働きがいを地方創生につなげる組織づくりのヒント トークセッション(木下斉氏×福留進一氏×荒川陽子)

更新日 2022.06.282022.06.23対談

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2022年版 各地域における「働きがいのある会社」優秀企業オンライン発表会にて、専門家の木下斉氏、優秀企業の株式会社現場サポートの代表、福留進一氏、GPTW代表の荒川陽子のトークセッションを開催しました。当日の内容をダイジェストでお届けします。

※本記事は2022年5月25日に開催した2022年版 各地域における「働きがいのある会社」優秀企業(以下、地域優秀企業)発表イベントの抄録です。

※同日に開催された木下氏による講演の内容はこちら:経営とまちづくりの専門家による講演 「なぜ地方に働きがいのある会社が必要か」

株式会社現場サポート 代表取締役 福留 進一 様
鹿児島県指宿市生まれ。1990 年 4 月 富士ゼロックス鹿児島株式会社入社。1997年から新規事業として立ち上げた建設業向けソフトウェアの企画・販売に携わる。同事業の全国展開のために東京勤務を提案し、大手ゼネコンの市場開拓を行う。富士ゼロックス鹿児島株式会社を退職後、2005 年 8 月 株式会社現場サポート設立。鹿児島県中小企業家同友会の副代表理事、鹿児島県経営品質協議会の幹事などを通じ、地域貢献にも尽力。


一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下 斉様
1982年東京都生まれ。高校生時代からまちづくり事業に取り組み、2000年に「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。09年、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。著書『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』等多数。


Great Place to Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。

東京の企業と東京以外の企業に、働きがいのギャップはあるのか

荒川:東京に所在地がある企業と、それ以外の地域に所在地がある企業のギャップから話していきたいと思います。働きがいのスコアは、東京に所在地がある企業の方が高い傾向にあります。地方の企業はキャリアアップのイメージが持てないという話もありました。

福留社長の現場サポートは人を育てることに注力されており、キャリアアップのイメージもしやすいのではと思いますが、そういう企業ばかりではないということですね。我々のデータでも東京の企業は上位者が失敗に寛容であるとか、仕事に行くことが楽しみ、みたいなデータもあるのですが、企業の風土やマインドのような部分でもギャップがあるのでしょうか。

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福留:弊社に関しては全くないです。ポイントは人材採用にあるかと思います。県外の大学に通って東京で就職するか、鹿児島に戻って就職するか検討している学生さんが多いです。当社はUターンで入社した社員も多く、東京で就職するか現場サポートに就職するかで選んでくれている。地元だから帰ってきているわけではないのですね。

リモートワークができるので東京の会社に勤務している人が地方に住むことがありますし、逆も然りですよね。だからフルリモートで募集すると全国から応募がきます。そういう動きを踏まえて、やはり全国で戦える企業にならないと、これから先成り立たないのではないかと思います。

荒川:東京と地方という区分で考えることがナンセンスになりつつあるということですね。

福留:キャリアアップは体験を通してするものですから、どんな体験をさせるかが非常に大事です。どれだけチャレンジさせるかに気を遣っています。学習機会は地方より東京の方が多いかもしれませんが、機会を与えるという点では引けを取らないと思っています。

東京とそれ以外の差というより、トップの姿勢の違いが大きい

荒川:木下さんは東京とそれ以外のギャップという点で思うところはありますか?

木下:地理的要因よりトップの姿勢次第で差が出るように見えますね。例えば、地方でも比較的景況感の良い地域の経営者ほど勉強しない傾向があります。むしろ、危機的な状況を抱えながら「これを変えなきゃいけない」と事業承継をされている地方企業があるわけです。

若者の価値観や希望する働き方の多様化に対応することが大事だと思います。経営者のSNSの発信を若い方々はよく見ているので注意した方がいいですね。広報的にどれだけ素晴らしいことを打ち出していても、経営者がトンチンカンな発信をしていたら「ヤバい会社」と嗅ぎつけられてしまいます。

荒川:東京は企業が多いから競争原理が働いて、福利厚生や働きがい、働きやすさを競うから、スコアが高くなる傾向があるのですが、地方企業も素晴らしい会社をつくれるはずですし、そうすることで働きがいを高めあうスパイラルが生まれてくるのだろうなと思いました。

木下:東京の企業のサテライトオフィスが地方にくると、周辺の企業は「あんな就労形態で成り立つのか」とショックを受けることが多いです。でも、地元の高卒の子たちは東京からきた会社に勤めたがる。フリーアドレスや服装自由とか、女性にお茶汲みさせないとかやっていることは普通。でも、お茶汲みが当たり前の地域だとそれが肯定されてここまできてしまっている。ガラッと変えていこうという動きが進みつつありますね。

