従業員が"生き生き働く"会社をつくるためのヒント
更新日 2020.01.232020.01.23対談
働きやすさを実現するための働き方改革が進む裏側で、個人の働きがいにはさほど目を向けてこられなかった昨今、一人ひとりが生き生きと働きがいを感じられる会社をつくるためにはどんな手立てがあるのでしょうか。「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会を創造する」をミッションとして掲げているリクルートワークス研究所の副所長の奥本氏と、GPTWジャパンの岡元が語り合います。対談は前後編の2回。今回は後編です。ぜひ前編とあわせてご覧ください。
ダイバーシティの時代、企業にこそ多様化が求められている
岡元利奈子(以下、岡元) “生き生き働く”といっても、その捉え方は人によって異なるので、すべての従業員のモチベーションをマネジメントすることは難しいという話を伺いましたが、それを踏まえた上で、企業には何ができるのでしょうか?
奥本英宏氏(以下、奥本) 企業ができることは、個人がその志向を選択していくためのインフラをつくることです。例えば、従業員が意味や価値を感じにくい単純な作業をどんどんアウトソーシングや機械化して、本当に人がやっておもしろさを感じる仕事をなるべく増やしていくとか。社会的な価値や貢献という意味では、ビジョンやミッションの浸透であったりとか。あとは、従業員とカスタマー、社会との接点をいかに豊富につくるかなどですね。
岡元 仕事の意味や価値を感じられるベースをつくるということですね。
奥本 そうです。しかも、それらを従業員が自分で選択できることが大事だと思います。例えば、雇用形態や勤務時間を自分で選べるようにすることですね。今は働き方改革で働く時間が削減されていますけれど、働く時間を自分で選べたほうがいい。研究結果をみても、本人の志向と、働き方をマッチさせるほうが明らかに“生き生き働く”につながります。そのための人事制度としては、暗黙的に運用されている制度やルールを全従業員に公開して、どんな人でも基準や要件を満たせば利用できるようにすることが大事ですね。
岡元 自分の意志で選択できる機会を増やすことによって、働き方が多様化し、多くの従業員のニーズが満たせるようになりますね。一方で、会社としての求心力や一体感が薄れがちになる恐れはないでしょうか。
奥本 それは、ある程度は仕方がない部分もあると思います。個人の多様な価値観すべてを企業が引き受けて対応するのは不可能だし、やったところでマネジメントコストばかりかかるけれど、パフォーマンスが上がるとは思えないじゃないですか。ではどうするのかというと、それぞれの企業が個性化を図りつつ多様化することが一つの答えだと思うんですよね。
企業としてのアイデンティティをはっきりさせて、社内外にもそれをしっかりと明示し、マネジメント体系を確立させたほうがいい。企業のアイデンティティが明確になって、多様化すれば、個人も自分の価値観にあった会社を選択できるようになります。
岡元 GPTWのランキングの上位の企業は非常に個性的です。好き嫌いがわかれるくらいハッキリとした個性を全面的に打ち出しています。働きがいのある会社のトップのみなさんは、口をそろえて「一番大事なのは目指すカルチャー・価値観をはっきりさせること。そしてカルチャーにフィットする人を採用すること」だとおっしゃっていますね。
奥本 本当にその通りだと思います。ウチの会社は何者で、何を大事にしていきたい会社なのだっていう議論がまずあって、そこから従業員のやりがいについて考える。この順番でないと従業員をエンゲージメントしていくことは難しいと思いますね。
岡元 そう思います。働きがいのある会社では、「うちの会社はこの価値観は譲れないので、共感できる人だけきてください」ということをはっきりと言い切っているんですよね。その上、従業員の声を聴きながらカルチャーを進化させていくプロセスを持っています。だからこそ、ミッション、ビジョン、バリューが絵に描いた餅になることなく、みんなで決めたものをみんなで大事にしているのです。
人の可能性を引き出すために企業側ができること
