労働時間削減だけでは「働き方改革」は成功しない
あなたの会社の社員は幸せですか?

更新日 2019.03.252019.03.25対談

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あなたの会社の「働き方改革」は成功しているだろうか。労働時間削減に率先して取り組む企業は多いが、それは単なる働きやすさの追求にすぎない。重視すべきは「やりがい」である。それはなぜ必要なのか、日本企業の職場で今何が起きているのか、そして社員を幸せに導くためにはどのような処方箋が必要なのか。(文中敬称略/ファシリテーターは日経BP総研フェロー 麓 幸子)

「働き方改革」は 働きやすさの改善だけではない

岡元利奈子(以下、岡元) 本日はよろしくお願いします。まずは、企業が持続的に成長できる「働き方改革」とはどういうものなのか、佐藤先生のご意見をお聞かせください。

talk_190325no1_01.jpg佐藤博樹(以下、佐藤) 多様な人材が活躍できるようにするのが、政府が進めている「働き方改革」のもともとの趣旨ですよね。つまり、従来の「フルタイム勤務かつ残業OKの男性社員」以外の人たちの能力を生かせるような働き方に変えようということです。多様な人材を生かすダイバーシティー経営ができないと、これからは人材確保もままなりません。

ただ、「働き方改革」を単なる残業時間の削減のことだと誤解されている部分があります。そうではなくて、残業のない職場でも多様な人が働きやすいように変えるのが、「働き方改革」の本筋です。

岡元 おっしゃるとおり、今の「働き方改革」は労働時間短縮だけが目的になっている部分があります。私どもGPTWでは「働きがい=働きやすさ+やりがい」と定義しているのですが、働きやすさの改善にばかりフォーカスが当たっていて、「やりがい」がすっぽり抜け落ちています。

「やりがい」とは、仕事そのものの面白さや、会社に対する誇りや仲間との協働によって感じられるものです。本来はもっと働くことそのもの、「やりがい」にも目を向けていかなくてはならないと感じています。

また現在は、女性やシニア層、外国人など従業員が多様化したことで、やりがいも同様に多様化しています。そのため、従業員の「やりがい」を高めるのは以前より難しくなっています。

佐藤 人材活用の面からいえば、「働き方を変えること」と「人事制度改革」を一緒にやらなければいけません。入社して主任になり、係長、課長になっていくという、かつての出世ストーリーも通用しなくなっています。

これまでは定年まで働き続ける、みんな同じキャリア志向を持っていることが前提でしたが、今は短時間勤務の人もいれば、産休・育休で何年か休職する人もいます。今までになかった、想定できなかった働き方が出てきています。社員の働き方が変わっているのに、人事制度が旧来のままでは対応しきれません。

先ほど「働きやすさ」のお話がありましたが、最近は多くの企業がワークライフバランスに配慮した制度を充実させています。でも、それだけではダメで、やはり上司からの期待や承認がないとやりがいは持てませんよね。

価値観の多様化で 均一のキャリアを求めなくなった

talk_190325no1_02.jpg岡元 2000年前後は、成果主義人事制度への移行が盛んに謳われ、改定の方向性に関する教科書的なものがありました。

しかし、今は「これをやっておけばいい」という人事制度のお手本がないのが現状で、企業の担当者の方に話を聞くと、やはり難しい課題のようです。何か今後の人事制度を考える上でのヒントになるようなことはありますか。

佐藤 これまで日本の人事管理というのは、企業が人事権を持ち、社員のキャリアを人事部門がつくってきたわけです。社員の望ましいキャリアを会社が理解できたのは、同質の人ばかりだったので望みも均一だったからです。

しかし、今ではそれぞれの社員が求めるキャリアは違うので、一律の仕組みだけではカバーできない人も出てきます。そこで、個別管理をすると同時に、本人から希望を聞くような「調整型人事管理」を導入し、社員が選べるような仕組みに移らざるを得ないでしょう。

