若手人材への投資・取り組みによるベネフィットとは トークセッション(木村圭介氏×桑原正義氏×荒川陽子)

更新日 2022.08.152022.08.15対談

talk_220805_main.jpg

2022年版 日本における「働きがいのある会社」若手ランキングのオンライン発表会において、株式会社キュービックの木村圭介氏、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの桑原正義氏、Great Place to Work® Institute Japan(以降、GPTWジャパン)代表の荒川陽子のトークセッションを開催しました。当日の内容をダイジェストでお届けします。

※本記事は2022年版 日本における「働きがいのある会社」若手ランキングオンライン発表会の抄録です。

※同日に開催された木村氏による講演の内容はこちら:株式会社キュービック 導入・取組み事例

木村 圭介(きむら・けいすけ)
株式会社キュービック 執行役員/CHO(チーフ・ヒト・オフィサー)
2022年版 日本における「働きがいのある会社」若手ランキング 中規模部門(従業員数 100-999 人)1位

1984 年、秋田県生まれ。2007 年弘前大学を卒業。新卒で株式会社ドリコムに入社し、営業と新規事業の責任者として従事後、2010 年に株式会社えふななに創業メンバーとして参画。2014年にキュービック入社。メディア事業本部長としてキュービックの柱となるメディア事業全体の統括に従事した後、現在は CHO(Chief Hito Officer)として人事責任者を務める。


桑原 正義(くわはら・まさよし)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRD 統括部 HRD サービス開発部 主任研究員

1992 年 4 月人事測定研究所(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て 2015 年より現職。探求領域:VUCA Z 世代の新人育成のアップデート、“個を生かす”生成アプローチNPO 法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP 兼任講師。


荒川 陽子(あらかわ・ようこ)
Great Place to Work® Institute Japan 代表

2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。

長年、新人と向き合ってきた研究者が考える「新人育成のポイント」

桑原:トークセッションの前に、私が考えている新人育成のポイントをご紹介したいと思います。ここ最近、新人・若手問題において大きな変化がありました。その一つは職場環境の変化です。VUCAと呼ばれる不確実性が高く、正解がない時代で、コロナ禍のリモートワークなど次々と変わる環境のなかに、新人たちは飛び込んでいます。上司が学んできたものや、身につけてきた力を育てるだけでは限界があります。そこにZ世代というデジタルネイティブな世代が入ってくるわけですから、育て方もアップデートする必要があるのです。

talk_220805_01.png

とりわけ注目されているのがZ世代の特徴です。ミレニアム世代から上司とのジェネレーションギャップがありましたが、より一層価値観も変わってきているため、彼らをどう理解し、育てるかが課題となりました。

さらに言うと、彼らの特徴はこれからのVUCA環境において強みとなる部分でもあります。「育てる」という発想以外に「生かす」という観点が重要です。その鍵は、いかにZ世代を理解するか。いくつかの調査を基に、その特徴についてご紹介します。

新人たちが思い描く「理想の上司像」が10年で大きく変化

桑原:弊社が長年実施している、新入社員を対象とした調査があります。「理想の上司」についての回答を10年前と比較すると、「お互いに助け合う」という項目を選択する割合が20.6ポイントも増えました。反対に最も下がっているのが、「言うべきことは言い、厳しく指導する」です。こちらは15.4ポイントダウンとなりました。このように10年単位で比較するとかなりの違いが見られます。

注意すべきは、「同じ価値観のなかの変化」として捉えるのではなく、「全く違う価値軸が生まれている」と捉えられるところです。今までの世代は、成長したり、業績をあげたりするためには厳しさが重要だと考えていました。しかしながら今は、厳しさよりも「助け合う」ことや「良い点を認めることが大事」という価値観なのです。

talk_220805_02.png

もう一つデータを紹介します。本人たちの自己認識における得意と不得意を聞くと、「相手に関心を向けながら協働する」ことは得意な傾向にあります。一方で、VUCAの時代のなか、多くの企業が重要視している「自律性」や「主体性」 については苦手意識を持っているようです。今後、いかに自律性、主体性を伸ばしていくかが課題になっています。

モチベーションに関するデータによると、上司世代にとってやる気のエンジンだった、「目標を達成して、承認されて金銭的に報いられること」や、「切磋琢磨しながら競争すること」を支持する新人の割合も低くなってきました。一方で、成長や貢献、仲間など、「内発的な意味や目的」が動機の源泉になってきています。

