選べるわけです。

大事なのは、ギアを落としたから「はい、あなたはそっちの人生選ぶのね」みたいなネガティブな捉え方をしないことです。ギアを下げたことが後々のキャリアに影響しないことが大事だと思います。私が担当する学生を見ていても、特に女性はすごく活躍してガンガン上を目指す方も増えています。けれども、途中でギアを落とすことも出てくるかもしれない。それでもしっかり評価されて、もう一度チャンスが巡ってくるような仕組みが理想的です。

これは人事制度なのか、それとも上司の心遣いなのか、どちらがやるべきかわかりませんが、ギアを落とした人の居場所を用意できると良いと思います。こういうことが上手な上司は、例えばギアを落としているときは周辺業務で頑張ってもらって、再び戻ってきたらメインの仕事を任せるとか、絶妙な采配をします。現状は一部の上司の暗黙知にとどまっているかもしれませんが、これがもっと多くの上司に求められるスキルになるだろうなと感じています。今の働き方は0か1かみたいに極端になっていますが、0.5 の仕事があってもいい。そのグラデーションをつくることが重要ですね。

服部 泰宏氏

国立大学法人神戸大学 大学院経営学研究科 准教授

1980年、神奈川県生まれ。関西学院大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。滋賀大学経済学部情報管理学科准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学府・研究院准教授を経て2018年より現職。著書に『採用学』(新潮選書)、『日本企業の採用革新』(共著、中央経済社)、『組織行動―組織の中の人間行動を探る』(共著、有斐閣)などがある。

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