岡元 「ここだけは会社として大事にするからみんなで守ろうよ」というものがあり、それ以外のところではみなさんの多様性や個性を生かして多くの選択肢を用意するというバランスが大事なのかなと思いますね。
奥本 その議論を深めていくと企業の社会性や存在意義にもつながります。従業員に対しても、社会に対しても有意義な議論ですよね。少し中長期的なトレンドを見て考えたとき、人材の採用はさらに困難さを増していきますよね。今後、AIの浸透によって仕事は二極化して、特にクリエイティブで付加価値の高い仕事や、イノベーションが重要な企業経営の要素になります。そうなったときに、企業ができることは、人の可能性を引き出すことしかない。人の可能性を引き出すことに集中したときに、じゃあ何が必要なんだろうと突き詰めて考えていくと、やはり会社のビジョンや価値観で惹きつけていくことにつながると思うのです。
岡元 上位のベストカンパニーにおいては、人の可能性を引き出すことを考え続けています。当然、そのためのワークスタイルの話も出てくるし、仕事の意味や価値の話もすでに議論し尽くしていますね。
奥本 仕事の意味や価値の議論抜きで、サーベイだけ実施しても従業員がついてこれないと思います。土台をしっかりと整備せずに「仕事に没頭していますか」と質問されても、従業員は困ってしまいますよね。
金額や時間以外のパフォーマンス測定基準が必要だ
奥本 人の可能性にかける経営は、その効果が目に見えにくいんですよね。例えば、KPIを設定して、PDSを回して、徹底的にデータ管理をして効率を上げて、利益を底上げしていく場合は予測しやすいし、投資効果がわかりやすい。一方で、人の可能性にかける経営は予測がつきにくいから、投資しづらい面があるんだと思います。
また、経営者それぞれに経営スタイルがあり、「こういう経営スタイルで成果を上げたい」という美学のようなものもあったりするんですよ。ですから、経営におけるいろいろな選択肢のなかで「やっぱり人だ」と再確認するプロセスがあって、「人の可能性にかける経営」に立ち返るものなんだと思います。
岡元 おっしゃる通りですね。ベストカンパニーの経営者の中には、目先の事業効率や知識・スキルを優先した人材登用を優先させた結果、組織が壊れてしまったという苦い経験をした方も何人かいらっしゃいます。そうした経緯を経て、人の可能性にかける経営が大事だと感じたそうです。
奥本 これから先、我々がやらなくてはならないのは、人の可能性にかける経営によって成果が上がることを立証していくことです。そのためには、金額や時間などとは異なるパフォーマンスの測定基準が必要ですね。測定基準を作り上げて検証して、人の可能性にかける経営が、パフォーマンスにつながるロジックを生み出すことが求められています。
岡元 その基準をつくるのは、私たちのような経営・人事のご支援を行う事業者の使命かもしれないですね。GPTWは合理主義と言われているアメリカで生まれています。中長期的に見て、働きがいが業績に影響すること、つまり働きがいを高める取り組みは、一見すると非合理に見えるかもしれないものの、中長期的には合理的であると彼らは感じているのかもしれません。。
奥本 こうした取り組みは、新興企業や成長企業ほど真剣に考えて試行錯誤しているように思います。よく、Googleの取り組みは、「Googleだからできるんだよ」と言われたりするけれど、やっていることは実はとても普遍的な内容です。「心理的安全性のある環境がチャレンジを産み、パフォーマンスを上げる」という話がよく知られていますが、みんなで高い価値を出そうという合意のもとなんですよ。そのために何でも言い合えるようにしようよっていうことなんです。
岡元 きちんと高い価値を出し、職責を果たすから、制度や仕組みが意味を持つということですね。
奥本 そうです。会社の目指すものに合意して、職責を果たすという前提があっての話だと思います。
岡元 これまでにベストカンパニーのお話を沢山お聞きしてきました。各社が働きがいのある会社をつくるために必要だと思っていたことが今日のお話の中にたくさんあって、やっぱり各社の取り組みは正しかったんだと確信しました。奥本さん、今日はありがとうございました。