そもそも"生き生き働く"ってどういう意味ですか?

更新日 2020.01.232020.01.16対談

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働きやすさを実現するための働き方改革が進む裏側で、個人の働きがいにはさほど目を向けてこられなかった昨今、一人ひとりが生き生きと働きがいを感じられる会社をつくるためにはどんな手立てがあるのでしょうか。「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会を創造する」をミッションとして掲げているリクルートワークス研究所の副所長の奥本氏と、GPTWジャパンの岡元が語り合います。対談は前後編の2回。今回は前編です。

“生き生き働く”の解釈は十人十色

talk_200116_01.jpg岡元利奈子(以下、岡元) 奥本さんは「働く×生き生き」を科学するというテーマで研究をしていると聞いたのですが、具体的にはどんなことをしているのですか?

奥本英宏氏(以下、奥本) リクルートワークス研究所では「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会を創造する」というビジョンを掲げており、20周年を迎えた今期は大きく2つのテーマと向き合っています。一つは「生き生き働くってどういうことだろう」。もう一つは「生き生き働くことができる社会ってどんな社会なんだろう」です。この「“生き生き働く”を科学する」という考えかたは、GPTWの調査にも近いところがあると考えています。

岡元 “生き生き働く”を科学する研究をまさに今しているところなんですね。

奥本 “生き生き働く”こと自体の研究の実例が、日本にはあまりないんですよ。以前は総務省や内閣府の調査もありましたが、リーマンショック以降の2010年代はパタッと止まってしまいました。だから改めて私たちがしっかりやっていこうと考えています。

まず、日本の“生き生き働く”の現状から見ていくと、アメリカのギャラップ社のエンゲージメント調査「State of the Global Workplace(2017)」によると欧米と比較して、低い数字が出ています。アメリカが30%、カナダが20%くらいなのに対して日本で仕事にエンゲージしている人は6%しかいないんです。同じく、ギャラップ社の調査をもとに国連が毎年発表している「World Happiness Report 2019」いわゆる世界幸福度ランキングでも、2015年の46位から低下を続けて2019年は58位となりました。

岡元 日本では生き生き働けているとは言いづらい状況なのでしょうか。

奥本 そうとも言い切れません。世界幸福度ランキングの調査項目を見ると、日本の文化的な背景からスコアが低く出やすいものもあるんですよ。例えば、ボランティアや寄付をしているかという項目はスコアが低くなりやすい。だからこそ、そもそも日本人の考える“生き生き働く”という概念がどんなものなのかをとらえることが必要だと考えました。そこで、第一弾調査では1600人に対して“生き生き働く”イメージや、“生き生き働く”シーンを回答してもらったのです。

岡元 それは興味深いですね。

奥本 すぐに思いつくような「やりがい」「元気」「生きがい」「健康」などの回答は当然出てきて、上位10ワードくらいのところに入ってくるんですが、実は上位10ワードで網羅できているのは全体の4分1くらいで、残りの4分の3には1459種類のワードがでてきたんです。“生き生き働く”と言ってもいろんな解釈があるんだなと。

岡元 例えば、どんなワードが出てきたのですか?

奥本 世代ごとの違いがおもしろくて、例えば20代から30代に“生き生き働く”のイメージをたずねると、環境面に関するワードが出てきたんです。「定時」「ホワイト企業」「フレックスタイム」とか。一方で、40代から50代は、働く姿勢に関連するワードが出てきました。「満足感」「ガンガンやる」「チャレンジ」とかですね。やっぱり世代的にも随分と違うんだなと思いました。

岡元 興味深いですね。若手は“生き生き働く”という言葉をポジティブにとらえていない可能性がありますね。

奥本 その通りです。我々は“生き生き働く”ことに対して、非常にポジティブなイメージを持っているじゃないですか。ところが若手からは、「辛い」「忍耐」「しゃかりき」とか、そういう言葉も想起されているんですよね。僕たちが持っている感覚と違うので、一概に“生き生き働く”ってこういうことだよねって言い切れないんです。

日本人は“生き生き働く”ことに対して鈍感

talk_200116_02.jpg岡元 そもそも、みんながみんな“生き生き働きたい”と思っているわけではないかもしれないと。

奥本 そう。その問いから始めないと、企業におけるマネジメントはできないんじゃないかとさえ考えています。

岡元 なるほど。

奥本 京都大学 こころの未来研究センターで社会心理学の研究をしている内田由紀子教授によると、日米の比較研究でも幸福感についてのイメージの違いが如実に出てきたそうです。アメリカ人は幸福を言葉にすると「ハッピー」とかポジティブなワードがたくさん出てきたんですが、それに対して日本は「長くは続かない」とか「求めるとキリがない」とか「妬まれる」といった言葉が出てきたそうです。

岡元 何か自分だけが幸福感を得たらバチが当たるんじゃないかとか、そういう感覚を持っている人もいるかもしれないですね。

奥本 俺だけ生き生きしていいのか、とかね。ほかにも、日本人は自分に幸福感があって笑顔になるときでも、周りが悲しそうな表情をしていると幸福度がグッと下がるという研究実験のお話しを聞いたことがあります。どうやら、欧米人にはそういう感覚がないらしいですね。

岡元 深いですね。日本人が周りの幸福度の低さに影響されるのはわかる気がします。ちなみにGPTWの調査でいうと「この会社の人たちは仕事にいくことを楽しみにしている」という項目のスコアが日本は大変低いんです。周囲にはハッピーな人も、そうでない人もいるのだと思いますが、そうでない人からの影響を大きく受けるのかもしれません。

