まずは自分たちの「常識」を引き剥がそう
「知の探索」「知の結合」がイノベーションを引き寄せる

2021.04.02

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早稲田大学経営大学院の入山章栄教授とGPTWジャパン代表荒川が、GPTWの調査結果をもとに対談しました。イノベーションはいかにして起こるのか。イノベーティブな組織の管理職に不可欠なスキルとは。組織づくりのヒントが詰まった対談です。

※対談前に行われた入山教授の講演はこちら

コロナ禍を経て働きがいは高まっていく

GPTW荒川(以下、荒川) 働きがい向上に取り組んでいる企業の中にも、「ここ1年はあんまり働きがいが高まらなかったな」と感じている企業もあるようです。要因としては「リモートワークによって社員と会えない」「コロナにより営業フィールドが狭まった」などがありました。ちなみに、ここ1年で入山先生の「働きがい」は高まりましたか?

入山章栄氏(以下、入山) 私はあまり変わっていないですね。

荒川 以前お打ち合わせした時は、お子様のお迎えの車の中だったようですが、こうした働き方はコロナ前では考えられなかったんじゃないですか。

入山 娘をテニス教室に送っているので、駐車場に止めた車の中で話をしました。僕は大学教員なので、元々働き方が自由だったんですよね。毎週月曜日は僕が家にいて、送り迎えをしたり、晩御飯をつくるって決まっているんです。企業で働いている方が同じことをするのはなかなか難しいと思いますが、コロナ禍でできるようになりましたよね。だからこれからは働きがいが高まっていくんじゃないでしょうか。自分で時間をコントロールできることや、自分の仕事にオーナーシップを持てることって大きいですよね。

荒川 おっしゃる通りだと思います。では早速本題なのですが、GPTWの「全員型働きがいのある会社モデル」に、新たに「イノベーション」の要素が追加されました。働きがいのある会社調査の設問の中にもイノベーションに関するものがあります。ここで一部のデータをご紹介します。「新しいことや改善への挑戦が賞賛されているか」「経営・管理者層は従業員の提案・意見を聞いている」「経営・管理者層は従業員を意思決定に参加させている」という設問に対する回答に関して見てみると、ベストカンパニーのスコアは高いです。ベストカンパニーではない企業と比較すると、かなりの差があります。

イノベーションに関わる設問の平均スコア(2021)
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入山 規模的には小さい会社のほうが高いんですね。 

荒川 全体的なスコアも小規模企業様のほうが高い傾向があります。トップが旗を振ることによる影響が組織にダイレクトに伝わっているのだと思います。

イノベーションは会議ではなく雑談から生まれる

荒川 このような結果を受けて、職場でイノベーションを起こすためには何が必要だと思いますか。

入山 ポイントはコミュニケーションだと思います。例えば、フィラメントという会社は、コロナ禍が始まった当初から「公式雑談タイム」をつくっています。人の話を聞かなくてもいいし、ただその場にいるだけでもいい。これがかなり重要です。

荒川 それはなぜでしょうか。

入山 最近、雑談のプロとも話したんですが、大抵の物事って雑談で決まるじゃないですか。その雑談のプロの方いわく、「いい営業マンはほとんどモノを売ろうとしないんだ」と。お客さんとずっと雑談しているそうです。イノベーションは離れた知と知の組み合わせですから、思いがけないこと議論することがとても大事。そういう意味で、フラットに雑談できるといいですね。

荒川 確かにそうですね。

入山 最近、心理的安全性という言葉も出てきますけれど、多様な人が自由に意見を言えることが重要で、部長が一人で喋っているだけの会議には何の意味もないです。多様な人がいたら、自分と感覚が違う人がいるわけだから、「変だな」と感じる言葉がいっぱい出てくるじゃないですか。そのときに、「それは違うぜ」って頭ごなしに言わないで、我慢して「〇〇さんはこんなこと言っていたけど、みんなはどう思う?」とか、「あなたはどう思う?」と話を展開することが大事ですね。これはユニリーバの人事トップである島田由香さんもおっしゃっていますが、管理職の仕事はファシリテーターです。

