どうして女性活躍が企業のパフォーマンス向上に欠かせないのか? 経済学の学術研究に基づく「女性活躍の経済学」
更新日 2024.05.082024.05.08オピニオン
Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、「働きがい認定企業」の中から、特に女性の働きがいに優れた企業を規模別に選出しました。記者発表会にて東京大学大学院経済学研究科教授 山口 慎太郎氏より、「女性活躍の経済学」というテーマで、女性活躍の進め方について解説いただきましたのでその内容をご紹介いたします。
●選出企業一覧はこちら
2024年版 女性ランキング選出企業一覧
※本記事は2024年版日本における「働きがいのある会社」女性ランキング記者発表会の抄録です。
※同日に行われたApex株式会社 プリンシパルコンサルタント 郭 諭里氏によるご講演の様子はこちら:働きがい認定企業Apex社の取り組みから導き出す「女性の働きがいを高める3つの要素」
目次
今、どうして女性活躍が必要なのか?
山口教授 女性活躍が企業のパフォーマンスを高める上で欠かせない理由や、具体的に進めていくためにはどうしたらいいのか、エビデンスのあるお話を紹介します。そもそも、女性が活躍できる会社は、さまざまな属性の人が力を発揮しています。そのため、イノベーションを呼び起こしやすいわけです。
多様性を求める理由は、経験の多様性がポイントです。他のメンバーが経験していない、別の組織でやった仕事の進め方、異業種では当たり前の発想を別の業界に持ちこむことで、新しいサービス商品の開発にもつながり、効率的な業務を進める上でも大いに役に立つんですね。
経験の多様性を確保するためには、例えば性別、国籍、海外経験をチェックするのは一つのやり方かなと思います。日本人の中高年男性だけのグループでも、多様な経験の集団になることは理屈の上ではありえます。ところが実際のところ、似た属性の人は似た経験しかしていないことが多いです。そういった観点から、性別、ジェンダーや国籍の多様性が重要なポイントになるわけです。
多様性のある企業は業績が優れている傾向がある
山口教授 多様性のある企業は財務的なリターンも高いと報告されています。特に一般消費者向けにビジネス展開されている企業においては、世の中の半分を占める女性に対してうまくサービス商品を提供できる必要があります。男だけの組織から出てこない発想があるわけです。
企業の経営リスクの点でも、同じ集団だと異論を述べにくい空気が醸成される傾向があります。「危ないんじゃないか」と感じても、問題が放置されがちです。
ニュースなどでも「女性向けの商品を女性社員が開発してヒットしました」みたいなエピソードが多いと思うんですが、意外なところから女性の活躍が生産性を高めたエピソードとして、アメリカの警察をご紹介したいと思います。
1970年から90年代にかけてアメリカでも女性警察官の割合が3.4%から10.1%、3倍近く増えました。その結果、性暴力DVの被害報告数が6%増えたそうです。決して犯罪が増えたのではなく、それまでは被害者が警察官を信用しないので言えなかったのです。「この警察官だったら、問題を解決してくれる」「親身になって話を聞いてくれる」という信頼感が醸成されて、被害報告数が増えました。
最終的にDVによる女性の殺人被害者も減り、犯罪抑止にも成功しているわけですね。組織が多様性を持つことによって、より多くのサービス供給の対象者に、より良いサービスを提供できるようになった事例だと考えております。
女性経営者が企業価値に及ぼす影響とは?
