新入社員意識調査2023 〜若手世代を生かすための鍵は「セルフリーダーシップ」 〜
更新日 2023.09.122023.09.05オピニオン
Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、「働きがいのある会社」認定企業(2021年7月~2022年9月調査実施)の中から、特に若手(34歳以下)の働きがいに優れた企業を若手ランキングとして選出しました。その記者発表会にて、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの武石 美有紀様に、同社が実施した新入社員意識調査に基づいた「若手世代を生かすためのヒント」をテーマにご講演いただきました。
※本記事は2023年版 日本における「働きがいのある会社」若手ランキングの記者発表会の抄録です。
目次
若手はアットホームな職場を求めていない
弊社が実施した「新入社員意識調査2023」から二つの調査結果をピックアップし、若手世代を活かすためのカギとして「セルフリーダーシップ」をご紹介します。
まず「働きたい職場」を聞いた質問では、「お互いに助け合う」の選択率が昨年に引き続きトップ。「お互いに個性を尊重する」の選択率が過去最高となりました。一方で「アットホーム」は過去最低となりました。若手世代は、一人ひとりの個性が尊重された中で、お互いに協力し合うような繋がりを求めている傾向があると考えています。
「アットホーム」は、心理的安全性が担保された職場という意味合いで特にZ世代に受け入れられそうな選択肢であるものの、組織が一体化することを想起させる選択肢であることが、選択率を低下させている要因だと考えています。
若手世代は個性を尊重するコミュニケーションを求めている
続いて、上司に期待することを聞いた質問の結果です。
「相手の意見や考え方に耳を傾けること」と「1人ひとりに対して丁寧に指導すること」を求める一方で、厳しい指導や仕事に情熱を持って取り組むリーダーシップを求める人の割合は減少しています。上司に対しても、個性を尊重するコミュニケーションを求めている結果となりました。また、若手世代の厳しさへの抵抗感は年々増しています。社会全体のハラスメント意識の強まりなどにより、厳しく叱られる経験が減少していることが要因であると考えています。
トップダウンの一方的な指摘や圧を感じるコミュニケーションは苦手としていますが、決して成長を望んでいないわけではなく、適切なフィードバックを欲している人が多い傾向です。
仕事に対して意味・価値を重視
そんな若手世代について、今回は二つの特徴を紹介しながら理解を深めていければと思います。
一つ目は、意味・価値を大事にするという特徴です。若手世代は、「何のためにするのか」「自分がやる必要があるのか」と、物事の意味や価値を重要視する傾向があります。
二つ目は「合うものを選ぶ」という特徴です。自分に合うか合わないかを早めの段階で判断して、自分に合うと思ったものを選び、逆に合わないと思ったものには早めに見切りをつけがちです。
これら二つの傾向は大切な要素とも言えますが、行き過ぎるとマイナスに働きます。例えば、よく見ていけば意味や価値が見えてくる仕事でも、自分の視点を変える前に、早めに見切りをつけて次に進む傾向があります。また、自分が「合わない」と思った環境では、異動や転職をして、自分に合う環境に変える傾向があります。
自分自身を変えたり、状況に働きかけたりする力が相対的に弱くなりがちで、「環境さえよければ…」という発想に繋がりやすい点を、しっかり考えていかなければなりません。正解が見えない今日のVUCAと言われるビジネス環境では、自律的行動が最も求められているからです。自律の力を意識して育成に取り組んでいくことが、非常に重要なテーマになると考えています。
そこで弊社では、若手の段階からセルフリーダーシップを身につけることを提案しています。セルフリーダーシップとは、自分自身に対して発揮するリーダーシップのこと。自分を起点にして動き、よりよい状況を自ら作っていく力です。VUCAの時代には、ベースとして持つべきスキルと言えるでしょう。
セルフリーダーシップの伸ばし方にはコツがある
具体的にどのような考え方を身につければ、セルフリーダーシップの力が高まるのでしょうか?