残業できない人がいるから短時間勤務の制度をつくる、転勤できない人がいるから勤務地限定制度をつくるというのは最悪です。そもそもこういう残業や異動を前提としていることに合理的な理由があるのかということから考えなくてはいけません。

talk_190325no1_03.jpg岡元 確かにこうした制度ができた背景には“残業や転勤も厭わないということが当たり前”という価値観があるのかもしれませんね。だから「特例」としてこうした制度を作ったということなんでしょうね。

佐藤 例えば、人事考課シートには「部下が残業することを評価しなさい」なんて項目はありませんよね。でも、今の管理職は若い頃から長時間労働をして評価されて課長などになった人です。その価値観で部下を見ると、無理を聞き入れて残業してくれる人を評価してしまいがちです。いくら人事制度を整えても、評価するときの背景にある考え方がまだまだ残っているので難しいですね。

岡元 考課シートには書かれていない価値観のようなところに視点を向けないと、なかなか変わらないかもしれませんね。

佐藤 ただ、今後は新しい世代の管理職が増えてきます。昔の古い価値観の上司の下でやってきた人たちなので、そこを100%コピーするのではなく、それまで自分がよかれと思っていた価値観を捨てることが重要になってきます。学習棄却といって、古いことを捨て去って新しいことを学ぶという柔軟性が必要です。「働き方改革」も同じことで、そこを変えていかないと働きがいのある職場・会社は実現できないと思います。

仕事以外の 豊かで幸せな人生を叶えられる会社

岡元 働きがいのある職場の条件は何だと思われますか。

佐藤 今までも人事管理で社員が働きやすいように取り組んできたわけです。ただ、社員は仕事をするだけでなく、外に出れば家庭や地域、趣味の世界など、仕事以外の役割があります。そんな多様な役割を担えるような職場かどうかが重要だと思います。

つまり、これからは単に仕事だけしていればいいという価値観ではなく、仕事以外も含めて豊かな人生を叶えられる会社こそがいい会社だと思います。「勉強したい」と社員が言えば、それをサポートしてくれるような。

talk_190325no1_04.jpg岡元 まさにGPTWが定義する「働きがいのある会社」とかなり近いと思います。

従業員から見た「働きがいのある会社」モデルの1つとして、「会社への信頼」という要素があります。これはさらに「信用」「公正」「尊敬」に分けられるのですが、特に「尊敬」は会社で働く従業員としてだけでなく、人として会社に大事にされているかどうかということです。日本では最近まであまりなかった概念ですが、GPTWでは既に約30年も前から定義しています。

佐藤 先ほどの役割の問題で言うと、働く側の問題もあります。日常や人生を豊かにするために、働き方改革で生み出された時間をどうコントロールするかという考え方が重要になってきます。

実は最近、幸福という概念が大事になってきています。米シリコンバレーでは「幸福担当役員」を設置する企業まで出始めたぐらいです(笑)。実際、「幸せな社員ほど生産性が高い」という研究も数多く出ています。幸福というのは仕事も含めてトータルのことですからね。

岡元 それは先進的でユニークですね。確かに毎日が充実して幸せであれば、仕事へのモチベーションも高くなりますね。

佐藤 「仕事以外に自分の居場所や時間があるかどうか」が大事で、これからは自分でマネジメントして自分で時間をつくるという努力が、働く側にも必要だと思います。キャリアを含めてそれを支えてくれるのがいい会社であり、働きがいのある会社といえるのではないでしょうか。

中央大学大学院 戦略経営研究科教授 東京大学 名誉教授 佐藤 博樹氏

専門は人的資源管理。兼職として、内閣府の男女共同参画会議議員やワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省のダイバーシティ経営企業100選運営委員長などを務める。『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著、日経文庫)など著書多数。

Great Place to Work® Institute Japan(働きがいのある会社研究所) 代表取締役社長 岡元 利奈子氏

人事測定研究所(現リクルート マネジメント ソリューションズ)入社。人事コンサルタントとして、人事制度設計や従業員意識調査などを行う。その後、海外現地法人のコンサルティングビジネスの立ち上げ支援などを経験し、2014年より現職。

本コンテンツは日経BP社の許可により日経ビジネスオンラインの広告(初出:2019年10月~11月)から抜粋・再編集したものです。禁無断転載 (C)日経BP社

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