奥本 我々の調査で「生き生き働くシーンを教えてください」というアンケートを行ったのですが、その結果からも自己と他者の認識の違いを示す傾向がでてきました。「“あなた”が生き生きと働くイメージを教えてください」という問いに対する回答のバリエーションは680種類。一方、「“あなたの周囲”で働いている人たちはどうですか?」という問いの回答は983種類出てきたんです。日本人は自分が“生き生き働く”ことについては鈍感で、あまり認知できておらず、周りを観察しているときに“生き生き働く”を理解する傾向があるのかなと。

岡元 どうしてなんでしょうね。

奥本 日本人は組織に入ると集団主義的な傾向が強くなるので、自分のことを深く考えて、理解しようっていう人が少ないのかもしれませんね。

岡元 日本企業の場合、“生き生き働く”という言葉はなんとなく青臭いし、そのことについてみんなで議論することが憚られる感じがあるのかな、と思います。今は、時代も価値観も変わってきていますから、もっと“生き生き働く”ってどういうことなのか、みんなそれぞれが自分なりの考えを持っていていいのかもしれませんね。

奥本 そうですね。根本の問題に戻ると、日本ってキャリアの概念が育っていないんですね。自分の置かれている環境や将来の可能性を踏まえて、自分が持っているリソースや志向などをいかに生かしていくのか、あんまり熱心に考えてきませんでした。

一方で、今の時代はライフスタイルが多様化していますし、もちろん終身雇用もなくなっています。みんながみんな共通の昇進の目的があって働いているわけでもない。大きな変化の分岐点に差し掛かっていると思います。

従業員が“生き生き働く”ために会社ができることは限られている

talk_200116_03.jpg岡元 色々なお客様と接している中で、「働きがいって本当に必要なの?」という問いが少なからず出てきます。仕事は楽しくないのが当たり前であるという考えを持っている企業も少なくないので、「そもそもなぜ会社に行くことが楽しいという項目のスコアが悪いとダメなんですか?」と聞かれることがあります。

奥本 経営における検討材料としても、働きがいを真っ正面から取り上げる企業はまだ少ないのかもしれないですね。ただし、様々なエンゲージメント研究からもわかるように、エンゲージメントの高いメンバーは高い業績を上げたり、長期的な業績を考えたときに働きがいのある企業のほうが安定していたりしているのは間違いないわけです。

岡元 そうですね。実際に私たちの研究でも、「働きがいのある会社」として認定されたベストカンパニーとそうでない会社(ノンベストカンパニー)を比較すると、その売上高の伸び率には大きな違いがみられました。また、ベストカンパニーの株価は、日経平均やTOPIX等の主要な株価指数と比較しても、高いリターンとなっています。働きがいは企業の中長期的な業績向上に寄与すると考えています。(参考:「働き方改革」で業績は向上するのか?

また、先日、2019年版日本における「働きがいのある会社」ランキング中規模部門(従業員100人以上、999人以下)で2年連続1位になった株式会社コンカーの三村社長に講演していただいたのですが、「働きがい」を高めることは経営戦略そのものであり、経営者が本気で取り組むことが大事だとおっしゃっていました。改めて「働きがい」の重要性を語っていただいたわけです。

ただ、中には、働きがいを高めたいとは思っているけれども、何をしたら働きがいが高まるのか分からずに悩んでいる企業も多いです。

奥本 私が企業の人事担当者の話を聞いて思うのは、間違いなく“生き生き働く”や“働きがい”が多様化しているということ。特に若手はその傾向が顕著です。その変化はとらえているんだけれど、どう対応していいのかわからないのが現状ではないでしょうか。1600人の調査でも1500を超える“生き生き働く”がありましたが、会社でできることは限られています。ただし、それを分類することはできる。まずは、給与や休暇などの衛生的な要因ですね。このベースとなる部分を押さえることが大前提。その上で、現在3つの大事な要因を仮説としています。

一つは人間関係。会社から必要とされている、人の役に立つなど、周囲との関係性の中で“生き生き働く”を見出す人がいます。2つめは、自分の仕事に対してオーナーシップがあること。働き方を自分で決めたり、スケジュールをコントロールしたりして、しっかりと結果を出していく。志向と才能がマッチングしている仕事を自分で選択できているなどですね。そして、3つめは仕事を通じて社会的な価値を実感していたり、プロフェッショナルとしての誇りがあったりなど、存在意義を感じられることです。ただし、そのモチベーションを企業がマネジメントするという考え方は諦めたほうがいいんじゃないかと思います。

岡元 なるほど。すべての従業員のモチベーションをマネジメントすることは難しいということですね。それを踏まえた上で、企業は何ができるのか考えていきたいですね。

(後編に続く)

リクルートワークス研究所 副所長 奥本 英宏氏

1992年立教大学社会学部卒業。同年株式会社人事測定研究所(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。採用・若手育成事業のビジネスユニット長、人材開発・組織開発事業部長を歴任。2011年には、株式会社リクルート ソリューションカンパニー カンパニー長、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ代表取締役社長に就任。企業の人事制度、人材評価、人材開発、組織開発全般のソリューションに従事。2018年よりリクルートワークス研究所に参画、現職。

Great Place to Work® Institute Japan 代表 岡元 利奈子

大学卒業後、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職を経験後、人事コンサルタントとして、人事制度設計・多面評価制度・採用選考設計・従業員意識調査などを行う。その後、海外現地法人に出向し、コンサルティングビジネスの立ち上げ支援、新サーベイ開発のプロジェクトリーダーなどを経験し、2014年より現職。

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