Z世代によるパラダイムシフトが世界各地で起こっている

桑原:実は世界的に同じような傾向があります。Z世代によって大きなパラダイムシフトが進んでいるのです。これまでの組織中心の世界が限界を迎え、個の尊重をすることで大きく発展していく時代です。いかにして個の尊重と組織の目的をすり合わせるかに舵が切られています。Z世代が誕生した90年代後半くらいからこうした考え方が出てきたので、その社会環境で育ったZ世代の価値観にも当てはまっているのです。Z世代を育てることも大事ですが、彼らの力を生かすこともそうですし、「Z世代から学び一緒につくっていくスタイル」が、これからの時代に合うのではないかと思います。

何もしないまま放っておくと、ジェネレーションギャップで組織が分断されます。上司世代とZ世代はお互いにないものを持っていますから、補い合える関係とも言えるわけですよね。互いに学び合うことで仕事やサービスを生んでいく方向に舵を切れるかがポイントになると思います。

talk_220805_03.png

若手の自律性や主体性をどのようにして引き出すか

talk_220805_04.png荒川:ではここからは3人で話を深めていきたいと思います。今お話にあったように、「どのようにして内発的動機づけをするのか」「自律性や主体性をどう育てていくか」という成長戦略が問われていると思います。キュービックさんは若手の自律性や主体性をどのように育んでいますか。

木村:今までの時代では、会社からのMustのようなかたちで、メンバーに目標を渡すことが多かったと思います。最近は、Mustだけではパフォーマンスを思うように発揮できない若手社員が増えました。どちらかというと当社は、個人のWillやCanを両方組み立てて、それを会社としてのMustに紐づけていくことを大事にしています。

ベースとしては個人のWillを目標と結び付けることを大事にしているのですが、意外とWillを持っていないことも多い。そういう場合は、Willを追求するよりは、Canを伸ばします。成果が上がってくればおのずと自己効力感が増して、やれることも増え新たなWillが生まれたり、自律性が育まれたりするのだと思います。

本人のWillとMustをどう結びつけるか

桑原:先ほど私が紹介したアンケートの結果でも、外発的動機づけの項目は下がっていました。キュービックが取り組む「目標と内発的動機づけの接点をつくる」というやり方はまさに時代に合っていると思います。

私も自社の新人の受け入れを長年やっていまして、「今の若手は無理をしなくなっている」と感じます。昔は、MustとWillがずれている場合でも、「社会人なんだし1年くらいは頑張ろうかな」という感じでしたが、今は少しずれていると「無理せず自分に合った環境に変えよう」という反応を見せることも多い。やはりWillを大切にしているのです。Willがまだ見えていない若手もいますが、大事なことを明確にしている人たちは確実に増えている。そこからずれたときの問題が大きいと感じています。

例えば、「上司ガチャ」「配属ガチャ」という言葉があるように、自分を変えるよりも環境を変えようとする傾向が見られます。見切りが早すぎるのは不幸な面もあると思っています。キュービックには、Willとのギャップがあるなかでも内発的動機を導き出す工夫がありますか。

木村:本人からは見えてない景色があり、見切りをつけてしまっている可能性もあると思うので、経営情報の開示やアサインメントの背景の説明などを丁寧にしています。例えば、「経営状況やチーム状況は今こんな感じだよね」というところを、しっかり理解してもらうことですね。また、どんな組織でもアサインメントの際は、絶対に背景があるはずなんですが、その説明が不十分になっているケースもあると思います。当社の場合は、アサインメントの背景はもちろん、そのミッションがその人に何をもたらすのか、どんな期待でアサインしたかを説明しています。

桑原:弊社の新人たちも希望の配属にならないとすごく落ち込むんですよね。でも、新人たちは「なぜ自分がその部署なのか」の意味を感じ取りたいはず。キュービックさんの対応は有効なんだろうなと感じました。

社員が仕事の意味付けをするために、上司や会社は何をすべきか

talk_220805_05.png荒川:背景の説明は上司の方がされるんですか?それとも人事の方ですか?

木村:基本は上司ですね。伴走する上司がどんな意図でミッションを渡しているのか、自らの言葉で語ることが一番伝わると思っているからです。

荒川:「上司が背景を伝えたり、仕事を意味付けしたりすることができない」という声をさまざまな企業から聞きます。どうすれば意味付けできるようになるのか、ポイントを伺えるとありがたいです。

木村:それは我々も苦戦している部分ではあります。ただ、評価の際に多角的に社員を見ることを大事にしているので、面談の前に、評価会議では直属の上司だけではなく、斜め上の上司が複数名参加して、社員の強みや課題を議論しています。その際に「こういう伝え方をしたほうが、本人が意味を感じられるんじゃないか」というところも事前に話し合っておくことで上司も納得度の高い状態で面談に臨むことが一つ挙げられると思います。