弊社で若手社員向けに提供している研修では、セルフリーダーシップを発揮するための6つのスイッチをご紹介しています。
まず、グリーンの部分で「状況を捉え直すスイッチ」から取り組みます。他者から意見を聞いたりして、視野を広げていきます。支援者としての関わり方としては、「どんなことが起こっているのか」だったり、「どんな不安や悩みがあるのか」と関係者との「どのような関わりがあるのか」などを問いかけ、本人の言語化を支援していきます。
状況を客観的に捉えた上で、今度は「どう進んでいくのか」のアイディアを出していきます。支援者側もあくまで一つの案という形で、どんどんアイディアを本人に提供します。忘れてはいけないのは、最終的に何を選ぶかの意思決定は本人だということです。
「らしさ」を生かすことが自律を引き出すドライバーに
次に、オレンジの「自分らしさを生かすスイッチ」です。「価値観とつなげる」と「スタイルを活かす」という項目があります。
若手社員は自分の個性や持ち味を生かし、自分に合ったやり方で進めたいという傾向が高まっています。そのため、仕事の目的地が決まっていたとしても、そこへ向かう手段においては、自分らしさを生かせると思えることが、自律的行動を引き出すドライバーになります。
「スタイルを生かす」のスタイルとは「自分の強み」「無理なくできるやり方」のことです。学び方一つとっても、本で学ぶスタイルがいい人もいれば、人に聞く人、動画を見る人など、自分にとってやりやすい学び方がそれぞれあります。自分らしさを生かすためには、まず自分の価値観やスタイルを認知することが必要です。
自分自身の内省によって言語化できればいいですが、若手社員には難しいかもしれません。過去の経験やエピソード、仕事ぶりなどを情報源としてメンバー同士でらしさをフィードバックし合うことをゲーム感覚で行うことがお勧めです。
もちろん、支援者が1on1で言語化支援をすることも有効です。自分の「らしさ」に気づいた後、いかに業務に接続するかという観点でフォローいただくことをおすすめしています。
思考パターンを自覚させることが自律につながる
最後にブルーの「自分をアップデートするスイッチ」です。こちらは、「ものの見方を切り替える」と、「知識スキルを身につける」の二つがあります。今回はものの見方を切り替えることに主焦点を当ててお伝えします。不安や恐れが強い若手社員は、「自分にはできないかもしれない」「失敗したらどうしよう」などの負の思考パターンに陥り、行動ができなくなるケースも多々あります。そのため、自分に起こりやすい思考パターンを知り、状況に応じてコントロールしていく力は非常に有効です。
例えば、失敗思考に陥っている若手社員に対して、その思考に陥っていることにまずは気づいてもらいます。そして、目的に照らし合わせた上で、自分はどのような思考で動いていきたいかを改めて定義してもらいます。様々なものの見方を提示した上で、最終的にはこちらも本人が選んでいただくように促すことが大切です。
若手社員の中には、思いややりたいことはもう心の内にあるけれども、それを表現することが何らかの理由でできないケースもあります。モチベーションが見えない若手社員がいたとしても、「やる気がないわけではないかもしれない」という視点で見ていただければ幸いです。少し長期的な視点を持って、ご紹介した6つのスイッチの観点を小出しに、そして定期的に若手社員に触れる機会を作ることが大切だと考えています。
若手社員がセルフリーダーシップを高めていくためには時間がかかりますが、真摯な姿勢で物事に向き合い、スポンジのような吸収力を持っている若手社員は、コツを掴んで成長していきます。その圧倒的な成長を間近で見られるのは、育成の醍醐味です。私自身も若手社員の可能性にワクワクしながら、これからも皆さんと一緒に若手育成に向き合っていきたいと思います。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRD統括部 HRDサービス開発部 研究員 武石 美有紀氏 プロフィール
※ 本記事は2023年7月時点の内容です。