荒川 人の意見を引き出す、意見をつなぐっていうことですね。

入山 おっしゃる通りですね。管理職のもう一つの仕事はコーチですね。コーチは教えるのではなく、基本は質問することなんです。どんどん質問して、その人が何を思っているのか、何を大事にしているのか、引き出すことが重要。だから、管理職はひたすら聞いて、話を振るのが仕事ですね。

一番いい例は、『アメトーーク!』(テレ朝系)の蛍原さん。蛍原さんは「〇〇はどう思う?」と聞くだけで何にもやっていないじゃないですか。それでも番組は面白いですよね。それに対して、明石家さんまさんは、ずっと喋っているので管理職としてはよくないですね。みんなさんまさんに拾われたいと思っているから、上司の顔ばっかり見ている状態なんですよ。

荒川 Clubhouseでもモデレーターが重宝するって言いますね。

入山 完全にモデレーター次第ですね。 

常識とは人間の脳を麻痺させてしまう幻想である

荒川 続いてのテーマです。コロナ禍においても、さまざまなチャレンジが現場で起きています。オンラインでの家族参加イベントを企画されたIT系の企業様がございました。「Family Day」という夏祭りイベントを毎年開催していましたが、2020年はオンラインで実施されたとのことです。外資系なので「パプリカ」を英語で歌おうとかですね。

入山 いいじゃないですか。

荒川 これまでは東京の事業所しか来られなかったのが、全国でつながることができたとか、祖父母までこられたとか非常にいい結果を生んだそうです。また、ビジョンやミッションをつくるという重たいテーマを、300人のオンライン会議でチャレンジした事例もありました。

その一方で、なかなか踏み出せない企業様も多いです。今私たちに必要なチャレンジとは何なのか先生のご意見を伺いたいと思います。

入山 まず一つ言えるのが「常識」ってヤバいんですよね。これは自著にも書いたんですが、常識は幻想なんですよ。我々一人ひとりが常識を疑うことが重要です。これまで「人と会う時はデジタルではなくリアルが常識だよ」って言われていましたが、常識って人間の脳をラクにしているだけなんですよね。「これって何でやるんですか?」って聞かれたとき「常識でしょ」っていえばラクじゃないですか。

荒川 確かに。

入山 でも、常識はいずれ常識じゃなくなる。女性が家にいて、男性が外に出てみたいなことも昔は常識だったかもしれないですが、今は違いますよね。ですから会社の常識を一つひとつ疑ってほしいです。常識を疑うためには多様性が重要。

元日本ネスレ社長の高岡浩三さんがおっしゃっていることがまさにそれなんですね。高岡さんはネスレのグローバルで仕事をしていたときに、日本の仕事の常識が全部剥がされたらしいんですよ。「なんで日本の会社は4月一斉入社なんだ?」などの問いに答えられなかった。実際、「日本では常識だから」くらいしか理由がないですよね。でも高岡さんがすごいのは、そこで立ち止まらず、常識という幻想を剥がして行ったわけです。だからネスレは今は通年採用です。今は幸いデジタルがあるので、色々な人とつながる機会は実は増やそうと思えば増やせますよね。いろいろな人と交わって、常識を剥がして欲しいと思います。

企業の役員数は少ないほうが変革を起こしやすい

入山 あともう一つ、役員の数を減らすことを提案したいと思います。なぜかというと、何か変えたいと思っても、「経路依存性」があるのでDXするぞってなっても人事とか総務とか法務なんかが反対するわけですよ。でも、例えばデジタルも人事も兼任している役員がいるとしたら変えやすくなりますよね。

今朝も某大手の企業の方と話していて「役員何人いるんですか」と聞いたら「数十人います」というんです。そんなにたくさんいて大丈夫かなと思いましたけれど。僕の中では大手企業でも役員の数は4人か5人ですよ。