荒川:面談を経て「適切な配置配属だった」と本人が感じられる状況を目指すということですね。

木村:熟慮を重ねた結果の配置なんですけれど、どうしても上司が本人に話すときに説明が抜け落ちてしまうことがある。だから、背景をしっかり伝えることが大事だと思います。

若手にとって働きがいが高いことは、どんな意義や意味があるのか

荒川:ありがとうございます。では次の質問に移りたいと思います。「若手にとって働きがいが高いことは、どんな意義や意味があるか」です。木村さんのお考えを聞かせてください。

木村:大きく2つあると思います。1つは組織をピラミッドで表現すると、若手はボトムに位置することが多いと思うんですが、若手の働きがいが高まることによって、組織全体の能力が向上しやすいと思います。若手が活性化すればベテラン勢も活性化されると思います。

もう1点は、組織が大きくなると、我々から見える景色が正しくないケースも出てきます 。むしろ、クライアントやユーザーに接している現場の判断のほうが正しいことが多々ある。ですから、現場に近いみんなが、自らの意思で事業を運営することが会社の成長につながると思います。

荒川:ありがとうございます。さきほど桑原さんからもあった学び合いの話に通じるところですね。桑原さんは木村さんのお話を聞いてどう感じられましたか。

talk_220805_06.png

桑原:人材を「リソース」ではなく、「人」として見ていることが根底にあるからこそ、取り組みが上手く作用しているのではないかと思いました。上司世代はある意味、自分の個性や思いは抑えながら、厳しい環境を乗り越えてここまでやってきたという感覚の持ち主も多いと思うんです。そういうパラダイムを持っている社員が、今の若い世代を人として尊重していく価値観の醸成が大事だと思います。キュービックではどのようにして価値観を共有されているのですか。

ミッション・ビジョン・コアバリューや評価に会社の価値観を込める

木村:やはりコアバリューやミッションの浸透が大きいですね。コアバリューに「ヒト・ファースト」というものがあるんですけれど、「相手以上に相手のことを考えること」を大事にしているんです。これは、事業のマーケティングにおいても重要であり、根底に流れている重要な価値観です。ミッション・ビジョン・コアバリューに価値観が込められることが大事なのかなと思います。

もう一点は評価制度のなかに、価値観に関する内容を組み込んでおくことです。例えば、メンバーが見るクレドや評価制度は身近なものですし、メンバーの意識もそこに常に向くようにしています。ある意味「評価の中に入っているから…… 」と最初は形から入るものの、「やっぱりこういうことをやるとうまくいくんだな」と気づいて意識の根幹に根付くパターンもあります。

荒川:では最後に視聴者の方からの質問にお答えいただきたいと思います。「上司と部下のコミュニケーションが重要だと理解しました。日々の仕事が忙しいなかで、もしくはリモートワーク下でもコミュニケーションをとるために、上司のみなさんはどのような工夫をしていますか?」とのことです。

木村:上司に工夫してもらうというよりも、会社の仕組みとして組み込んでいくことが大事です。当社の場合はCDC(キャリア・ディベロップメント・サイクル)という人材開発の枠組みがありますが、そのうちの上司と部下の面談のなかで、1カ月間の内省をする時間をつくっています。その時間を上司の裁量にしてしまうと、上司の忙しさや熱量によって変わってきてしまいます。だからこそ仕組みに組み込んでしまうことがポイントですね。

荒川:なるほど。会社として仕組みに組み込んでしまうということですね。非常に素晴らしいと思いました。では今回の対談はこちらで終了となります。木村さん、桑原さん、どうもありがとうございました!

株式会社キュービック 執行役員/CHO(チーフ・ヒト・オフィサー) 木村 圭介氏

1984 年、秋田県生まれ。2007 年弘前大学を卒業。新卒で株式会社ドリコムに入社し、営業と新規事業の責任者として従事後、2010 年に株式会社えふななに創業メンバーとして参画。2014年にキュービック入社。メディア事業本部長としてキュービックの柱となるメディア事業全体の統括に従事した後、現在は CHO(Chief Hito Officer)として人事責任者を務める。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRD 統括部 HRD サービス開発部 主任研究員 桑原 正義氏

1992 年 4 月人事測定研究所(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て 2015 年より現職。探求領域:VUCA Z 世代の新人育成のアップデート、“個を生かす”生成アプローチNPO 法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP 兼任講師。

Great Place to Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子

2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。

本内容は2022年7月時点の情報です。

「働きがいのある会社」を
目指しませんか?

GPTWは世界約150ヶ国・年間 10,000社以上の導入実績を活かし、企業の働きがい向上や広報をサポートします。

  • 自社の働きがいの現状を可視化したい
  • 働きがい向上の取り組みを強化したい
  • 採用力・ブランド力を向上させたい