事業をどのようにして地域貢献につなげていくか

荒川:続いてのテーマに進みます。地域への貢献が、地域の企業の特徴の一つと思っています。企業として利益を上げながら貢献していく地域社会への貢献と事業の接続という点でお話を伺えたらと思います。

今回、優秀企業に選ばせていただいた企業さんは、社員が地域社会に貢献している実感が高い傾向にあります。それにより「誇り」を感じている。若い世代の方たちは特に職業選択する際に、「社会課題の解決」「社会貢献」、最近は「パーパス」という言葉も流行っています。福留社長は地域貢献と事業との接続についてどのようにお考えでしょうか。

福留:私の考える地域貢献は良い会社になって地域に刺激を与えることだと思っています。何かボランティアをするとかそういうことではなく、本業を通じて刺激を与えることが社会貢献です。最近は社外から評価をいただき、中小企業家同友会、経営品質協議会などで話をする機会をいただいています。

また、社員の社会貢献をバックアップしています。こうすることで地域と広くつながりを持つことができるのです。社会貢献は社員の学習機会だと思っています。なおかつ、地域の課題はビジネスにつながることも多いですし、ご縁からビジネスが生まれることもあるので、広く地域につながることを推奨していますね。

荒川:地域への貢献だけでなく、社員の能力開発の機会でもあるということですね。

福留:地域の声を聞きながら、全国に展開するサービスをつくることもありますから、地域とは切っても切れない関係です。

各社が自社の利益しか考えていない産業は衰退する

荒川:ありがとうございます。続いて木下さんに伺いたいのですが、福留さんの会社のような取り組みが展開されると、地域経済にどのようなメリットが生まれますか。

木下:地域経済の取り組みを役所がやる話が多いのですけれど、元々は地場の大地主が地場産業をつくって投資をしてという取り組みをその時代その時代でやられてこられたわけです。やはり地元で働いている方々や経営者の方々の力は大きいのですよね。

地域のお祭りなんかも典型的なケースですけれど、会社が文化的なものを支えていくことも考えられます。地域の交流があるから、新しい事業を始めた人を応援することにつながることにもつながる。そうしたものが全部壊されてしまうと、地域経済の強みも発揮できなくなるのですね。温泉街はわかりやすいケースで、元々は共同浴場などがあったとしても、面倒臭いことは人に押し付けていると、結果としてどこも同じような旅館が建ってしまう。そうなると人も集まらない。

学校教育でも、社会貢献とかSDGsを含めて、多角的な社会評価をしています。実は高齢者よりお金のない20代の若者の方が、世代別寄付額が多いです。お金を持った年寄りよりも、お金のない若者が寄付するわけですよ。社会意識もどんどん日本はアップデートされているので、地域未来を支えることを考えていく必要があります。もちろん本筋は事業活動経済活動があってこそ。本業がしっかりしていること、やりがいがあることが全ての基盤としてあると思います。

人口が密集していない地域でも情報交換して、お互いを高め合える

荒川:現場サポートさんは地域の会社と一緒に何かしたりされていますか?

福留:30代、40代に心底地域に貢献したいと願っている人材に多く出会っています。そういう集まりによく引っ張り出されます。つい先日も「戦略人事郷中塾」というところで話をさせてもらいました。郷中教育というのは薩摩藩がやっていた教育に由来するのですけれど。要は、地元の有志を集めて戦略人事をやろうじゃないかということですね。そういう熱い人たちがいっぱいいるので、これからが楽しみで仕方がないです。

荒川:そういう動きがあると先ほど木下さんにお話いただいた温泉街とはまた別の成長できる地域ができるのだろうなと思います。

木下:今はネットがあるので人口が密集していない地域であっても情報交換をしたりネットワークをつくったりできます。若い世代に選択肢を提供できるような会社が増えていくことが大事です。アメリカはZ世代が多いので動きが早く、日本は高齢化が進んでいるのでワンテンポ遅いのですが、多様な価値観、先進的な方向性にどんどん寄り添い、さらに先に行こうとするトップの方、ミドルマネージャーがいる会社がますます伸びていくのだろうなと思います。

荒川:ありがとうございます。本日は各エリアで優秀企業の表彰をさせていただきましたが、そういう企業さんたちが先陣を切って、地域でリーダーシップ取ることで各地域が活性化し、魅力的な企業に人が集まる世界観をつくれるのだと思いました。本日はどうもありがとうございました。

本内容は2022年5月時点の情報です。

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