山口教授 女性経営者が、企業価値に対してどんな影響を及ぼすのかさまざまな研究があります。学術研究の観点からすると、「女性を登用すると、経営的にはマイナス」という話は根拠に乏しいといっていいでしょう。
具体的に、一番大きいのはガバナンス強化です。男同士の場合なあなあで済ませる場面であっても、経営監視委員会や取締役会の中に多様性があることによってパフォーマンスの低いCEOが責任を取らされやすいことがデータからわかっています。
日本における課題は、社内社外を問わず女性人材の育成が非常に急務であることです。今のところ弁護士、会計士などが取締役として選任されることが多いんですが、今後は内部からの登用が非常に重要になると思います。社内の業務を熟知しているだけではなく、内部から登用することで社内の士気が上がるからです。
今まで頑張っていたのに自分は役員になれなくて、外からきた人が役員になると女性社員の意識が上がりにくいと思います。内部登用を増やすためには、課長・部長といった役職で女性管理職を増やすと同時に、女性の活躍が目立つHRですとか、マーケティングなどの領域だけでなく、ファイナンスや営業といった領域でも積極的に登用を進めていくことが、将来の女性経営者の育成につながります。
評価・昇進における男女差の分析
山口教授 具体的にどうすれば女性活躍を進められるのか事例を紹介します。アメリカの大企業の人事データを経済学者が解析して、評価・昇進における男女差を分析しました。その結果わかったのが、女性の業績評価が男性より高かったことです。一方で昇進率は14%も低いことがわかりました。
男性の昇進率が高かった背景には「男性には将来性がある」という思い込みがありました。実際には、昇進後の評価は女性の方が高く、将来性という根拠のはっきりしないものに重きを置きすぎていたとわかったんです。ホワイトカラーの仕事を評価するのは難しいので、できるだけ事前に客観的な複数の評価を作ることが必要になります。「あいつならやってくれるだろう」みたいな将来性に頼ると危ないことになるわけですね。
そして、仕事のできる女性に男性が慣れることが有効だと言われています。これまで仕事のできる女性はあんまり目にしたことのない、中高年男性がいるわけです。そういった人たちは、女性の能力に懐疑的なわけですね。ところが、日常的に仕事のできる女性に触れていくと、その偏見がどんどん減ってくる。慣れが大事だと言われています。
アメリカの裁判官はグループで合議体を作って事件の審理を行うんですが、女性裁判官と一緒に仕事をすると、若手登竜門の調査官を採用する際に、女性を選びやすくなるとわかっています。一緒に働くことで偏見が解消されていくんですね。それと同時にこの同僚女性の人脈を通じて優秀な新人を見つけやすくなるわけです。
リファラル採用を過信しすぎると危険
山口教授 今、リファラル採用が活用されています。従業員の紹介で採用した人は定着率が高いし、マッチングが良いことが非常に多いんですね。結果的に定着率が高いわけですから、人事コストの抑制にもつながるわけです。ところが、このリファラル採用に頼りすぎると、今いる従業員と同じ人を捕まえて終わってしまいます。
アメリカのお医者さんの話ですが、男性も女性も、同性の人に声をかける割合が高いです。アメリカの学会も男性中心社会ですから、男性のネットワークが強化されて、女性医師が結果的に不利な立場に置かれてしまうわけです。従って、仮に今、幹部に男性が多いと、さらに将来の幹部候補として誰か新しい人を連れてくるときに、リファラル採用や既存のコネを使うと、結果的に今いる人と似た人になり、多様性が失われてしまいます。
男性も女性も残念ながら無意識のバイアスに縛られています。心がけだけでは解決しない問題ですので、客観的な指標を時々チェックすることが非常に重要です。そして対策として、男女間賃金格差について情報開示することも女性活躍につながることがわかっています。
さまざまな国で男女間賃金格差について情報開示することが求められています。日本も同様です。デンマークでは格差縮小に役に立ち、女性の従業員数も増えたとのこと。日本も政策的に男女間賃金格差についての情報開示の義務付けるなどの取り組みを拡大する必要があるかなと考えています。
代表荒川より質疑応答
GPTW 荒川 男女の賃金格差について情報開示すると、一人あたりの売上高が下がる副作用がある、と聞きました。これはどうしてでしょうか。
山口教授 情報開示にはプラスの側面とマイナスの側面があります。マイナスの側面として同僚が自分よりもらっていることを知ると士気が下がる場合があるんです。
GPTW 荒川 なるほど。
山口教授 会社は正当に自分のことを扱ってくれてないと。女性を公平に扱っていないってことが明らかになり、結果的に意欲が落ちてしまうと言われています。
GPTW 荒川 つまり、女性の売上高が下がってしまったと。
山口教授 そうですね。それが全体を引っ張ったということです。
GPTW 荒川 そういう副作用もきちんと認識しながら賃金格差を是正していくのですね。
山口教授 賃金格差があることがわかったときに、どうやってそれを修正していくのか、ロードマップがあると納得感があるんですね。今はよくないけれど、これからよくなるんだったら、頑張ろうかなという気持ちになれるわけです。
GPTW 荒川 評価と賃金分配のプロセスの公平性と透明性が大事だということですね。
女性活躍の情報が、新たな投資を呼び込むことも
山口教授 女性活躍を推進するために、外圧を利用することも必要です。ここでいう外圧とは、海外からの投資家の目のこと。内閣府の調査によると、7割近くの機関投資家が女性活躍の情報は、企業の業績に長期的には影響があるとみなしています。実証研究によると、海外から投資が進むと、女性活躍も同様に進むことが知られています。
例えば、海外からの投資を受け入れた場合には日本では10%、韓国でも12%の女性社員比率が上昇しています。日本も韓国も女性活躍の点では、改善の余地が大きいですが、海外からの投資を受け入れると、女性社員比率が増えたり、女性CEOが増加したりしたと報告されています。新しく組織を変えていきたい会社は人の目や外圧を利用しつつ、変わっていくことが、うまいやり方になるかもしれません。
東京大学大学院経済学研究科 教授 山口 慎太郎氏 プロフィール
※ 本内容は2024年3月時点の情報です。