荒川 そのくらい大胆な決断をしたり「知の探索」や「知の結合」を続けていかないとイノベーションは起きないということですね。

入山 そうです。そして大前提として会社トップに意志があること。従業員一人ひとりに意志があること。理想的にはそれが揃っていることが大事です。意志があって前進できているなら会社のトップはしばらく続けた方がいいですね。

荒川 視聴者から質問もたくさんいただいておりますので質疑応答に移りたいと思います。では質問を代読します。「副業が禁止されている伝統的な日本企業に所属しております。そのような環境で多様性を得るには個人として企業としてどのような工夫が必要でしょうか」。

入山 日本企業の場合は「他の会社はやっていますよ」と人事に働きかけるのがいいんじゃないでしょうか。個人の場合は大胆かもしれませんが、辞めてしまえばいいんですよ。

荒川 何を辞めちゃうんですか?

入山 その会社を。なぜかというと、副業を禁止する企業は、おそらく新卒一括採用、終身雇用を前提にしていると思うんですね。ある意味、従業員も会社も甘やかされているんです。社員が辞めない前提でやっているから、「色々なところに転勤させても辞めないだろう」とか。でも、実際に辞めると「あれ?」となる。これからは色々な会社で自分のやりたいことをやることが重要で、無理して組織を変えようとしないほうがいいと思いますよ。

荒川 自分の価値観に合う会社を探せばいいということですね。

入山 そう。GPTWで上位にいるような会社に行けばいんですよ。

イノベーションを起こすことを目的にした時点でアウト

荒川 では次の質問です。「副業OKで中途入社も多い企業ですが、イノベーションが起こる感じもなく、どちらかというと一人ひとりが独立して働いている感じです。イノベーションを起こすには何が必要でしょうか」。

入山 イノベーションってそんなに簡単に起こるものではないし、「これがイノベーションです」とか、「イノベーションへGO!」みたいな感じではなくて、どちらかというと、みんなでもがいてやり続けた結果、「今、振り返るとあれはイノベーションだったな」みたいな感じなんですよ。

では、何が大事かというと意志です。「こういう世界をつくりたい」とか、「こういう価値を届けたい」とか、意志をはっきりさせて、共感した社員とみんなで向かっていくこと。そこに向かってもがいているときは大変なんだけれど、振り返るとイノベーションがあったという感じじゃないでしょうか。

荒川 イノベーションを目的にしないということですね。

入山 これはDXなども同じで、それ自体を目的にした瞬間アウトです。

荒川 では次の質問です。「小規模の企業に勤めています。副業や知の探索に時間を投資したいのですが、本業が忙しく時間を確保できません。そういう条件下でも多様性を確保していく方法はありますか」。

入山 これは切実な話だと思います。解決の糸口はデジタルですね。今となっては無駄な作業っていっぱいあるじゃないですか。伝票処理とか。全部デジタルで済ませられればやる必要がないですよね。そうすれば「知の探索」に時間を振り分けられます。

今幸いにもクラウドが普及して、デジタルが安くなってきているので、ぜひ使っていただきたい。ですからデジタルをちゃんと使って、無駄な時間を削減して、副業や知の探索などにリソースを割いていただければと思います。

荒川 デジタルを駆使して無駄を省いていくと。

入山 「大手企業のようにデジタル人材もいないので不安」という人もいます。でも実際は大したことじゃないですから。極端な話、iPhoneをみんなで使ったり、LINEを使ったりするだけでもDXなんですよ。

荒川 それも情報共有の一歩ということですね。お時間がやってきてしまいました。入山先生、本日はどうもありがとうございました!

入山 章栄氏

早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関 への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年 に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019 年より現職。専門は経営学。 「Strategic Management Journal」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。著書は「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版)「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」(日経BP社) 他。 テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、メディアでも活発な情報発信を行っている。

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